第26章7節 : 繋がり始める思い




 出没するモンスター対策として、金網に囲まれた変電所の周囲には有刺鉄線が張り巡らせてあった。3人は運搬車両の出入りするメインゲート脇にある、職員用の通用口前に立っていた。中からは、今も稼働を続ける機械類が発している低い音が聞こえてくる。慣れるまでは少し耳障りに感じる音だ。
 フレッドは持っていた鍵で扉を解錠する。しかし、扉は開かなかった。見るからに真新しい別の補助錠が取り付けられていたからだ。
「……どうやら先を越されたみたいだな?」手の甲で扉を叩きながら、フレッドが苦笑気味に言った。
 取り付けられていた補助錠は符号錠と呼ばれる物で、施錠にも解錠にも鍵を必要とせず手軽に利用できるため、一般にも広く使われている物だった。解錠方法は、並んでいる4桁の数字を設定したとおり正しく合わせるだけで良い。
 あらかじめデンゼル達がここへ来ることを知っていた何者かが、彼らの侵入を阻もうとしているのは明らかだった。
 金網越しに変電所内を覗き込んでいたケリーが、感心したように呟く。これが誰の仕業なのか、見当はすぐに付いた。
「さすがダナだ、手回しが良い」
「おいケリー、感心してる場合か?」
 ここから見えるだけでも、所内の至る所に同じタイプの補助錠が掛かっていた。施設制御用のコンピュータが置かれた小屋や、変圧器や遮断器の収められているボックス類、とにかく施設内で施錠のできる箇所すべてにだ。
 会話している二人の後ろで、デンゼルは鞄の中から見取り図を取り出す。細かく記載された注意書きを読み解きながら、次に自分が目指すべき地点を必死に探していた。
「どうするんだケリー? 鍵を開けない限り遮断器は使えないぞ」
 フレッドの言う『遮断器』は、送電線の点検作業などで一時的に送電を停めるために使うもので、デンゼルが受け取った見取り図の中にも頻繁に登場する言葉の1つだった。最終的にヴェルドの出した条件を満たしつつ、一時的にエッジへの送電を停止させるためには、1次〜3次の各送電線の遮断器を同時に操作する必要があった。通常、どれか1つの線が生きていれば送電が止まることはない。裏を返せば3系統が一斉に落ちるという事もまずない。
 そうなると入口を含めて、少なくとも4つの符号錠を開けなければならない。
「鍵、なんとか開かねぇかな?」
 言いながら膝をつくと、ケリーは入口扉に付けられた符号錠をいじりはじめた。どうやら手当たり次第に番号を揃えていく、総当たり解錠を試みようとしているようだ。単純に考えても4桁の組合せは全部で10,000通りある。
「おいケリー、万に一つの答えをアテもなく探すなんて、いくら何でも無謀だ」
「んな事ぁ分かってる! でも他に方法が無いなら、やってみるしかねぇだろ!?」
 苛立ちを隠さずケリーが怒鳴った。直後、気まずそうに「すまん」と頭を下げた。
 時間的にも、もう猶予はない。

