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 フクロウの森

 ピョン吉はホウホウじいが住んでいる森にやって来ました。 この森はモモタンがいた森の隣にあったので、 ピョン吉は簡単に来られると思っていました。 ところが途中には深い谷があって通ることが出来ず、上流を遠回りして来たので、 思ったより時間が掛かってしまいました。
 でもピョン吉の気持ちは充実していました。 太陽が昇る山の形が、何と無く見たことが有るような気がしてきたからです。 良く見ると少し違っているのですが、 きっとお母さんや兄妹の住む森の近くまで来ているのに違い無いと思いました。
 ピョン吉はいつものように晩ご飯の獲物を探していましたが、 この日は丸々と太ったネズミを見付けることが出来ました。 いや、良く見るとネズミとはちょっと違うようです。 その小さな動物はふさふさとしたしっぽを持っていたからですが、 どうもリスとも違うようです。 ピョン吉は気付かれないように忍び寄り、 もうちょっとで飛び掛かれる距離にまで近付きました。
 バサッ、バサバサバサッ!
 突然、カラマツの小枝が頭の上に落ちてきました。 上空を吹いていた風にあおられ、枯枝が折れてしまったのです。
『しまった!』
 静かな森でこんな大きな音を立てれば、たちまち相手に気付かれてしまいます。 ピョン吉は万全の注意を払いながら接近して行ったのですが、 自然のいたずらでは仕方ありません。 枯枝の落ちた音で振り向いたその動物は、 今にも飛び掛かろうとしているピョン吉の姿を発見しました。 距離はまだ遠かったのですが、ピョン吉は急いで飛び出しました。 しかしそれよりも早く、その動物は近くの木に登ってしまいました。
 と、なるはずだったのですが、ピョン吉はそこで信じられない光景を目にしました。 その小動物は懸命に木に登ろうとしているのですが、どうしても登れないのです。
『こいつ馬鹿か!』
 ピョン吉はそう思いました。 どんなにあわてていたとしても、木登りの出来ない動物は地上を走って逃げるはずです。 ピョン吉はすぐそばまで近付いて行きましたが、 その小動物はまだ木に登ろうとしています。 あきれ果てたピョン吉は、頭を軽くたたいて話しかけました。
「こらこら、何やってるんだい?」
「わあっ、食べないでよおっ!ぼくはもう食べられないよお」
 こっけいな小動物はあわてふためいて、訳の分からないことを口走っています。
「木に登れないなんて、おかしなネズミだなあ」
「ぼくはネズミじゃ無いよ。ヤマネのコロ丸と言うんだ」
 ピョン吉はヤマネの名前は知っていましたが、実際に会うのは初めてです。 ネズミとは違うようだと思っていましたが、それがヤマネだとは気が付きませんでした。
「ぼくは木登りは得意なんだよ」
「じゃあ、ちゃんと登れるのかい?」
「当たり前だよ!しっかり見ててよぉ」
 コロ丸はそう言って再び登ろうとしましたが、やっぱり登れません。 良く見ると大きなおなかがじゃまをしているのです。
「いくらやったって駄目さ。おなかがつかえてるよ」
 ピョン吉はすぐに気が付きましたが、コロ丸は言われるまで分からなかったようです。 きっと逃げるのに夢中で、気が動転していたのでしょう。
「そっかあ、ぼくもおかしいと思ってたんだ」
 コロ丸はそう言うと登るのをあきらめ、ゴロンと地面に寝転んでしまいました。
「いやあ、ちょっと食べ過ぎちゃってね。苦しくって苦しくって仕方が無いんだ」
 もう動くのもいやだ、という感じです。
「ふーん、君は食いしん坊なんだねえ」
「違う、違うよ!今日は特別なんだ」
「特別って?」
「冬眠の練習をしようと思ってたんだ」
「冬眠?冬眠って何だい?」
 ピョン吉は初めて聞く言葉なので、 冬眠とは一体何のことなのか、さっぱり分かりません。
「えーっ、冬眠を知らないの?のんきなんだなあ、君は」
 今度はコロ丸があきれ果てたような顔をしました。
「お母さんから冬眠について聞かなかったのかい?」
「うん、実は・・・」
 ピョン吉はコロ丸にも今までのことを話しました。
「ふーん、それで冬眠のことを知らなかったんだね」
「ねえ、教えてよ」
「いいよ、でもぼくだって初めてなんだ。今年生まれたばかりだからね」
 コロ丸はそう言って、冬眠について話し出しました。
