末梢性顔面神経麻痺(ベル麻痺、ハント症候群、外傷性麻痺)
○現代医学での概要と針灸治療
○当院での針灸治療について
○当院での治療効果の実際
○患者さんからよくある質問
○院長からひとこと
○関連リンク・参考文献
顔面神経麻痺
・顔面の片側に急性に発症する末梢性顔面神経麻痺の内、原因不明のものはベル麻痺と呼ばれ約7割を占めます。またハント症候群は2割程あり、類似する疾患と考えられています。年齢や性別を問わず発症し、感染、過労、寒冷刺激等が誘因となり、ヘルペスウイルスなどの再活性化も原因になります。症状としては額のしわ寄せ不良、兎眼(閉眼不能)、口が閉じず食べ物がこぼれる、口笛が吹けない等が代表的です。発症から数日で症状はピークに達し、約半数の症例では完全麻痺に至り、表情筋の障害以外に、舌の前2/3の味覚障害、聴覚過敏、涙分泌低下などもみられます。
・ベル麻痺の経過は約8割の症例で3週間以内に回復の徴候を示し、予後は7割で全く正常に回復、13%で軽度の後遺症が残り、16%で機能障害が残存するとされ、共同運動障害やワニの涙現象、顔面けいれん、拘縮等を後遺症として残す場合があります。誘発筋電図検査は健側を基準とし、患側が90%以上(10以下)の筋低下がある場合に予後が不良とされ、手術療法が選択されます。治療としては現時点では発症早期(7日以内)段階でステロイド治療を行うことが推奨されます。またハント症候群では帯状疱疹ウイルスとの関与から、抗ウイルス剤等も試みられています。
・顔面神経麻痺は中国では「口僻」や「口眼歪斜」と呼ばれています。一般に現代医学的な治療もしくは放置した場合でも7割程度は完全に治癒しますが、中国では針灸治療を行うことで8割以上が完全に治癒し、無効例は5%未満という報告があります。(数百例以上の複数の統計によります) つまり現代医学の治療に比較し1割以上の優位性があるということです。顔面神経麻痺は治療開始のタイミングが予後に大きく関係しますが、病気の発症状況から日中間で患者さんの治療開始時期の早遅に違いはないと思います。
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○顔面神経の支配領域への血流改善により、麻痺からの回復を促すことを目的とした治療法です。
(回復可能な期間内での最大限の回復を優先します。病的共同運動にも刺激強度を配慮します。)
○推奨する治療間隔は、当初は週2回(6ヶ月まで)、以降は週1回です。原則1年程で終了します。
(回復期が遅いハント症候群や麻痺の程度により、必要な治療回数や間隔は異なります。)
(発症早期は特に週2回の治療が効果的です。可能な範囲で治療回数を増やして下さい。)
○効果判定は医療機関で行われる40点の点数法ではなく、デジタルカメラによる画像で行います。
(患者さんに分かり易く確実な治療効果をお伝えします。ご自身で変化を確認して下さい。)
○顔面の針は主に治療開始後の前期は全域、後期は麻痺の残存する部分へ集中的に行います。
(カメラで回復状況を時間軸で捉えますので、治療部位を柔軟に変えて回復ムラを減らします。)
(画像から回復状況を詳細に検討し、部位毎の回復をあらかじめ予測した治療を行っています。)
・発症後数週間は医師の指示下で現代医学的な(ステロイド療法等)治療を行うことをお薦めします。この期間は顔面神経麻痺による炎症がピークを迎えた後、自然治癒に向けて安定していく大切な時期です。7割程度は自然に治癒する疾患ですから無理に刺激を加える必要はありません。疲れを溜めない、風に当てない等、指示されている基本的な内容を守って日常生活を送る中で自然に治ることが多い疾患です。発症から1ヶ月程度で良好な回復が得られていない場合には直ぐに針灸治療を始めて下さい。発症早期の針灸治療については、針治療は2週間目(8日)から、温灸治療は4週目(22日)頃から可能です。
・推奨する治療プログラムとして、当初の3〜6ヶ月は週に2回程で続けます。発症後早期であるほど、患者さん自身の自覚やカメラの画像上に早くから変化が出てきます。指示どうり来院されない場合や、治療開始の時期が発症から半年以上の場合には、回復は限られてしまいます。また発症後一年以上経過した場合には、以降の回復は難しくなりますので、症状固定を確認した後に治療終了をお薦めします。針灸治療により回復の程度や速度は確実に向上しまので、発症早期から集中した治療に取り組むことをお薦めします。
