〜幕間 The last of delivery〜




 一人の青年が立っている。
 彼の前には幾重にも枝分かれした道が在る。
 彼の後ろには一本道が在る。
 歩みを進める。
 不思議なことに、枝分かれした道を進むと、選ばれなかった方の道が消え彼がいる道だけが残る。
 彼はその道を進む。ある程度進んだところでふと振り返ってみた。
 少し離れたところに別の青年が立っていた。
 おーい! そんなところで何やってるんだー? と声を掛けると、お前が先に進むのを待ってるんだよ、という答えが返ってきた。 さらに青年は続けた。俺はお前が進んだ分しか進めないんだ。だから先に進んでくれないと俺も進めないんだ、と。
 彼は首を傾げながらも、とりあえず進んだ。進みながら後ろを振り向くと、彼が進んだ分だけ歩みを進める青年の姿があった。


 彼はたまに振り返っては青年と会話を交わしながら進み続けた。それが少しだけ楽しかった。
 ふと青年が立ち止まる。どうした? と声を掛け彼も立ち止まる。
 青年は道の外を見ていた。つられて彼も道の外を見る。
 そこには一人の女性が立っていた。
 こちらに背中を向けているので誰だか分からないが、大よそ彼は見たことが無く、青年には見覚えのある様子だった。
 おーい! 君は誰なんだー? と彼は声を掛けた。
 その声に気付いたのか、彼女は振り返った。
 彼と青年を視界に収めると、彼女は笑みを浮かべて青年の方へと歩みを進めた。
 青年は彼女と何か話しているようだったが、彼には聞こえなかった。


 彼女は青年に手を降ると、今度は彼の方へと歩みを進めた。
 彼の目の前まで来て満面の笑みを浮かべた。
 それだけすると、何も言わずに最初にいた位置に戻って行った。
 定位置に付くと彼女は振り返り青年の方を指差し、あなたのことが好きです、と告げた。
 次に彼の方を指差し、あなたのことが好きです、と告げた。
 最後に2人を指差し、あなたのことが好きです、と告げた。
 直後、彼女の姿は消えた。それと同時に彼は理解した。


 自分の後ろを歩く青年は、彼のことなのだと。
 青年は彼自身なのだと。
 彼と青年は自分自身なのだと。




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