アンバー:「さて・・・どこから話しましょうか・・・」

お茶会という名目の中での、秘密の会話・・・
そう、あの夜のように・・・

 アル :「できれば・・・"機関"について聞きたい。」
アンバー:「わかりました、私たちの所属していた”機関”とは、人間兵器を作り出す機関です」
 アル :「人間兵器・・・か。」
アンバー:「知ってのとおり、私たちは他の人とは違った魔法の使い方ができます。
      肉体の鍛錬から生まれるものよりも、人の中に眠る大きな魔力・・・・
      訓練しだいで身につけられる、広大な高威力の魔法を打つことのできるものに眼を向けて、
      それを人為的に、無尽蔵に放出を可能とさせたのがこの機関です」
 アル :「なるほど。しかし、その代償も大きいんじゃないか?」
アンバー:「無論、人ひとりで持ちうる魔力には限界があり、それを超えることは己の肉体をも破壊しかねない。
      ならばなんとするか・・・触媒たるものを己が体内へ埋め込み、肉体への負荷を減らし、
      放出の際に耐えうる身体を術式にて作り変える。
      そして、魔法を打つことはその魔力の流れにそって放つこと。
      その流れすらも人為的に組み換え、肉体の機能すらも変えてしまう。
      そして・・・」

アンバーが自分の顔に手をかざすと、膜がはがれるように粒子が流れていった。
その下には、左側眉付近から頬までにかかる大きな手術跡のような傷口と、左目に埋まる眼球大の琥珀石だった

アンバー:「こういったことを用いて、人が持ち得ない魔力・肉体を作り上げていったのです」
 アル :「カモフラージュ・・・してたのか。」
アンバー:「初対面でこんなもの見せたら、もてなくなっちゃいますよー」

ははは、と空笑いをするアンバー
しかし、アルは表情を崩さなかった。

アンバー:「このカモフラージュも、この機関での技術の一つです。
      もっとも、私が考えたオリジナルですけどね」
ジェイド:「姉上・・・・」

ふと横にいるジェイドがアンバーの頬に手を当てると、
はがれた粒子が戻るようにアンバーの顔が元に戻っていった

 アル :「ジェイドも同じことができるのか。」
アンバー:「私が考えてジェイドちゃんが行使できる魔法なんですよ」
 アル :「ってことは、アンバーは使えないのか。」
アンバー:「この技術は無理です。それぞれ役目がありましたからね」
 アル :「役割・・・ねぇ。」
アンバー:「他に聞きたいことがあれば今のうちにどうぞ。」
 アル :「じゃぁ、その役割について教えてもらおうか。」
アンバー:「その技術をもってしても、やはり一人が持ちえるものには限界がありました。
      そこで数人でチームをくみ、役割を持たせ、1つの兵器として動かすというものがありました。
      その中での私の役割が、溜め込んだ魔力の調節・変化などでした。
      魔力そのものに働きかけ、放出量・形状・射出位置などを一手に任される立場でした。
      無論調節をしくじれば爆ぜる様なものです。私のポジションは結構重要視されていましたよ」
 アル :「アンバーが調整役・・・とすると、魔力カートリッジの役もいるわけか。」
アンバー:「それが、ジェイドちゃんです」
 アル :「ジェイドが・・・?」
アンバー:「ジェイドちゃんは他と違い複数の石を持っています。それにより、普通蓄えられるであろう魔力の
      数倍の魔力を体内にキープすることができます。
      それに耐えられる身体を持っているのもジェイドちゃんだけです。
      それ以外の被験者は・・・全て解体され、処分を受けました」
 アル :「人体実験に解体処分か・・・酷い話だな。」
アンバー:「もう十何年も続けていたことですから・・・・」
 アル :「聞きたいことが山ほどできてきたな・・・
      被験者はどこから集めたのか・組織の本当の目的は何なのか・
      処分された者たちはどうなったのか・・・
      そして、ジェイド・アンバーがどうやって逃げてきたのか・・・
      なぜ、あのクーラとかいうローグが今になって現れたのか。」
アンバー:「ではひとつずついきましょぅか」
 アル :「頼む。」
アンバー:「集め方ですが、表向きは身寄りのない子供たちを引き取る慈善事業団体ですから
      素材集めにはうってつけです」
 アル :「なるほどな。表の顔は孤児院ってワケか。」
アンバー:「ただその団体の人たちは無関係な方々なので」
 アル :「無関係・・・? じゃぁ、どうやってその団体から被験者を・・・?」
アンバー:「なんかしら理由をつけて機関メンバーが引き取りに来るのですよ」
 アル :「・・・なるほど。団体から孤児を引き取る名目で、実験体にしていたわけか・・・」
アンバー:「次に目的ですが、最終目的は生体兵器の完成です」
 アル :「生体兵器の完成・・・つまり、チーム行動ではなく、一つの固体として・・・
      ということか?」
アンバー:「そうです」
 アル :「生体兵器を作ろうとした目的は?」
アンバー:「単身乗り込み国単位で壊滅させる能力を持つ生体兵器・・・
      一種のテロですね」
 アル :「強大な力で他を制圧・・・まるで世界征服でも狙っているかのようだな。」
アンバー:「まぁそこからどうするかは、知る前に潰しちゃいましたけどね」
 アル :「ってことは、ジェイドとアンバーは組織を壊滅させて脱走してきた・・・と?」
アンバー:「まぁそんなところです」
 アル :「クーラは、その生き残りか・・・?
      しかし、なぜ今になって出てきたんだ・・・
      ヤツの目的について、何か知ってるか?」
アンバー:「壊滅の恨みでしょうか?・・・目的は不明ですね」
 アル :「組織の再興か・・・いや、あるいは・・・」