 ――「施設の破壊は絶対にしない事。」

 それがヴェルドとの1つ目の約束だった。ケリーとてWRO隊員、不用意に施設を破壊する訳にはいかなかった。
 だからこそ焦りばかりが募る。くるくるとダイヤルを回しながら、ケリーは思わず天を仰いだ。分厚い雲から落ちてくる大量の雨粒が、容赦なく顔面を叩く。
「あ〜あ、都合よく雷でも落ちてくんないかなぁ」
 などと言ってみるが、到底あり得ない事だというのは分かっていた。変電所には避雷器もあるし、何より今ここに雷が落ちる確率は、10,000通りの符号錠に総当たりで挑むよりも望み薄だった。
 つられるようにしてデンゼルも顔を上げた。鉄線と金網、鉄塔と送電線の向こう側を分厚い雲が流れていく。途方に暮れる、というのは今みたいな時を言うのだろうと、関係のないことを考えていた。
「……雷か……。なあ、ケリー?」
 扉に語りかけるような格好でフレッドが半ば独り言のように呟く。
「『サンダー』のマテリアを持ってれば、雷を落とせるよな?」
「今時マテリアなんか持ってるヤツいないぞ」かちゃかちゃと懸命にダイヤルを回しながら、ケリーは話半分にフレッドの言葉を聞いていた。
「マテリアは、魔晄炉の炉心内で生成される事が稀にあるんだ」
「知ってる。だが今は、協約でマテリアの使用や保有も制限されてるしな」言いかけて顔を上げたケリーの目に、フレッドの手に握られたマテリアが飛び込んできた。
「お前……!」
「親父の形見なんだ。……使ったことはないけど」
 そう言って、フレッドは力なく笑った。こっそり自宅にマテリアを持ち帰って来た父が、自慢げに「珍しいだろ?」と言う姿が過ぎった。その後、これを装備して戦うことも無かったから成長もしていないし、マテリアの力を必要としたこともない。ただ、このマテリアには父との思い出が残っている。だから捨てられずにいた。
「ぎりぎり、協約違反にはならないはずだ」それでも見つかれば没収だろうが、フレッドはやはり苦笑いする。
 それを見たケリーが思い出したようにポケットをまさぐり始めた。それから、取り出したのはフレッドと同じ色のマテリア。
「……そうか。なら俺の“へそくり”も役に立てるか?」
「ケリー? お前……!!」
「違う違う、これは俺の初勝利の記念品なんだ。初めて自分の手で倒したモンスターが落として行った物でな、記念に取ってあったんだよ。上官に言えば没収されるだろ?」お前が想像するとおり魔法向きじゃないから、結局それ以来使ったことは無かったがと豪快に笑った。
「こんなに都合良く偶然って重なるもんか?」
「……しかしなあ、サンダー2発じゃ遮断器が作動する前に、避雷器に吸収されるのが関の山だ」状況は変わってないと、ぬか喜びした自分を悔やむようにフレッドが俯いた。



 万策尽きたと諦め感の漂う大人達を尻目に、デンゼルは見取り図を何度も読み返していた。きっと何か見落としがあるに違いないと、そう思って施設の周囲も歩いてみたが、どこも有刺鉄線に阻まれて中へ入る事はできなかった。となると、やはり入口扉の符号錠を開けるしか無い。握りしめていた見取り図は雨にさらされ、字は滲んで読むことさえも困難になりつつあった。
 結局、自分もケリー達と同じ結論にしかたどり着けなかった事に落胆した。でも絶対に諦めたくはなかった。その狭間で、デンゼルはどうしようもない焦燥感に駆られていた。
 頭が痛かった。さらに耳の奥の方でキンと不快な音が鳴っている気がした。全力疾走したわけでもないのに、いくら吸い込んでも息が楽にならなかった。おかしいと思って顔を上げると、変電所の鉄塔と送電線がぐにゃりと歪んで見えた。それでようやく、デンゼル自身が体調の異変に気付く。
「……? おい、デンゼル?」
「はっ、はい!」反射的に振り返って、自分でも驚くほど大きな声を張り上げていた。
「大丈夫か?」
 フレッドに名前を呼ばれた途端、それらの症状が嘘のように治まった。自身でも何が起きたのかよく分からずにいたデンゼルに、フレッドは尚も訝しげな視線を向けている。
「あっ、いえ。ちょっとボーッとしちゃってて。……大丈夫です」
「本当に大丈夫か?」
 錠をいじっていたケリーも手を止めて振り返る、デンゼルは何度も頷いて見せた。
「じゃあ、出てやれ」
 ケリーに言われてようやく、鞄の中で携帯電話が鳴っていることに気がついた。さっきの耳鳴りみたいな音の正体はこれだったのかも知れないと、デンゼルはホッとしながらも、慌てて携帯を取り出した。ずいぶん長いこと鳴っていた様だ。
「……もっ、もしもし?」
『状況はどうだ?』
 ヴェルドだった。
 その声を聞いた途端、緊張の糸が解けたデンゼルは思わずその場に座り込んでしまった。意識はあるのに、足にうまく力が入らなかった。
 その様子を見て驚いたケリーが慌てて駆け寄ると、倒れないようにと彼の背後に回って肩を支えた。この時ようやく、デンゼルが必死にここまで来たのだと言うことに気付いた。泥だらけのレインコートに包まれた小さな体を見下ろしながら、よく頑張ったと改めて思った。と同時に、自分の至らなさが込み上げてくる。治安維持部門での経験を生かしてエッジの自警団に志願した。だが昔も今も、いつも肝心なときに何もできないじゃないか。

