特別企画(3)
私たちの知らない世界
〜映画にまぎれ込んだ心霊?たち〜



「リング」シリーズのヒロイン・山村貞子(伊野尾理枝)
「リング2」(1999年「リング2」製作委員会)
(「日本恐怖映画への招待」125ページ)
 

 
 昔から夏になると心霊現象を扱ったテレビ番組が放送される。僕も子どもの頃からそういった番組を見るのが大好きだった。例えば心霊写真。いるはずのない人物があり得ない場所に写っている。あるいは、体の一部がなぜか消えている。心霊現象が存在するのは間違いないと僕は信じていた。夜中に思い出してしまい、暗闇を見るのが怖くなり 、夏なのに布団を頭から被って寝たのも懐かしい想い出。
 それにしても日本人と言うのは怪談が好きだ。
       
 
  ◆マイケル・ジャクソンの幽霊と「ほんとにあった!呪いのビデオ」  
     
 ネットで検索すると、かなりの数の心霊写真や心霊動画を見つけ出すことができる。デジタルカメラや携帯カメラの普及で手軽に写真や映像を公開することができるようになったことがその一因ではないか。  
 2009年に急死したロック・ミュージック界のスーパー・スター、マイケル・ジャクソン(1958〜2009)。その死があまりにも急だったために、その真偽や原因についていろいろと論議を呼んだ。そのマイケルの亡霊の映像
(*1)が死後1週間も経たないうちにネット上をにぎわせたのである。件の映像は、アメリカのCNNが、マイケルの邸宅のあったカリフォルニアの“ネバーランド”を訪問し、彼の生前の生活を紹介する番組の中のもの。リポーターがマイケルの寝室を紹介している時、廊下の奥を黒い人影が左から右に横切る。「YOUTUBE」にアップされるやいなや、4日間で600万回再生されるほどの話題となった。冷静に考えれば、撮影スタッフか誰かの影が映っただけなのだろうが、中には「ムーンウォークをしている」と言いだす人まで出るありさまであった。
    
*1 「YOUTUBE/マイケルジャクソン亡霊」(http://www.youtube.com/watch?v=YiYYUtoP9mg
     
 
 
 これが本当にマイケルの幽霊かどうかはわからないが、本来映ってはいけないものが映っていたという点では確かに不可解で、紛れもなく心霊映像である。こうした映像ばかりを集めたオリジナル・ビデオに「ほんとにあった!呪いのビデオ」(1999年〜「ほんとにあった呪いのビデオ」製作委員会)シリーズがある。2014年9月現在、シリーズは59作まで製作されている。その他、スペシャル版を合わせると80作近い。劇場版も2本製作されている。ネット上で見ることができる心霊映像の多くは、このシリーズからのものである。
 不可解なものが映ってしまった映像が視聴者から送られてくる。ビデオのスタッフは関係者を訪ねその真相に迫ろうとする。中には単なる見間違いのような映像もあるが、どう考えても本物としか思えない映像も混じっている。その真偽についてはぜひご自身の目で確認していただきたい。
 “怪奇探偵”として知られる心霊研究家の小池壮彦(1963〜)は、このシリーズが一種のフェイク・ドキュメンタリーであると指摘している
(*2)。噂によれば、有名な映画作家が匿名で心霊映像を作っているとのことである(*3)。もちろん。だからと言ってこのシリーズの面白さ(怖さ?)が損なわれるというわけではない。そもそも僕らは、ホラー映画を作りものと知りながらも怖がって観ているのだから。
 