アルは、少し考えた。

 アル :「もしも・・・だ。クーラが、組織に関わる全ての排除を望んでいるとしたら・・・?」
アンバー:「それでは私たちと一緒ですよ・・・それにしては回りくどすぎます」
 アル :「裏で大きな事が動いていないのを願うばかりだな。」

めずらしく、アルは不安げな表情を見せる。

 アル :「そういえば、さっきの質問の残り一つだが・・・
      処分された被験者達は・・・?
      "解体された"と言っていたが・・・」
アンバー:「言葉どおりです。ご想像にお任せします」
 アル :「・・・そうか。」

アルは、静かにそう返した。

アンバー:「・・・・・・・・・」

眼を伏せ静かに紅茶をすする

アンバー:「すっかり冷めてしまいましたね・・・・ジェイドちゃん、新しいのを淹れよう」
ジェイド:「はい、姉上」

紅茶を入れようと立ち上がったとき・・・・

パチンッ

アンバーが指を鳴らすと糸の切れた人形のようにジェイドが倒れた

 アル :「・・・ジェイド!?」

突然の出来事に、慌てるアル。

 アル :「アンバー、一体何を・・・?」
アンバー:「ちょっとこれから重大なことを話すので、回路封鎖で気絶してもらいました」
 アル :「そんな遠隔操作じみたコトまでできるのか・・・」
アンバー:「役得と思って抱いててくださいな♪」
 アル :「・・・不可抗力、ということにしておこうか。」
アンバー:「さて、今から話すことはほんと秘密ですよ?」
 アル :「・・・わかった。」
アンバー:「実は・・・・ジェイドちゃんは私の妹ではありません」
 アル :「・・・アンバーがジェイドの実姉でないことは、薄々感づいてはいたけどな。」
アンバー:「言ってしまえば、私がジェイドちゃんの妹です」
 アル :「はぁ・・・?」

狙ったかのようなオチに、間の抜けた返事を返す。

アンバー:「ギャグではありませんよ?もう少し深刻なことです」
 アル :「あぁ、すまない。で、どういうことなんだ? アンバーが妹とは・・・」
アンバー:「私は・・・・・」

言いごもっているが意を決して話す

アンバー:「ジェイドちゃんを元に作られた兵器なんです」
 アル :「・・・ジェイドを元に"作られた"・・・?
      アンバーは人体改造された生身の人間ではない・・・とでも言うのか?」
アンバー:「ジェイドちゃんの調整用のパーツとして細胞などを移植された、
      いわゆるホムンクルスです」
 アル :「ホムンクルス・・・にわかに話で聞いたことはあるが・・・
      まさか、こんな身近に実在するとは・・・」