「冬になるとね、雪というものが降ってきて、とっても寒くなるんだってさ」
「寒いの嫌いだな」
「だからね、こうやって丸くなって、雪が解けて暖かくなるまで眠るんだってさ」
 コロ丸はそう言って丸くなりましたが、 おなかが出ていたのでそれほど上手くはないようです。 ピョン吉もまねをして丸くなりましたが、どうにも恰好が付きません。
「ぼくも下手だけど、君はもっと下手だね」
「う、うん。でも、暖かくなるまで何も食べないのかい?」
「どうもそうらしいよ。だから眠る前におなか一杯食べておくんだって。 さっきはその練習をしてたのさ」
 ピョン吉はコロ丸に会って良かったと思いました。 もしコロ丸に会っていなかったら、 冬眠の仕方を知らないまま冬を迎えることになっていたかも知れないからです。
「ねえ、体の丸め方教えてよ」
「教えるほどのものでも無いと思うけどね。ほら、こうすれば簡単だよ」
 コロ丸はまたクルッと丸くなりましたが、ピョン吉にはどうしても上手く出来ません。
「難しいなあ」
 ピョン吉は思わずため息をつきましたが、コロ丸はけろっとした顔で言いました。
「そんなに心配することは無いと思うよ」
「えっ、どうしてだい?」
 コロ丸の思いがけない言葉に、ピョン吉は真剣な顔をして聞き返しました。
「だって君はオコジョだろ。オコジョは冬眠しないってお母さんが言ってたからね」
「・・・・・」
 ピョン吉はあっけに取られて何も言えません。 それならそうと、もっと早く言ってくれれば良いのに・・・
「ごめんよ、さっきはあせっちゃって思い出せなかったんだ」
 コロ丸はピョン吉の心の中を見抜いて言いました。
「ううん、いいよ」
 ピョン吉も怒る訳には行きません。 コロ丸は食べられるかどうかの瀬戸際だったのですから。 でもピョン吉には、今度は別の心配事が浮かんできました。
「ねえ、ネズミやリスも冬眠するのかなあ?」
「えっ?どうして?」
「だって、みんな冬眠しちゃったら獲物がいなくなるもの」
「ふーん、なるほどねえ。でもぼくには分からないや」
 コロ丸だって子供ですから、知らないのも無理はありません。
「君のお母さんは知ってるかい?」
「知らないと思うよ。ネズミやリスとの付き合いは無いからね」
「そっか、残念だなあ・・・」
 ピョン吉の心配事は、解消されませんでした。
「あっ、そうだ!」
 コロ丸が何か思い出したようです。
「ホウホウじいなら知ってると思うよ」
 コロ丸の口からもホウホウじいの名前が飛び出しました。
「ホウホウじいのことを知ってるのかい?」
「ぼくは会ったことは無いけどね。 お母さんが、ホウホウじいは物知りだって言ってたよ」
「ぽくもそう聞いて来たんだけど、この森で会えるかなあ」
「うん、多分会えると思うよ」
 探していたホウホウじいに会えると聞いて、ピョン吉はまた元気が出てきました。
「じゃあ、ぼくはホウホウじいを探しに行くから・・・」
 ピョン吉は一刻でも早くホウホウじいに会いたかったので、 暗くなるまで先へ進もうと思いました。 コロ丸はゴロンと横になったまま、ピョン吉を見送りました。
「気を付けてね。会えるといいね」
「ありがとう。君も食べ過ぎたりしちゃあ駄目だぜ」
 ピョン吉はコロ丸と別れ、森の奥深くへと進んで行きました。 コロ丸の話からも、ホウホウじいに会うことが出来れぼ、 お母さんの所に帰れるに違いないと思いました。

 ピョン吉はしばらく歩き続けましたが、辺りも暗くなったし、 体も疲れてきたので一休みすることにしました。 晩ご飯を食べていないので、おなかもすいてきたのです。 ピョン吉は休みながら今までの色々な出来事を思い出しました。 バリトラじいさんやクーロン、そしてホッペやモモタン、今頃どうしているかなあ。
『モモンガもんもん・・・』
 何気なく口から出てきたのは、モモタンが歌っていた歌でした。 相変わらず上手とは言えませんが・・・
「ほう、モモタンの歌じゃないか」
 突然ピョン吉の頭上で、聞きなれない声がしました。 暗闇に響き渡る、地をはうような低い声です。 驚いてピョン吉が見上げると年取った大きなフクロウが、 鋭い目付きをして木の枝に止まっていました。 ピョン吉を襲うには絶好の位置です。 ピョン吉がどちらに逃げ出しても、たちまち捕まってしまうでしょう。
 万事休す!
