ギンライとキシーユ
3 恋人になる
午前は日雇いの仕事をして、午後は体を鍛える。それがギンライの日課になった。キシーユは、それを見ていた。彼女はとてもいい子だった。母の手伝いをしていて、ちっとも遊ばなかったし、とても聞き分けが良かった。彼女はまだ7歳だった。
「キシーユちゃん、無理しないでね。少しくらい我が侭言っても怒らないから。」
「はい。おば様。わたし、充分やりたいようにしてるわ。」
「そう?」
そんな事ない。7歳の女の子にしてはいい子過ぎる。辛い事があったのだ。悪い子でも許してあげようと、ギンライの両親は話し合っていたのだ。それなのに…。
格闘練習に励むギンライを見ながら、キシーユは少しだけ不満だった。ギンライは彼女に構ってくれる。町の子達は、村育ちの彼女を馬鹿にすることなく、遊ぼうと誘ってくれる。ギンライの両親も…。皆優しい。
でも。
「本当の恋人達は、お仕置きがあるわ…。」
ギンライは、キシーユを抱いたり、頬にキスをしてくれるだけ。これじゃただの子供扱いだ。彼からお仕置きを受けたい。恋人としての、ちゃんとしたお仕置きを…。
ギンライから、怒られた事すらないのに、そんな事有り得るのだろうか。「有り得るの!わたしはギンライを愛してるんだから!」
ギンライからお尻をぶたれていないのに、彼のお父さんからお仕置きされるなんて嫌だ。だからこそ、キシーユは頑張っていい子にしていたのだ。可愛い恋心。
「どうした、キシーユ?」
「ギンライ、頑張ってねって言ったの!」
汗だくのギンライは、キシーユに明るい笑顔を向けた。
「ああ、頑張るさ。」
「わたし、飲み物持ってくるね!喉、乾いたでしょ?」
恋人なんだから、もっと早く気づかなきゃ!キシーユは焦りながら、家へと急いだ。
「キシーユ、女の子は走っちゃ駄目だぞ。」
「分かってる!」
可愛い妹の後姿をギンライは微笑ましく、見守っていた。
夜。母とキシーユはお風呂へ入っていた。ギンライは、父と酒を飲んでいた。言葉はあまり交わさない。いらないからだ。
「どうだ?」
「そろそろ、師匠を探そうと思ってる。」
「町外れに、第三者くずれがいる。」
「知ってた…。…有難う。」
「ああ。」
会話は終わって、また静かになった。ギンライの両親は、何十回目かの子育てを終えて、今は休んでいる。だから、家には4人しかいない。
その静けさを破るように、キシーユがお風呂から出て来た。ギンライは立ち上がると、タオルを持ってキシーユの元へ行くと、彼女を拭いてやる。
「気持ち良かったか?」
「…。」
「のぼせたんじゃないだろうな?」
「…。」
「?」
ギンライは、返事をしないキシーユを不思議になって見たが、気分が悪そうではないので、パジャマを着せてやろうと決めた。「さ、キシーユ、今日はこのパジャマを着ような。」
「嫌!」
「え?これ、嫌か?」
「嫌、嫌、嫌なの!」
「えーと、じゃあ違うのを持ってきて…うわっ、いてててっ。」
「違うのぉーっ。」
「いてっ、キシーユ、なんで霰(あられ)を飛ばすんだ?」
キシーユは雪女だ。まだ幼いので寒くなる吹雪しか起こせないが、勢いよく飛んでくる霰は痛いのだ。「雹(ひょう)はもっと痛いって。」
霰よりさらに大きい雹が飛んできて、ギンライは逃げ出した。
「…なんで。どうして…。」
驚いた表情でこちらを伺っているギンライを見たキシーユは、悲しくなった。我が侭言ったのに、痛い目に合わせたのに、怒ってくれない…。「うえーんっ!!ギンライの馬鹿あっ!!」
「何だ…?俺が何したんだ…?」
恐る恐る近づいたギンライは、泣いているキシーユを優しく抱いた。「なあ、キシーユ。どうしたのか、教えてくれよ…。あっ、もしかして、…俺が皆を見捨てて逃げた事を…。」
「それはいいって言ったでしょ!?わたしだって、死にたくないもん!そんなの関係ないよっ!」
