チリ通信−28 (2007年2月10日)

皆様、いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。
種苗生産に精を出している今日この頃です。


さて、プロジェクトであるイシダイの産卵が始まりました。
しかし餌であるワムシが十分できず苦労していました。
やっと問題が解決し、次回の産卵に間に合うようワムシ生産に集中しているところです。
ワムシとは孵化仔魚に与える輪虫類のプランクトンで、
種苗生産の成否の半分は如何に大量に栄養価の高いワムシを恒常的に作れるかにかかっているといえます。
私も一人前のワムシ使いになれる様、研鑽の日々です。
活餌として与えるシオミズツボワムシは大きさ100〜300μmで、茄子をへこましたような形をしており、
普段は単為生殖(雌だけで増殖する)をします。
餌はクロレラなどの植物プランクトンですが、大量にワムシを作るためには学校プールの大きさの水槽がいくつも必要でした。
しかし、90年代に濃縮クロレラが開発されてからは培養自体が簡便になりました。
また、巨大水槽が不要になるばかりか高密度培養が可能になり、労力や施設など大きくコストが削減されました。
残念ながらチリでは濃縮クロレラは入手不可能なので、代替であるパン酵母を使い培養しています。
この場合は栄養価に問題があり、栄養強化をしなければ稚魚の生存率が下がるとか色素異常が発生します。
ちなみに昨年に生産したヒラメは植物プランクトンを全く使わず栄養強化だけでしたが、生存率や体色など異常の無い稚魚ができています。
この結果はヒラメの栄養要求を満たしたということですが、はたしてヒラメ種だけなのか興味のあるところです。





話は変わり泥棒PartIIの話です。

前回書いたように昨年のクリスマスにごっそり持っていかれましたが、またまた来ました。
今回は昼間で、以下のストーリーです。


平日の午後に執務室でデータ入力をしていると窓をノックする者があり、見ると14歳と10歳くらいの兄弟らしき少年二人が居ます。
"オジサーン、暑くて堪んないから水を飲ましてくれヨー"
"少年、ここは大学の敷地だから勝手に入っちゃイカンデー"
"でも飲ましたるからコッチコッ"(将来当校に入学するかもしれないので)というわけで種苗場で水を飲ましました。
"オジサンはここで何してるノー?"
"ここでは魚を作ットルンヤー"
などと将来の入学生に詳しく話をしました。
彼らが帰って数分後、執務室で仕事を再開していると、外で"ハヨイケ、ハヨイケ"とひそひそ声がします。
不審に思いLabに出てみると、なんと机の上の顕微鏡が無いではありませんか!。
"$#&ッ!!!"
あわてて外に出て種苗場の外周りを歩いてみると、壁の近くに忽然と顕微鏡が置いてありました。
その向こうには、こちらをチラチラ見ながら歩いて行くクソガキが見えました。
全く持って油断も隙もありません。
小さな子供でもやるのかといささかショックでしたが、それからは常時扉を閉め暑いのを我慢して執務をしています。


経験から例を引くと、
フィリピンのミンダナオ島の場合はゲリラが横行しているため企業が進出することができず、
従って現地人の就く職が無く、現金収入が無い場合が多く見られました。
現象としては家庭用燃料のために国道のアスファルトをはがしており、道が穴だらけのため事故が多発する、
タイヤ・サスペンションの修理費がかさむ、通行に時間が掛かりますます地域の発展が遅れる状態でした(現在はコンクリート化されたそうです)。
泥棒側のリスクとしてはエビ養殖場にエビ泥棒団が入り、全員射殺されるということがありました。

エクアドルのグアヤキル市の場合はサオパウロなど南米有数の危険都市で、白昼町の真ん中で拳銃を使った引ったくりが行われていました。
また、川向こうに入った泥棒が追われてこちら側に泳ぎ着き、拳銃を向けられてまた泳いで帰る場合がありました。

アフリカのマラウイの場合は泥棒のリスクが一番高く、泥棒が発見された場合は私刑が行われる場合が多く死亡率が高いようです。
友人の医師の話では、捕まった泥棒が頭に斧を挿したまま病院に来たそうですがそれでも住民は離さなかったそうです。

チリの場合は南米でも有数の安全国という報告が出ており、深夜でも運転して自宅に帰れます(安心注意)。
前述の国だけで無くどこでも言えることですが、危険な地区、発生する時間帯、泥棒を誘発するような状況(施設・服装や歩き方)はあるもので、
それぞれの問題に対応することで発生は減少させることはできます。
しかしながら現地人に比べ外人はこのあたりの状況を理解するのに時間が掛かり、このために外人は被害に合いやすいようです。

泥棒には2タイプ考えられ、生活に困って獲る場合と、獲って楽しみ売って儲かりまた嬉しいタイプです。
前者には大きな必要性(子供の薬代など大義名分)があり、ここで仮に"緊急型"と呼びます。
後者は遊び(ストレス発散)と実益を兼ねており収入もあぶく銭的使い方をするので、"遊興型"と呼ぶことにします。
緊急型が恒常化もしくは精神的変化をすることで遊興型に移行する(専門職業化)ことはあります。
途上国の場合は非常に泥棒が多く、どこでも対策費用がかなり掛かかり、発展の妨げになっているのが現状です。
泥棒の多い地区では全ての窓に鉄格子が付けられている事で判別ができ、
ちなみに私の執務室の窓にも全て鉄格子が入っており牢屋で仕事をしているようです。
チリなど途上国を抜けつつある豊かな国では遊興型が多いように思われ、前述の兄弟(?)もこの型ではと思っています。
これは大人社会が悪いからではないでしょうか。
はっきり言って日本でもそうですが、不正をする政治家とそれを許す社会、
マナーに反することをしてもそれを咎められない大人たちを子供たちは見て、"アーそっか、こんなことしても許されるんだ"と判断するからでしょう。
そういえばチリでは犯罪者の拘留期間が短く、再犯率が高いのが問題になっています。
もっとミクロに見れば子供を叱れない親・無関心な親が問題なのかもしれません。
車が無いからと赤信号で渡る親を見れば次からは子供も同じ事をするし、そのまた子供も従うということです。
自分も含めて、気をつけないとイカンナー。
などと、つらつら思いながら出来たての中間種苗槽で泳いだり、海鮮鍋(パイラ デ マリスコス)をつつく毎日です。


   



        


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