第13章1節 : 地下交戦 |
周囲を取り巻いていた無数の射撃装置が、まばゆい光の帯と塵を纏いながらフロアタイルもろとも吹き飛んで行く。その有様を目の当たりにした者は、まるでそれが映画のワンシーンのような、非現実的な光景を見ることができたはずだ。 放射状に広がった光の帯の中心には、大剣を床に突き刺すクラウドの姿があった。 「……いい加減にしろ、リーブ」 怒りを抑えるようにして告げたクラウドは、ゆっくりと顔を上げる。見据える先にはリーブと、彼に銃口を向けたまま立ち尽くすヴィンセントがいた。 「俺がやる」 銃口を向けたまま動けずにいたヴィンセントに短く告げた後、クラウドはもう一度リーブに視線を向けた。ふだんは感情をあまり表に出すことのないクラウドの、明らかな敵意が込められた瞳を向けられても尚、リーブは顔を背けようとはしなかった。 それどころか、「やれやれ」とでも言いたげに両手を挙げてみせると。 「ようやく重い腰を上げて頂けたようですね。少しばかり時間が掛かりましたが安心しました」 と言った。 「ふざけるな!」 「ふざけていられるほど、私も暇ではないんです」 クラウドの怒りをあっさり受け流して、リーブは首を傾げながら言葉を返す。かつての仲間とはいえ交戦を宣言したにもかかわらず、隙だらけに見える彼の動作が少し妙に思えた。 それでもクラウドは突き立てた大剣の柄を再び握ると、今度は床を切り裂くようにして振り上げた。 「クラウド!?」発した言葉とほぼ同じタイミングで、ヴィンセントは反射的に床を蹴って飛び上がる。その直後、彼が立っていた地点に衝撃波が到達すると瞬く間に壁面まで亀裂が入った。巻き上げられた埃が視界の一部を遮っている間に、クラウドはリーブとの間合いを一気に縮めエレベーターホール前に立つ。 クラウドにしては珍しく――いや、状況から考えればごく自然な行動だったが――怒りに我を忘れている。宙を滞空する間に、ヴィンセントはそんなことを考えていた。眼下のフロアを見渡しながら、ここまでの状況を改めて振り返る。 最初、エレベーターでこの階に到着した3人を分断したのは数で勝る射撃装置だった。ヴィンセント以外の2人はどちらも接近戦向きだから、迎え撃つ方はまず間合いを取ることを考えるだろう。ホールの周囲に配置された射撃装置の狙いは、恐らくそこにあった。 それからリーブが最初にティファを襲ったのは、こちらの手数を減らすことが目的だと思えた。しかし、一方でこうなることも事前に予測していたのだろう。クラウドに対する先ほどの口ぶりを聞けば、リーブの狙いが後者だったように思えてならない。 (リーブ、お前は何を考えている?) 少なくとも今のクラウドは本気だ。たとえ相手がかつて旅路を共にした仲間であったとしても、自分にとって最も大切な者に危害を加えられたとなれば本気で剣を向けるのは当然だ。その程度のことを、リーブが考慮に入れていない筈はない。 (……まさか) 片膝をついて静かに着地すると、すぐさま立ち上がりマントを翻して振り返った。数瞬前まで自分が立っていたエレベーターホール付近には、無惨にも切り刻まれたフロアタイルが積み上がっている。 その横でリーブは僅かに体勢を崩しながらも衝撃を凌いでいた。さらに彼の隣には、大剣を構えたクラウドが切っ先をリーブに向けて佇んでいた。 (最初からこれが狙いだったと言うのか) クラウドが剣を持ってリーブと相対すること、その状況を作り出す事こそが彼の狙いだったとしか考えられない。これも憶測の域は出ないが恐らく間違いないはずだ。しかし、そうなるとリーブの目的が分からない。答えに辿り着いた瞬間に次の疑問が立ちはだかる、まるで複雑な思考迷路に迷い込んだ気分だ。だからと言って立ち止まる訳にもいかない、このまま動かずにいれば相手の思惑どおりになってしまう。些か強引ではあるが、力ずくでも現状を打破し迷路の綻びを探すのが脱出への近道だ。 ふたりの立つエレベーターホール前へ向かおうとしたヴィンセントを阻むようにして、射撃装置が四方から襲いかかった。 とっさに差し向けた銃口からは、肉眼で照準を定めるよりも早く弾丸が放たれる。それらは一発も外れる事無く襲いかかった射撃装置に命中し、機体は火花を散らしながら機能を停止すると、いくつもの残骸が音を立ててフロアに散らばった。 それから改めてヴィンセントがエレベーターホールに視線を向けたとき、信じられない光景が目に飛び込んできた。 ―ラストダンジョン:第13章1節<終>―
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