第4章 : 施主の思惑





 ――誰にも、理解してもらえるとは思っていません。



 暗闇に包まれたW.R.O本部施設の一角。彼は一人ここに留まり、全てを見つめていた。



 まずはW.R.O<世界再生機構>のネットワークアクセスコードに、神羅カンパニー都市開発部門勤続時代の社員コードを利用したのは、最初にこの事に気付いてくれる人物をこちらで特定したかったからです。確証こそありませんが、W.R.Oへの資金提供者の正体もある程度予測できていますからね、私の推測が正しければ、彼らがW.R.O本部のネットワークにアクセスし情報を覗き見る事は雑作もないはずです。そこで“使途不明金”の存在を知れば、彼らは必ず動いてくれるでしょう。もっとも、本当に隠しておきたい情報ならば安易に侵入されるようなパスワードを設定しようなんて考えません。
 問題は彼――W.R.Oへの“姿無き出資者”――が、この事態をどう捉えるかでした。どちらかというとそれは賭でしたが、恐らくこういったゲーム性のある事に興味を示すと私は踏みました。根拠はおよそ6年前に見ています。当時、セフィロスの暴走に端を発した社長交代の混乱があったとはいえ、父親の跡を継いだ彼が示した神羅カンパニーの経営路線は、先代のものとはまったく別の方法でしたからね。情報操作と民意統制を軸とした先代の方針は、言わば堅実路線でした。若さ故のお考えかも知れませんが、私にはどうも彼の打ち出した経営方針が「ゲーム」のように見えたのです。恐怖での支配などあり得ない――しかし、それが今回の行動を後押しする材料になりました。
 次に、この事態を受けて実際に行動に移してくれる人物の存在です。“姿無き出資者”となった彼は、文字通り人前に姿を見せるとは思えません。4年前のいたずらの清算もまだ済んでいませんからね。しかしネットワークへの侵入を実際に行った彼ら――代理人、と呼ぶことにしていますが――ならば、外部との連絡を取ることは可能だと考えました。仮に、かつて神羅に属していたヴィンセントが最初に報せを受けたとしても、自ら行動を起こすとは考えづらかったのですが、その面はユフィの行動力がうまくカバーしてくれるでしょう。彼女に情報が渡れば、あとは黙っていても飛空艇師団へ事が知れるのは時間の問題です。
 そうなれば当然、シドが黙ってはいないはずです。彼に伝わることによって情報だけではなく人が動く事になります。これで、かつての仲間達が揃う準備は整いました。あとはこちらに向かってもらうだけです。

 ここまでは全て予定通りです。
 後は、……最後の詰めです。
 私の望みを叶えてもらうためにはどうしても、皆さんの力が必要なのです。

 ――誰にも、理解してもらえるとは思っていません。ですが、私はその結末を望みました。
    ですからどうか皆さん、ここまで無事にたどり着いて下さい。

 ここが、我々にとってのラストダンジョンとなるならば。
 ここで皆さんを迎えることが、私の望む結末だからです。





―ラストダンジョン:第4章<終>―
 
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