・初期の集中した治療は患者さんの都合もありますので強要はしませんが、効果が薄まることはご理解下さい。遠方の為、当院で週に2回程度の集中した治療が難しい方は、お近くの治療院で治療されることもご検討下さい。顔面神経麻痺は早期の治療回数が特に大切になる疾患です。発症から一年以上経過している場合は、麻痺自体の大幅な改善は難しいものがあります。しかし目元から口にかけての突っ張り感や目が開けられない(眼瞼下垂)などの自覚症状等は、一程度和らげることは可能です。生活の質(QOL)を高める目的で定期的に針灸治療を受けることも選択肢の一つです。
・当院は顔面神経麻痺の症例は100名程あり、カメラ画像から患者さんの状態を時間軸で確実に捉える治療を積み重ねてきました。普通に治療を続けると完了する際、「回復の良い部分と悪い部分」が残ることも多いのですが、当院は画像により状態を把握できることから治療部位を柔軟に変化させ、回復が悪い部分に集中して治療を行い、治療完了の際に「回復の良い部分と悪い部分」を少なくする工夫をしています。
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○ベル麻痺は発症後3ヶ月を越えると回復力が低下します。3ヶ月頃までに治療を開始して下さい。
(発症後1ヶ月で回復が遅い場合には素早く治療を開始して下さい。遅いほど難しくなります。)
○ハント症候群は発症から1年程まで回復期が持続しますが緩やかです。早めに取り組みましょう。
(耳鼻科では初期の回復が弱く厳しい診断となりますが、緩やかに長期間持続する傾向です。)
○外傷性(事故や手術の後遺症等)麻痺では、状況により治療効果は一概に言えません。
(早めの治療も大切ですが、障害の程度により左右される傾向です。治療しながら判断します)
○当院の治療で後遺症として病的共同運動(synkinesis)、拘縮等が生じた症例はありません。
(回復過程で自然に生じる軽微な病的共同運動を除きます。回復完了後には自然に消失します。)
・顔面神経麻痺は少しでも早く治療を開始することが予後に大きく関係するのですが、当院では医師に回復不十分と診断された患者さんで、発症後3ヶ月以内に針灸治療を開始できた多くの場合、外見的には完全な治癒もしくは軽微な後遺症を残す程度(外見上は表情を変えても見分けは付かないが、本人の自覚としては若干の違和感等が残る)まで回復しています。
・当院では症状固定の時期が半年〜1年程度とされる顔面神経麻痺の性質上、治療期間は原則として発症後概ね1年程度までで完了することを目指しています。(患者さんのQOLが高まる等、特に希望される場合は除きます) カメラで記録を残し患者さんと確認し合いながら治療を進めて行きますので、治療効果をご自身で自覚しながら治療を完了できることが特徴です。上記は末梢性ベル麻痺の例ですが、外傷による麻痺も受傷後早期であれば、かなり良好な結果が得られています。
・顔面神経麻痺については早期治療が鉄則で、特に当初は治療回数も大切になります。このため通院し易い治療院を選びましょう。また麻痺している局所への鍼も大切ですので、どのように治療するのか確認してから針灸治療を始めて下さい。ハント症候群では一般のベル麻痺に比較し、回復期が遅れる傾向があるようです。発症から数ヶ月まではあまり回復が思わしくないのですが、その後は緩やかに回復がみられます。発症から1年程度までが回復期と考えられますので、医師から回復が思わしくないと診断された場合でも、諦めずに治療に取り組むことをお勧めします。
・当院の治療が完了した患者さんに、「現在の状態に点数を付けると何点?」という質問では、発症から3ヶ月以内の患者さんでは概ね95点前後という回答が返って来ます。発症から半年近くになると個人差が大きくなりますが平均70〜80点です。来院される患者さんの多くは病医院から「回復が良くない」とされたケースのため、この結果からも可能な限り早期の治療開始が必要なことが分かります。なお発症後一年を超えた患者さんの場合には、外見上の回復は難しくなりますが、日常生活における様々な部分の改善はご自身で自覚できる程度に認められます。以上は末梢性ベル麻痺の例となります。
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Q.適切な治療間隔はどのくらいでしょうか?
