部員が増えたことで、正式に手芸部長に任命された友晴。
顧問の星崎から、手芸部の作業指示全般を任されることになった。


熾亜「それじゃ、今日もよろしくお願いします!部長サンッ」

ミカ「お願いします」

美央「よろしく。」

友晴「うん。」

熾亜「それで・・・今日はどうするの?」

友晴「・・・押し花。」

ミカ「押し花ですか?」

友晴「まずは・・・簡単なことから・・・慣れて。」

美央「了解。で、肝心の花は?」

友晴「そこの、花瓶の・・・さっき取ってきた」

美央「あ、これね。全部つかっちゃっていいの?」

友晴「かまわない。そのために取ってきた。」

美央「けっこう、気が利くのね。意外かも。」

友晴「意外・・・?」

美央「あ、雲衣君てなんかこう・・・あんまり人と触れ合わないイメージがあって・・・それで。」

友晴「人とは・・・なるべく関わらないようにしてきた。
   でも、話すのは・・・嫌いじゃない。」

美央「そっか。それ聞いて安心した。」

熾亜「台紙はどこ?」

友晴「花瓶の横・・・積んである。」

熾亜「もう準備してあるんだ・・・」

ミカ「すみません・・・私、押し花のやり方が・・・」


友晴は自分の作業を中断し、ミカの近くに座りなおす。


友晴「天仲・・・と、空野は、わかる?」

熾亜「あ、いちおう見せて〜」

友晴「わかった。・・・見てて。」

ミカ「はい。」

友晴「台紙のフィルム、剥がす。 その下、粘着紙になってる。」

ミカ「あ、ホントですね。ペタペタします。」

友晴「台紙に・・・花、きれいに広げてくっつける。
   そしたら、フィルムそっと戻して・・・」

美央「こう、かな?」

友晴「空気、できるだけ入らないように・・・
   ごめん、説明不足。」

美央「あ、うん。」

友晴「花を置いたとこから、フチに向かって・・・
   こするようにフィルム張るといい・・・かも。」

美央「ほんとだ、あんまり空気はいらない・・・」

友晴「この平らな板の上に・・・うつ伏せに。」

熾亜「重石は?」

友晴「粘土とか、銅版とか・・・適当に重いの、均等に・・・」

熾亜「これでいいかな・・・よいしょ。」

友晴「もう1種類・・・今度、平らなとこに画用紙置く。
   そのうえに花・・・ひろげて、うつ伏せに・・・」

ミカ「これは、ペタペタしないんですね。」

友晴「やり方、違うから。」

ミカ「そうなんですか?」

友晴「うん。 それで、花の上に・・・アクリル板・・・」

熾亜「アクリル板・・・?これ?」

友晴「それじゃなくて、こっちの・・・」

熾亜「うん。」

友晴「乗せたら、重石・・・今度は花全体にかかるように・・・」

熾亜「乗せて、しばらく待てばいい?」

友晴「うん。 さっきの粘着紙のほう、もういい。」

ミカ「こっちはこれで完成なんですか?」

友晴「うん。 画用紙のほう、できるまで・・・また部室見てて・・・」


友晴はそう言うと、自分の作業に戻っていった。


熾亜「雲衣君は、なにしてるの?」

友晴「いつもの・・・」

熾亜「また、あのお花?」

友晴「そう。」

熾亜「手伝っていい?」

友晴「ありがとう。」

美央「私もやりたいw」

友晴「うん。」


結局ミカも加わり、体験入部のときと同じようにみんなで同じ作業をする。


友晴「なんか・・・」

熾亜「?」

友晴「楽しい。」

熾亜「そうだね、手芸って面白いw」

友晴「そうじゃない・・・」

熾亜「え?」

友晴「いや・・・いい。」


友晴の言葉の意味は掴めなかったが、3人にとって手芸は新鮮で面白かった。
しばらく作業をしていると


友晴「画用紙のほう、もういい。」

美央「もうどかしてもいいいの?」

友晴「まず、そっと・・・」

美央「うん。」

友晴「花、ゆっくり剥がして・・・画用紙に、色、ついてる?」

美央「あ・・・」


真っ白だった画用紙に色が染みて、輪郭のぼやけた花が描かれているみたいになった。


ミカ「こんなふうになるんですね・・・」

熾亜「これ・・・どうしたらいいかな?この部室に飾っていい?」

友晴「持って帰ればいい。」

美央「そんなに・・・出来悪いかな・・・」

友晴「違う。」

美央「え?違うの?」

友晴「出来は悪くない。それは、3人が手芸部に慣れてもらうために用意したものだから・・・
   持って帰っても大丈夫という意味。」

熾亜「そっか・・・入部記念ってところかな?」

友晴「そう捉えて問題ない。」

美央「ねぇねぇ、花・・・まだあるけど・・・もっと作ってもいい?」

友晴「構わない。全部持って行ってもいい。そのためのだから。」

美央「ありがとうw」


それから3人は、ワイワイと2通りの押し花を楽しんだ。
友晴は、一人黙々と自分の作業を続けていた。

次の日も、また次の日も、3人は休むことなく手芸部に顔を出した。
友晴も、そのたびに新しい作業を教えていった。


友晴「そこは・・・もっと思い切り曲げたがいい。」


