第17章2節 : 人形が語る経緯





 3年前、ディープグラウンドとの交戦によって破壊された本部施設に代わる新しい施設の建造を提案したのは、局長であるリーブ自身です。また、この建物の設計はすべてリーブが担当しています。実際の建造作業には一部W.R.O隊員の協力もありましたが、ほとんどの部分はリーブだけで行っています。
 これだけの規模の建造物ですから、一部に協力を得られたとは言えかなり大がかりなものになるのは想像に難くないでしょう。それを「ひとりで」となると不思議に思われるかも知れませんが、リーブの持つ異能力を用いればそれを実現することが可能です。異能力……インスパイアと呼ばれるこの能力は、無機物を自在に操ることが出来るものなのです。これは、マテリアを使った魔法の類とは原理が違います。
 先ほど下でも聞いたかと思いますが、リーブは6年前、このインスパイア能力を使ってケット・シーを遠隔操作していました。そもそもケット・シーは小型コンピュータを内蔵したぬいぐるみです、インスパイアで補えない一部の動作を内蔵コンピュータが補っていますが、あくまでも補助的なもので基本的にはリーブによる“直接操作”で動いています。
 またご存知の通りケット・シー自体は戦闘向きではありません。ですからインスパイアで動いているケット・シーは、さらに別の機体を操って戦いに臨んでいました。この施設の建造方法も原理はこれと同じです。この建物を建造する際、リーブはインスパイア能力を使って様々な機械を操り、建造作業を進めて来たと言うわけです。

 ……それではなぜ、「ひとりで」作業を進める必要があったのか?

 表向きここは「新本部施設」とされていますが、実際のところ目的は本部機能の移転ではなかったのです。W.R.O新本部施設としておきながらも、実際ここにはW.R.O隊員が一人も常駐していない理由はこのためです。だからこそ、こうして私達のような“人形”が各所に配置されています。このフロアにある隔壁も、建物内の入り組んだ構造も、すべて侵入者に対する備えの一環でした。
 これだけ厳重なセキュリティを施しているのは、なにも3年前の一件が尾を引いていると言うだけではありません。この施設は、あるものを保管する事を目的として建てられました。
 では、それが何であるのか? ……ここまで話せば、もうお分かりかも知れませんね。



 ここはインスパイア能力そのものを安置しているのです。我々は、それを守るために配備された人形なのです。



 ユフィさん、あなたの意向に沿ってここを出る事ができないとお伝えしたのは、このためなんです。
 そしてあなたがここへ戻ってきた時、私はその事を打ち明けなければならないと考えていました。あなたに「戻ってきて欲しくなかった」のは、W.R.Oの活動に協力して下さったユフィさんに対する後ろめたさなのかも知れませんね。
 ……申し訳ありません。






―ラストダンジョン:第17章2節<終>―
 
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