『深海潜水機器』 1期 和知


 ここ数年、深海潜水と言う言葉をよく耳にします。

文字通り深い所まで潜水すると言う事ですが、ではどの位の水深から深海潜水と呼ぶのでしょうか。

30m・90m・150m・200m・300m・500m・・・・現在ではすでに日本国内企業でも500mまでの潜水技術を確立しています。

一体何m以深が深海潜水なのでしょうか。

たとえば80mの深海へスクーバ潜水器で潜水すれば、これはスクーバによる深海潜水と言えると思います。

ところが同じ80mへSDC等の潜水機器を使って潜水するのであれば、これはSDCによる浅海潜水の部類です。

この様な事から使用する潜水機器により区分してみると


 スクーバ潜水では       20m位までなら浅い  30mを越えれば深い

 ヘルメット(Heガス)      60m位までなら浅い  70mを越えれば深い

 ADS              120m位までなら浅い 150mを越えれば深い

 SATURATION SYSTEM  200m位までなら浅い 300mを越えれば深い


以上の様な一応の目安としての区分ができます。


 これからの海洋石油掘削等の場で数多く利用されるであろうADS・SATURATIONSYSTEM等を一通り述べてみたいと思います。

ADSとは、ADVANCED DAIVING SYSTEM (OCEAN SYSTEMS社の開発した複合潜水機器) の略で、

SDC (SUBMERSIBLE DECOMPRESSION CAMBER) DIVERを石油掘削船等から海中に降し、

潜水作業の能率を向上させると共にDIVERの安全性を高める。

その機能としては、

(1)ダイバーを海中に降す為の水中エレベーター。

(2)ダイバーを海中より揚収する為の海中減圧室。

(3)オブザベーション潜水も可能。

以上のほか、海中作業時はダイバーの基地ともなり、コミュニケーション、呼吸ガス供給の中継基地となる。


DDC (DECK DECOMPRESSION CHAMBER)

SDCで減圧する為には、狭い環境に長時間とどまらねばならず、ライフサポート、環境コントロール上好ましくないので、

SDCをDDCにドッキング後ダイバーがDDCに移動して広い環境でより安全に減圧を行なう減圧室。


CCV (CENTERCONTROL VAN)

