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千秋針灸院の症例報告  ※リンクや紹介は自由ですが、千秋針灸院の著作物です。内容の無断での転載等は固くお断りいたします。

中医学による脈絡膜新生血管(若年性黄斑変性)への鍼灸治療   Copyright © Chiaki. All Rights Reserved 2009.10.1

第1部 問診から得られた脈絡膜新生血管(CNV)の新たな概要と課題 

 はじめに

 症例について

 長期に渡る視機能の維持と、健側への発症予防が課題

 中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)や、眼底出血にも注意が必要

 推定季節別発症数

 近視タイプのCNVと、コンタクトレンズの関係

 第1部のまとめ

 参考文献


はじめに

網膜色素線条や炎症性疾患等を除いた、中年期まで(50才未満)に発症する、脈絡膜新生血管(CNV)を伴う黄斑変性症は
若年性黄斑変性などと呼ばれ、50才以上で発症する加齢性黄斑変性(AMD)とは区別されています。近年、眼科医学における
加齢性黄斑変性の治療は、アバスチン(治験薬)の硝子体内注射に代表される抗VEGF療法により、大きく進歩しましたが、
若年者に発症する黄斑変性では、仕事を含めた生活環境への影響が大きく、また副作用についても長期的には不明な点が
残されています。2009年現在、黄斑変性の悪化は硝子体内注射により、ひとまず阻止することも可能になりましたが、薬剤の
効果は一時的なものであり、視機能の長期に渡る向上・維持や健側への発症防止は、なお大きな課題とされています。

今回、これまで千秋針灸院に来院された、50名以上に及ぶ脈絡膜新生血管の患者さんの問診や測定結果から、眼科学の
専門書にも書かれていない、様々な脈絡膜新生血管の状況や、針治療による臨床成績が統計的にも得ることができました。
当院は眼科領域の針治療を専門に行う治療院であり、脈絡膜新生血管を含め、年間延べ約3.000名へ治療を行っています。
当院内で測定に用いた器具や測定器等は、全て眼科医学に基づいており、現時点における医学的根拠を堅持しています。

今回の統計症例報告は、脈絡膜新生血管における多角的な報告であり、報告量も従来の鍼灸の学術大会・学会向けを大きく
上回ります。そこで内容を幾つかに分けて報告させていただく事とし、初回となる今回は脈絡膜新生血管の現状や、統計報告を
させていただくにあたっての前提条件、問診時において分かってきた事柄から、脈絡膜新生血管の概要を掴んでいきたいと
思います。脈絡膜新生血管で苦しまれている患者さんをはじめ、ご家族や知人、医師や鍼灸師などの医療関係者の方まで、
幅広く見ていただけたら幸いです。

以下の画像は、脈絡膜新生血管(CNV)を理解しやすくするためのイメージです。病気の状況には個人差があります。



左①の画像は正常な見え方、右②の画像は、脈絡膜新生血管(CNV)の比較的初期のイメージ画像です。千秋針灸院では、
第3部で報告する鈴木式アイチェックチャートやM-CHARTSでの測定により、患者さんの実際の見え方を再現する工夫をして、
CNVの状況を把握しています。詳しくは第3部での報告しますが、CNVは視力低下や変視(歪みや中心暗点)を伴い、一般には
徐々に進行する疾患です。欧米では加齢性黄斑変性症が、中途失明の第1位の原因疾患となりますが、若年性黄斑変性と
基本的には近似の疾患であり、発症が50才未満の若年者であることから、状況は比較的良好であるという違いだけです。

今回の当院からの報告は、針治療を中心に、黄斑変性の進行を阻止し、可能な限りの回復を取り戻すためのレポートです。

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症例について

●症例数 57名73眼 両眼への発症は16名(28.1%)
●性別 男性22名、女性35名 
●期間 2001年2月~2009年9月
●初診時の平均年齢 39.3才 (24才~56才)
●発症時年齢 24才~49才(最初の発症年齢)


表① 年齢別発症数

表② タイプ別発症数

脈絡膜新生血管の多くで近視が関与

通常、-6D以上の近視の方に発症する脈絡膜新生血管は、近視性黄斑変性とされ、-6D未満の近視については特発性に分類
されています。当院ではジオプトリの測定はできず、また近視性と特発性の区別は眼科の診断でもバラつく傾向がみられます。
今回の報告では、基本的に視力の矯正を必要とする1.0未満の方に発症した脈絡膜新生血管は、ポリープ型などと特定されている
場合を除き、近視性脈絡膜新生血管としています。そして近視要因を完全に除外した脈絡膜新生血管を特発性と分類しました。