 映画の中にも、本来映ってはいけないはずのものが映ってしまうようなことが時たまあるようだ。インターネットでそういった作品を検索すると実に多くの作品が見つかる。近年のDVDの普及によって、誰もが高画質の映像を手軽に繰り返し楽しむことができるようになった。その結果、そういったたぐいの映画がかなりの数発見されるようになったのだろう。もちろんすべてがすべて本物の心霊現象ではないだろうが、今回そういった作品を片っ端から調査してみることにした。
 中にはすでに偽物と分かっているものもあるが、ここではそれらも含めて紹介することにしたい。なお、出来る限りビデオやDVDにおける映画本編の時間をあげておくので、興味のある方は実際に確認して欲しい。ただし、このエッセイでは偽物とわかっているものも含めて、心霊(とされるもの)の写真を載せることは避けることにした。なぜなら、霊障や祟りといったものは、“霊感”の強い人には間違いなく存在するからである。ここに載せた写真は、心霊の映っていない場面のものだけだが、僕には見えない物が見えてしまった場合にまで責任は持てません。
 なおこうした情報は基本的にネットや雑誌、テレビによるものだが、伝聞情報を鵜呑みにせず、すべての作品を自分の目で確認した。後述のように、意外と間違いが多いのである。
 

*2 小池壮彦「怪奇探偵の調査ファイル/呪いの心霊ビデオ」251〜258ページ
*3 「怪談・都市伝説・未解決事件・恐怖/怖い噂 VOL.1」12ページ

       
 
  ◆ダリオ・アルジェント「サスぺリア」の心霊  
 



「サスペリア」(1977年伊)
ヒロイン・スージーを演じるジェシカ・ハーパー
(「イタリアン・ホラーの密かな愉しみ」41ページ)
 

 
 
 心霊が映ってしまった映画の代表的作品としてはイタリアのダリオ・アルジェント(1940〜)監督のモダン・ホラー「サスペリア」(1977年伊)があげられる。公開当時から、心霊が映っているということで話題になった。
 この映画はアメリカから西ドイツのバレエ名門学校に入学するためにやってきた少女スージー(ジェシカ・ハーパー)が主人公。学校内で様々な怪奇現象が発生し、同級生が行方不明となる。やがて、この学校に魔女が棲んでいることを知ったスージーは、一人調査を開始する…。
 光と色を大胆に使用した画面と、ロックバンド“ゴブリン”の手による鮮烈なメロディが印象的な作品で、今やイタリアン・ホラーの古典だとも言える。
 問題のシーンは開始から3分30秒の場面に登場する。飛行機で西ドイツの空港に降り立ったスージーが、雨の中をタクシーに乗り込み行き先を告げる。この時雷光に照らし出されたガラス越しに、タクシー運転手の背中に口を大きく開いた男の顔が映し出される
(*4)
 このシーンは、監督のアルジェントによるヤラセとの説が根強い。アルジェントの研究書でも「意図的に演出されたもの」
(*5)とされている。以前とあるテレビの心霊特集番組で、映画監督でもあるビートたけし(北野武/1947〜)が「カメラマンだね」と指摘していたのを思い出す。何でもカメラマンというのは、目もとに集中するあまりつい口をあけてしまうのだそうだ。とすると、これは単にスタッフが映ってしまっただけではないだろうか。そう言われてみると、その幽霊は、アルジェントの顔(写真下)に似ているような気もする。案外、スタッフが映りこんでしまったのを面白がってそのまま残したというのが、真相であったりするのではないだろうか。

*4 「YOUTUBE/Japan ghost videos--21」(https://www.youtube.com/watch?v=GpivWg3LwkQ&feature=player_embedded#at=14
*5 矢澤利弘「ダリオ・アルジェント/恐怖の幾何学」102ページ
 
 
 



ダリオ・アルジェント
(「イタリアン・ホラーの密かな愉しみ」192ページ)
 

 
 
 「サスペリア」の幽霊が偽物だとすれば、同じアルジェント監督の「フェノミナ」(1985年伊)の場合もやはりヤラセかもしれない。
 「フェノミナ」はスイスの寄宿舎に転校してきた、昆虫と交信のできる少女ジェニファーを主人公としたモダン・ホラーで、ヒロインのジェニファーに、当時アイドル女優として人気のあったジェニファー・コネリー(1970〜)が扮している。
 その頃、少女が相次いで行方不明となる事件が発生。夢遊病で寄宿舎をさ迷い出たジェニファーは、事件の捜査に協力する昆虫学者のマクレガー教授(ドナルド・プレザンス)と知り合い、自身も捜査に協力することになる…。
 問題のシーンは開始後23分56秒。夢遊病に悩まされるジェニファーが、夜中さ迷い出たその目の前で、少女が惨殺される。少女が殺される様子をガラス窓越しに見ているジェニファー。この時、右側のガラス窓に黒いジャケットに白い服を着た人物の姿が映り込んでいる