・当院の場合には回復可能な期間は週に2回を推奨しています。回復期を逃さず、無理なく最大の効果が得られる治療間隔となります。多過ぎると体に負担もかかりますし、少な過ぎると回復が不十分になる可能性があります。麻痺の状況や治療院毎で必要とする治療回数は異なりますが、基本的に針灸治療は患者さん自身の回復を後押しする治療です。遠方への通院や治療自体で疲れてしまわないよう、気をつけましょう。
・顔面神経麻痺の針灸治療は、時には経験の深い治療家に診ていただくことも必要かもしれませんが、基本的には無理なく通院可能な距離にある治療院でしっかりと治療に取り組むべきです。遠方の著明な治療院へ月に数回通院するという方法は、回復可能な期間が限られる顔面神経麻痺では通用しないと考えて下さい。
Q.回復可能な期間とはどのくらいでしょうか?
・回復可能な期間は一般的には半年〜1年程度までです。しかし個人差もあり、当院の場合にはカメラの画像で変化を確認できる期間+αと見ています。+αの期間とは画像では分かりませんが、動きや強張り感等の自覚症状の緩和、回復過程に見られる軽微な病的共同運動が軽減していく期間を含みます。個人差の他に年齢による差や生活環境も関与するようです。ストレスや疲れを溜めず適度に体を動かし、神経の自然な回復を促すよう心がけて下さい。
・当院では発症から1年近くが経過し、デジタルカメラの画像で数ヶ月間変化が見られなくなった頃が外見上の回復が終了した時期と考えます。その際、回復過程での共同運動が残存する場合がありますが、軽微な共同運動は時間をかけて自然に解消に向かいますので、必ずしも針灸治療を続ける必要はありません。外見上概ね回復する発症1年以降は、患側をよく動かして拘縮を防ぎ筋力を回復させることが大切になります。
・季節要因として、春〜夏は回復が比較的早く、秋〜冬は回復がやや遅くなります。同時に顔面部の違和感や張りも寒い時期には強まる傾向があります。発症後、初めての冬には特に強く感じられる場合がありますが、悪化しているわけではありません。
Q.後遺症としての病的共同運動が心配です。
・病的共同運動の本質は、末梢の顔面神経が回復する過程での一時的もしくは強固な混線です。損傷した神経が回復を始め、各筋肉に到達する3〜4ヶ月頃から発症し、回復がほぼ完了する発症から約1年で進行は止まります。その後は非常に緩やかですが、回復過程で自然に現れた病的共同運動は解消に向かいます。末梢神経は少しずつ時間をかけて更新される考えられるからです。リハビリ等での強刺激による強固な混線や、動かないまま放置して拘縮を作らないことが大切です。回復期に必要な治療が行えない場合、後遺症として特に高齢者に拘縮(筋肉が全く動かず萎縮した部位)を残すことが問題です。外見上も拘縮の有無は病的共同運動の比ではありません。
・当院では病的共同運動に配慮しつつも、回復可能な期間には最大限の回復を目標にしています。病的共同運動に過剰な心配をされる患者さんがありますが、治療に消極的にならず早くに動くようになることが大切です。適切な治療方法や回数が行えない場合には、十分な回復が得られない可能性もありますので、納得のいくまで説明を受けて治療に取り組んで下さい。
Q.顔の運動(リハビリやマッサージ)はした方が良いのでしょうか。
・医師の間にも賛否が分かれているようですが、適度に行うことをお薦めします。無理矢理に歪んだまま表情を作ることや、強度のマッサージ等は神経の自然な回復に影響を与える可能性がありますのでお勧めできません。また動かさない(動かせない)ことも長期的に見ると、回復の遅れや後述の廃用性萎縮(拘縮)の要因(特に高齢者)になり得ます。男性の方では無頓着、逆に女性の方では意識し過ぎる傾向があります。簡単ではありませんが頑張り過ぎず、かといって放置もせず自然体を心がけましょう。
Q.今後の拘縮の可能性を指摘されました。発症から長期間経過した麻痺は治療可能ですか。
・当院に来院される患者さんで拘縮を起こしているパターンの多くは、発症後数ヶ月で医師から回復が悪いと告げられ、この時点で全ての治療を中止されている場合です。回復が遅れているにも関わらず治療が中止され、動かせないため筋肉が痩せたり萎縮して起こるものです。諦めずに鍼灸治療を行われた方では完全に回復とまではいかないものの、このようなケースはまずありません。回復可能な期間内に最大限の回復を目指すのが大切です。
