第五話 前編
〜強力姉妹登場 その1〜



 その時、相沢遥は居間でテレビを見ていた。
 お気に入りのドラマを見ている途中で、急に画面に映る内容がドラマから市街地に変わった所だった。臨時ニュースである。 遥はお気に入りのドラマが途中で見られなくなってしまったことにガッカリした。
「もぅ! 楽しみにしてたのに〜」
 はぁ、と軽い溜め息をつきながらも、渋々ドラマを潰してくれた臨時ニュースに目をやった。リポーターの声がテレビのスピーカーから聞こえてくる。
「たった今、警官隊によって取り押さえられた模様です! 警官隊によって見えませんが、目撃者の言ったとおり本当に背中から翼が生えているのでしょうか!?」
 ──背中から翼? 本当にそんな人間がいるのかしら。
 遥は全く興味が無いといった表情でテレビのモニターを見つめていた。
 ──翼があったら空も飛べたりするのかな。
 そんなことを考えながら。

 お茶を軽く啜りながらテレビのリモコンを手に取りチャンネルを変えた。
 が、変わらなかった。 何度押してみても、チャンネルは一向に変わらない。
「あっ……」
 思い出したように声を上げた。
「そっか……ビデオ撮ってたんだっけ……」
 遥の部屋のテレビはデッキではなくテレビとビデオが合体したいわゆるテレビデオというやつで、そんなに古いものでもなく大きさも二十インチと決して小さくはない。 が、問題があった。

 ──ビデオを撮っている間はその番組の放映しているチャンネルから変えられない。

 つまり、ビデオを撮っている番組以外の番組を見ることが出来ない。ちなみにゲームをやっていようと、DVDを見ていようと途中で録画している番組に変わってしまう。 それが唯一の欠点だった。

 テレビのモニターに映る内容は臨時ニュースのままだった。仕方なく、遥はテレビのモニターを見た。 ちょうどリポーターが書類を受け取っているところだった。
「たった今、新たな事実が判明しました。犯人グループは全員で五人、目撃者の情報によると五人全員に翼が生えているとのことです」
 何を言うこともなく遥はモニターを見続ける。
「──負傷者は重軽傷合わせて六人、死亡者は二十二人だということです」
 リポーターがそこまで言うと、カメラが右にスクロールした。
「今、犯人グループがトラックへと収容されています! 背中に翼らしいものは見られません。本当に翼は生えて──」
 やっぱり翼なんか生えるわけないわよね、とリモコンを手に取り電源ボタンを……

「……えっ?」

 押さずに画面に見入った。ゆっくりとテレビに近づき確かめる。遥は画面の左奥に集中していた。  見えるのは警官隊に野次馬、その中の一人──青い服を着た男性──遥はその男性に見覚えがあった。

 神倉明彦──彼が映っている。

 よく見ると神倉明彦は腕を押さえていた。 遥は明彦がどんな人物かということをよく知っている。そしてあまり怪我をしないことも。だからこそ気になる。

 何故腕を押さえているのか。

 クルマに轢かれても、持ち前の運動神経と反射神経、判断力で軽傷に押さえる明彦が腕を押さえている……。 遥はテレビに映っている場所を確認し意外と近かったんだ、などと思いつつリモコンの電源ボタンを押した。 テーブルの上に置いてある携帯電話を手に取りほんの一、二秒考えると、そのままポケットに押し込み部屋を出た。






 大通りでは明彦が野次馬に混ざって、選ばれた者たちがトラックに収容されていくところを見ていた。 五人全員の収容が終わると、トラックは4台のパトカーに囲まれて大通りを離れていった。 トラックが見えなくなった後でも大通りは野次馬とマスコミでごった返していた。 明彦も本来の目的、あかりの捜索のためその場を離れようとした。
「明彦!」
 が、背後からの声に反射的に振り向く。明彦の視線の先……声の主は相沢遥だった。
「遥……さん?」
 明彦が口を開くと、遥は走って近寄ってきた。
「明彦……はぁはぁ、よかった……はぁはぁ、無事なのね?」
 今まで走っていたのか、遥は肩で息をしていた。
「いや、どっちかって言うと俺より遥さんの方がヤバイんじゃ……」
 明彦が全部言い終える前に、遥は明彦の腕をとった。
「遥さん?」
 明彦の問いに答えることもなく、遥は明彦の腕を凝視していた。
「あの……遥さん?」
「骨折はしてないわね。打撲のようだけど……もしかしたらヒビが入ってるかもしれない」
 言い終えると遥は腕を放した。
「ヒビ? 見た目は赤くなってますけど全然痛みはありませんよ」
「それならいいんだけど……でも、一応手当てはした方がいいわ。明彦の家……には何もなかったわね。私の家に行きましょう」
「いや、俺にはまだやることが……」
「言い訳は聞きません。後で大事になったらどうするの?」
「いや……今はそれどころじゃ……」
 言い分もむなしく、明彦は遥に拉致(?)されてしまった……。

 少々強引なところがありつつも、昔から遥は明彦にとっての姉みたいな存在だった。 事実、遥の方が年上でもあるし妹もいる。さらに言えば性格的なところもあったのだろう。 そしてそれは穂村あかりにとっても同じことが言えた。あかりにとっても、遥は姉みたいな存在だった。(高校の終わり辺りからは同級生同士みたいだったが) 明彦はそんな遥のことをよく知っていたため、迷っていた。

 ──あかりのことを話すべきか。

 本来なら話すべきなのだろう。 友人が背中から翼を生やし行方不明になったと言えば、遥は探すのを手伝ってくれる。一人で探すより二人で探した方が効率がいい。
 しかし本当に話すべきなのだろうか? 話せば間違いなく協力してくれる。けど……。






 遥の家は明彦の住んでいるマンションの隣にある一戸建てで(二階建て)、家族と暮らしている。 遥の両親は共働きをしており大概家を空けている。当たり前だが夜になれば帰ってくる。 それでも家にいない時間の方が多く、妹と二人暮しといっても過言ではなかった。
 何故明彦の家ではなく遥の家かというと、明彦の家には薬や包帯といった医療道具が一切無いからだ。 風邪を引いたり熱が出ても寝れば直る、ほとんど怪我をしない等の理由で置いていないのである。






「きゃっ!」
 家のドアノブに手をかけた途端、急にドアが勢いよく開き遥は声を上げた。
「どうしたの? お姉ちゃん」
 内側からドアを開けた人物、遥の妹が顔を出した。
「ちょっと、驚かさないでよ」
「べつに驚かすつもりはなかったんだけど……あれ? もしかして明彦さん?」
 姉の後ろにいる人に気付く。
「もしかしなくても明彦さんだ」



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