 ピョン吉は今までは慎重に行動してきました。 寝るときはもちろん、ちょっとした休憩でも十分に注意を払い、 外敵から襲われにくい場所を選んできました。 ところがこの晩に限って、全く無防備な場所で休んでいたのです。 恐らく長い放浪の旅で疲れがたまり、気が緩んでしまったのでしょう。
 ピョン吉はあせりました。せっかくここまで来たというのに! もう少しでお母さんに会えるというのに! 何としてでも、フクロウの攻撃を避けなければなりません。
「ほう、お前さんはオコジョだね」
 そのフクロウは、すぐには襲ってこないようです。
「オコジョのお前さんが、どうしてモモタンの歌を知っているんだね?」
 そのフクロウも、モモタンの歌を知っているようです。
「モモタンから教わったんだ」
「ほう、モモタンに会ったのか。元気だったかい?」
 ピョン吉は、モモタンと出会い、歌を教わったときの様子を話しました。
「ほう、旋回も出来るようになったのか。飛行の腕前も上達したようだな」
 話の様子からすると、モモタンとは顔なじみのようです。
 ほう、ほう、ほう・・・そうか! ピョン吉はフクロウの話し方でぴんと来ました。
「もしかしたら、おじいさんはホウホウじいですかあ?」
 ピョン吉は思い切って聞いてみました。
「ほう、わしの名前を知っているのかね?」
「うん、モモタンに聞いたんだ」
「ほう、そうかそうか」
 いつの間にか、ホウホウじいの目付きは穏やかなものになっていました。 ピョン吉はホウホウじいにも、人間に出会ってからの出来事を話しました。
「ほう、お前さんはお母さんを探しているのか」
「うん、おじいさんは池を知ってますかあ?」
「もちろんさ。バリトラじいさんの言う通り、白駒池とミドリ池の二つがあるよ。 バリトラじいさんは遠くにいるのに詳しいんだねえ」
 モモタンやコロ丸の言う通り、ホウホウじいは池のことを知っていました。 もちろんピョン吉は大喜びです。
「どちらの池もそばには人間の小屋があるし、近くには岩場もある。 お前さんの話だけではどちらの池だか分からないなあ」
「池は遠いの?」
「ミドリ池なら近いけど、途中には深い谷があるからなあ。 お前さんの足では二十日、いや、それ以上かかるだろうよ」
 池は予想以上に遠いようなので、ピョン吉はちょっとがっかりしてしまいました。
「気を落とすなよ。わしが空から連れてってやるさ」
 ホウホウじいは疲れ果てた顔のピョン吉を見兼ねて、 何とか助けてやろうと思ったのです。
「えっ、本当に?」
「うそは言わないさ。 しかし夜飛んでもお前さんには池を見付けることは出来ないだろうし、 わしはまぶしい昼間は苦手でな。 くもった日の昼間に限るぜ、それでいいかい?」
 ピョン吉には反対する理由はありません。 後はホウホウじいの力を借りるため、理想の天候になることを祈るばかりです。
「晩ご飯はまだのようだな、ここで待ってろよ」
 ホウホウじいはピョン吉をその場に残し、 音も無く闇の中へ消えて行きましたが、じきに大きなネズミを捕まえて帰ってきました。 ピョン吉はホウホウじいお礼を言って食事を済ませ、深い眠りにつきました。
 ピョン吉は幸運でした。 もしもモモタンに歌を教わらなかったら、そしてその歌を口ずさんでいなかったら、 きっとホウホウじいに食べられていたことでしょう。

