第12章2節 : RR |
「……シェルク」 名を呼ばれて見上げれば、思い詰めたような表情のツォンと目が合った。やがて彼は重い口を開くとこんな事を言った。 「君の指摘したとおり、確かにこの事態が収束を迎えた後の利害までは一致していないかも知れない。しかし、社長と私の目的も同じところにあるとは限らない。……つまり、私にもまた“ここにいる”目的がある」 どうやら彼は、先ほど答えられなかった問いの事を言っているらしかった。律儀というか生真面目というか――ディープグラウンドでは生きて行けないような性格の持ち主だと、シェルクは今さらながら思うのだった。 ツォンはいったん言葉を切ると、椅子に座ってこちらに顔を向けていた女性の方を振り向いて先を続けた。 「今回はすまないな、意図せずここまで君を巻き込む事になってしまった。しかしこれは任務ではない、任意だ。だからこれ以上、無理をする必要はない」 向けられた言葉に最初こそ言葉を失っていた彼女だったが、やがて笑顔を浮かべるとこう切り返す。 「ツォンさんがそうであるように、私もここにいる目的があるのよ」立ち上がると、ふたりの方へ近づきながらさらに続けた。「少なくとも私は、このままW.R.Oが無くなってしまうことを望まない。それに、ここまで首を突っ込んだからには最後まで見届けなきゃ、気が収まりませんよ」 任務ではなく任意だと言うのなら、なおさらだと付け加えて彼女は笑った。 そしてふたりの前まで来ると足を止め、それぞれの顔を見つめて言う。 「私は今回の騒動の真相を知りたい。一体誰が、何のために、こんな事を起こしたのか? ……自分が所属する組織が無くなって、いちばん戸惑うのは誰だと思う?」 彼女の顔から、笑みは消えていた。 今からおよそ6年前――社長の暗殺、ウェポンの襲来、幹部の暴走――神羅カンパニーを立て続けに襲った災厄は、まるで魔晄エネルギーの代償とでも言うように、ひとつの都市もろとも神羅自身を破滅へと追いやった。それは過去に行ってきた非道の報い、あるいは過ちに対する償いだったとしても、多くの善良な社員やミッドガル住民にとっては拠を失う結果となった。 それは神羅が星や人々から奪った物が多かった一方で、同じだけの物を生み出してきた事を意味している。たとえばそれは、人々が望む豊かな生活を支える魔晄エネルギー利用技術であり、都市住民の秩序。 彼女は――当時の神羅カンパニー総務部調査課構成員として――拠を失う苦しみを知る、多くの者の一人だった。 「ごめんなさいシェルク。あなたに協力したいって思うのは私の個人的な感情からよ。この先どうなるかなんて分からない。だけど今、私はあなたに協力したい……こんな理由じゃ、ダメかしら?」 思いがけず問われて、今度はシェルクが返答をためらった。だいたい、彼女が謝らなければならない理由など何もない。 「いいえ」 短く言って、シェルクは首を横に振る。 こんな時、なんと言葉を返したらいいだろう? 頭の中で必死に考えながら。 「私も似たようなものです。『SNDの実施に耐えうる設備を利用する』……それがここへ来た目的です。ですが、SNDで果たそうとしている事は……」 そこまで言ったシェルクの言葉を遮るように、ツォンが首を振る。 「……回り道をしたが、これから我々の取るべき行動ははっきりした。今はそれで充分だ」 「そうですね!」 明るい笑顔で頷いた女性につられるように、シェルクもまた小さく笑顔を浮かべた。 「まず我々が目指すのは、現状起きている騒動を収束させること」ツォンの言葉に女性が続く。「とにかく飛空艇師団の空爆を阻止する事、これが最優先事項ですね」 女性の言葉にツォンが頷く姿を見届けてから、さらに彼女はこう続けた。 「次に、この騒動の原因を突き止める事ね」今度はシェルクがそこに続く。「そこには少なからず『システムの星還』という謎のデータが関係しているはずです。その正体も重要な手がかりになるでしょう」 シェルクの言葉に女性が頷く姿を見届けてから、さらにシェルクは続けた。 「……その為のSNDです」 ―ラストダンジョン:第12章2節<終>―
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