発症年齢を分類すると、当院に来院される患者さんは、30代後半が中心となり、仕事や育児に忙しい年代に多く発症しています。
症例を、医師の診断から黄斑変性のタイプ別に分類すると、近視性(強度近視を含む)が45名、萎縮型が2名、ポリープ型が3名、
外傷手術後が2名、近視以外の特発性新生血管(裸眼視力が1.0以上あり、近視が原因ではない)が5名となります。この結果から
基本的に眼軸が伸びることにより、網膜が薄く引き延ばされ、トラブルが起き易い近視性(強度近視を含む)が非常に多いこと。
また通常加齢性とはされない50才未満でも、萎縮型やポリープ型(PCV)といった加齢性黄斑変性に分類すべき症例があり、
単純に50才で区切ることは適切ではないことを示しています。

当院の報告では中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)や黄斑変性の各タイプの鑑別は、各医療機関の診断名や症状の特徴に頼って
おり、確実ではない可能性があることをご了承ください。複数の大学病院を受診された患者さんへの診断名が、専門医毎に異なる
場合は非常に多くみられます。

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長期に渡る視機能の維持と、健側への発症予防が課題

近視性黄斑変性については、東京医科歯科大学眼科学教室による長期観察研究があるようです。この研究では発症後5年が
経過した52例について、半数を超える64.9%が矯正視力0.1以下、0.5以上の視力が保てたのは、僅か14%ということでした。
また別の研究で、片眼に脈絡膜新生血管を発症した方の30%以上で、平均8年以内に健側で発症した報告があるようです。

現在までの眼科医学は基本的に発症・悪化してから対処するしかなく、視機能の維持や予防のための治療がなかったことを
裏付ける報告となっていました。

千秋針灸院での、発症時期を特定できた患者さん(54眼)について、当院での視力測定により、発症からの期間別に初期の
平均視力を出してみました。(この統計は、初診時の矯正視力であり、針治療開始前の統計です)

表③ 発症からの期間別初期視力(千秋針灸院内)

現代の眼科医学では、長期に渡る視力の維持は困難

千秋針灸院に来院された患者さんの、来院時の初期視力の平均値は、発症から3ヶ月以内では0.52、4~12ヶ月以内では0.54、
13~59ヶ月では0.4、60ヶ月以上では0.15(症例数が寡少なため参考値)という結果でした。発症から1年以内は比較的視力が
保たれているものの、発症から1年以上では低下し、特に発症から5年以上経過した症例では、東京医科歯科大学眼科学教室の
報告に近い結果(症例数が寡少なため参考値)です。現在の眼科医学での治療が、特に長期間の視機能維持に対し、不十分で
あることを示しています。なぜ眼科での治療を行っていても、視機能が低下してしまうのかは、第3部で報告します。

発症から時間が経った症例の多くは、CNVの活動期から瘢痕へと変化し、大きな中心暗点や歪みといった変視を伴い、緩慢に
進行する視力低下を引き起こしています。こうした場合には現代の眼科医学では対応できず、経過観察のみとされています。
瘢痕変性に対しては鍼治療でも治癒は望みにくいのですが、視機能の向上や維持に役立ったと考えられる症例は数多くあり、
鍼治療の有効性は十分にあると考えられます。具体的な内容は第2部、第3部で報告させていただくつもりです。

また当院へ来院された時点での両眼への発症は16名(28.1%)で、概ね報告されている数値に近いものです。そして16名中13名
(81.3%)が、片眼への最初の発症後3年以内に発症していることが分かり、特に注意を要する期間といえるかもしれません。
なお報告にある50才以降発症の2眼は共に40代で片眼の発症となり、50才以降に健側にも発症した方になります。50才未満で
発症した場合、数十年以上視力低下を防ぐ必要があり、長期に渡り視機能の維持が可能な、根本的な治療が求められています。

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中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)や、眼底出血にも注意が必要

眼科で新生血管が見つからなくても要注意

中心暗点、歪みといった変視症を伴い、視力低下が起こる中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)は、視力低下は比較的軽度であり、
多くは自然に治癒する疾患とされます。蛍光眼底造影や光干渉断層計で、網膜に浮腫等は存在するものの、新生血管は確認
されない場合に、通常は中心性漿液性脈絡網膜症と診断されるのですが、矯正後視力が0.5以下と視力低下強く、長期間治癒
しない場合等には、他の医療機関で再度検査をすると、新生血管(CNV)が見つかる場合があります。こうしたことから当院でも
眼科専門医療機関へ再度の受診をお勧めしています。

