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千秋針灸院の症例報告 ※リンクや紹介は自由ですが、千秋針灸院の著作物です。内容の無断での転載等は固くお断りいたします。

緑内障への鍼治療                        Copyright © Chiaki. All Rights Reserved 2010.10.21

第1部 当院の緑内障への取り組みと、鍼治療による眼圧の変化 


はじめに、緑内障のイメージ、千秋針灸院での緑内障への取り組み、症例について

緑内障における眼圧降下と鍼治療、鍼治療による眼圧の変化(平均眼圧、眼圧降下量、眼圧値の変化)

第1部まとめ、関連リンク、参考文献





はじめに

緑内障は日本での失明原因の第1位に挙げられ、40歳以上の有病率は5%以上、70歳以上では15%弱にも達し、
高齢化社会の到来と共に、今後の失明者は増加すると予想されています。日本緑内障学会による緑内障診療
ガイドラインでは「緑内障は視神経乳頭、視野の特徴的変化の少なくとも一つを有し、通常、眼圧を十分に下降
させることにより、視神経障害の改善あるいは進行を阻止し得る眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患」と
定義しています。


緑内障は原発緑内障、続発緑内障、発達緑内障に分類され、原発緑内障の内、広義の原発開放隅角緑内障が
8割を占めており、多くは眼圧が正常範囲(20mmHg以下)であるにも関わらず発症した正常眼圧緑内障(NTG)で
あることが分かっています。眼圧下降率30%を目標に、薬物治療や手術による眼圧のコントロールが試みられて
いますが、薬物治療では頻回投与による効果の減弱や、防腐剤による角膜障害、その他の眼や全身への
副作用の発現、手術では合併症や加齢による変化により、目標とされる眼圧を長期間に渡り維持することは
困難な症例が多く、緑内障の進行を止めたり改善させることは、現代の眼科医学での大きな課題となっています。


緑内障のイメージ

以下の画像は視野欠損の進行例で、一般の方が緑内障の理解をし易くするためのイメージです。
緑内障の進行速度や視野欠損のパターンは個人差が大きく、必ずしも下記の画像どうりではありません。


図1 図2

図3 図4

図1は正常な見え方、図2は初期の緑内障で注意して片目で見ない限り気が付かない程度です、視力低下はほとんど
ありません。図3は進行した緑内障で視野欠損が広がり、視力低下も起こり始めます。図4では視野欠損が大きく、
視力の低下も著しくなります。緑内障の進行については、速度や視野欠損の状態に個人差があり、必ずしも上記の
様に進行する訳ではありません。現在の眼科医療の水準では、失われた視野を回復することはできないものの、
緑内障により完全に視機能が失われるまでの期間は、発症から平均で40年程度とされ、緩慢に進行する疾患です。


千秋針灸院での緑内障への取り組み

千秋針灸院では開業当初から10年以上に渡り、眼科領域の鍼治療に取り組み、2007年より眼科領域を唯一の
専門領域として、これまで延べ20.000名以上の眼科領域の患者さんへ鍼治療を行ってきました。同時に最新の眼科
医学を学びながら各種測定法を取り入れ、疾病毎に統計症例報告を作成し、Web上などで報告を続けています。
なお今回を含めてWeb上での報告では、当院での実際の治療法等は省略させていただきますが、今後公的な
場での報告機会等がありましたら、中医学の内容を含めた詳細な治療方法、その他の全文を公開いたします。

また、当院では日本全国での眼科領域の鍼治療の要望が高いことから、遠方の患者さんへ実質的な鍼治療を
行えるよう、当院のカルテや測定結果を公開し、患者さんや提携治療院への様々なサポートを通して、全国規模で
「眼科鍼灸ネットワーク(仮称)」を展開し、患者さんの期待に応えられる診療体制づくりを目指しています。

遠方の患者さんへは積極的に近隣の実力のある治療院をご紹介していきますので、患者さん、先生方共に
その際はご協力いただけたら幸いです。


緑内障の治療において、眼圧下降は唯一のエビデンスであり、依然として治療の中心に位置づけられるものの、
近年では様々な試験や検討により、血流改善や視神経保護といった要因も重視されるようになってきました。

千秋針灸院で行っている針治療は、眼の周辺を含めた全身の血流を改善させ、生体の持つ回復力や調節力を
高める治療法であり、純粋な物理療法であることから、副作用や合併症を心配することのない優れた特徴があり
ます。針治療が緑内障を含めた眼科領域の様々な疾病に対して、投薬や手術といった従来の眼科医学の理解を
超えた、大きな治療効果や可能性を、現代医学を基本とした評価法から統計として捉えることで、皆様に役立て
られることを願っています。


