2.五行論 1.000 2000.9.10
五行論では、全ての事象は木・火・土・金・水の五つの要素から構成されるとして
いて、かつては「五材」と呼ばれ、世の基本物質となっていました。また、これらは
「相互に生み出し、相互に制約する」という関係により物質世界を運動、変化させる
としています。中医学においても人体の生理、病理等の相互関係を説明するときに
用いられ、診断、治療の理論的な根拠の役割も持っています。
古代中国では医学だけではなく、全ての事柄を五行によって説明しようとしていま
した。例えば漢王朝〔火→赤〕を倒そうと立ち上がった黄巾党〔土→黄〕はその根拠
として「火が土を生む」とする、五行論を掲げていました。このように五行論は自然、
政治、経済、戦争など全てを説明する、現在の科学にあたるものでした。その後、
徐々に五行論は現実世界とのくい違いから廃れていきましたが、現代医学でも不
確定部分の多い人体においては、生理、病理変化等の説明に適合する部分が数
多くあります。
〔1〕五行の分類
木→春、東、風、青、酸など、人体では→肝、胆、筋、目、爪、怒など
火→夏、南、暑、赤、苦など、人体では→心、小腸、脈、舌、面、喜など
土→長夏、中、湿、黄、甘など、人体では→脾、胃、肉、口、唇、思など
金→秋、西、燥、白、辛など、人体では→肺、大腸、皮、鼻、毛、悲など
水→冬、北、寒、黒、鹹など、人体では→腎、膀胱、骨、耳、髪、恐など
自然界の五行の分類は比較的、想像しやすいかと思います。
〔2〕五行の相生、相克
事象の相互関係を「相生」「相克」として表すもので「相生」とは相互産生、助長で
あり、「相克」とは相互制約、抑制の関係である。人体では健康な状態を表している。
五行の相生の順序は、木→火→土→金→水で循環している。
五行の相克の順序は、木→土→水→火→金でやはり循環している。
相生関係は母子関係とも呼び、この場合相生の順序の前を「母」、後を「子」とする。
相克関係は相克の順序の前〔例・水〕は後〔例・火〕に対して優位となる。ジャンケン
を想像してもらうと良い。事象には必ず相生・相克の関係があり、バランスを保っている。
〔3〕五行の相乗、相悔
先に述べたバランスが崩れた状態であり、人体においては病的状態にあたる。
相乗とは、相克関係が過剰になるもので順序の前〔例・水〕が強くなるか、後〔例・火〕が
弱まることから起こる。相悔とは相克関係の逆転現象である。五行は常にバランスを保
とうとするが、相乗、相悔により一部のバランスが崩れると、全体に拡がることも多い。
〔4〕中医学における五行論の応用
本来は詳細に説明すべき内容ではありますが、ここでは簡単に五行の分類を参照
していただきたいと思います。中医学での病的状態の例として、ストレスにより胃潰瘍が
できる状態を、相克の木→土の関係が相乗〔病的〕となったとし、ストレスから木が強く
なりすぎた為に土を傷つけたなどと説明します。このように五行論は中医学では五臓の
生理機能と調和の説明に取り入れられています。
お薦めの文献 針灸学「基礎篇」 東洋学術出版社