『クラブの運営について』   1期部長 村岡


 私が現役当時のクラブと現在とでは、その体質において180度異なっている。

現在のそれは、世間で言われている縦の社会に近いものと感じた。

10年間のうちに横から縦の体質に変化したのは、合理性とか、それを受け入れる側の素質とかいったものが原因しているのだろうか?

そこに興味を感じている。今回のこの文集の中でその経過が見いだされる事を希望している。


 現役の頃は丁度ベトナム戦争、反戦、反体制運動、学園闘争、フーテン族その他既成の価値観を見直そうとしている時代的背景が有った。

正しいとされていたものが正しくなく、味方と思っていたものが敵であったり、尊敬していたものが尊敬できなくなったり、

美しいと思っていたものが美しくなかったりした時代であった。


 では、クラブ活動はどうなのか、特に体育会を代表するような、「根性」、「忍耐」といった言葉が息づいているような活動のあり方、

スポーツとの接し方はどうなのか、この疑問が、何気なしに同好者が集まった一見無目的に見える集団を支えていたものの一つと思われる。


 だから僕等の代は、「根性」という言葉は使ったかも知れないが、「忍耐」という言葉は使わなかった。


 何故、上級生が偉くて、下級生は奴隷なのか、何故一度入部したら本人の意思に反しても退部する事が困難なのか、

何故苦痛を感じてまでも我慢してクラブを続けなければならないのか。

 横の広がりを持った活動はできないか、それぞれ各部員が主役の活動はできないか、がむしゃらな根性だけでなく合理的、

科学的なトレーニングはできないか、上級生の強制でなく参加している本人の認識によってクラブは活動できないか、

等の疑問がクラブの新しい形を求めていった。

 クラブ内の体制をそれなりに整備する必要が有った。つまり中央集権的な一般的な体質からいわば地方分権へ。

具体的には、クラブ内での組織は下記の通りだった。


 1.企画    :年間予定の立案。
           合宿の段取り、準備、諸手配。

 2.トレーナー :日常及び合宿時のトレーニングに関する企画、指導。
           潜水理論に対する指導。

 3.会計    :

 4.部長、副部長:各組織の相談役。
            クラブとしての対外的な窓口。


 上気のような各組織が役割の実施に当たってはその組織が最も権限と責任を負うものだった。

 又、各組織のいずれかに各部員が参加する形を取った。部員数は今程多くはなく、部則は作らずに運営した。


 しかし、一方ではクラブへ出席する事への強制が無い為、ダラケた活動が続いた事もあった。

そしてスチューデントダイバーズから離れてゆく人も数多くあった。

 又同時に、潜水するのに何故クラブとして皆んなでやってゆかなければならないかという疑問が生じた。

写真撮影、スピアフィッシング、生態調査といったグループ別に活動してはという意見も出てきた。

そしてその辺を考え、活動していくうちに安全潜水のためという目的が一つの活動の支えになった。


 具体的には、潜水に対する科学的な理解(潜水生理、潜水機器の構造と理論)、素潜り、水泳能力の向上、基礎体力の向上、

潜水経験、海、気象、海象に対する知識等々によって潜水時に冷静さを保つことができると考えた。


 それによって何故陸上トレーニングが必要かが認識され、更に潜水理論を目的とした陸上の合宿の必要性からそれを実施した。

これら安全潜水に対する追求は、個人でするよりはクラブとして活動する方が、広く、より正確な知識が得られ、

体力、水泳能力の向上の為のトレーニングにしても苦しさによる自分自身に対する甘え、妥協は追放されてしまうといった利益があった。


 以上クラブの活動目標が明確化された時点を契機として、ダラケた雰囲気が生き生きした感じに変わっていった。

それはダラケた雰囲気にもかかわらず、曲がりなりにもクラブを続けてきた人間が創造し、勝ち得た事と考える。

それはスチューデントダイバーズが誕生して3年目の事であった。


 しかし、我々の代でクラブ(学内規則でいう)昇格できる程、その活動において安定していなかった。

こんな風変わりな体育会所属のクラブがあってもよい、既成の体育会クラブに対する挑戦をしてみたかった。


 もう一つの心残りは自己満足的なところがあった。潜水に関する競技、他校との交流といった対外的な活動が無かった。

スチューデントダイバーズが安全潜水という目標をやっと見つけた段階では無理も無い事だったと思う。


 そして我々、初代の連中がクラブを去るに際し、クラブの主役は現役の各部員一人一人であり、どんな活動であっても、

そこに参加している部員が納得できる活動をすればよいと考えた。そして今もそう思っている。

ともかく、活動内容、設備、経済的に細々と動き始めたスチューデントダイバーズが10年も続き、部員数も増え熱心に活動している事に対し

嬉しく思っている。


        

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