なんで団地“妻”なのか、なぜ“奥さん”なのか、“ご用聞き”って、ここはどこの国なんだ?


『ザ・団地妻』


「疲れた……」
呟いて、刹那はハッと口唇を押さえた。
疲れているのではない。
ただ、ひとりぼっちの食卓が、わびしくて。
昼下がり、刹那は時々、胸がきゅうっと苦しくなることがあった。
今晩も、リチャードの帰りは遅いのだろうか。
話したいことが、沢山あったはずなのに。
この頃ではもう、ウォンと何を話したかも、忘れてしまった。
これからもずっと、こんな日が続くのだろうか。掃除と洗濯を毎朝休まず繰り返し、夫が食べるかもしれない、いや、食べないだろう夜食を用意して、独りで床につき――。
ぬるくなってしまったスープを片付けようと立ち上がった時、チャイムが鳴った。
「はい」
勝手口をあけると、ご用聞きが立っていた。
三河屋のガデスだ。
刹那は冷えた心のままに、つめたい声で呟いた。
「今日は、三河屋さんにご用はないです」
「いや。今日は俺の方が、用があってきたんだ」
「え?」
「奥さん」
抱きすくめられて、刹那は声を失った。
驚きのあまり抵抗を忘れていると、ガデスの掌が服の中に滑り込む。
胸を探られ、口唇を奪われた時、刹那はやっと何が起こっているかに気付いた。
「駄目だ、そんな」
「ずっと前から、奥さんのことが……」
低く囁かれた瞬間、刹那の胸は高鳴った。
ずっと前から? 俺のことを?
本当に?
「まってくれ、でも、あ……」
刹那の制止の言葉より早く、ガデスの指は秘所に達していた。
「悪い旦那だな……ずいぶん長いこと、ちゃんと可愛がってもらってないはずだ……ほら、もう、こんなにして……」
「あ、あんっ」
太い指に入り口をソロリと撫でられて、刹那の全身は熱く疼いた。
これが、待っていたもの?
俺を本当に暖めてくれるもの――?
聞こえるか聞こえないほどの小さな囁きが、ガデスの胸に落ちた。
「……するなら、早く……ウォンが、帰ってくる前に……」
「奥さん!」
夢中になって豊かな腰をむさぼるガデス。
刹那はひたすら甘いうめき声を洩らす。
「もっと、あ、もっと……っ!」

* * * * *

激情の瞬間が過ぎて、

刹那は夫に悪いと思った。→→

刹那は自分の中に、新しい愛が生まれたのを感じた。→→