熾亜「それでね〜」

美央「そ〜なんだ、あはははw」


いつものように熾亜と笑いあう。


熾亜「こうしてると、いつも思うんだけどさ・・・」

美央「ん〜?」

熾亜「美央、変わったな〜って。」

美央「アンタに変えられたのよ・・・」

熾亜「そーなの?」

美央「それ以外の理由、見つからないもん。」


私は、熾亜と出会った時のことを思い出す。


最初に熾亜と会ったのは中学校の入学式の時。 その頃から熾亜は明るく元気で、すぐにクラスの人気者になった。 私も、あの子のようになりたいと思った。 そんな思いとは裏腹に、私は内気で暗い性格から、あまりクラスに打ち解けることはできなかった。 学級委員に推薦されたけど、面倒事を押し付けられているような気がして、 なおさらみんなと馴染めなかった。 ある日のこと・・・ めずらしく学校帰りに買い物をしていた。 雨が降りそうな天気だったけど、いつも折り畳み傘をカバンに入れてるから大丈夫。 買い物が終わって店を出ると、案の定、雨は本降りだった。 熾亜「あ・・・」 美央「え・・・?」 ふと声のする方を見ると、熾亜がいた。 雨宿りをしていたらしい。 熾亜「えっと・・・空野さん、だっけ?」 美央「うん。」 私なんかの名前を覚えててくれた。 それだけでも嬉しかった。 熾亜「私、知ってる? 同じクラスの・・・」 美央「天仲さん。」 熾亜「わ、覚えてくれてたんだ〜w」 人の顔と名前を覚えるのは苦手だったけど、熾亜は強く印象に残ってた。 熾亜「それにしても、いきなり降って来るんだもんね〜・・・」 美央「傘・・・」 熾亜「え?」 美央「持ってないの?」 熾亜「うん。もういっそ濡れて帰ろうかな〜って思って・・・」 バッ 自分で使うはずだった折り畳み傘を、熾亜の胸元に突きつけた。 なぜそうしたのかはわからない。 考える前に体が動いていた。 熾亜「これ・・・?」 美央「私、家近いから。それじゃ。」 熾亜「あ、ちょっと!!」 それだけ言って私はその場から走り去った。 ここから家までくらいなら、走れば大丈夫。 だけど、思ったより濡れてしまった。 母親「おかえり、美央。 あら、どうしたの? ずぶ濡れじゃない。」 美央「雨・・・」 母親「それはわかるけど・・・美央、いつもカバンに折り畳み傘入れてるじゃない。    入れ忘れるなんて、珍しいこともあるのね・・・それで雨が降ったのかしらw」 美央「たまたまよ・・・」 冗談を言う母を、軽く流す。 次の日 熾亜「空野さんっ!」 めずらしく、熾亜が私に話しかけてきた。 美央「何?」 熾亜「おはよう。」 美央「うん。」 熾亜「これ・・・」 熾亜はカバンから何かを取り出した。 その手に握られていたのは、昨日熾亜に突きつけた折り畳み傘だった。 あまり話す機会も無く、親しい仲でもなかったから、返してもらえるとは思ってなかった。 その驚きは表情にも出たらしく、熾亜も尋ねてくる。 熾亜「どうしたの?」 美央「あげた・・・つもりだったから。」 熾亜「もらうわけにはいかないよ〜。 ハイ!」 熾亜は私の手を取って、傘を握らせてくれた。 熾亜「・・・ありがとう。すっごく助かったよw」 美央「・・・うん。」 嬉しいやら気恥ずかしいやらで、まともな返事を返せなかった。 この子は、他の子とは違う。仲良くなれるかも・・・ 私はそう思っていた。 それから熾亜は、ことあるごとに私と話すようになっていた。 一緒にお弁当食べたり、帰りに一緒に寄り道したり。 私も、熾亜とは普通に話せるようになってきていた。 やがて、2学期も半ばになり、後期学級委員を決めるときが来た。 担任「はい、立候補でも推薦でもいいから、誰か〜?」 男子「空野さんがいいと思いま〜す」 女子「前期もやってたので、適任だと思いま〜す」 男子「俺も〜」 女子「私も〜〜」 前期と同じ。 みんな、面倒事は押し付けたがる。 ・・・どうでもいい。 熾亜「はい!!」 そんなとき、仲良くしてくれてた熾亜までもが手を上げた。 驚いて、熾亜のほうを見る。 ・・・そんな子じゃないと思ってたのに・・・ 私の思い描いていた空想が、音を立てて崩れ落ちた。 しかし、熾亜の口からは驚くべき言葉が出てきた。 熾亜「・・・私、立候補します!」 担任「そうか。じゃぁ天仲、頼んでいいか?」 熾亜「はいっ!」 熾亜がこっちを見て微笑む。 その姿に、なぜか目頭が熱くなった。 放課後、私は思い切って熾亜に話しかけた。 美央「天仲さん。」 