 ――「もう私の出る幕ではない」

 そう言ってケリーを見つめたエルフェの視線が、本当はとても痛かった。『デンゼルを1人にして、お前はいったい何をしてるんだ?』そう言われている気がしたからだ。事実、エルフェがいなければデンゼルは怪我をしていたかも知れない。
(すまんな……)
 けれどデンゼルに詫びるのは、もう少し後にしようとケリーは思った。今ここで言うべき事じゃないんだと自分に言い聞かせ、言葉を呑み込んだ。それともう1つ、彼女にもきちんと礼を言わなければならない。この件が片付いたらまず、その2つをしようとケリーが決心したところで、電話を手にしていたデンゼルが声を上げる。
「だっ、大丈夫! って言いたいですけど。……ごめん……なさい」語尾は雨の音にも負けるほどの小さな声だった。それから、ここへ来るまでの経緯を掻い摘んで話しだした。
「実はモンスターに襲われそうだった所を、通りすがりの人に助けられたんです」
 そう言ったデンゼルの両肩に手を置いて、身を乗り出した格好でケリーが続けた「しかも聞いて驚け元主任! そいつ、元アバランチの女リーダーだったんだぜ?」
『……なんだって!?』受話口から聞こえてくる声は、明らかに動揺していた。
 あんなに頼もしく見える人でも、こんなに動揺するんだと内心デンゼルは驚いていた。
(やっぱり、よっぽど大変な事なんだ)
 デンゼルにとって神羅カンパニーとアバランチの抗争は、伝え聞いた話でしか知らない。けれど、こうして実際に関与した人々にとっては過去の出来事というだけでは済まないのだろうと思った。
「そ、神羅の宿敵だ」どうだこんな偶然ってあるか? と、頭上から聞こえてくるケリーの声はどこか嬉しそうだった。
『そこにフェリシアが?』
「……フェリシア? ちがう違う、エルフェだろ」
 アバランチのリーダーの名前なら、治安維持部門に所属していたケリーもよく知っている。
 荷役作業車でデンゼルが聞いたのも、確かに『エルフェ』という名前だった。
『エルフェは確かにアバランチのリーダーだった。だが彼女の本名はフェリシアだ』
「さっすが、タークスはそこまで調べ……」
 言いかけたケリーの言葉に、ヴェルドの声が重なる。
『フェリシアは俺の娘だ』
「そうかそうか俺のムス……。?」
 えーと、ちょっと待ってくれ。俺の娘? 「俺」って誰だ? 俺じゃないよな? だって俺ムスメどころか嫁さんもいないし。ああ、そうか言ってるのはヴェルドのおっさんだからあいつの娘って事なんだよな。……そうそう、ヴェルドの。ヴェルドのね。へえ、ヴェルドって。あっそう、そうだったんだ。あいつ結婚してたんだ。まあ俺よりかなり年上だもんな。ちょっと性格悪いけどまぁ頼りになりそうだし、分かる。うん。……で? 誰が娘だって?
「? …………」
 言葉を失ったケリーは呆然とするばかりだった。デンゼルが見上げると、呼吸も瞬きも何もかもが停止している様に見えた。しかし彼の頭の中では普段以上の速さで、ただし無駄な方向に思考が働いていた事は、残念ながら端からではさっぱり分からない。
「その……エルフェさんが、おじさんの……娘さん、なんですか?」
 確認するようにデンゼルが尋ねる。返されたのは肯定だった。そこでデンゼルは、エルフェから聞いた言葉を思い出した。

