第14章2節 : エッジ、父を呼ぶ声





 自分達の声を届けるにはどうすればいいか? 彼らは必死になって方法を模索していた。たとえばデンゼルは、家中をひっくり返して手当たり次第に使えそうな物をかき集めている。一方のマリンは、デンゼルが部屋の奥から見つけて来たらしい端末の取扱説明書を広げて、細かい文字にもめげず隈無く目を通していた。何をすればいいのかが分からないながらも、彼らは自分達に出来る事を見つけ、手探りの状態でも懸命に取り組んでいる。
 端末とケーブルで繋がれていたケット・シーは通信回路の検索と共に、スピーカーから聞こえてくる会話に耳を傾けながら、考えを巡らせていた。
(遠隔操作された人形、建造中の本部ビル……なんや、どうも引っかかるで)
 飛空艇師団による建造中のW.R.O本部ビル破壊を指示した局長声明。油田採掘場にいるはずのバレットがなぜここに居合わせたのか? 開店準備中に電話を受けて突然店を飛び出していったティファ――すべての点を結んだ先には、建造中の本部ビルがあった。不自然すぎるほど、何もかもタイミングが一致している。
(せや、まるで事前に用意されとったみたいな。……)
 まさかと思う、これはすべて仕組まれていた事なのかと――だったら裏で糸を引くのは誰だ? いったい何のために?――疑問をあげ出したらきりがない。とにかく今は情報を集めるのが先決だ。材料が揃わない状態で先を急いでも、正しい結論にたどり着くことはできない。そうと分かっていても、気ばかりが焦る。
 スピーカーからもたらされる音声が事態の急変を告げたのは、そんな時だった。ひときわ大きく響き渡った破裂音に、ケット・シーだけではなく、室内にいたふたりも端末に顔を向けた。
 聞こえてきた破裂音、恐らくは銃声だ。その後スピーカーから流れてきたのは、誰かの声ではなく激しいノイズ音だった。携帯電話が地面に落ちたのだろう――映像の無い中、聞こえてくる音だけを頼りに向こうの状況を探る。
『ば……バレットはんを……撃ちよった?』
「父さんッ!!」
 広げていた説明書を放り出して、マリンは端末に駆け寄った。何度も画面に向けて叫び続けるが、相変わらず応答はない。
 ノイズに混じって聞こえていたコツコツという硬質な音が徐々に大きくなって来た。誰かが近づいて来る足音だと思った。最後に一度大きなノイズ音がしてから、音声はクリアになる。スピーカーからは何も聞こえなくなった。
「父さん! 父さん!! ……返事をして父さん!!」
 必死に叫ぶマリンの声だけが、室内にこだましていた。






―ラストダンジョン:第14章2節<終>―
 
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