『何故海に魅力を感じるのか』   9期 柘植


 私は海を見ることが好きです。

波が寄せては砕け散り、返していく、そんなふうに、もう地球ができた時から単純に同じことを繰り返している。

そんな眺めが大好きです。

特に台風前の荒れた勇壮な海はたまらない。

それを飽きずにただぼんやりといつまでも眺めているのが好きでした。

大きいんだなぁ、と思わず溜息がでそうに雄大さを感じ、すがすがしい気分になれる。

小さい時から、そんなふうに感じてきた海。

そして、このクラブに入り、また一つ、海の魅力に出会った。

海の中を自分の目で見ることができる。

すごい!



 しかし、ほんとうに喜びを知るまでには、とても長い時間が懸りました。

何につけても、人よりちょっと劣る体の持ち主の私は、このクラブに入っても、つまづきました。

耳抜きが全然できなかったのです。

1mを潜ることさえも知らず、いつもプカプカと水面に浮かんでいたのです。

はたから見たら、あいつほんとうにこれからやっていけるのだろうか、なんて思われていたと思います。

けれど、私としては、それでも結構楽しかったのです。

水の澄んだ日には、水面からでも充分に海の中の世界を伺うことができ、

ちょろちょろと動き回る魚などを見ると、わぁ、すごいという感じなのでした。

しかし、その視界に悠々、深々と潜水していく黒いゴムをまとった人間の姿を認めると、

"ムム、あやつめ"という感をもたないこともありませんでした。

まぁ、とにかく、海を眺めることの好きな私としては、充分楽しんでいたのです。



 そして、初めて潜ることができたのは、忘れもしない、1年の12月の最後の海の日でした。

その代の部長であった藤塚さんとバディを組み、岸近くからボコボコと海に入り、

2mぐらいのところで耳が痛くなったので、耳抜きをしてみたが、今までと変わらず抜けなかったのです。

ここでまただめだったら、一年間も潜れないまま過ごし、また、もう一生潜れないのではないかという気もし、

ボンベを付けているのだから大丈夫だと自分に言いきかせて、鼻をつまみ、力みました。

何回かやると、キューという尻上りの音がし、片耳が抜け、また何回かやり、とうとう両耳が抜けました。

思わず顔がほころび、"やったー!"とは言えなかったけど、うれしさ一杯でした。


初めて見る海の中の世界。

ガンガゼを見て、"なんだこりゃ、怪物のようじゃ"と思った。

見上げると、水面が見える。

うそみたいだ。

海の中に居るのだという実感が沸いてきて、うれしくてしょうがなかった。

すべてに感謝したい気持ちで一杯で、ニコニコ顔で潜っていました。

藤塚さんは、ひたすら寒さに打ち震えていたようでした。

それからしばらくの間は、その時の海の情景が浮かんできては、一人でにやにやしていました。



 今では、何とか少しは潜れるようになり、それにつれ、またいろいろな楽しさも増してきました。

沖縄のびっくり仰天するような海にも潜れたし、なんとなく不気味で、恐ろしげな海にも出会いました。

日本最南端、波照間島の海は、果てしない青い海の底に白い砂の世界がどこまでも横たわっており、

この海に呑み込まれるのではないかという気さえしました。

海は、潜るたびに新しい経験をし、発見をする。

海の中は神秘的である。

海は常に動いている。

それだけに吸い込まれそうな恐怖を感じる。

ボンベをつけるときなどは、いつも死ぬような気がしてしょうがない。



 何故、海に魅力を感じるのか・・・・。


海は、魅力的であり、戦慄を感じる恐怖を兼ね備えている。

海は、いつも新鮮でさわやかである。

海は、静と動の世界だ。

大好きだ。



最後に一言。

    "女だって心に海がある"。



          


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