SDC・DDCの加減圧コントロール、ライフサポート等、加圧開始から減圧終了までの間、全てを司る中枢であり一般にトップサイドと呼ぶ。

この他に、中圧コンプレッサー、ダビッド、ウインチガスバング等から構成される複合潜水システムで、

いわゆる深海潜水の為に開発されたシステムです。



ADSにより潜水を行う場合、

ダイバー、トップサイド、テンダーのミーティングが行われ、

潜水計画が立案されると、計画に添って潜水準備がなされ、

いよいよダイバーはSDC内に入り潜降準備の為の最終チェックをし、

終了後SDCはゆっくり潜降を開始します。

水面付近ではコバルトブルーだった海水が100mを超えると紺一色になり、周りの明るさに目がなれるまでに5分はかかります。

SDC上部のポートから水面方向を見てもクルージライン(SDCの外圧を計測することにより深度のチェックを行なう機構)から放出される

気泡が昇っていくだけで、まったく不気味な世界です。

だんだんと目が慣れるにしたがって海底の状況が判ってきます。

そして作業現場の目視チェック、工具の点検、トップサイドとの打ち合わせ等、

オブザベーションダイビング(無加圧のまま海中で観察を行なう)の間に加圧前の確認を行い、

充分安全を確かめた上でダイバーはSDC内を加圧し、

オープンサーキットのフーカー装置によりロックアウトします。

ダイバー、テンダーは急速加圧の為に判断力は極度に弱まり、その中での作業となる訳ですから、

加圧前に頭にたたき込んだ手順の通り作業を行い、

再びSDCに戻ります。


ここからは更に一秒をも無駄に出来ません。

少しでも早く上昇開始して減圧を始める必要からです。

ダイバーは全ての操作をテンダーに任せて、DDCに移動するまでただひたすら震え続けるだけです。

DDCに移ったダイバーは、エントランスロック(出入りロック)で乾いた服に着替え、メインロックに移り、

熱いコーヒー等を飲んでようやく落ち着きます。

長時間の減圧をDDCの中で過ごす為、一応2名のダイバーが横になる程度のスペースがありますが、

更にサブロックが連結されたDDCもあります。

多くの場合、食事から排泄まで済ませるので、どうしてもDDC内部に臭いがこもり、定期的に換気を行い

内部のダイバーが少しでも過ごしやすい環境を保ちます。

しかし時には不心得なダイバーもおりまして、換気が終ったメインブロックでブーッという音とともに悪臭が漂い始めます。

一方のダイバーは、サブロックまで逃げたりしますが、こうなると換気は大変です。

通常15分程度で換気をする訳ですが、3分程度の急速換気を行なうので、またしばらくは極寒の中で我慢しなければならず、

この様な不心得者と長時間過ごさなければならないのも一苦労です。

3時間もするとダイバーは非常に眠くなり、ともすると居眠りを始めますが、すぐトップサイドに起されてしまいます。

減圧中に長時間眠ることは減圧症等の発見を遅らせてしまうからです。

上昇中はもちろん必ず起きています。

特にサーフェス近くなるとO2呼吸と空気のインターバルの為に、O2マスクをセットしたりはずしたりしますが

20時間以上の減圧では必ずといっていい程O2呼吸中に眠ってしまう事が多く、

水面到着後、減圧後の体調変化を1時間程度チェックされ、数十時間ぶりに解放されるとただ々々眠り続けます。

と、これは何事も無く終った例ですが減圧終了後にベンズが出たりすると、

また更に症状により8時間〜16時間程度の再圧治療を行なわなければならず、

減圧コントローラー、ダイバー、共に疲労の極に達してしまいます。

ADSでのバウンスDIVING(短時間潜水)でさえこんなにも疲れ果ててしまうのにSATURATION(飽和潜水)DIVING等、

更に一層疲れてしまうと思っていました通り、やはり非常に疲れる潜水だと身をもって体験出来ました。


SATURATION SYSTEMも基本的にはADSと同様な構成ですがDDC部分の構成が多少異なります。

ENTRY LOCKが独立したCHAMBERで、MAIN ROCKもLIVINGCHAMBERに置き換えられており、

全体にCAPACITYが大きくなっており、CHAMBER内は充分立って歩ける大きさです。

これにライフサポートシステムが組み込まれており、DIVERの居住性と安全性はより一層高められています。

ライフサポートシステムは、GAS ANALIZER、ENVIRONMENTAL CONTROL UNIT、SANITARY SYSTEM、

そしてOUTMATIC DECOMPRESSION SYSTEM等です。

この内ENVIRONMENTAL CONTROL UNITS(E・C・U)の機能は除湿、加温冷却、脱臭で

個々のCHAMBERにMAINとSUBの2機づつ装備されます。

以上の機能の全てをコントロールするのがCCVでCCVも与圧タイプのものです。

当然CCVの中の温度を一定に保てる様な構造であり、

これはOUTOMATIC DECOMPRESSION SYSTEMが温度変化に対して敏感である為です。

室温が上昇しすぎた場合、減圧速度が遅くなり、温度が下がれば減圧速度は速くなってしまいます。

この様にライフサポートに必要な事は全てOUTMATICで、減圧コントローラーは機器の異常に注意していれば良い訳です。

言い換えればコンピューター管理による生産ラインと同様だと思います。


 900ftにSATURATION DIVINGする場合、加圧に約8時間を要します。

加圧レートが遅い為、ダイバーは徐々に圧力に慣らされながら昇圧するのでバウンスDIVINGの様に急速加圧による悪影響も受けなくて済みます。

また減圧もBOTTOM TIMEに関係なく約1週間を要します。

SATURATION DIVINGで特に注意する事はボトムガスの安全最低温度の限界範囲が極めて狭い事、

同じ雰囲気ガスも快適と感じる温度範囲は、深度が増すにつれ狭い範囲となる事です。

もちろん温度だけでなくCHAMBER内のPO2 、PCO2 、PHe 許容範囲内にコントロールしなければなりません。

またSATURATION DIVINGには2通りの方法があり、一つはFULL  SATURATIONと呼ばれ実際の作業深度で飽和させる方法と、

実際の深度よりも浅い深度へ飽和させ飽和深度からより深い深度への短時間のエクスカーション潜水を行う方法です。

この考え方は"飽和深度が変わる"ことを除けば1気圧の大気中N2に飽和しているダイバーが

"水面から行なう短時間潜水"の考え方と全く同様であり、

この場合飽和されたダイバーは、飽和深度よりも浅いところにエクスカーションDIVINNGを行うことは出来ません。


 2通りのSATURATION DIVINGの内どちらを選ぶかは作業深度、作業に必要とされる時間、ダイバー用アンビリカルの長さ等

様々な要素により決定され、SATURATIONからのEXCURTION DIVINGを行なう場合には

EXCURTION TIME(無減圧限界時間)を超過するような長時間のエクスカーションDIVINNGを行うことは出来ません。

どうしてもBOTTOM TIMEが不足する場合にはSATURATION深度に戻りチャンバー内休息時間をとり、

繰り返しエクスカーションDIVINNGを行なうことが出来ます。

つまり基本は前述した"飽和深度"が変わるという事であり、24時間以上の休息をとれば当然繰り返し潜水でなくなるという事です。

SATURATION DIVINGの最も重要な利点は、減圧所要時間を増大させる事なくいくらでも長時間、滞底時間を延伸出来るという点で、

これは深海潜水において最も危険な減圧が滞底時間にかかわらず一度だけで済むという点です。


 以上ADVANCE DIVING SYSTEM と SATURATION SYSTEM について思いつくまま簡単に書いてみました。



     


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