第23章 : A cat has nine lives.




Subject :"A cat has nine lives."
Date  :υ-Era1859.04.01
From  :unknown

 W.R.Oの創設者であり現局長リーブ・トゥエスティは神羅カンパニー在籍時代、若くして都市開発部門の統括職に着任したエリート技師である事は一般にも広く知られている通りだ。統括としての彼は優れた技能に加えて状況の分析力とそれに基づいた判断力、対人関係における柔軟性、さらに持ち前の実直さも相まって、若いながらも部下達からは絶大な信頼を得ていた。
 しかし都市開発部門統括としてリーブ・トゥエスティが選任された要因は別にあった。一般的にもっともよく知られている彼の功績は、魔晄都市ミッドガルの建造であり、神羅カンパニーにとっても大きな意味を持つ同プロジェクトへの貢献度は、そのまま彼の評価に繋がった。ここまでは誰もが知り、誰でも簡単に想像できるだろう。
 ところが、具体的に彼はどのような形でミッドガルの開発事業に貢献したのか? それを知る者は少ない。
 結論から言えばミッドガルの中枢、圧倒的な安定性を誇る魔晄炉の炉心制御システムを確立した事に他ならない。これがリーブ・トゥエスティの統括就任を後押しした最も大きな功績となった。
 同時に、炉心制御システムは神羅カンパニー内でも最高レベルの機密とされ、システムの詳細は持ち出しだけでなく、あらゆる媒体への複写が禁止された。こうして社外はもちろん、社内でさえリーブの功績が正確に周知される事はなかった。


 巨大都市ミッドガルを維持・運営するために欠かせない膨大なエネルギー需要をまかなうため、それまでにはなかった密集型の魔晄炉建造は、ミッドガルの都市建設計画立ち上げ当初、すでに草案の段階から盛り込まれていた。しかしこの当時、稼動していた魔晄炉は実験用か、もしくは大規模な実験施設の電力を自給する用途でしかなかったため、都市部と隣接する魔晄炉建造には困難が予想された。
 中でも最も危惧されたのが「魔晄炉の安全性」である。
 魔晄炉事故については現在でも知られているとおりコレル、ゴンガガ、ニブルヘイムなどの実例があるが、これらの他にも小規模の事故や不具合は以前から頻発しており、安全性を疑問視する声は当時の開発者の間でさえ強かった。それは各地で発生した(自然的あるいは人為的な起因に関わらず)事故に対して、どの事例においても根本的な解決策は講じられておらず、事故の発生原因も完全には解明されていないという事情が背景にあったからだ。
 報告されたケースはどれも幸いにして僻地における事故であるため、周辺環境・生態系への影響については最低限に留まるも、ミッドガル建造に際して提案された『都市部密集型魔晄炉建設計画』では、最優先の解決事項に挙げられた。
 偶発にしろ故意にしろ、いったん事故(特に懸念すべき炉心溶融)が発生してしまった場合、現在でも食い止める手立てが無い。さらに密集型魔晄炉では、1基で起きた異常が他の魔晄炉に影響し未曾有の大惨事を引き起こす可能性もあった。しかも計画では、この中心地に神羅カンパニーの本社機能が置かれる予定だった。この事からも分かるように、神羅は新都市ミッドガルを“象徴”――繁栄と、力の誇示――と位置づけていた。そんな場所で事故があってはならないし、わざわざ危険な土地で働くことを好む者はいなかった。
 よって、開発チームは「絶対に事故の起こらない炉心制御システム」を構築する必要に迫られた。
 魔晄の発見とエネルギー利用は、近年に始まったものであり歴史は浅い。事故の発生原因を調べるにしても、当時はろくにデータも揃っていなかった。事故が起きる度に神羅社内では部署の枠を超えて大規模な調査チームが編成され各地の調査に乗り出したものの、事故原因の特定はおろか、事故発生後の対処措置さえままならなかった。
 そんなエネルギー事情を知る都市開発従事者の誰もが、「絶対に事故の起こらない炉心制御システム」の実現など、とうてい不可能だと考えたのは言うまでもない。

 そんな中でただ一人、「絶対に事故の起こらない炉心制御システムは実現可能だ」と言い切った人物がいた。しかし彼の提唱した理論はどれも実証に欠けるものばかりであり、他の者達からは提唱者の名を捩って『ヤマネコの妄言』と揶揄された。当時の開発設計局(後の神羅カンパニー都市開発部門設計課)は、彼の提出した計画書をまともに取り合おうとせず、いつしか提唱者自身も開発チームの中心から姿を消すことになった。
 『ヤマネコの妄言』を要約すると、星命学を基礎とした魔晄エネルギーの循環法則、観測から汲み上げ地点を算定する方法、エネルギー変換原理などが示されていたらしい。「らしい」としているのは、現在では原版を閲覧する事ができないからだ。おおかた機密保持の名目で廃棄されたか、データ化される事なく幾たびかの混乱で消失したものと思われる。
 そしてリーブ・トゥエスティは、この妄言をミッドガルの都市開発に適用したとされている。





―ラストダンジョン:第23章<終>―
 
[REBOOT] | [ラストダンジョン[SS-log]INDEX] | [BACK] | [NEXT]