そこまで聞いて、アルに一つの疑問が浮かぶ。

 アル :「すまない、また聞きたいことが出てきたんだが・・・」
アンバー:「はい?」
 アル :「ジェイドは、記憶操作されてるのか?」
アンバー:「・・・・いいえ、脱走の際の衝撃で記憶喪失なんです」
 アル :「記憶喪失・・・か。それで、アンバーを姉と思い込んでるわけだな。」
アンバー:「記憶障害が出たジェイドちゃんは、それはひどい状態でした・・
      言語すらままならない状態で・・・・・」
 アル :「少し前までの無感情なジェイドは、その影響でか・・・
      しかし、アンバーもよくここまで・・・」
アンバー:「私だけでは、やはり限界もありましたよ・・・」
 アル :「姉というよりは・・・まるで母親だな。」
アンバー:「アルさん、私もひとつ質問がありますが」
 アル :「何だ?」
アンバー:「私が姉ではないと感じたのはいつです?」
 アル :「明確に"いつ"ということはないな。
      これといって判断基準があったわけでもない。
      ただ、血のつながった姉妹ではないと、なんとなく感じただけだ。」
アンバー:「なるほど、私の演技もまだまだってところですね。
      さて・・・後質問はございますか?」
 アル :「そうだな・・・ちょっと細かいことになるが・・・
      アンバーはジェイドの調整役として、ジェイドの細胞などを移植された・・・と言っていたが
      ・・・ジェイドの魔力は元々高かったのか?」
アンバー:「もともと機関のユニットの中で群を抜いた魔力の持ち主で、
      色々なチームの元となるほどの素材でした。
      それだけに実験の頻度・規模それらも群を抜いていました」
 アル :「・・・すまない。少しカマをかけさせてもらった。」
アンバー:「・・・?」
 アル :「ジェイドを元に"作られた"アンバーが、"元々のジェイド"を知っているということは・・・
      意識や記憶の一部・・・もしくは全部を共有しているんじゃないか?
      あるいは、作られたという話自体が虚偽。」
アンバー:「・・・・・・ふーっ・・・」

アンバーは大きく息を吐くと

アンバー:「そこに触れちゃいましたか・・・まぁ、アルさんならわかるとは思いましたけどね」
 アル :「で、真相は?」
アンバー:「ひとつだけ問題です。ジェイドちゃんと私、何歳くらいに見えます?」
 アル :「少なくとも、俺よりは下に見えるが・・・そうだな、二十歳前後。
      だいたいだけどな。」
アンバー:「ですよねぇー・・・・肉体は成長しても稼動年数はほんの半分ほどですよ・・・・」
 アル :「稼動年数は半分ほど・・・?それは、アンバーのか? それとも、二人とも・・・?」
アンバー:「私の場合は作られてからの改造・実験の繰り返しで異常成長になり、
      通常の倍以上の速さで年をとっていきました。
      ジェイドちゃんの場合、研究・凍結保存の繰り返しで成長が著しく遅れたのです。
      この話からわかるとは思いますが、ジェイドちゃんが生まれたのはずっと前のことです。
      そして、色々と私が知っているのは、機関の歴史資料などを片っ端から読破していったからですよ。
      ジェイドちゃんのパーツとして知っておく必要がありますからね。
      整備調整なども一手に請け負うんですから」
 アル :「不完全なクローン人間は、通常の倍以上の速さで成長・老化するという話を聞いたことがあるが
      ・・・似たようなものか。
      なんにせよ、アンバーは紛れもなく人工生命体で、ジェイドと意識や記憶を共有しているわけではない・・・
      ということだな?」
アンバー:「ええ、生命という点では別物です」
 アル :「じゃぁ、もう一つ質問させてもらおう。」
アンバー:「どうぞ」
 アル :「"秘密の話"は、このことだけか?
      別に、他に何か隠してるかどうか疑っているわけじゃない。ただの"確認"だ。」
アンバー:「はい。ここまで来て隠すようなことはしませんよ、いくら私でも」
 アル :「そうだな。・・・最後にもう一つだけ。」
アンバー:「はい?」
 アル :「クーラ以外に"討ち漏らし"は居るのか?
      わからないなら、それでもいい。」
アンバー:「私の知る限りはダイ・・・・クーラだけです」
 アル :「ダイ・・・?クーラの別名か・・・?」
アンバー:「ああ、ダイヤと言いそうになったので言い直しただけですよ♪」
 アル :「それも"組織"でのコードネームか・・・
      翡翠に琥珀、金剛石・・・」
アンバー:「アンバー・ジェイドは私がつけた偽名です」
 アル :「そうなのか?」
アンバー:「私のコードネームは「エース」・・・「スペードのエース」です」
 アル :「トランプで、ジョーカーに次ぐ強さのカードか・・・」
アンバー:「ジェイドちゃんのコードネームが「ジョーカー」です」
 アル :「つまり、ジェイドは"組織"において、それほどの実力者であり、重要人物だったということか。」
アンバー:「まさに「切り札」として重宝していたわけです」
 アル :「膨大な魔力の貯蔵庫・・・変な話をすれば、単体で超威力の魔力爆弾にもなり得たわけか。」
アンバー:「まぁそんな使い捨てはしなかったでしょうね。
      なにせ『グレイトフル・デッド』が使える唯一の存在でしたから」
 アル :「アンバーを干からびさせたアレだな・・・」
アンバー:「もう忘れてくださいな・・・・はずかしぃんですから・・・」
 アル :「見たのはあのときの1回だけなんでな・・・」
アンバー:「まぁとにかく・・・そういった感じですが、他に疑問点は?」
 アル :「思い当たる疑問はないな。」
アンバー:「ではそろそろ皆様も起こすとしましょうか・・・っとその前に」

