4.気血津液 1.002 2000.11.16
気
気とは中医学における根幹にあたります。この「気」について、このページ上で
書けることは限りがありますが、少しだけ触れていきたいと思います。
気には様々な解釈があります...オカルト的なものもありますが、中医学で扱う
気は人の生命活動に必要な、ある種の「物質」で、その由来や機能から分類
されます。
〔1〕.気の分類
@元気
「原気」「真気」とも呼ばれる基本的な気です。生まれつき〔先天〕の気で、生後も
水穀の精微〔食物の栄養〕によって滋養されます。わかり易くいえば、成長後の
体力等の最大値ともいえます。先天の気が不足していたり、長期間の過労や
慢性病等で身体を消耗すると、疾病や体力の低下が現れてきます。
A宗気
宗気は肺から吸入する清気と、脾胃から吸収される水穀の精微から作られる
もので、呼吸、心臓の拍動、各種動作等、生命活動の動きに深く関わります。
宗気が衰えると声に力がなくなる、身体に力が入らない等の症状が現れます。
B営気
脾胃から作られる水穀の気からできたもので、血液の運ぶ栄養分といっても
良いかと思います。血との結びつきが強く、陰に属します。全身に栄養を供給して
いますが、不足すると栄養失調、体の一部で不足すると頭髪が抜けたり変色等と
いった局所での症状が現れてきます。
C衛気
営気と同じく、主に水穀の気からできたものです。陰の営気に対して衛気は陽に
属し、体表面など比較的浅い部分を流れています。活動性が高く、動きやすいと
いう性質があります。また外邪の侵入を阻み、汗腺を開閉させ体温を調節する、
身体を温める等の作用もあります。よって不足すると感冒等に罹りやすくなります。
それぞれの気が充実するには、先天の精と後天の水穀の気が充実することが
必要です。先天の気は残念ながら生まれた時に決まってしまいますが、後天の
水穀の気は長期間の飲食の状態が深く関わります。また五臓では脾、肺、腎が
関与し、やはり飲食の受け皿である脾胃の状態が、最も重要となります。私達が
注意すべきことは、この飲食の状態がいかに大切かということを理解することでは
ないでしょうか。
〔2〕.気の作用
@推動作用
人の発育、成長から臓腑の様々な生理活動、血液の循環、水液代謝等を
中医学では気の推動作用として捉えています。推動作用の減退は発育、成長の
遅れや臓腑の機能停滞、血のめぐりの悪化、むくみ等として現れます。
A温煦作用
わかり易く言えば、体温を保つ作用です。温煦作用の低下は当然、四肢の冷え
や異常に寒がるといった症状が現れます。
B防御作用
主に先の衛気が関与します。感冒等、外邪の侵入に抵抗する作用ですが、既に
侵入した外邪に対しても抵抗します。現代医学の免疫機能に近いものです。防御
作用の低下は感冒等に罹りやすいだけでなく、病気も治りにくくなります。
C固摂作用
血液が血管外に漏れないようにする作用や、汗や尿などにより水分を調節する
作用等、必要量の体液を体内に留めておく作用です。低下すると多汗等、体液が
不足する症状が現れます。
D気化作用
体内で精、気、血、津液が相互に変換されることを指します。例えば食物からは
体に必要な量の気、血、津液等が生成されていますが、気化作用の低下は汗、
尿の水分代謝異常や排泄異常、消化吸収不良等の様々な症状が現れてきます。
こうして見ると気の作用とは、現代医学の生理学の分野と重なっています。また
気は体内の「動」の部分に関係していることが理解できたと思います。この気の
作用が低下したものを中医学では気虚と呼び、臨床では気を補う治療を行います。
中薬〔漢方薬〕、灸法の補法の治療は気を補うものですが、針は気の偏りを正すと
いう意味合いが強くなります。鍼灸で用いるツボには、この各作用を特に高める
ものがあり、適切に用いることで最大限の効果を引き出します。
気の運行に関しては臓腑の生理機能、あるいは経絡の流れとして捉えます。
臓象学説、経絡学〔現在は未掲載〕を参考にしてください。
血
血は飲食物を消化、吸収してできた水穀の精微から作られます。そして全身を
循環し、臓腑から筋、皮毛に至るまで栄養を供給します。血が不足すると、目が
かすむ、皮膚の痒み等の症状や四肢の麻痺、脱毛等も現れます。
また血は精神活動の基礎物質でもあるため、不足すると健忘、失眠、昏迷等の
症状が現れることがあります。
中医学の血は、現代医学の血液の内容に近いものがあります。しかし全く同じ
観念では無く、例えば血に邪熱がこもる「血熱」は、アトピー性皮膚炎や帯状疱疹
の主要な原因に挙げられます。臨床的には五臓の脾〔生成〕、肝〔貯蔵と調節〕、
心〔循環〕を意識する必要があります。また筋肉や髪が痩せる、細る等も血の不足
が主要な要因となる可能性が高い症状です。
津液
津液とは体液の総称で、唾液、涙、涕、汗、尿を含み、血の重要な成分でもあり
ます。津液は三焦を通路として全身を滋潤していて、汗や尿などにより調整されて
います。陰に分類される津液は人体を冷やす作用としても重要です。津液が急に
不足すると脱水症状が現れ、慢性に不足すれば陰虚となり、先の血不足と同じく
痩せや虚熱が発生します。また津液が異常に停滞すれば水腫〔むくみ〕が現れま
す。臓腑との関係では咳〔肺〕、口渇〔胃〕、便秘〔大腸〕の症状も現れます。
津液はほぼ体液と言葉を換えることができます。興味深いのは「三焦」という架空
の通路を設定していることで、胸腹部全域に及ぶものとされています。汗腺などが
特定の部分だけでなく、人体の多くの部位に分布することから考えられたもので
しょう。津液については、その量の過不足が体の寒熱に深く関わることを理解して
ください。津液の代謝が主に五臓の肺、脾、腎の働きであることも重要です。
お薦めの文献 針灸学「基礎篇」 東洋学術出版社