第20章1節 : 打ち明けられた意図




 それは今日、セブンスヘブン開店前2人目の来客を告げる鈴の音を聞いたデンゼルが「まただよ?」と、あきれ顔になりながらも、階段を降りてカウンターへ向かった後の出来事だった。

***

「そろそろ、お話ししておかなければいけませんね」
 唐突にリーブが告げると、バレットは「何をだ?」と言わんばかりに視線を向けた。
「皆さんをここへお呼びした本当の理由です」
 無表情で淡々と語られる言葉の中に、バレットは引っかかりを感じて問い返す。
「『お呼びした』ってお前……」
「そうです、ここへ皆さんをお呼びしたのはリーブ……つまり我々“人形”を配備した張本人です」
 建物へ入る前にヴィンセントが指摘した「設計者自らが閉じ込められた、という話はどう聞いても不自然だ」というのは、どうやら当たっていたようだ。
「なんだよ、わざわざこんな面倒な事しなくても、普通に呼んでくれりゃあ来てやるってのによ」
「確かにそうですね」
 にこりともせず同意して、リーブは話の先をこう続けた。
「ですが、ただお呼び立てした場合、まず皆さんは自分達が招集される理由を尋ねるでしょう。しかしそれでは私の方の都合が悪かったんですよ」
「なんでだよ?」
 どうせお前のことだから何か頼み事があるんだろう、そんなことぐらいお見通しだぜ? とバレットが茶化すように応じると、やはり笑顔もなくリーブは頷いた。
「性質上、多少の困難と危険を伴う依頼になる事が予想されたからです」皆さんのことですから、きっと私から話せば引き受けてもらえるでしょうが、そう言うわけにはいかなかったと話すリーブに、バレットは「今さら水くさいぜ」と豪快に笑った。
「皆さんが考えているほど簡単な内容ではないんです。ですからまずは、こうして皆さんの力量と意思を確かめさせて頂きたかった。先ほどの発言もこの意図があっての事でしたが、どちらにしても非礼をお詫びします」
 そんなことは気にしちゃいない。笑顔を消したバレットが首を振る。
「それよりなんだ? まるで俺達の腕試しでもしてるみたいな言い方だな」
「その通りです」
 即答したリーブの態度が、バレットにはどうしても解せなかった。
 6年前の旅の間はもちろん、メテオ災害後もたびたび協力して難局を乗り越えてきた。今さらそんな俺達の何を試すって言うんだ? そんなに信用がないのか?
 バレットが憤りにも似た疑問を口にする前に、リーブはそれを否定した。
「もちろんこれは皆さん自身と、力を信用しているからこその依頼です」
「だったらよ……!」
「話はまだ続きます」窘められてバレットが肩を落とす。大人しくなったところを見計らってリーブはこう続けた「この施設には『インスパイア』という能力が安置されています。我々はそれが持ち出される、あるいは外部に漏れる事を防ぐために配備されているのです」
「いんすぱいあ?」
 聞き慣れない単語に素っ頓狂な声をあげるバレットを無視し、さらに話は続いた。
「この施設の最深部、そこにインスパイアは安置されています」
「だからインスパイアって……」
「私からの依頼は、そこに安置されている物の破壊です」
「分かった、やってやるからそのインスパイアってのは何なんだよ」
 まあなんだ、ゲームで言えばダンジョンの奥にいるボスを倒して目的を果たせってヤツだな? 分かった分かったと頷くバレットには最初、回答の声は聞き取れなかった。
「リーブの事です」
 ダンジョンと言えばやっぱり手強いボスだよな。そうだ、ゲームなんかの展開じゃよくあるパターンだよな……。で、何だっけ? 自分で話を振っておきながら、すでにバレットは話の方向性を見失っていた。
「この施設の最深部に安置されている、インスパイアを破壊して欲しいのです」
 それでインスパイアってのは何だ? 新しい兵器の名前か? それにしちゃあ迫力に欠ける名前だよな。もうちょっとこう、強そうな名前を付けたらどうなんだ? すっかり自分の世界に浸っているバレットに、根気強くと言うよりは事務的に言葉が繰り返される。
「インスパイアとはリーブ自身の能力を指した言葉です。つまり我々は、インスパイアの持ち主であるリーブを破壊してほしいと、皆さんに依頼したいのです」
 じゃあ何だ? 要するにインスパイアっていう力を持ってるリーブを倒せば良いんだな? ……んっ?!
 そこで漸くバレットは我に返る。
「ってお前、ちょっと待てよ……それってのはつまり……」
 先に続く言葉を口にするのが躊躇われた。けれどここまで来たら確かめないわけにはいかない。
「俺達の手で、リーブを倒せって事なのか?」違う。これはゲームではない。それにさっきから聞いていて何かが変、というよりも歪んでいる気がした。

「お前は、俺達にリーブを殺せって言いたいのか?」

 人形は、黙って頷く。返す言葉を見つけられず呆然とリーブを見つめていたバレットに、止めを刺すようにして最後に告げた。「皆さんを信頼しているからこその依頼です」






―ラストダンジョン:第20章1節<終>―
 
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