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千秋針灸院の症例報告             ※論文、スライドの無断での転載等は固くお断りいたします。

(社)日本鍼灸師会 全国大会in大阪 平成19年10月7日 ホテルグランヴィア大阪での一般口演の内容を公開します。
スライド、抄録は原本であり、コメントは見ていただく方に分かり易くするため、必要な補足を入れさせていただきました。

なお今回、加齢性黄斑変性の症例報告としていますが、通常眼科医学では50歳以上を加齢性黄斑変性としています。
50歳未満の症例は脈絡膜新生血管(若年性黄斑変性)という分類となり、本来は加齢性黄斑変性とは区別する必要が
ありますが、ここでは滲出型として扱っています。今回は症例数が少ないこともあり、また発表時間や内容の制約上、
類似する疾患である脈絡膜新生血管を加えての報告となりました。

本来であれば「網膜黄斑変性症の鍼灸治療」とすべき内容になりますので、2009年、疾患別に分類して、新たな症例を
加えた「中医学による脈絡膜新生血管(若年性黄斑変性)への鍼灸治療」を報告させていただきました。
若年性黄斑変性に対して、50名を超える症例から、針治療を中心に様々な角度より、統計を基に報告した内容です。


2007.10.7 (社)日本鍼灸師会 全国大会in大阪 抄録 PDFファイル形式です。          

 表題

千秋針灸院からの初めての症例報告であり、また公式な場(日本鍼灸師会、全日本鍼灸学会など)での、
加齢性黄斑変性症への鍼灸治療としても、統計的な意味合いを持つ報告は国内で初めてのようです。
今回の報告をきっかけとして、少しでも多くの先生方に眼科領域での鍼灸治療の可能性に興味を持って、
いただけたら幸いです。また患者さんには鍼灸治療が有力な選択肢の一つとなり、1人でも多くの方が
目の健康を取り戻すことができるよう、今回の発表が役立てられることを願っています。

 加齢性黄斑変性の概要

視力に関わり、モノを見る上で最も重要な黄斑部が障害を受ける病気です。歪み、暗点などが主要な見え方です。
見づらくなる部分が視界の中央付近になるため、日常生活における問題は非常に大きなものとなります。

欧米では2.000万件もの報告があり、中途失明の第1位を占める病気となっており、日本でも増加傾向です。
現在までのところ加齢性黄斑変性は、有効性を認められた進行の予防薬や治療薬等が無く、経過観察を続け、
視力低下が進むまで手術などの十分な治療が受けられないケースがあります。滲出型の新生血管症については、
現在新しい治療法(硝子体内へのアバスチン投与)が試験中で期待されますが、適応範囲は限られています。

 症例の概要

2006年末までに当院の鍼灸治療を開始された患者さんの実数になります。来院される患者さんは、一般の眼科の
統計と比較すると、治療開始時の患側視力が高く、医師に診断されると早めに来院されていることが分かります。

 治療方法の概要

治療方法は眼窩内刺鍼を行わない、安全な治療法です。中医学による証の分類では、萎縮型は概ね肝腎両虚、
滲出型は肝腎両虚に加え、脾胃虚弱が多くの方に見受けられます。患者さんごとの状態に応じて、基本の治療に
若干の変更を加えています。基本+柔軟な治療が実際に中国で行われている現代中医学の特徴です。

 評価方法の紹介

3メートル用の視力表を使用して、患者さんの普段使われている眼鏡で視力測定を行っています。厳密な意味での
矯正視力とは言えませんが、日常における実際の視力も大切に考えています。

従来の万国式3メートル用視力表から、眼科医療機器のトップメーカーNIDEK社の液晶視力表を使用して、より
正確な視力を測定できるようになりました。公式に距離を取って0.03といった視力を測定可能な機器は、現在でも
導入されている医療機関は限られているようです。眼科に必要な視力に関わる測定のほとんどが行えます。

 平均視力の推移

治療開始当初、3ヶ月後、6ヶ月後の平均視力の値です。さらに分析すると、健側視力が先に上昇し、患側視力が
遅れて上昇する傾向がみられます。概ね治療開始から6ヶ月までで、視力の上昇は落ち着くことが多いようです。
また他の疾患などにより眼内レンズを使用されている場合では、通常の半分程度の視力上昇に留まるようです。

