壊れたラルスが生きている世界

14話

「へえ。綺麗なお城。」
 ラルスはザンの城の前に立っていた。そこはトゥーリナ達の要塞のような城とは違い、王侯貴族の住居ような、見た目にもこだわった美しい城だった。
「だろう。皆、この見た目に騙されるんだ。所詮、女が作った城かってなめてかかる。そうやって油断させといて……ってわけだ。」
 妖怪のザンが楽しそうに言ったので、ラルスは吃驚した。
「えーっ? それってつまり、罠だらけとか、そういうことですか?」
「そうさ。いいアイディアだろ。」
 自慢げな彼女を見ながら、ラルスは、僕のことを酷く言っておいて、自分の方がよっぽど好戦的じゃないかと思うのであった。

 城は内装も美しかった。人間の感覚でも、それは美しいと感じられたはずだ。彼女はああ言ったが、多分、戦闘用の城よりはこういう城の方が、住みやすいというのもあるのだろう。なんといっても彼女は元王女なのだ。
「お前、そんな田舎者丸出しな……。」
 あちこちをのんびり眺めて歩くラルスへ、ザンが呆れたように声をかけてきた。
「田舎者ですから。」
「……。……俺は暇じゃねえから、見学したいなら、用が済んでからにしてくれ。」
 ラルスが本気なのか、ふざけているのか分からなかったらしく、ザンがそっけなく言った。
「そうでしたね。トゥーリナ達があんなに忙しそうなのに、第二者のザン様が暇を持て余すってことはないですよね。ごめんなさい。」
「……おおよ。ってーわけだから、俺の部屋へ急ぐぞ。」
 ザンがいきなり走り出したので、ラルスは慌てて追いかけた。


 父の部屋の扉同様、お金がかかっていそうな扉を開けると、そこがザンの仕事部屋だ。窓際に、歯があるつぼみをつけた草が、ゆらゆら動いていた。
「うわっ、名無し草(そう)だ。あれって、なかなか人に懐かないって聞きましたけど。」
「あれ用の餌も出回ってるのにか? まあ、飼い始めた頃は暇だったしなあ……。覚えてねーや。」
 ザンが何でもないといった態度で、部屋の真ん中にある仕事用の机へ歩いて行く。引き出しを開き、手を広げてマーカコインの塊を手にした。全部で20枚くらいありそうだ。彼女がそれを机の上に並べる。「で、どれがいい?」
 ラルスは机まで歩いていくと、マーカコインを眺めた。トゥーリナのマーカコインも、やはりかっこよさを前面に押し出したものばかりだ。彼はハンサムなので、職人達も力の入れ甲斐があっただろう。
「……これ……。」
 背中を向けたトゥーリナ。その後ろに百合恵とリトゥナ、そしてギンライ。何故かターラン。最初は、小さいのに5人も彫るなんて凄いなーと思ったが……。「ああ、そうか。トゥーリナの大切な人達なんだ。……なんでターラン君がいるのか、とっても不思議だけど。」
「ターランはトゥーリナの親友なんだよ。トゥーリナから見れば。」
 ザンが含みのある言い方をした。
「ターラン君から見れば違うってことですか?」
「ああ。でも、お前の思っているような意味じゃねぇ。トゥーリナは、何でこうなったって言いてえだろうが。」
「なんとなく分かりました。」
 今見つけたマーカコインがその答えだろう。幸せそうなターランと、困り果てたようなトゥーリナ。芸術品というよりは風刺漫画みたいだ。そのターランは、トゥーリナと腕を組んでいる。が、トゥーリナの手は解こうとしているようで……。「皆で居間に座る時、ターラン君が百合恵を見る目でもなんとなく分かってた。そういえば。百合恵は後からやってきて、ターラン君の場所をとっちゃったんだ。」
「ま、そういうことだな。」
「それでも、トゥーリナは、ターラン君が大切な親友なんだ……。」
 ラルスは二つのマーカコインを楽しい気分で見ていた。



08年9月28日
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