今日は、みんなで針金工作


美央「えっと、こう?」

友晴「そう。最初は思い切って曲げて、後で細かく修正すればいい。」

美央「そっか・・・じゃぁ・・・えい!」

ぐにゃり・・・

友晴「・・・思い切りすぎ・・・」

美央「あちゃ・・・」

友晴「ちょっと、貸して。」


美央が友晴に作りかけのものを渡すと、美央が曲げすぎた部分がまっすぐに戻った。


美央「すご・・・まっすぐだ・・・」

熾亜「ほんとだ・・・私なんか余計変に曲がっちゃうのに・・・」

友晴「慣れれば・・・できる。」

熾亜「慣れ・・・か。がんばらないと。」


いつのまにか、自分の作業そっちのけで指導に熱中する友晴。


ミカ「そういえば雲衣さん・・・私たちにいろいろ教えてくれるのは嬉しいんですけど、
   展示会の作品は大丈夫なんですか?」

友晴「・・・しまった・・・」

熾亜「ひょっとして、期限あぶないの?」

友晴「かなり急がないと・・・間に合わないかも知れない。」

美央「手伝うよ! いつもの花でしょ?」

友晴「うん、ありがとう!」


もう何度目かの紙作品。
さすがに3人の手際も良くなってきた。


友晴「・・・なんか」

熾亜「なに?」

友晴「みんなでやるってのは・・・こんなに楽しいんだな。」

熾亜「そりゃ、一人よりみんなのほうが楽しいに決まってるじゃないw」

美央「いつのまにか雲衣君も良く喋るようになってるしね〜・・・」

友晴「それは・・・3人につられて・・・」

ミカ「でも、いいことだと思います。初めて会ったときとは、ずいぶん印象変わりましたよ?」

友晴「そうか・・・ありがとう。」

熾亜「お礼を言うのは、私たちの方。」

美央「退屈しないで済むしね。」

友晴「・・・そうだ、分担しよう。」

ミカ「分担・・・ですか?」

友晴「そう。”がく”の型抜きと貼り付けに一人、仕上げに必要な針金とテープの準備に一人、
   残り二人で、本体の作成・・・どう?」

熾亜「そうしよう!」

友晴「俺は、本体やる。あとは3人で決めて。」

熾亜「じゃぁ、私も本体作るから、ミカさんは”がく”、美央は針金とテープでどう?」

美央「おっけ〜」

ミカ「わかりました。それで、抜き型はどこに?」

友晴「窓際の収納箱の・・・3番の型。」

美央「針金とテープって、どう準備すれば・・・」

友晴「針金は、0.5mmって書いてある箱のやつ。テープは、緑色の・・・」

美央「これ?」

友晴「そのビニールのじゃなくて、もうひとつ右の」

美央「こっちね。」

友晴「そう、そのテープを・・・15cm、針金は10cmの長さにカットして。」

美央「了解!」

友晴「天仲、次から形変えるから、よく見てて。」

熾亜「うん」


作業はすごい勢いで進み、気が付くと大量の紙の花が積まれていた。


友晴「このくらいでいいと思う。みんな、ありがとう。」

美央「っは〜・・・これだけでもけっこう疲れるのね・・・」

友晴「最後の仕上げは俺でやっておくから、3人は今日あがっていい。」

熾亜「大丈夫なの?」

友晴「ここまで来たら、あと少しだから。明日、3人が来るまでに完成させておく。」

ミカ「わかりました。では私たちは帰りますけど・・・あまり無理はしないでくださいね?」

友晴「大丈夫。みんなのおかげで、無理しなくて済むところまで終わってる。」

熾亜「それなら安心ね。それじゃ、また明日。」

友晴「あぁ、また。」


翌日、4人で作業していた机に置いてあったのは、見事なまでの花束と花瓶に生けられた花、いくつかの鉢植え。
・・・そして、そのどれもが、花瓶から植木鉢にいたるまで紙で作られていた。


熾亜「すごい・・・」

美央「これ、あのあと一人で?」

友晴「いや、花瓶とか植木鉢は作ってあったから・・・」

ミカ「そうだったんですか・・・それにしても、見事ですね。」

友晴「みんなのおかげ。それから・・・」


友晴は、なにやら箱を漁りはじめた。


友晴「・・・余ったので作ってみた。」


その手に持たれていたのは、少し小ぶりな紙の花束が3つ・・・


友晴「よかったら、持って帰って。」

熾亜「・・・いいの?もらっちゃって・・・」

友晴「みんなで作ったものだし・・・俺一人だけいい思いなんて、したくないから。」

美央「でも、これっていちおう備品なのよね・・・?先生には伝えてある?」

友晴「大丈夫。備品管理から製作指示まで、ぜんぶ任されてる。」

ミカ「それでは・・・ありがたくいただきますね。」

熾亜「ありがとう。」

友晴「お礼を言うのは俺の方、ありがとう。そして、これからもよろしく。」

美央「こちらこそ、よろしくねw」


みんなで強力して作品に取り掛かる楽しさを知った友晴。
3人とも打ち解け、友晴はますます手芸が・部活が、楽しいと感じた。


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