脈絡膜新生血管の確定診断には、現在では少なくとも蛍光眼底造影(FA、IA)、および光干渉断層計(OCT)が必須であり、
こうした最新の検査機器を駆使しても正確な診断が難しいことが報告されています。複数の大学病院を受診された患者さんへの
診断名が、専門医毎に異なる場合も少なくないのが実情です。最新タイプの光干渉断層計(OCT)を備え、十分な経験のある
専門医の診察ではない場合、診断が異なってしまうことは、不思議ではないと考えた方が良いでしょう。

また脈絡膜新生血管を発症した患者さんの中には、中心性漿液性脈絡網膜症、眼底出血等の既往歴や、半年以上前から
「目がかすむ」、「見辛い」といった様々な目の不調を感じていた方が少なくありません。少なくとも5名に1名は、発症する以前に
医師からCSCや眼底出血の診断を受けており、他の方も様々な目のトラブルを経験している場合が多いことが分かっています。
過去に中心性漿液性脈絡網膜症や眼底出血の既往がある方や、上記の症状に当てはまる方、眼が関係する全身性疾患を
お持ちの方は、少しでも異常を感じたら眼科を受診するべきです。

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推定季節別発症数

患者さんからの問診により、脈絡膜新生血管(CNV)が発症したと考えられる季節を特定した統計です。医師の診断を受けた
時期ではなく、患者さんが大きな視力低下、変視(暗点や歪み)を自覚した時期になります。留意事項としては例えば検診で
異常が分かり、その後に専門医で確定診断となったような、発症時期が分からないケースは不明に分類しています。

対象とした症例数は55名71眼で、外傷・手術後遺症と診断されている脈絡膜新生血管は除外しています。
また季節の分類は、春3~5月、夏6~8月、秋9~11月、冬12~2月としましたが、東北から沖縄までの患者さんが含まれる為、
地域により分類が当てはまらない可能性があります。


表④ 推定季節別発症数

発症や悪化は春が多くなる傾向

脈絡膜新生血管(CNV)が発症した推定時期は、不明例を除くと、概ね半数弱が春に発症しており、冬は比較的少ない傾向が
分かります。冬の発症が少ないことは、紫外線の強さが関係している可能性があります。当院での臨床的な経験からも特に
春の時期に、患者さんによっては視力等が不安定になる傾向が見られ、夏や冬は比較的安定している傾向があります。秋は
治療開始直後の患者さんでは、やや不安定な状態になる場合があり、基本的に季節の変わり目もリスク要因となるようです。
紫外線への対策に加えて、季節の変わり目には休養をしっかり取り、生活全般に無理をしないよう心がける必要があります。

また中医学(東洋医学)では、目は肝との関連が深いとされ、季節要因としても春に症状が出やすいとされています。眼科領域を
専門としている当院では、眼科の各疾患毎に発症や悪化し易い時期についても概ね把握していますが、脈絡膜新生血管では
統計にもあるように、春(次いで秋)が最も注意を要する時期となります。


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近視タイプのCNVと、コンタクトレンズの関係

近視(強度近視を含む)の矯正として、コンタクトレンズ(CL)を使用されている方が、近年増加しています。当院では特に近視が
関与する脈絡膜新生血管の患者さんに、コンタクトレンズの長期常用者が多いことに気づき、何らかの関与があると考えて調べて
みました。なお現在の眼科医学では、コンタクトレンズと眼の深部である網膜疾患との関連は証明されていません。またコンタクト
レンズは様々な眼科疾患への矯正法として一般に有用であり、当院としても使用を全面的に否定しているものではありません。

表⑤ CNVを発症した近視の方の矯正歴

コンタクトレンズの常用はハイリスク

近視への矯正を行っていた45名の脈絡膜新生血管の患者さんの内、40名がコンタクトレンズ(CL)常用(内1名は後にLASIK)、
CL+眼鏡併用が1名、眼鏡使用の後にLASIKが1名、眼鏡のみ使用が3名という結果になりました。CL常用者の割合は88.9%と
なり、一般に近視矯正を行っているCL装用者の割合に比較して、非常に高い結果です。またCL装用歴が不明(常用)の6名を
除いた34名で、平均16.7年以上(8年~30年以上)の装用歴という結果になりました。