症例について(全数)

●症例数 67名128眼 眼科にて緑内障と診断され、当院へ来院された方
●性別 男性41名、女性26名 
●期間 2002年12月~2010年9月
●初診時の平均年齢 48.1才 (26才~77才)
●発症時年齢 10才~69才(最初の発症年齢)

●発症から初診時までの平均期間 5.43年

以上は症例の全数であり、以後の各統計症例報告では、数値や結果が明らかな症例から統計を出しています。
全て千秋針灸院へ来院され、当院もしくは提携治療院にて継続した治療を受けられた方を対象としています。

表1

緑内障と診断され、当院へ来院された患者さんの内訳は、やはり広義の原発開放隅角緑内障(POAG)が最も多く、
少なくとも6割以上の方は、正常眼圧緑内障(NTG)と診断されています。他の緑内障は少数ですが、見過ごすことの
できない症例としてステロイド緑内障があります。ステロイドは様々な疾患に用いられますが、長期間の使用により
眼圧を上昇させる可能性は高く(4週間の使用で6mgHg以上の上昇は約35%と報告されている)、緑内障の副作用を
生じる場合も少なくありません。また角膜移植や白内障手術後の続発緑内障や、原因不明の一過性の眼圧上昇が
起こるPosner-Schlossman症候群、発達緑内障の患者さんもありました。

千秋針灸院へ来院される患者さんは、眼圧のコントロールが不十分なケースや、原因や対処法がはっきりしない
ケース、ステロイドや術後の緑内障といった医原病のケース、インターネット等で情報を集められて、非常に早期から
積極的な治療を望まれるケース等、実に多様な患者さんが来院されます。一般の眼科へ受診される方に比較して、
特殊な症例を含む割合は高いと考えられますので、一般の報告に対して症例の内訳は、やや特異的です。


表2

来院されている患者さんの発症時の年齢ですが、当院では40代がピークとなります。実際の緑内障は40代から増加し、
高齢者ほど割合が高くなる傾向ですが、当院の場合はインターネットから情報を集めて来院する患者さんが多いため、
50代以降が少なくなる結果になったと考えられます。しかしながら20代~30代で発症されている方も少なくありません。
若い方では今後50年以上に渡って、眼を良好に守っていく必要に迫られることから、治療に携わる私たちは重い現実と
して受け止めなくてはなりません。緑内障は特にエビデンスに基づいた正しい医学情報と、長期間の安全性を第一とした
治療法が望まれている疾患といえます。


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緑内障における眼圧降下と鍼治療


日本緑内障学会による緑内障診療ガイドラインは、「現在、緑内障に対するエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は
眼圧を下降することである。眼圧以外の因子に対する新たな治療法として、視神経乳頭の血流改善治療や視神経保護
治療が注目され試みられており、将来革新的な治療法となる可能性がある。」と記載されています。現在の緑内障への
治療は、第一に眼圧を低下させることが第一であり、初期の眼圧に対して30%を目指して薬物治療、次いで手術療法が
行われています。しかし緑内障の大部分を占める正常眼圧緑内障で、数十年以上の長期間の進行を阻止するには、
10~12mmHg程度への眼圧が必要と考えられており、薬物治療のみでは眼圧下降が不十分とされ、早期に手術療法が
行われることも少なくありません。

代表的な薬物療法のラタノプロスト(キサラタン)は4週間経過時で平均20%前後の眼圧下降を示すものの、長期間の
使用による角膜(防腐剤による)障害や虹彩色素沈着が懸念され、薬物療法は全身的な副作用の発現も心配されます。
手術療法は少なくはない合併症のリスク(線維柱帯切除術で概ね1%~40%)や、線維柱帯切除術以外では長期間の
眼圧下降の維持は難しい(術後2年経過時で14mmHg以下を維持する症例は16~36%)こと、また眼圧下降が得られた
場合でも20%程度で進行例(眼圧下降30%を達成した5年経過時の統計)があり、循環器系疾患をはじめ条件によっても
眼圧下降では進行を抑制できない症例が報告されています。

鍼治療は主に血流改善効果が期待されるものですが、加えて全身状態(体調)の改善や生理的な調節力の向上が
得られやすくなり、また当院では様々な疾患で薬物治療の効果を増強し、副作用を軽減する効果を確認しています。
緑内障の患者さんの多くは、当院への来院時には既に眼科での薬物治療などを開始されており、十分な眼圧下降が
得られている方から不十分な方まで、様々な状態にあります。眼科での薬物治療などに加えて、更に眼圧下降を得る
ことができれば、必要以上に薬物や手術を多用することなく、緑内障の進行抑制に繋がる可能性があります。

