第16章 : 一路、空へ





 バレットやユフィと別れてから、シドはひたすら走り続けた。エントランスホール中央の噴水を横目に、入り口へと続く長い通路も一息に駆け抜けた。最初、仲間達とここへ足を踏み入れたときは感じなかったが、いざ走ってみると相当の距離があるように思われた。
 ようやく建物の入り口に辿り着いたシドは、外の風を浴びながら息を整えるのもそこそこに文句を吐き出す。
「……だーっ、チクショウ! 入り口にこんな長い通路作るなってんだ!」
 ひとまず疲労の原因を生み出したリーブに憤りをぶつけながら、膝に手をつくと深呼吸を繰り返す。どこかで設計者本人がこの言葉を聞いていたとしたら、そもそもこれだけの距離を休み無く走ったのだから、いくらシドとはいえ息が上がって当然ですよ。と至極まっとうな反論を返してくるに違いない。
 それどころか、リーブならばきっと。


「ついでに煙草の本数も控えた方が良いですよ」


 などと要らぬ事を言い出すのは目に見えている。リーブ相手に不用意に論戦を挑めば、いつの間にかシドが劣勢に立たされている様子が目に浮かんでしまうから困る。
「ってちょっと待て」
 確かに今、声が聞こえた。……いや空耳か?
 それと確かに目には浮かんだが、瞼は閉じていない。シドは幾度か瞬きをした後、慌てて周囲に視線を向けた。人影どころか気配すらない。あるのはW.R.O新本部施設の建物の入り口だけだ。
(『この新本部施設はリーブが設計したんだ』って……確かユフィのヤツ、そんなこと言ってたよなぁ)
 建物へ入る前にここで交わされた遣り取りを思い出し、シドは首を捻る。

 ――「我々はリーブによって人形に命を吹き込まれた存在です。」

 さらに、つい今し方リーブが言っていた言葉を思い出しはっとして振り返る。やはり、周囲には誰もいない。
 ふと、『壁に耳あり障子に目あり』そんな言葉がシドの脳裏をかすめた。人形を動かせるのなら、いっそ建物ごとだって不可能ではないのか? いやまさか。答えのでない自問自答を延々繰り返した末、シドが辿り着いた結論は。
「……そんじゃ『床には口がある』、ってか?」
 呟いてから後悔した。はあと盛大なため息を吐いてシドは手をかざして空を仰ぎ見た。日没が近いとは言え、空はまだ眩しいほどの青色に満たされていた。
 地上にシドの姿を見出した飛空艇が着陸態勢に入ったらしい。聞こえてくる音と肌に感じる風でそれを悟ったシドは、手をかざして雲間に目をこらす、遠くにはいくつもの機影が点々と見えた。
「まさか本気で空爆するってんじゃねぇだろうな……」
 一刻も早く飛空艇へ戻りたい、はやる気持ちを抑えてシドはハッチが開かれるのをその場で待った。






―ラストダンジョン:第16章<終>―
 
[REBOOT] | [ラストダンジョン[SS-log]INDEX] | [BACK] | [NEXT]