 ――「こうして剣を持つときは、親からもらった名は捨てる。」

 そう、“『エルフェ』という名前は本名ではない”のだ。
「それじゃあ、やっぱり?」
『色々と事情があってな……』
「なんだって!? ちょっと待ってくれ俺たちそんな話ぜんぜん……!」
 ようやく現実に復帰したケリーがその場で立ち上がって興奮気味に問うと、対照的に冷めた口調でヴェルドが答えた。
『考えてもみろ、社の汚点を公表すると思うか? お前さんの言うとおり、“神羅の宿敵アバランチのリーダーが、実はタークス主任の娘でした”なんて。俺がプレジデントの立場でも、同じ事をしただろう』
 確かにもっともだ。だがケリーとしては、理屈で納得できるかどうかと言う問題ではなかった。
「くっそ! 体張って仕事してた俺らを騙しやがって!」
『今さら神羅の体制批判をしても仕方なかろう?』
 電話の向こうにいたヴェルドは思わず苦笑を漏らす。かつて現場にいた身としては、ケリーの気持ちも分からないでもないからだ。
 そんなヴェルドの心情など知る由もなく、いっこうに落ち着く様子の無かったケリーを、横でフレッドが必死に宥めていた。
 興奮したケリーのお陰で周囲がやたらと熱気を帯びて賑やかになるのとは反対に、デンゼルは体の奥の方から湧いてくる冷たい感覚を確かに感じていた。
「もしかしてヴェルドさん、最初から……?」
 今になって振り返ってみれば、実に都合良くエルフェが現れたと思う、まるで待機していたとでも言うように。しかも道に迷ったと、にわかには信じがたい――不自然な嘘をついた理由にも。彼女がヴェルドの娘だとすれば、話の辻褄がすべて合うような気がした。
「……最初から、こう……するって」
 言葉を進めるほど、奥の方にあった冷たい感覚は全身に広がっていった。最後には凍り付いてしまったように、言葉が途切れ口を動かすことさえできなくなってしまった。
 ――やっと、自分もなにかの役に立てると思った。
    でも。結局は……。
 指先まで冷たかった。なのにどうしてか、目の奥だけが熱くて、つんと小さな痛みを感じる。怖くてまぶたを閉じることができなかった。
 少しの間があってから、ヴェルドはゆっくりとした口調で言った。
『デンゼル。タークスはどんな悪条件の中でも必ず任務を成功させる、その為にあらゆる手段を用いて最善を尽くす。タークスを抜けた今でも、俺はそうしている』
 ぎゅっと唇をかみしめて、ヴェルドの話を黙って聞いている事しかできなかった。
『提案を聞いて、見込みがあると判断して俺は依頼した。……デンゼル、君にだ』
 今や電話を持つ手は冷え切って、感覚は無い。ヴェルドの声も遠く聞こえる。
『君は今、どこにいる? まだエッジの街の中か?』
「……ちがいます」
 ようやく出たのは掠れた声だった。
『ではどこだ?』
「変電所の前、です」
『予期せぬトラブルもあっただろう。しかし君は最善を尽くした結果、今そこに立っている。違うか?』
 その言葉にはっとして顔を上げる。「でも……変電所の中には……」口にしたデンゼルを遮って、ヴェルドは告げる。
『もし君に見込みがなければ、俺は最初から依頼などしない。……良くやった』
 慰められているような気がした。それでも、その言葉が嬉しかった。
「俺より来るの早かったしな」いつの間にか隣に座っていたケリーが、背中を叩く。
「あの状況でも途中で逃げ出さなかった、それは間違いなくデンゼルの強さなんだ。胸を張っていい」フレッドが後に続く。
 それが彼らの優しさなのだと分かっていた。でも嬉しかった。デンゼルは少しくすぐったい気持ちになった。
 電話の向こうにいるヴェルドの話はさらに続く。
『……ここへフェリシアが現れる事自体、想定していなかった。それどころか、俺が一番驚いているぐらいだ』
