熾亜「それでね〜」

美央「そ〜なんだ、あはははw」


いつものように美央と笑いあう。


熾亜「こうしてると、いつも思うんだけどさ・・・」

美央「ん〜?」

熾亜「美央、変わったな〜って。」

美央「アンタに変えられたのよ・・・」

熾亜「そうなの?」

美央「それ以外の理由、見つからないもん。」


最初に美央と会ったのは中学校の入学式の時。 その頃の美央は寡黙で、誰かと喋ったりするでもなく、いつも一人でいる子だった。 たまに誰かが話しかけても素っ気無い返事で、やけに冷たい印象だった。 ある日のこと・・・ その日は掃除当番で、みんなより帰るのが遅くなっていた。 生徒「な〜んか、天気悪いね〜・・・」 熾亜「そだね〜」 生徒「熾亜〜、傘持ってきてる?」 熾亜「ううん〜 だから、振り出す前にダッシュで帰るっ!」 生徒「がんば〜w」 熾亜「よ〜っし!」 気合を入れて走り始める。 家と学校の中間くらいまで走ったとき、額に冷たいものが当たった。 熾亜「え〜! もう降ってきちゃった!?」 雨は瞬く間に強くなり、私は近くの店先で雨宿りすることにした。 幸いにも、まだあんまり濡れてない。 熾亜「どーしよ〜・・・」 途方に暮れていると、中から人が出てきた。 熾亜「あ・・・」 美央「え・・・?」 美央だった。 熾亜「えっと・・・空野さん、だっけ?」 美央「うん。」 熾亜「私、知ってる? 同じクラスの・・・」 美央「天仲さん。」 熾亜「わ、覚えててくれたんだ〜w」 美央は表情を崩すことなく、無言で頷いた。 熾亜「それにしても、いきなり降って来るんだもんね〜・・・」 美央「傘・・・」 熾亜「え?」 美央「持ってないの?」 熾亜「うん。もういっそ濡れて帰ろうかな〜って思って・・・」 バッ 美央はカバンから折り畳み傘を取り出すと、それを私の胸元に突きつけた。 熾亜「これ・・・?」 美央「私、家近いから。それじゃ。」 熾亜「あ、ちょっと!!」 それだけ言って、美央はカバンで雨を凌ぎつつ走って行ってしまった。 熾亜「ぁ・・・」 最後まで無表情のままだった美央。 お礼すら言わせてもらえなかった。 けど、とりあえずその傘をさして家まで帰った。 次の日 熾亜「空野さんっ!」 美央「何?」 熾亜「おはよう。」 美央「うん。」 相変わらず素っ気無い返事だったけど、私は構わずに続けた。 熾亜「これ・・・」 私は、昨日借りた傘を差し出す。 美央は驚いたような表情をした。 熾亜「どうしたの?」 美央「あげた・・・つもりだったから。」 熾亜「もらうわけにはいかないよ〜。 ハイ!」 美央の手をとって、そっと傘を握らせた。 熾亜「・・・ありがとう。すっごく助かったよw」 美央「・・・うん。」 その返事は、今までとは少し違うように聞こえた。 それから私は、ことあるごとに美央に話しかけるようになっていた。 一緒にお弁当食べたり、帰りに一緒に寄り道したり。 美央も、少しずつ私と話すようになってきていた。 やがて、2学期も半ばになり、後期学級委員を決めるときが来た。 担任「はい、立候補でも推薦でもいいから、誰か〜?」 男子「空野さんがいいと思いま〜す」 女子「前期もやってたので、適任だと思いま〜す」 男子「俺も〜」 女子「私も〜〜」 たしかに美央は、前期も学級委員だった。 だけど、それは寡黙で内気な美央に、面倒事を押し付けているように見えた。 そう、前期のときも・・・ 熾亜「はい!!」 私が手を上げたとき、美央はビクッとしてこっちを見た。 熾亜「・・・私、立候補します!」 担任「そうか。じゃぁ天仲、頼んでいいか?」 熾亜「はいっ!」 ふと美央に視線を送ると、美央の目は潤んでいた。 その日の放課後、珍しく美央が私に話しかけてきた。 美央「天仲さん。」 熾亜「ん、なに? 空野さん。」 美央「ちょっと、いい?」 熾亜「いいよ?」 女子「熾亜〜? 行くよ〜〜?」 熾亜「ごめ〜ん、今日ちょっとパスっ!」 女子「おっけ〜、じゃぁまたね〜」 熾亜「まったね〜!」 教室のドアから話しかけてきた女子に応対し、美央に向き直る。 熾亜「で、なんだっけ・・・」 美央「天仲さんは・・・」 熾亜「ん?」 美央「天仲さんは、明るくて、人気があって・・・」 いきなり何を言い出すんだろう・・・そう思った。 美央「・・・どうして、そんなに私に構ってくれるの?」 熾亜「だって・・・一人は、寂しいよ?せっかく学校に来てるんだし、    もっと楽しく過ごさなきゃ損じゃないかな〜と思って。    ひょっとして、迷惑だった・・・?」 美央「そんなこと! ・・・ない・・・」 熾亜「そぉ? よかったw」 美央「あの・・・」 熾亜「ん?」 美央「よかったら、その・・・私と、友達にっ!!」 熾亜「何、言ってるの・・・?」 美央「え・・・」 私の反応を見て、美央は急に沈み込んだ。 美央「・・・ごめん、忘れて。」 熾亜「・・・私達、もう友達でしょ? そう思ってたのは私だけだった?」 美央「天仲、さん・・・」 熾亜「"し・あ"!」 美央「え・・・?」 熾亜「これからは、"熾亜"って呼んで。私も空野さんのこと"美央"って呼ぶから。」 美央「・・・うんっ!」 熾亜「それじゃ、これからもよろしくね、美央w」 美央「こちらこそ、熾亜w」 2人「あははははははは」 理由はわからないけど、お互いに笑いが止まらなかった。 それからというもの、美央は今までのことがウソのように明るく振舞うようになっていた。 クラスのみんなとも、少しずつ打ち解けていってるみたい。 熾亜「美央、おはよ〜!」 美央「あ、お・おはよう・・・熾亜。」 でも、ちょっとぎこちなくて、ムリして明るくしてるっていうのはすぐにわかった。 そんなこんなで1年生も終わりを迎え、2年生のクラス発表・・・ 私と美央は、また同じクラスになった。 美央「熾亜〜!」 熾亜「あ、美央〜w」 美央「また同じクラスだねっ!」 熾亜「うんうん、よかったね〜w」 美央「あのね、熾亜。今更なんだけど・・・」 熾亜「なに?」 美央「私、熾亜に教えられた。友達は作るものじゃなくて、"なっているもの"だって。」 熾亜「え?」 美央「でも、そうなるには自分から歩み寄ることが大事だって。」 熾亜「私・・・そんなこと言った?」 美央「ううん、言ってない。でもね、熾亜が行動で教えてくれたんだよ。」 熾亜「そーなの? 実感ないけど・・・」 美央「そうなの! ・・・ありがとう、熾亜w」 熾亜「ん〜、イマイチよくわかんないけど・・・どういたしましてw」

←第6話へ  第7.5話へ→