コンタクトレンズ(CL)を常用していると、必ずしも脈絡膜新生血管(CNV)になる訳ではありません。またCNVにCL装用の関与は
報告されていません。しかし今回の結果を見る限り、CLの長期装用はCNV発症リスクを高めている可能性は否定できません。
またLASIKについても、CLと同じく深部の網膜は無関係と考えられますが、手術後2年以内の黄斑疾患の発症は、少なからず
報告されています。CLは近視の方へのメリットも多いのですが、少なくとも目の調子の悪い方や病気を持つ方は常用を避け、
本当に必要な時にのみ限る等、装用時間を制限する必要があると考えられます。


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第1部のまとめ

問診から分かる発症時の状況では、仕事上や残業の増加など、疲労や睡眠不足、強いストレスを感じていた方が比較的多く、
女性では出産後に発症した例が複数ありました。やはり強いストレスを伴う様々な環境(仕事・生活・季節)が負担になり、元々
網膜が薄い傾向のある近視の方に発症し易い状況があるといえます。コンタクトレンズも長期間装用した場合に僅かづつでも
目に負担をかけ、間接的に発症に関わっている可能性が強く示唆されます。


また脈絡膜新生血管を発症された方は少なからず、発症する以前に中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)や小さな眼底出血等の、
通常眼科では問題にされない程度のマイナートラブルに遭遇しています。しかし、こうした疾患は自然治癒したように見えても
僅かな瘢痕を残し、ドルーゼン(小円形隆起病巣)を経て、脈絡膜新生血管(CNV)、加齢性黄斑変性(AMD)等を発症していく
可能性を残しています。脈絡膜新生血管(CNV)を発症された方は、こうした状況を踏まえて、できるところから少しずつ、発症に
至った環境を変えていく必要があります。


2009年現在、ようやく活動性の脈絡膜新生血管(CNV)は、抗VEGF療法により急速な悪化は食い止められる状況になりました。
しかし長期的で緩慢な悪化(瘢痕化した病巣が正常な組織に悪影響を与えるため)に対しては、現在でも眼科での治療法は無く、
徐々に視力が低下していくことが、東京医科歯科大学眼科学教室での長期観察研究からも見て取れます。また両眼に発症する
患者さんは3割前後もあり、両眼への発症の効果的な予防法は現在まで確立していません。

当院の針治療は2007年に報告した、『中医学による加齢性黄斑変性の鍼灸治療』の後、多くの患者さんをはじめ、様々な方に
期待や関心、驚きを持って迎えられ、鍼灸治療院としては考えられない程の症例数を、治療させていただくことになりました。
こうした皆様のご協力により、鍼治療で得られた結果を社会へ帰していくことは、私に与えられた責務と感じずにはおれません。


第2部、第3部では、鍼治療が脈絡膜新生血管(CNV)に対して、抗VEGF療法との関係や、視力だけでなく変視(歪みや暗点)の
改善について。また短期的な効果だけでなく、長期的な視機能維持や健側への発症に対し、予防効果を発揮し得るかどうか等、
現在の脈絡膜新生血管(CNV)への眼科医学での治療課題に、鍼治療が応えていけるかどうかを見ていただけたらと思います。


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参考文献

『加齢黄斑変性』 医学書院
『今日の眼疾患治療指針 第2版』 医学書院
『眼科プラクティス2 黄斑疾患の病態理解と治療』 文光堂
『眼科プラクティス7 糖尿病眼合併症への診療指針』 文光堂
『眼科プラクティス9 屈折矯正完全版』 文光堂
『眼科プラクティス12 眼底アトラス』 文光堂
『眼科プラクティス20 小児眼科診療』 文光堂
『眼科プラクティス21 眼底画像所見を読み解く』 文光堂
『眼科プラクティス22 抗加齢眼科学』 文光堂
『眼科プラクティス23 眼科薬物治療 AtoZ 』 文光堂
『眼科プラクティス25 眼のバイオメトリー』 文光堂
『視能学・増補版』 文光堂
『現代の眼科学 改訂第9版』 金原出版

『アンチ・エイジング医学 2008 vol.4-2~6』 メディカルレビュー社
『アンチ・エイジング医学 2009 vol.5-1~5』 メディカルレビュー社
『アンチエイジング医学の基礎と臨床 改訂2版』 メディカルレビュー社

『針刺治療 眼病図解』 北京科学技術出版社
『眼科専病中医臨床診治』 人民衛生出版社
『中医臨床 102号 眼科の中医治療』 東洋学術出版社
『難病の針灸治療』 緑書房 他

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