パチンッ
指を鳴らすとジェイドがビクッと反応し目が覚める。もちろん、アルの腕の中で・・・

ジェイド:「・・・ん・・・あ、アル様・・・」
 アル :「起きたか?ジェイド。」
ジェイド:「あの・・・わたくし・・・なにを?」
 アル :「疲れがたまってたんじゃないか? よく寝てたぞ?」
ジェイド:「!!・・・」

真っ赤になりぱっと飛びのくジェイド

ジェイド:「・・・起こしてくださればよかったのに・・・わたくしたちはおもてなしする側ですので・・・」
アンバー:「はーい、皆さんもおきてくださいねー」

そう言って、眠っている天使連メンバーに気付け薬をかがせるアンバー

セラフィ:「ん・・・?」
 ファル :「んぁ・・・?」
ルーシィ:「んにぃ・・・」
ケルビナ:「・・・?」
 ジュノ :「のぁっ!?」

ガタン!

 ジュノ :「ってぇ〜・・・」
アンバー:「はーい、おはようございます皆様ー・・・・ジュノさん、家具を壊さないでくださいね?」
 アル :「・・・お前は何をやってるんだ・・・」
 ジュノ :「いや、なんつ〜かその・・・飛び起きた勢いで・・・」
ジェイド:「皆々様、紅茶を淹れなおしました・・・どうぞ・・・」

それぞれの前に、淹れたての紅茶が注がれていく

セラフィ:「ありがとうございます。眠気覚ましには丁度いいですねw」
ルーシィ:「いつのまにか寝ちゃってたぁ・・・」
ケルビナ:「ルーちゃんもですの?」
 ファル :「俺もなんかイキナリ・・・」
 ジュノ :「・・・一服盛られたか?」

バコスッ

 ジュノ :「ってぇ〜・・・なにすんだよ兄者!」
 アル :「冗談にも程があるぞ、ジュノ。」
 ジュノ :「へぃへぃ、悪かったよ。」
アンバー:「あはーw ジュノさんには特別に五服くらい盛りましたよー?」
 ジュノ :「げ・・・そんなに? どーりで毒に強い俺も落ちるワケだぜ・・・」
アンバー:「あらあら、お茶菓子も底をつきそうですねぇー」

ジュノの言葉をサラリとスルーするアンバー

 ジュノ :「ちょっ、スルーかよっ!」
アンバー:「日もおちかけですし、いい時間ではないかと思いますが?」

シ・カ・ト である

 ジュノ :「ノるだけノっといてスルーはねぇぜ・・・」
 アル :「・・・いつものことだろうに。」
 ジュノ :「チェ」
セラフィ:「さて、そろそろ失礼しましょうか。」
ルーシィ:「え〜、もう?」
 ジュノ :「お茶菓子もなくなりそうだしな〜・・・」
 ファル :「・・・お前は最後まで食い意地か・・・」
アンバー:「さぁさ、後片付けは私たちで行いますので、ご帰還準備をどうぞ」

ジェイドはそそくさとアル達の手荷物を持ってくる。


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