熾亜「美央〜」

美央「ん〜? なに〜?」

熾亜「今日さ、ちょっとお出かけしない?」

美央「いいけど・・・どこまで?」

熾亜「4つ先の駅のレストランなんだけど・・・・」

美央「・・・なんでまたそんなトコロに・・・?」

熾亜「お姉ちゃんが働いてるのよ。 それで、一度行きたいな〜って。」

美央「お姉さんがねぇ・・・ふぅん。」

熾亜「べ、別にっ! 身内特権で割引してもらおうとか思ってるわけじゃなくてっ!」

美央「・・・まだ何も言ってないよ?」

熾亜「あ・・・」

美央「・・・やっぱ、そーいう魂胆?」

熾亜「ぅ〜・・・」

美央「でも、4つも先の駅だと、足代のほうが高くつかない?」

熾亜「あのね、割引してもらうってのはちょっと違って・・・」

美央「じゃあ何?」

熾亜「お姉ちゃんのツケかオゴリで・・・」

美央「よけい悪い!!」


スパーン!

美央は、どこからか取り出したハリセンで私をはたく。


ミカ「・・・楽しそうですね。」

熾亜「ぅ〜・・・」

ミカ「ところで美央さん、それは一体どこから・・・?」

美央「それは聞かないお・や・く・そ・く」

ミカ「はぁ・・・そういうものなのですか?」

美央「そういうモノなのです。」

熾亜「と、とにかく・・・ミカさんは当然行くとして、美央はどうする?」

美央「・・・行くわよ。」

熾亜「ぁ、美央も私にあやかろうとか・・・」

美央「思ってない!!」


スパーン!


熾亜「あたっ! 二度もぶったぁ・・・親父にも・・・!」


スパーン!!


