第14章1節 : 彷徨える弾丸





 しばらくして顔を上げたバレットは、向けられた銃口を見つめながら笑っていた。噛み殺そうとしたが堪えきれず喉を鳴らすバレットに、リーブは無表情に問い返す。
「何かおかしな事を言いましたか?」
 抑揚もなく、不機嫌と言うよりいっそ無機質な声を耳にしたバレットは、「違うんだ」と言って首を振った。
「……昔な、今のお前とは反対に、『生きながらにして命は捨てた』とかぬかした野郎がいてな。そいつも今みたいにオレに銃口を向けてたんだ」
 やってる事は同じくせして、言ってることは正反対なんて不思議じゃねえか? バレットはそう言うと力なく笑った。リーブは頷くでも否定するでもなく、バレットの姿をただ呆然と見つめているだけだった。

 ――「そうかいバレット。だが俺は、あの日から命は捨ててるぜ」

 バレットの脳裏によみがえるのは、悲嘆に暮れる親友の姿。無意識に下ろした右腕に視線を落とす。そこには先程までの笑顔は影を潜めていた。過去の記憶を辿っているのかゆっくりと、だがはっきりとした言葉で話の先を続けた。
「……コレルが焼き払われたあの日まで、そいつとは親友だった。
 あの日から4年が経って、そいつと再会したときにオレは親友を殺したんだ、この手でな」

 ――「……俺はあのとき片腕と一緒に……かけがえのないものを失った……。
     どこで……食い違っちまったのかな……」

 最後に呟いた親友の言葉は、自分自身に向けられた物なのか? それともバレットへの問いかけだったのか。
「オレは今でも分からねえ。自分や、周囲の世界を壊してしまいたかったと言っていたヤツの気持ちが」右腕のギミックアームに左手を添える。それは親友を失うことで得た物であり、かつての親友を葬った凶器。同時に、戦いの中に身を投じる事を選んだバレットと運命を共にし、マリンを守り続けてきた武器。
 ここに至るまでに選んできた道が全て正しかったとは決して言えない。でも、そんな過去も含めて生きる事を選んだ、それは間違いではない。
「だってよ、オレはどんな状況になっても生きることしか考えられねえんだ。マリンがいる、それに今は、約束を破るわけには行かねえんだ」
 だからここで殺されるつもりはない、バレットはそう言って再び顔を上げるとリーブを見据えてこう言った。
「なんでだろうな? オレには今のお前も、あの時のダインと同じように見えるんだ」
 掛け替えのないものを失い、苦しみ抜いた末に辿り着いた絶望の世界に生きた親友の姿。コレルプリズンで再会した彼の姿と、目の前に立っているリーブの姿が重なって見えた。
 それはリーブ自身が今、ダインと同じように苦しみ抜いた末に辿り着いた場所に立っていると言う事なのだろうか? 自ら作り出したはずのこのW.R.Oが――彼にとって監獄だったとでも言うのだろうか? 考えたところで分かるわけが無かった。
 だが、バレットには1つだけ分かっている事がある。
「それにオレは、親友さえも殺したんだ。……さっきのが脅し文句だとしたら、オレには通じねえよ」

 ――「与えられるのは銃弾と不条理。残されるのは絶望と無の世界……」

「オレは、あんたの掛け替えのないものを奪った張本人だ。恨まれても文句は言えねえ。だけどよ、オレは必ず生きて帰るぜ、マリンのためにな。オレにはそうしなくちゃならねえ理由がある。あんたも知ってるよな? オレは親友どころかマリンの――」
 そこまで告げたバレットに向けて、リーブは何も言わずに引き金を引いた。かわいた銃声がフロアに響き渡り、バレットの声は途中で途切れた。






―ラストダンジョン:第14章1節<終>―
 
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