余談として健側視力が上昇する症例が多く過矯正となることから、当院では患者さんが眼鏡を作り直す必要が
生じるケースが時々あります。視力が上昇し過矯正となると、「見えすぎて負担をかけてしまう」ことになります。
当院では視力が上がり過ぎてしまった方には、適正視力(矯正で1.2前後)もあれば十分ですので、紫外線等を
完全にカットできる高性能な医療向けレンズの眼鏡をお勧めしています。

 視力変化の度合い

滲出型と萎縮型を合わせたデータですが、滲出型は全症例で2段階以上の向上が得られています。一方萎縮型は
1段階の向上が2眼(内1眼は眼内レンズ使用)、4段階の向上が2眼です。当院で継続した測定ができなかった
症例でも、医師の診断で治癒(略治)や視力向上を認められている症例が含まれ、全てが無効ではありません。

当院で継続した測定ができなかった症例で、コンタクトレンズを使用されている方については、眼鏡への切り替えを
お勧めしている理由が挙げられます。特に滲出型の患者さんは、コンタクトレンズ使用歴が長い方が非常に多く
見受けられ、滲出型の黄斑変性症では、コンタクトレンズの使用歴に関連性が無いとは言えないと考えています。

 治療結果のまとめ

当院で継続した測定ができなかった症例をどのように扱うかで、確率に幅が出ているものです。不明分を全て
無効として確率を出したものが低い数字で、不明分を除外して計算した場合が高い数字です。発表時点では
更に多くの症例を治療していますが、重症例を含めて私の実感としても、概ね納得のいく確率となっています。

網膜黄斑変性症で来院される患者さんの多くは、大学病院等の高度な専門医療機関で診断を受けられる
方がほとんどです。概ねスライドにあるような診断結果を受けられる患者さんが多く、鍼灸治療の効果を
肯定的にみていただける医師もありました。ただし、現実的には理解していただき難い場合も多くあります。

 考察

視力の向上については他の手術法などと比較しても、勝るとも劣らない結果が得られました。実際当院で治療
開始後に手術(眼内注射など)を受けられた患者さんは1名のみで、他の方は全て必要が無くなっています。
一定間隔で治療を継続されている方は、5年以上経っても再発や健側への発症はありません。

一方で自覚症状では、歪みについては軽減する症例もありましたが、完全な除去は難しいようです。少量の
眼底出血による暗点は消失する場合もありますが、縮小したり薄くなったりに留まる症例も多く、完全に除去
できる症例は多くはありません。また過去のレーザー治療や炎症による網膜の瘢痕は通常は変化しません。

 鍼灸治療の役割

当院へ来院される患者さんの多くは、診断は付いたものの手術が適応になる手前で、経過観察中の方が多い
傾向です。視力の比較的高い時期に鍼灸治療を受けることで、視力が向上する等から手術を回避できる症例が
多くあります。また萎縮型や視力が0.1未満まで下がった症例でも、粘り強く治療を続けることで、視力の向上の
可能性は残されています。この統計に含まれていない最新の症例では、特に患側が長期に使われないことによる
廃用性弱視と思われる症例で、5段階を超える驚異的な視力向上をみる症例が数例ありました。

2007年より開始している提携先治療院との連携治療の結果から、ある程度の基本を抑えた治療法であれば、
治療の再現性は比較的高いことが分かっています。また眼窩内刺鍼を行わずに治療できることから、治療自体の
苦痛や内出血のリスクは少なく、多くの患者さんに受け入れられやすい治療法であると言えます。 

今回の報告については、症例数としては限られていますが、鍼灸治療により網膜黄斑変性症の測定を継続的に
行った、国内初めての統計的な症例報告となるようです。当院では今後も引き続き鍼灸治療の研鑽を続け、鍼灸
治療の可能性を追求していきます。次の機会には他の眼科疾患についても、また網膜黄斑変性症ではより多くの
症例数で発表させていただく方向で準備を進めています。当院の専門とする眼科領域の鍼灸治療にご期待下さい。

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