 最初にこの話を聞いたときも、確かにヴェルドは動揺していた。でもなぜ? デンゼルがさらに問うと、躊躇いがちにではあるがこう答えた。
『夕食の材料を調達してくると言って家を出たきり、まだ戻ってないんだ。……いなくなって1週間経つ』
「えっ?」思わぬ答えに、今までデンゼルの中に渦巻いていた色んな感情が一気に引っ込んだ気がした。エルフェの話と合わせて考えれば、4ブロック先の商店に買い物に出かけてから1週間、彼女は道に迷っていたという事になる。
「……えー……」
 返答に窮したデンゼルの心情を汲んだように、ヴェルドは続ける。
『信じられないかも知れないが、今回が初めてではないんだ』
 ヴェルド自身と娘のフェリシアは、ある実験の被験体となった。ここで語るには長すぎる様々な経緯があって、彼らはいつしか魔晄炉を中心に敵対する勢力の要として、それぞれ部下を従える立場に立った。年を追う毎に両者の争いは拡大、激化し、その混乱のただ中で親子は再会を果たした。それはメテオ災害のさらに前の出来事、大衆の知る歴史には登場することの無かった“もう一つの星の危機”だった。
『フェリシアは一命を取り留めた。たくさんの者達の協力と思いによって、俺たち親子は救われたんだ』
 その中には当時都市開発部門の統括だったリーブも含まれていた。タークスを抜け神羅を裏切り、抹殺命令まで出されていたヴェルドに力を貸し、援助活動を続けるタークスにも秘密裏に協力した。ヴェルドがここにいるのは、それに報いたいという思いもある。
『しかし後遺症がまったく無かった訳ではない。……方向感覚の異常は幼い頃に受けた人体実験と、その後の環境が影響して現れたものだろうと、医者から言われている』
 成長途上だった彼女の肉体と精神の両面に、負担を強いていたのは間違いない。その後遺症なのだと診断した医師の判断は妥当だろうと思う。その一方で、もしかしたら後遺症などではなくフェリシア本人が意図している行動なのかも知れないと、ヴェルドは考えていた。それが彼女なりの、罪滅ぼしのひとつなのだろうかと。しかし、それを確かめることはできなかった。
「……そうだったんですか」
『フェリシアは魔晄炉に対して拒否反応を示す、だから今回の話……特にリーブのことは触れていないんだ』神羅の権威と魔晄文明の象徴、ミッドガルを作り上げた功労者であり、その意味ではアバランチにとって最大の仇敵とも言える。生みの母を失い、やがて身を投じた闘争の中で今度は育ての家族を失ったエルフェにとって、魔晄炉とは特別な存在であり、自身にとっても星にとっても今なお癒えない傷そのものだった。『これ以上、フェリシアには……』
 言い淀むヴェルドの声を聞きながら、フレッドは唇をかみしめた。今なら分かる、エルフェが言わんとした「愚か者」の意味が。そう言った彼女の思いが。本当に、ほんの少しだけだったが。
「……俺の知らないことばかりだ」
 半ば呆然としながらケリーが呟く。
『必要な事実だけを、必要な者にのみ知らせる。……軍であれ何であれ、組織統制の鉄則だ』
「そこに甘んじろと?」苦虫を噛みつぶしたようなケリーの問いを、ヴェルドは否定する。
『いいや、そうじゃない』そうと知った上で、ここにいるんだろう? そう言って笑った。『俺たちがこれからやろうとしてるのは、“局長”からしたら明らかな反逆行為だろうな』
「もとより覚悟の上」
『ならば結構。ではお互い、ひとまず驚くのはこの辺で終いにしよう。もう少し詳しく状況を教えてくれないか?』
 その言葉に、3人は我に返ったように顔を見合わせた。
 確かにヴェルドの言うとおり、今ここで感傷に浸っている暇は無かった。





―ラストダンジョン:第26章7節<終>―
 
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