 確かに、映画の中ではその場に他の人物はいないため、不可解に感じる。しかし、冷静に考えると、それはその場にいたはずの犯人の姿を映しているのではないのか。そうするとこれは犯人を暗示させるための演出とも取ることができる。実際、アルジェントは「サスペリアPART2」(1975年伊)で同じような演出を試みている。
 
 
  ◆「The EYE【アイ】」の幽霊たち  
 
 監督によるヤラセと言えば「The EYE【アイ】」(2003年香港/タイ/英/シンガポール)が思い浮かぶ。監督・脚本は双子のオキサイドとダニーのパン兄弟(1965〜)。16歳で角膜手術を受けた少女が、その一週間後に自殺したという実話に基づいている。
 幼い頃に失明した女マン・ウォン(アンジェリカ・リー)は、角膜手術を受け、視力を取り戻す。だが、それ以来彼女の目には死者の姿が見えるようになる。
 
 マンの目を通して、死んだ者たちの姿が我々観客にも見えるのだが、その中に本物の亡霊が映っているということで公開当時話題になった。
 問題のシーンは開始後1時間2分26秒。マンが、カウンセラーの若い精神科医(ローレンス・チョー)と電車の中で、癌で死んだ少女の手紙を読んでいる。2人の後ろの窓ガラスに、電車がトンネルに入って車内が写ると、不気味な老婆らしき顔の首から上がはっきりと映っているのが確認できる。同じ顔は直後の1時間2分48秒にも現れる。
 結論から言うと、このシーンは意図的な演出である。それは、DVDのオーディオ・コメンタリーにおいて、監督が「この作品では思わぬところに時々霊を登場させています」と語っていることからも明らかだ。
 だから、こういった場面は他にも頻繁に登場している。例えば、開始後25分22秒。マンがアパートの廊下で、通信簿を探す帽子を被った少年の亡霊と出会う場面。少年はうずくまり、蝋燭をかじっている。その時、隣家の住人が急にドアを開ける。すると少年はいなくなっている。よく見ると、その廊下の奥に黒い人影が立っている。オーディオ・コメンタリーで「帽子の子がさっき遠くに映ってました」と語っているのだから、演出なのは間違いない。
 1時間1分33秒の、マンが死んだ少女の墓に詣でた場面でも、墓地の間に立つ霊の姿が何体も確認できる。
   
 
  ◆「リング」シリーズ 貞子の呪い  
 



「リング」(1998年「リング」「らせん」製作委員会)
ヒロイン・貞子(伊野尾理枝)
(「日本恐怖映画への招待」123ページ)
 

 
 
 「The EYE【アイ】」は 2008年にハリウッドで「アイズ」としてリメイクされた。同様に、近年ハリウッドでは「ザ・リング」(2002年米)や、「THE JUON/呪怨」(2004年米)など、和製ホラーのリメイクが相次いでいる。なるほど、和製ホラー映画が国際的に高い評価を得ていることの証拠である。そうした和製ホラー映画の中にも、本物の霊が映っている(と言われる)作品がある。