「…とりあえず、パジャマを着ようぜ。風邪引くから、な?」
ギンライは、扱いに困って、やりかけの仕事を終えようと思った。キシーユが暴れ出した。ギンライは、何とか彼女を押さえ込むと、パジャマを無理矢理着せた。
「嫌あっ、ギンライなんか大っ嫌い!!」
「キシーユ、文句なら後でいくらでも聞くから、パンツはけよ。」
キシーユは暴れて、ギンライから逃げ出した。「パンツはかないと、大事な所が見えちゃうぞ。」
「そんな事、どうでもいい!」
「髪乾かさないと、後で痒くなるぞ。」
それを聞くとキシーユは、どん、どんと床を踏み鳴らした。
「なあ、どうしちゃったんだ?キシーユ。」
「ギンライは、わたしをどう思ってるのよ?」
「可愛くて、愛してるさ。」
「わ・た・し・を何だと思ってるの?」
「大切な子だ。」
「本当に大切なの?」
「じゃなきゃあの時、連れて逃げないさ。」
「…。」
「あの時、お前を置いてくれば、お前は今頃、家族皆で天国だ。」
「…。」
「それだって、一つの幸せだ。もう殺される事もない。皆で幸せに一緒に苦痛すらなく、過ごせるんだ。」
「…知ってるわ。…でも、わたしが言いたいのは、そんな事じゃないの。わたしはあなたを愛してるわ。」
「俺だって、可愛く思って…。」
「わたしはあなたを恋人だと思ってるわ!」
キシーユは、下を向いた。「ギンライだってそう思ってくれてると、思ったのに…。」
「…。」
ギンライは吃驚した。嘘だろと言いかけて止めた。目の前にいるのは、7歳の子供ではなく、一人の女だった。『どうする、どうする…。どうすれば…。』
「わたし達、もっと深くなりたいって思ったの!本当の恋人は、お仕置きがあるわ。でも、ギンライはお尻をぶってくれない。わたし、試したのに…。ギンライは、小さな子供がする事だからと、ただ許してくれた…。」
キシーユはまた泣き出した。「わたしの下らない思い込みだったのね…。わたし、子供だもんね。でも、本当に愛してるのに。」
「それは子供の言う事じゃない。」
「…。」
「今のお前は、女だな。」
「…。」
ギンライは、ゆっくりキシーユに近づいた。心は決まった。これから自分は、キシーユをどう扱うかをはっきり決めた。
ギンライは、キシーユをぎゅっと抱き締めた。抗う彼女を押さえ、そして、その可愛らしい唇に…キスをした…。
「恋人には、気を使わないからな。今までみたいに構わないからな。拗ねたら、尻ひっぱたいて叱ってやるからな。」
「ギンライ…。」
「今までみたいにしないからな。…それでも、いいんだな…?」
「うん!うん!」
キシーユの顔がぱっと輝く。
「じゃあ…。」
「なあに?」
「さっき、我が侭言ったお仕置き、してやる。」
くるんとキシーユの視界が回った。「俺に霰と雹を飛ばしたお仕置きもだぞ?…真っ青にしてやるからな。」
ギンライは、キシーユのパジャマを捲くって、裸のお尻を出した。
「はい!」
「嬉しそうにするな。」
「ごめんなさい…。」
「じゃ、行くぞ。」
ぱんっ、ぱしっ、ぴしっ、ぱちんっ。一打ちごとにお尻の状態を確かめて、強く叩きすぎていないかを気にしながら叩いた。これくらいでいいだろうと思える力が決まったので、ギンライは、その力で叩き始めた。ぱちんっ、ぱちんっ。
「あーんっ、ごめんなさあいっ。」
「まだまだだぞ。我が侭言って、暴れたりして!散々俺をてこずらせて。たっぷりお仕置きしてやるからな!」
ぱちんっ、ぱちんっ。可愛いお尻が濃い色になってきた。キシーユの肌は、水色だ。流れる血は青なので、水色のお尻は青になった(で、いいのかなあ、自信ない…)。
「うえーんっ、ごめんなさいっ、もうしないから…好きでいて…。」
「もうしなくて、当然だぞ。それと、それくらいで嫌いにならないから、安心しろ。その為に、お仕置きするんだから。」
ギンライは言った。