鍼治療による眼圧の変化

鍼治療開始前直近と開始後2ヶ月以上経過時の眼圧を、患者さんから聞き取り記載したデータから比較を試みました。
通常は鍼治療開始8週後等で比較すべきですが、当院での測定ではないため、眼科での眼圧の測定間隔や確認時期に
バラつきが生じることから、鍼治療開始後2ヶ月以上の最終(最新)値で比較しています。

日本における正常眼圧緑内障を含む広義の原発開放隅角緑内障(POAG)の無治療時の平均眼圧は15.4mmHgと報告
されることから、当面は20%以上の眼圧下降が目標とされ、このことから3mmHg以上の眼圧下降幅と、12mmHg以下の
眼圧の値が導けるため、当院の統計症例報告においても同様の基準としました。

●症例数 30名60眼 数値や測定法、測定時期が明らかな症例が対象
●平均治療期間 16.4ヶ月
●鍼治療開始前の直近の平均眼圧 17.5mmHg

患者さんが使用していた薬剤は、プロスタグランジン系を中心に眼圧下降作用が高いキサラタンが最も多く、タプロス、
トラバタン、ルミガン、レスキュラ、β遮断薬のチモプトール、ミケラン、ハイパジール、炭酸脱水酵素阻害薬のダイア
モックス、トルソプト、エイゾプト等が単剤もしくは4剤程度までを併用して使用されていました。以下、従来の眼科治療に
鍼治療を加えたことによる眼圧の変化を、様々な角度から分析していきます。

平均眼圧(60眼)の変化

表3

当院へ来院された患者さんの多くは、既に眼科での薬物治療や手術療法を行っていましたが、平均眼圧は、眼科での
治療を行っていても17.5mmHgと比較的高く、良好にコントロールされているとは言えない状況でした。鍼治療開始後の
平均眼圧は14.4と低下し、特に眼圧が30mmHgを超えた3眼は全て20mmHg以下へ低下しました。また21mmHgを超えて
いた9眼中7眼は6mmHg以上の低下が得られました。

当院への通院中に濾過手術等は行われた方はありませんが、治療期間の長い方ではラタノプロスト(キサラタン)以降の
新薬へと切り替えられた方もあり、全てが鍼治療の効果により得られた数値ではないと考えられますが、従来の眼科的
アプローチに鍼治療を加えることで、眼圧降下が得られ易くなる結果となりました。

眼圧降下量からみた変化

鍼治療開始前と比較し、3mmHg未満の変化は不変、3~5mmHgの低下は有効、6mmHg以上の低下は著効としました。


表4

全60眼中、著効13眼(21.7%)、有効17眼(28.3%)、不変30眼(50.0%)であり、鍼治療開始後に眼圧が低下した症例(有効
以上)は50.0%となりました。なお眼圧が3mmHg以上上昇した症例はありませんでした。今回の結果を見る限り鍼治療の
有効率はそれほど高くはないと思われるかもしれませんが、緑内障の患者さんは既に眼科で薬物や手術によるの眼圧
コントロールを受けている状況ですので、鍼治療を加えることで眼圧が更に低下した症例が、半数あったと考えることが
できます。

眼圧値からみた変化

鍼治療前後の眼圧値を、緑内障の治療に必要とされる内容から12mmHg以下(理想値)、15mmHg以下(許容値)、
18mmHg(必要値)とラインを設定して、どの程度の症例で達成できているかを表しました。

表5

緑内障の長期コントロールに理想とされる12mmHg以下への割合は、4眼(6.7%)から18眼(30.0%)へと増加しました。
また許容値といえる15mmHg以下への割合も28眼(46.7%)から43眼(71.7%)へと増加しています。更に最低限必要と考え
られる18mmHg以下への割合も43眼(71.7%)から57眼(95.0%)へと増加し、ほとんどの症例で緑内障の治療として、
最低限必要な眼圧値が得られるようになりました。

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第1部のまとめ

緑内障治療の基本である眼圧については、眼科での薬物や手術療法により、最低限必要な眼圧下降が得られている
症例は比較的多いものの、目標とされる12mmHg以下への下降例はそれほど多くは無く、明らかに不十分な症例も
少なくないようです。来院されている患者さんの聞き取りから、点眼薬を必ず差している患者さんが多いものの、時々
忘れる方や、正しく使用されていないケースもあることが分かりました。また薬物治療を行っているにも関わらず、眼圧
下降が得られない場合や、様々な薬物治療を試しても眼圧下降が不十分など、眼科でも試行錯誤されている現状が
患者さんを通して見えてきます。


