『徒然なるままに記す』 9期 池谷


 このほど文集に寄稿するようにとのことであったが、これといって書くこともない。

さりとて描かぬ訳にもいかぬので、思いつくまま徒然なるままに書くことにする。


 私は、海が好きである。高校の頃よく独りで単車に乗り、海のさまざまな声を聞きに行ったものである。

何故行ったのかと聞かれても、海の声が好きだからとしか答えようがない。

何故好きかそれを口にしたときから、その言葉は、嘘になってしまうのでやはり答えられない。

ただ言えることは、私の体の細胞の一つ一つを構成する太古の海由来のアミノ酸や、

絶えず循環している電解質が海を恋しがっているのかもしれないということである。


 このようなことを考える都度に、南方から小さな帆船に乗り、島づたいに日本に渡って来た海洋民族の血が、

私の体の中を流れているのを感じる。

私は、実際には行ったことがないが、朔北の大平原と、そこに興亡していった諸民族の歴史が好きである。


 私の好きな詩の一つに次のようなものがある。


   敕勒川 陰山下 天似穹廬 籠蓋四野 天蒼蒼 野茫茫 風吹草低 見牛羊


 見わたす限りの草原で、一陣の風に草がなびき、はるか彼方に牛と羊の群れを見る、こんな土地に私は行ってみたい。

私は、こんなことを考えるたびに、往古大挙して日本に渡って来た騎馬民族の血を感じないわけにはいかない。

きっと日本人の血の中には、往古日本に渡来した騎馬民族の血と海洋民族の血が流れていて、

私の血は、他の人よりほんの少し先祖に近いのかもしれない。


 よって、私はこれからもけっして海を離れることはないだろうし、また将来、今の学科のような事をしていくだろうし、

歴史学の方面の事をも勉強していくであろう。



          


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