 翌日はかすかに太陽が見える程度の曇り空で、 ホウホウじいの飛行には絶好の天候となりました。 ピョン吉の祈りが通じたのかも知れません。 ホウホウじいは早起きで、もう朝ご飯のネズミを食べ終えていました。 ピョン吉も残りを分けてもらい、いよいよ空の旅に出発です。
「さあ行くぞ。しっかり見とけよ」
「はいっ!」
 もちろんピョン吉は空を飛ぶのは初めてのことです。 さすがに緊張しましたが、ホウホウじいはそんなことは関係なしにピョン吉をつかみ、 一気に舞い上がりました。
 あっと言う間に大きなカラマツの木を抜け、 ピョン吉の心が落ち着いたときには森の上に出ていました。 初めて見る空からの風景は、何とも言えない不思議なものでした。
「ほら、下に見えるのが昨日言った深い谷だよ」
 ホウホウじいが森の地形を説明してくれましたが、ピョン吉には良く分かりません。 深いと言われた谷だって、空から見たのでは深くは感じられませんから。 見上げるような高い木で覆われた森にしても、上から見ればまるで草原のようです。
「お前さんの言ってた池はあれかい?」
 前方に小さな水たまりが見えてきました。
「違うよ、もっと大きな池だよ」
「はっはっは、高い所から見ているから小さく見えるのさ」
 ホウホウじいは笑って言いましたが、 ピョン吉にはどういうことなのか理解出来ません。
「まあいいか。先に白駒池に行ってみよう」
 ホウホウじいは小さな池の上空を通り過ぎ、高い断崖を越えて飛んで行きました。 やがて前方に、さっきよりは大きそうな池が見えてきましたが、 それでもピョン吉の記憶にある池よりはずっと小さな池です。 池の向こうには曲がりくねった道がありますが、 バリトラじいさんが言っていた『土の匂いのしない道』でしょうか?
「あの池も小さいみたいだよ」
 ピョン吉は、ちょっと不安になってきました。
「はっはっは、下に降りれば大きくなるさ」
 ホウホウじいはそう言って降下を始め、ピョン吉を地上に降ろしました。 ホウホウじいの言う通り、空からは小さく見えた池も、 実際にはピョン吉の知っている池よりずっと大きなものでした。 池の向こうにはシラビソの木に囲まれて人間の小屋がありますが、 小屋は二ヶ所に建っているし、様子も違うようです。
「ここじゃ無いよ!こんなに大きな池じゃ無いもの」
「ほう、そうかい。やっぱりさっき通ったミドリ池の方だな」
 ホウホウじいには、ある程度見当が付いていたようです。
「ところで、さっき道が見えていただろ」
「うん、あの小屋の向こうの方だね」
「バリトラじいさんの言っていた『土の匂いのしない道』というのは、 多分あの道のことだと思うよ」
 バリトラじいさんの言う通り、この池はその道から半日くらいの距離にあります。
「バリトラじいさんは、どうしてあの道のことまで知ってるんだろうなあ」
 ホウホウじいも首をひねりながら感心しています。
「バリトラじいさんはね、人間の地図を持ってるんだ」
 ピョン吉は、地図と言う名前だけは覚えていたのです。
「ほう、地図ねえ。知らないなあ」
 さすがのホウホウじいも、地図は見たことがないようです。
「ぼくも見せてもらったけど、全然分からなかったんだ」
「ほう、そうだったのかい。さあ、出発するぞ」
 ホウホウじいは再びピョン吉をつかんで舞い上がりました。
「せっかくだから、念のために上の岩場にも行ってみるか」
 ピョン吉はホウホウじいに身を任せるしかありません。 ホウホウじいはちょっと向きを変えると、 シラビソの梢に沿ってぐんぐん上昇していきました。 まもなく見晴らしの良い岩場に着きましたが、そこはピョン吉の知っている岩場とは違って、 たくさんの大きな岩が積み重なっていました。