従来の眼科での薬物・手術療法に、適切な鍼治療を加えることにより、眼圧を下降・安定させる結果が得られた。

眼圧に対する鍼治療単独の効果は、既に眼科での治療が開始されているため、当院は症例が集まりにくいのですが、
今回とは別に薬物治療を行っていない高眼圧症等の6眼について検討してみると、2眼で3mmHg以上の下降が得られた
ものの、他の4眼は3mmHg未満の変化でした。このことから鍼治療単独での眼圧下降は、多くは期待できないと考え
られます。しかし今回の結果からは、従来の薬物治療へ鍼治療を加えることで、特に高眼圧の患者さんで大幅な眼圧
下降が得られていることが分かりました。また目標とされる12mmHg以下へ下降した症例は、鍼治療前の4倍以上に
達したことからも、従来の薬物・手術といった眼科的な治療に、鍼治療を組み合わせることの有効性が確認できました。


また典型的な一症例では、ダイアモックスを服用しても30mmHg以上の眼圧が続いた患者さんが、当院にて針治療を
始めたところ20mmHg未満に低下しました。しかしダイアモックスの副作用を患者さんが苦にされ、自己判断で中止
されたところ、再び眼圧が25mmHg付近に上昇したため当院に相談されました。やむなくダイアモックスに比較して
全身への副作用の少ないトルソプトを紹介し眼科で処方していただき、針治療との併用で20mmHg未満を保つことが
できた症例があります。眼科での薬物治療と当院の針治療により、適切な眼圧が得られ易くなることを示しています。


適切な鍼治療を加えることにより、手術の必要性が少なくなる等、緑内障治療の幅が広がる可能性がある。

緑内障治療薬として、次々と新薬が開発されているものの、全身への副作用や実際の効果として長期間眼圧下降が
維持されるか(不適切な点眼法や点眼忘れも含めて)等、確実に眼圧下降を得るためには課題も多く、緑内障では薬物
治療を試みた後に、線維柱帯切除術に代表される房水流出促進手術が行われることが少なくありません。しかし
従来の薬物に加えて適切な鍼治療を併用することで、より大きな眼圧下降が得られるのであれば、手術療法の必要を
無くしたり遅らすことができる可能性が出てきます。今回の結果から安全で副作用や合併症の心配の無い鍼治療は、
緑内障治療の選択肢の一つになり得る治療法といえます。


第2部では、当院で測定し集計した視力や視野の結果から、統計的に緑内障への鍼治療の効果を確認していきます。


関連リンク (千秋針灸院の関連ページ)

眼科針灸専門 千秋針灸院(当院のご案内)
緑内障(当院の緑内障治療を解説した専門ページ)
眼科領域の連携治療(遠方の患者さんへの実質的な鍼治療を行っています)


参考文献

眼科医学関連

『今日の眼疾患治療指針 第2版』 医学書院
『眼科プラクティス 11 緑内障診療の進めかた』 文光堂
『眼科プラクティス12 眼底アトラス』 文光堂
『眼科プラクティス15 視野』 文光堂
『眼科プラクティス16 眼内炎症診療のこれから』 文光堂
『眼科プラクティス18 前眼部アトラス』 文光堂
『眼科プラクティス21 眼底画像所見を読み解く』 文光堂
『眼科プラクティス22 抗加齢眼科学』 文光堂
『眼科プラクティス23 眼科薬物治療 AtoZ 』 文光堂
『眼科プラクティス25 眼のバイオメトリー』 文光堂
『眼科プラクティス26 眼科レーザー治療』 文光堂
『視能学・増補版』 文光堂
『眼のサイエンス 眼疾患の謎』 文光堂
『眼のサイエンス 視覚の不思議』 文光堂

『現代の眼科学 改訂第9版』 金原出版

抗加齢医学関連

『アンチ・エイジング医学 2008 vol.4-2~6』 メディカルレビュー社
『アンチ・エイジング医学 2009 vol.5-1~6』 メディカルレビュー社
『アンチ・エイジング医学 2010 vol.6-1~5』 メディカルレビュー社
『アンチエイジング医学の基礎と臨床 改訂2版』 メディカルビュー社


中医学関連

『視神経疾病 中西医結合診治』 人民衛生出版社
『針刺治療 眼病図解』 北京科学技術出版社
『眼科専病中医臨床診治』 人民衛生出版社
『中医臨床 102号 眼科の中医治療』 東洋学術出版社
『難病の針灸治療』 緑書房 他


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第2部へ 鍼治療による視力、視野(感度)の変化

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 本報告以降に発表される類似した内容は、盗作と見做される場合があります。 
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