 和製ホラー・ブームの先駆けとなった「リング」(1998年「リング」「らせん」製作委員会)。見た者は1週間後に死ぬというビデオテープをめぐる恐怖を描いたこの作品は、大きなブームとなった。
 「リング」と同時製作された続編「らせん」(1998年「リング」「らせん」製作委員会)が同時公開されたが、翌年にはそれとはまったく違ったストーリーの続編「リング2」(1999年「リング2」製作委員会)も製作されている。さらに、「リング」の物語の過去を描いた「リング0〜バースディ〜」(2000年 「リング0〜バースディ〜」製作委員会)が作られ、ごく最近も「貞子3D」(2012年「貞子3D」製作委員会)、「貞子3D2」(2013年角川書店/東北新社)が作られている。2002年にはハリウッドで「ザ・リング」としてリメイクされ、2005年にも続編「ザ・リング2」が製作された。また、韓国でも「リング・ウィルス」(1999年)としてリメイクされている。その他、テレビ・ドラマ版もある。
 白い服に顔を隠す長い髪という姿で登場する超能力少女・山村貞子のインパクトも大きく、こちらも様々な亜流やパロディを生み出した。例えば、「呪怨」シリーズ (1999〜2009年)の佐伯伽椰子や、「ほんとにあった!呪いのビデオ」(1999年「ほんとにあった呪いのビデオ」製作委員会)に登場する白い服の女などに、その影響がうかがえる。その影響の大きさ広まり方は、まるでシリーズに登場する突然変異の病原体“リング・ウィルス”そのものではないか。
   
 
 
 この「リング」シリーズにも、奇怪な噂がいろいろとある。
 記念すべきシリーズ第1作の「リング」(1998年「リング」「らせん」製作委員会)。この作品に本物の幽霊が映っているという。そのシーンは開始後33分18秒。呪いのビデオを見てしまった女新聞記者の浅川玲子(松嶋菜々子)が、元夫の大学教授・高山竜司(真田広之)に助けを求める。高山が例のビデオを見ている間、ベランダで待つ浅川。やがて、観終わった高山に促され、浅川は部屋に入る。後ろ手にベランダの窓を閉める浅川だが、この時窓ガラス越しに浅川の背中に笑っている女のような顔が映り込んでいるそうだ
(*7)
 実を言うと僕には何度見ても霊には思えなかった。確かに顔のように見えなくもないが、単に光の加減でそう見えるだけではないのか。いわゆるシミュラクラと考えた方が合理的であろう。だいたい僕たち人間には、三つの点を顔として認識してしまう類像現象(シミュラクラ現象)があるのだ
(*8)そうで、大半の心霊写真はこの現象で解明できる。そう思っていたら、僕はこのページの壁紙の中にも顔を発見してしまった。みなさんはどうだろう?
 
*8 「恐怖!心霊写真 〜類像現象編〜」(http://www.geocities.co.jp/Technopolis/7651/sin/03.html
 
 
 



「リング」(1998年「リング」「らせん」製作委員会)
(「日本恐怖映画への招待」123ページ)
 

 
 
 インターネットでいろいろと映画に映った心霊の噂を調べていると、「リング2」(1999年「リング2」製作委員会)にもそのような噂があることがわかった。こちらは霊の姿ではなく声。
 洞窟に入ってくるシーンで「りかこ」という男性の声が入っているのだという。“りかこ”と言えばRIKACOこと村上里佳子(1966〜)が思い浮かぶ。ということは 、声の主は当時の夫だった渡部篤郎(1968〜)なのか? まあそれは冗談として、「リング2」を観直してみた。問題のシーンは、貞子の呪いを解くために、貞子の生まれ故郷大島へ渡ったヒロイン・高野舞(中谷美紀)が、貞子の伯父・山村敬(沼田曜一)と共に貞子の生まれたという洞窟へ入っていくシーンである。1時間10分ちょうどのところで、微かに声が入っているようにも思えるが、それが「りかこ」という声なのかどうか、判断はつきかねる。何度も繰り返して聞くうちにそう思えてこなくもないが…。
 この謎の声についてはテレビ番組「奇跡体験!アンビリバボー」において検証されている。それによると、件の洞窟のシーンは神奈川県三浦半島で撮影されたもので、20年ほど前(ということは1979年頃)に崖から身を投げ、洞窟の前の手すりに引っかかって死んでいた男子高校生がいたそうである。日本音響研究所所長の鈴木松美(1941〜)の分析によると、「りかこ」という声の主は160センチ、細面の、20歳前の男性の声とのことである。
 ビデオ版「奇跡体験!アンビリバボー/怪奇写真恐怖映像コレクション」(1999年)も出ているが、現在では廃版のようで、DVD化もなされていない。だから、詳細について知りたい方は、「Rei 心霊研究」の「奇跡体験!アンビリバボー検証」(http://www003.upp.so-net.ne.jp/reisite/back/psy/tv/u00504.htm)を参照して欲しい。
   