「どうかね、ここに見覚えがあるかね?」
「ううん、ぼくの知ってる岩場はここじゃあ無いや」
「はっはっは、そうだろうな。 ここは高見石と言ってながめの良い所だから、人間も多いのさ。 だからお前さんの狩りの練習場にはならないよ」
 ピョン吉は一番高い岩に上って、ぐるりと周囲を見回しました。 そごから見ると先程の大きな池も、信じられないくらい小さな池になっています。 周囲には色々な山が見えますが、ピョン吉はその中に見覚えのある山を見付けました。
「おじいさん、あの山見たことがあるよ!」
「ほう、そうかそうか、あの山かい。元気が出てきたようだな」
 恐らくホウホウじいの頭には、この辺りの地形彩が全部入っているのでしょう。 頭の中に地図があるようなものですから、ホウホウじいにはもう目的地が分かりました。 初めに上空を通過した、あの池に間違いありません。
「さあ、もう少しの辛抱だ。ぐずぐずしてると太陽が顔を出すかも知れないからな」
 ホウホウじいは疲れも見せず、ピョン吉をつかんで最後の飛行に飛び立ちました。
 岩場の上では気が付きませんでしたが、飛び立つとすぐ下に人間の小屋が見えました。 小屋の前ではひげもじゃの人間が、長い棒を振り上げて何かしています。
「おじいさん、あの人間は何してるの?」
 ピョン吉には、その人間が何をしているのかさっぱり分かりません。
「ほう、まき割りか、頑張ってるな」
「まき割りって?」
「人間も冬ごもりの準備をしているのさ」
「ふーん、人間も冬眠するの?」
「冬眠はしないさ。あれを燃やして冬を暖かく過ごすんだ」
 ホウホウじいも、人間について詳しく知っているようです。
「そうだなあ。池まで行くより岩場の方が近いかな」
 ホウホウじいはそう言うと向きを変え、近くに見える岩場を目掛けて降りて行きました。 ピョン吉は降下しながら遠くの山を見ましたが、それは紛れもなく、 ピョン吉が幼いころから見てきた山でした。
「おじいさん、ここだよ、ここ!」
 ピョン吉は岩場に降りるのが待ち切れず、大声で叫びました。
「ほう、良かった良かった」
 ホウホウじいはゆっくりとピョン吉を降ろしました。
「さあ、後はひとりで帰れるな?」
「うん、もう大丈夫だよ。おじいさん、本当にありがとう」
「はっはっは、なんのなんの」
 ピョン吉にとっては懐かしい岩場です。 ピョン吉は早く駆け回りたい気持ちで一杯でしたが、 はやる気持ちをぐっと押えて周囲の状況を探りました。 すると岩場の外れの森の中から、じっとこちらを見ているオコジョがいました。
 見覚えのあるそのオコジョは、 以前ここでタカに子供をさらわれたお母さんオコジョでした。 今日はお母さんひとりだけで、とっても寂しそうな顔をしています。 でもそれは悲しそうな表情ではありません。 一体何があったのでしょうか?
「やあ、太陽が出てきそうだわい。わしは帰るぞ」
 ホウホウじいは雲が切れ始めた空を見上げて言いました。
「うん、ありがとう。気を付けてね」
「はっはっは、お前さんこそ気を抜くんじゃ無いぞ。最後の最後までな」
 ホウホウじいはピョン吉に別れを告げると、 明るくなってきた大空への飛行を避け、薄暗い森の中に消えて行きました。

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