熾亜「ん、なに? 空野さん。」 美央「ちょっと、いい?」 熾亜「いいよ?」 女子「熾亜〜? 行くよ〜〜?」 熾亜「ごめ〜ん、今日ちょっとパスっ!」 女子「おっけ〜、じゃぁまたね〜」 熾亜「まったね〜!」 熾亜は教室のドアから話しかけてきた女子に応対し、私に向き直る。 私を優先してくれた。 熾亜は・・・私をどんなふうに見てるんだろう・・・ 熾亜「で、なんだっけ・・・」 美央「天仲さんは・・・」 熾亜「ん?」 美央「天仲さんは、明るくて、人気があって・・・」 自分でも何を言っているのかわからなかった。 こんなことを言いに来たんじゃない。 熾亜も首を傾げている。 私は、本題を切り出した。 美央「・・・どうして、そんなに私に構ってくれるの?」 その答えは、私からは想像もできないものだった。 熾亜「だって・・・一人は、寂しいよ?せっかく学校に来てるんだし、    もっと楽しく過ごさなきゃ損じゃないかな〜と思って。」 一人は寂しい・・・たしかにそうだ。 私だって楽しく過ごしたい。 事実、熾亜と過ごす時間は最高に楽しい。 そこまで私を気にかけてくれていたということを知って、すごく驚いた。 熾亜「ひょっとして、迷惑だった・・・?」 美央「そんなこと! ・・・ない・・・ 熾亜「そぉ? よかったw」 迷惑なわけがない。 むしろ大歓迎だ。 この子と、友達になりたい・・・ 美央「あの・・・」 熾亜「ん?」 美央「よかったら、その・・・私と、友達にっ!!」 熾亜「何、言ってるの・・・?」 美央「え・・・」 友達になれる・・・そう信じていただけに、期待を裏切られた。 私なんかが・・・出過ぎたことを・・・ 絶望感が襲ってきた。 美央「・・・ごめん、忘れて。」 もう誰とも話さない。 熾亜とも。 そう思って、熾亜に背を向けようとしたとき・・・ 熾亜「・・・私達、もう友達でしょ? そう思ってたのは私だけだった?」 耳を疑った。 こんな私を、熾亜はすでに友達と思ってくれていたのだ。 私が友達になれるかも知れないと思っていた間、熾亜の中ではすでに私は友達だったのだ。 美央「天仲、さん・・・」 熾亜「"し・あ"!」 美央「え・・・?」 熾亜「これからは、"熾亜"って呼んで。私も空野さんのこと"美央"って呼ぶから。」 美央「・・・うんっ!」 熾亜「それじゃ、これからもよろしくね、美央w」 美央「こちらこそ、熾亜w」 2人「あははははははは」 笑いが止まらなかった。 理由はわからない。 でも、その瞬間、すごく幸せだった。 そうか・・・友達っていうのは"作る"ものじゃなくて"なっている"ものなんだ・・・ それからというもの、熾亜は今まで以上に私と付き合うようになっていた。 私も、クラス内でできるだけ明るく振舞うようにしていた。 熾亜「美央、おはよ〜!」 美央「あ、お・おはよう・・・熾亜。」 周りから見れば、滑稽だったかもしれない。 あれほど暗かった私が、明るく見せているのだ。 そう思われても仕方ない。 でも、その甲斐あってクラスにもだいぶ打ち解けた。 "なにがあったの?"なんて不思議がって話しかけてくれる子も、だいぶ増えた。 私が目標としていた子のおかげで、その目標に近づけた・・・ 熾亜には、感謝してもしきれない。 そんなこんなで1年生も終わりを迎え、2年生のクラス発表・・・ 私と熾亜は、また同じクラスになった。 美央「熾亜〜!」 熾亜「あ、美央〜w」 美央「また同じクラスだねっ!」 熾亜「うんうん、よかったね〜w」 美央「あのね、熾亜。今更なんだけど・・・」 熾亜「なに?」 熾亜に教わったこと・・・それを伝えたい。 今、ここで。 美央「私、熾亜に教えられた。友達は作るものじゃなくて、"なっているもの"だって。」 熾亜「え?」 美央「でも、そうなるには自分から歩み寄ることが大事だって。」 熾亜「私・・・そんなこと言った?」 美央「ううん、言ってない。でもね、熾亜が行動で教えてくれたんだよ。」 熾亜「そーなの? 実感ないけど・・・」 美央「そうなの! ・・・ありがとう、熾亜w」 熾亜「ん〜、イマイチよくわかんないけど・・・どういたしましてw」 今では母からも"明るくなったわねw"なんて言われるほどである。 本人はわかってないみたいだけど、熾亜は私の救世主で、恩人で・・・ それで、とっても大切な・・・最っ高の親友w

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