八綱弁証 1.002 2001.6.3
八綱とは、表・裏・寒・熱・虚・実・陰・陽を指し、八綱弁証は中医学の特徴である
弁証論治の基礎の一つとされる。四診より得られた情報に基づき病位の深浅、病邪の
性質及び盛衰、人体の正気の強弱等を分析して、八種類の証候として表すものである。
表裏
表裏とは、病変部位と病勢を表す綱領である。表とは比較的病が浅い部位〔体表、
皮毛、病の初期〕にあることをを示し、裏とは比較的病が深い部位〔血脈、臓腑、病の
慢性化〕にあることを示している。
表証とは六淫の邪が体表から体内に侵入するときに起こり、発熱、悪寒、関節痛等を
伴い、浮脈を示すもので外感病の初期にみられる。
裏証は病因、範囲ともに幅広く、多種多様な病状を含んでいる。脈は主に沈脈の傾向
があるが多様であり、舌証も様々である。
表裏の鑑別は、まずは感冒等の初期を表として捉えて、その他を裏とします。簡単す
ぎる気もしますが、まずはそのように覚えてください。日本でも腰痛等の治療の際に
感冒等の針灸治療もする機会は多く、表裏の鑑別ができれば予後を説明することが
でき、患者さんとの信頼関係を築きやすくなります。その際、表裏に二分するだけでな
く、六経弁証の鑑別ができるようになると、治療成果も上がりやすくなります。
寒熱
寒熱とは疾病の性質を表す綱領である。寒証と熱証は身体の陰陽の盛衰を反映し
たもので、陰盛あるいは陽虚は寒証として、陽盛あるいは陰虚は熱証として現れる。
寒証とは寒邪を受けたり、陰盛陽虚により現れる。四肢の冷え、分泌物清冷〔尿、痰
等〕、寒がる等の症状を伴い、遅脈や緊脈、舌質淡白、舌苔白等がみられる。
熱証とは熱邪を受けたり、陽盛陰虚のために身体の機能活動が亢進して現れる。
熱がり冷たいものを好む、顔面紅、小便短赤、分泌物が黄色く粘る等の症状を伴い、
数脈、舌質紅、舌苔黄等がみられる。
寒熱の鑑別は問診である程度予測ができ、舌診、脈診等で確認していくことで鑑別
します。しかし臨床上は慢性化した疾患や身体の深部〔衛気営血弁証〕の疾患では
寒熱が交錯し、単純に舌診、脈診に頼れない場合があります。寒証の治療は灸法を
用いることが多く、熱証では針が中心になります。寒熱の診断を誤った場合、特に熱
証に灸法を用いたときには症状が悪化する場合があるため注意を要します。私も治療
に患者さんから灸を頼まれることがありますが、陰虚体質の方には、その旨を説明して
断ることもあります。〔中国で用いられる棒灸や隔物灸を指しています。〕同じ熱証でも
実熱の方は、自分から灸を求めることは普通はないので間違わないと思われます。
虚実
虚実とは正邪の盛衰を表す綱領である。虚証と実証は身体での正気と邪気の盛衰の
状況を反映し、正気不足は虚証として、邪気が盛んな場合は実証として現れる。
虚証とは正気が虚弱なため現れる病理的な状態で、倦怠、脱力感、息切れ、自汗等の
症状を伴い、虚脈、舌質淡白胖嫩・歯痕等がみられる。
実証とは外邪を感受したり、体内の病理産物による病理的な状態で、腹脹、胸悶、大便
秘結、小便不利等の症状を伴い、実脈、舌苔厚膩等がみられる。
虚実の鑑別も問診である程度予測でき、舌診、脈診等で確認していくことで鑑別でき
ます。寒熱と同じく慢性疾患等では虚実が交錯するために、単純に舌診・脈診だけで
判断するのは危険があります。虚実の鑑別は、特に針灸の手技や刺激の強さに直結
するために、誤った場合は針あたり〔治療後だるくなる等〕や一時的に痛みが強まる等
副作用がでます。よく好転反応等と言われますが実際は刺激過多で起こるものであり、
予想外のこうした反応は虚実の鑑別ができていないからです。治療のために敢えて強
刺激を与える場合は、先に患者さんに話しておくと逆に信頼されます。実証の方に補法
を行った場合は効果が出ない程度ですが、虚証の方に寫法を行った場合は副作用が
大きくなります。
陰陽
陰陽とは八綱辨証の総綱であり、表・熱・実を総合して陽とし、裏・寒・虚を総合して陰
としている。臨床上では表裏・寒熱・虚実の六綱として分類されることが多いが、高熱に
よる大汗や激しい嘔吐、出血等では亡陰、亡陽といわれ、危険な徴候である。
八綱辨証の各論は内容が多いために、とりあえず省略します。初心者の方は、まず疾
病を表裏・寒熱・虚実に単純に分類するところから始めて下さい。