・また残念ながら回復可能な期間を過ぎて、拘縮等が残っているケースでも、眼瞼下垂(まぶたが下がり目を開け難い)や頬の強張りなどの違和感は、ある程度改善します。こうした場合には無理のない治療間隔で、じっくりと治療に取り組んでみて下さい。
Q.発症後、直ぐに針灸治療を始めたいのですが効果的でしょうか。
・顔面神経麻痺に取り組む治療院は限られるため、最近では発症後1週間以内等、即治療に取り組まれる方が増えています。早期治療の目安として針治療は発症後8日目から、温灸治療は22日目以降に行います。発症から1ヶ月以内に来院された患者さんは適切な針灸治療を行えた場合、回復が極めて速くなり全ての症例で完全に治癒しています。早期の軽症例では僅か数回の治療で完治した実績もあります。
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○医師から「回復が悪い」と診断された場合には、速やかに針灸治療の選択をお勧めします。
(発症後3ヶ月までに概ね治癒しない場合、放置すると麻痺や後遺症が残る確率が高いです。)
(発症から1年程度を目安として、可能な限り最大限の回復を目指して下さい。)
○顔面神経麻痺の治療実績のある、お近くの通院可能な針灸院にご相談下さい。
(回復可能な期間内は週に2回程度通院が必要です。治療回数に勝る優れた治療はありません。)
(治療回数は大切ですが、連日治療する必要はありません。無理なく受けましょう。)
・顔面神経麻痺は、原則的に病医院での検査や治療開始が必須になります。しかし耳鼻科での治療は、順調に回復していけば何も問題はありませんが、回復が良くない場合には治療手段がなく放置されてしまう実態があります。早期に医師からはっきりと「回復は難しい」と告げられると、患者さんは針灸をはじめとした代替医療を探されるのですが、発症後数ヶ月が経過し回復が難しくなっているのにも関わらず、「自然に治っていきます」等と説明されている場合があります。こうなると放置して「自然な回復」を待って大切な回復可能時期を逸し、生涯に渡って後遺障害が残ることになりかねません。
・針灸院に来院される顔面神経麻痺の患者さんは、発症後数ヶ月以降の回復が思わしくない方が多いです。症状に程度の差はあるものの、この段階では基本的に医学的にも難治であり、針灸治療により全ての方が後遺障害を残さず治癒している訳ではありません。しかしながら耳鼻科での治療効果が不十分な場合、さらに経過観察を続けることに比べれば、針灸治療を行うことで回復に差がついてくるのは間違いありません。
・病的共同運動(synkinesis)を必要以上に気にされる方がありますが、回復が遅れて針灸治療を検討される時点では、積極的に治療を行わないことによる回復不全が強く残ることが問題です。針灸治療は病医院等では行われないため、医師に意見を求めたとしても根拠ある回答は得られません。発症から数ヶ月の時点で自然治癒していない事実が、後遺障害を残す可能性を強く意味しています。
・病的共同運動(synkinesis)は特に治療を行わない場合にも3ヶ月目あたりから一定確率で出現するのですが、強度のリハビリ、マッサージ、電気刺激等を加えた場合に加重される恐れがあります。具体的には治療の際に強い痛みを感じるほど行った場合に、後から出現するようです。このため強い痛みを感じるような治療は避けた方が良いと思われます。また顔面神経麻痺では治療院ごとに、大きく治療法が異なります。病的共同運動や拘縮防止の配慮がされているかはもちろん、治療実績があり明確な治療プログラムの有無は確認された方が良いかもしれません。結果が明確な上やり直しが利かない疾患ですので、通院可能で十分な治療内容を伴った治療院をお探し下さい。
・顔面神経麻痺は、医学的に回復可能な時期は発症後半年、針灸治療でも一年程度までです。(この期間は絶対ではありませんが、確率的に非常に厳しくなるという意味です。) 後から過ぎた時間を取り戻すことはできません。回復可能な時期に十分な回復が得られていない場合には、少しでも早く通院可能な治療院で適切な針灸治療をお薦めします。
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