美央「はい、それ以上言わないっ!」

熾亜「うぬぬぬぬぬ・・・」

ミカ「本当に、お二人は見ていて飽きませんねw」

熾亜「まったく・・・美央はどうしてこんな風になっちゃったのか・・・」

美央「アンタのせいよ、アンタの・・・」

ミカ「くすくすw」


そんなやりとりもいつもの事で。
私達は、さっそく電車でレストランに向かった。


美央「ここが、その?」

熾亜「そうだよ? お店の名前も合ってるし・・・」

ミカ「"冥途印邪範"・・・なんて読むのかわかりません・・・」

熾亜「私もわかんないけど・・・お姉ちゃんがウチに忘れてった名刺に書いてあるとおりだし、
   間違いないよ。」

美央「名刺・・・?」

熾亜「うん。」

美央「レストランで働く人って、名刺持つモノなの・・・?」

熾亜「・・・よくわかんないけど、お姉ちゃんの名刺に間違いないよ。」

美央「・・・とりあえず、入ってみよっか。」

ミカ「そうですね。」


カランカラン・・・


店員「お帰りなさいませ、お嬢様!」

熾亜「・・・」

店員「お席へご案内します。」

美央「・・・」

店員「こちらへどうぞ。 お呼びの際は、お手元のベルをお使いください。」

ミカ「・・・」

店員「それでは、失礼いたします。」


店員は去っていった。


美央「ねぇ・・・熾亜?」

熾亜「なに・・・美央」

美央「ここって・・・いわゆるアレよね?」

熾亜「うん・・・アレだよね。」

ミカ「従業員のみなさん、かわいい服を着ていらっしゃいますねw」

熾亜「今更出れないし、何か頼もっか。」

美央「そうね。細かいところを無視すれば、普通の喫茶店と変わらないわよね。」

ミカ「私、このパフェにします。」

美央「パフェって・・・」

熾亜「じゃ、私このセット〜w」

美央「・・・二人とも、よくそんな食べれるわね・・・」

熾亜「美央、決まった〜?」

美央「このセットにするわ。」

熾亜「呼ぶね〜」


チリン・・・

ベルを振ると、すぐに店員がやってきた。


店員「お呼びでしょうか、お嬢様・・・って、熾亜・・・」

熾亜「あ、お姉ちゃん やっほ〜」

熾奈「やっほ〜じゃない! アンタこんなトコで何やってんの・・・」

熾亜「何って・・・様子見?」

熾奈「様子見ってアンタ・・・」

熾亜「お姉ちゃんがどんなトコで働いてるのかな〜って。」

熾奈「それはいいとして、よくわかったねぇ・・・」

熾亜「それは・・・じゃ〜ん!」

熾奈「アタシの名刺・・・? それ、どこで・・・」

熾亜「家に落ちてた。」

熾奈「あぁ、そう・・・で、わざわざこんなトコまで来た・・・と。」

熾亜「そゆこと〜w」

熾奈「どーせ、アタシのツケかオゴリで食べようってんでしょ?」

熾亜「わかってるなら話が早いw」

熾奈「魂胆ミエミエ。・・・ったく、しょうがないね。 アシ代も安くないんだし、今回だけだよ?」

熾亜「やた〜! さっすがお姉ちゃんw」

熾奈「じゃ、改めて・・・ どちらをご所望ですか?お嬢様。」

熾亜「私、和風ハンバーグのライスセット、ぽんずソースで!」

ミカ「私は、こちらのパワフルジャンボサマーパフェを。」

熾奈「ミカちゃん・・・」

ミカ「はい?」

熾奈「後悔しない?」

ミカ「大丈夫です。 だいたい予想はついてますので。」

熾奈「ならいいけど・・・で、ゴメン。美央ちゃんは?」

美央「私はコーンクリームスープのパンセットで。」

熾奈「控えめだねぇ。アタシに気ぃ使わなくていいんだよ?」

美央「晩御飯も控えてますから・・・」

熾奈「ま、それもそーか。」

熾亜「以上で!」

熾奈「ハイハイ・・・と。かしこまりました。少々お待ちくださいませ、お嬢様。」


姉はペコリと頭を下げて離れていった。


熾亜「あとで名刺のこと聞いてみよ〜っと。」

美央「私達としゃべってて怒られないのかな・・・?」

熾奈「お待たせいたしました〜」

熾亜「うわ、早っ!」

熾奈「まずこちら、ぽん・・・」

熾亜「ぽん・・・?」

熾奈「・・・和風ハンバーグのぽんずソース・ライスセットでございます。」

熾亜「さっきの、"ぽん"って・・・何?w」

熾奈「・・・うっさいわね! 料理置くときの擬音語よ!!」

熾亜「へぇ〜・・・まぁ、そーゆーことにしておきますか。」

熾奈「・・・こちら、コーンクリームスープ・パンセットでございます。ぽん」


そして姉は、ミカさんにパフェを置くときも、苦しい言い訳を通すために"ぽん"と付けた。


熾奈「それでは、ごゆっくりおくつろぎくださいませ。」

熾亜「あ、ねぇねぇお姉ちゃん?」

熾奈「・・・なんでしょうか、お嬢様?」

熾亜「ここの人って、みんな名刺持ってるの」

熾奈「いや、アタシだけだよ。こう見えてもオーナーだからねぇ。」

熾亜「え〜!!? お姉ちゃん、オーナーだったの・・・?」

美央「怒られないワケだね・・・」

ミカ「ところでこのお店、なんと読めば・・・」

熾奈「"メイド・イン・ジャパン"まぁ、見てのとおりメイド喫茶のレストラン版だけどね。」

美央「シャレ・・・ですか?」

熾奈「うっさいな〜もう。アタシのせいじゃないし。」

熾亜「お姉ちゃん、よくこんなお店開こうと思ったね・・・」

熾奈「アタシも初めは従業員だったんだけどね。前のオーナー・・・まぁ、この店出した張本人なんだけどね。
   なぜかすっごい気に入られちゃってねぇ・・・」

美央「断らなかったんですか?」

熾奈「接客用語以外は普通にレストランだからねぇ・・・別にイヤってワケじゃなかったし。
   それに、オーナーなんてのは肩書きだけで、実際の経営は二人三脚でやってっから。」

熾亜「ふぅん・・・」

熾奈「実は、断らなかった理由が、もう一つあってね・・・」

熾亜「なになに?」

熾奈「実は、アタシも前のオーナーのこと気になっててね〜・・・そこへ来て、
   オーナー任されたときのセリフが、"俺と一緒にこの店をやってくれ!"って。」

ミカ「それは、もしかして・・・」

熾奈「そ。その"もしかして"だよ。」

熾亜「ってことは、お姉ちゃんのダンナさんって、この店の・・・?」

熾奈「あっれ? 言ってなかったっけか?」

熾亜「レストランの店長としか聞いてないよ〜!」

熾奈「ま、い〜じゃんい〜じゃんw」


姉は、私達と一緒の席にドカっと座り、嬉しそうに語り始めた。


熾奈「それでね〜、その後〜・・・」


こうして私達は、姉のオゴリで食事をさせてもらう代わりに、
食べてる間ずっと姉のノロケを聞くハメになった・・・




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