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病因病機 1.002 2000.12.17

 病因とは疾病の臨床所見等から、各種疾病の発病因子の性質と特徴を
分類したもので、大きく外感病〔六淫〕と内傷病〔七情、飲食、労倦等〕に
分けられます。外感病とは主に生活〔自然〕環境が原因となる病気で風邪
や伝染病が含まれます。内傷病とは主に精神状態や食事、仕事による疲れ
が原因となるものです。しかし実際には両者は切っても切れない関係にあり、
病因は複雑に絡み合っているのが現実の臨床です。

六淫
 六淫とは風、寒、暑、湿、燥、火〔熱〕の六種類の要因〔邪〕を指し、季節、
時間、生活環境等と関係しています。またこれらは単独だけでなく、幾つかが
合わさって人体に侵入する場合もあり、さらに体内に侵入した後、一定の
条件下で他の要因に転化することもあります。六淫は基本的に口、鼻や皮膚を
通して体内に侵入する特徴を持ちます。

1.風邪の性質、特徴
 風邪はよく動き一定の場所に固定しない、陽邪のため人体の上部に現れや
すい、他の邪を乗せて体内に侵入することが多い、発病が急であり変化も早い
等の特徴があります。臨床では風邪単独の侵入は少なく、寒、熱、湿と併せて
様々な症状を引き起こします。
 代表的な疾患に感冒〔風寒、風熱〕、はしか〔風熱〕、リウマチ〔風寒湿から熱
へ転化〕、顔面麻痺〔風熱、風寒〕等が挙げられます。治療は風邪と合わさった
熱、湿、寒邪を取り除く方法が中心です。 

2.寒邪の性質、特徴
 寒邪は陰邪のため人体の下部に現れやすい、冷えや痛みを伴う症状が多い、
気血が滞りやすく拘縮等が現れやすいという特徴があります。臨床ではやはり
冬に多く見られますが、夏季の冷房による寒邪の侵入も見られます。
 代表的な寒邪単独での疾患に四肢の冷え、屈伸不利、下痢〔寒湿〕などの症状
が挙げられます。治療は温めることが中心となり、灸法が多く用いられます。

3.暑邪の性質、特徴
 暑邪は夏に見られる陽邪で、夏以外の時期は火〔熱〕邪とされています。非常に
強い熱を持ち津液を損傷させやすい、湿邪と合わさりやすいという特徴があります。
 代表的な疾患に夏季の日射病、高熱、四肢倦怠感〔暑湿〕があります。治療は
とにかく熱を取り去ることが第一になります。

4.湿邪の性質、特徴
 湿邪は陰邪のため人体の下部に現れやすい、重濁性や粘滞性から症状部位が
固定されることや比較的治りにくいこと、熱、寒、暑邪と結びつきやすい性質があり
ます。脾を犯しやすく食欲等にも影響を与えます。
 代表的な疾患に体の重だるさや湿疹〔湿熱〕、関節痛〔風湿等〕等が挙げられ
ます。日本は風土的に湿気が多いため、湿邪の関与が強い疾患は針灸治療が
やや難しくなりがちです。飲食に気を使うことが大切になります。

5.燥邪の性質、特徴
 燥邪は人体の津液を消耗させやすい、肺を損傷させやすいという特徴がありま
す。ただし湿邪と反対に、日本の風土では一般にあまり考えなくてもよいと思われ
ます。
 
代表的な疾患に皮膚等の乾燥や亀裂が生じたり、粘度の高い痰を吐く等が挙げ
られます。しかし日本でのこれらの症状は内因の熱等の関与が多く、中国でも
西部の砂漠地帯に行くのでなければ通常はあまり問題になりません。

6.火〔あるいは熱〕邪の性質、特徴
 火〔熱〕邪は陽邪のため人体の上部を犯しやすい、気や津液を消耗させる、生風、
動血しやすい〔痙攣や精神障害、出血等〕、腫れを生じやすい等の特徴があります。
 代表的な疾患は高熱や四肢の痙攣、吐血等の、急性で症状の重い疾患が多い
のが特徴ですが、関節炎や不眠、鼻出血といった多様な症状があります。治療は
暑邪と同じく熱を取り去ることとなり、一般には針が用いられ灸は用いられません。

七情
 七情とは喜・怒・憂・思・悲・恐・驚の七種類の情志〔感情〕感情のことを指します。
これらが通常の範囲を超えて突然強くなったり、長期間に渡り精神的に負荷が
かかると、生理的な許容範囲を超えて臓腑等の機能失調が起きてきます。 

-気上る 怒りから肝の疎泄機能に異常が生じる。胸脇部が脹る、目赤、眩暈等
-喜緩む 喜びすぎると心気が緩み、動悸、不眠、精神異常が現れる。
悲〔憂〕-気消える 悲しみから肺気が消耗し、息切れ、声が出ない等の症状。
-気下る 腎気を消耗して失禁や記憶力減退、髪が抜ける等の症状が現れる。
-気乱れる 突然驚くと心神が動揺し、混乱状態〔パニック〕を起こす。
-気結す 過度の思慮は脾気を損傷して食欲減退や軟便、腹脹等を起こす。

飲食と労逸
 飲食や労働、休息を指しますが、どれも過度になれば疾病を誘発します。特に現代
では特に過食と偏食、労働過多が常にみられる傾向があります。特殊なケースでは
飢餓や休息過度〔寝たきり〕も問題となります。

 病気を引き起こす病因を中医学的にみてきましたが、全ての疾病の原因は人体を
取り巻く内外の要因に偏りができることから生じます。逆にみれば健康を保つには
偏りを無くし、バランスのとれた生活を送ることです。このことを二千年以上前から
説くあたりに中国医学の凄さを感じます。
 私達は日常生活の中でどうしても偏った部分が出てきて無理をしがちです。そして
針灸や中薬〔漢方薬〕は、要はバランスの崩れを修正する医学といえるでしょう。

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