 
    
 最初の「リング」の前の時代にあたる、山村貞子(仲間由紀恵)の青春時代を描いた「リング0〜バースデイ〜」(2000年「リング0〜バースディ〜」製作委員会)。この作品は、恐怖よりもむしろ貞子の悲劇を前面に押し出した作品である。
 この「リング0」にも不可解なシーンがある。それは開始後1時間5分1秒。かつて、貞子の超能力によって婚約者を殺された新聞記者・宮地彰子(田中好子)は、貞子に復讐せんとつけ狙う。一方、貞子は女優として劇団に入団。主演女優の急死によって主役の座を射止めた貞子だったが、晴れの舞台の日、宮地の策略によって、舞台は大混乱に陥る。舞台に現れた、貞子の母・志津子の亡霊(雅子)。それを見た貞子は「お母さん」とつぶやく。その後一瞬志津子の姿が映り、再び貞子の姿が映し出された時、その後ろに立つ女性の姿が確認できる
(*9)
 この女性だが、どうも僕には演出に思える。ネタバレになってしまうので詳述は避けるが、貞子の謎を解く“もう一人”の姿なのではないだろうか。
 
 ひょっとしたら本物かもしれない怪奇現象はむしろ別の場面である。開始後29分ちょうど。貞子の劇団仲間の立原悦子(麻生久美子)が、一人控室で貞子の衣装を直している。不思議な気配を感じた悦子が辺りを見回す。この時カメラが右から左に動くのだが、この時画面の左、衣装掛けの下のほうに注目してもらいたい。衣装の端から人の手のようなものが覗いているのがはっきりと確認できる。いったいこれをどう説明したらよいのだろう。スタッフの手にしては明らかに不自然で、人の手にしてはやや大きすぎるような気もする。あるいは小道具か何かなのかもしれないが、そこにある必然性がない。
 
 
 



「リング0〜バースデイ〜」(2000年「リング0〜バースデイ〜」製作委員会)
貞子を演じる仲間由紀恵
(「日本恐怖映画への招待」126ページ)
 

 
 
 「リング」は2002年にハリウッドで「ザ・リング」としてリメイクされた。貞子は“サマラ”という名前に改められ、オリジナルの雰囲気を残しつつ、アメリカ的なアレンジの加えられた作品となっていた。
 ところが、この「ザ・リング」にも怪しい人影が映っているのだという。どうも「リング」の呪いは、海をも越えるようだ。その問題のシーンは開始後1時間36分37秒。主人公レイチェル(ナオミ・ワッツ)とその元夫ノア(マーティン・ヘンダーソン)が、古井戸の底からサマラの遺体を見つけ、すべてを解決したと思い、レイチェルの家へ帰ってくる場面。ノアが二人の息子エイダン(デビッド・ドーフマン)を抱き上げた場面にその影は見える。この時、画面中央奥にある部屋の中に黒い人影が左右に揺れているのが確認できる。
 ベビーシッターにしては不自然である。その黒い人影の動きが、ノアたちの様子をうかがっているかのようにも見えるので、スタッフかとも思われる。だとすればあまりにもお粗末なミスではないだろうか。

  
 
 



「死国」(1999年「死国」製作委員会)
根岸季衣
(「日本恐怖映画への招待」119ページ)
 

 
 
 「リング2」と同時上映された、坂東眞砂子(1958〜2014)の同名小説の映画化である「死国」(1999年「死国」製作委員会)は、四国八十八ヶ所霊場を、死者の年齢の数だけ逆打ち(八十八番から順に回る)すると、死者が甦るという禁断の儀式をテーマとしている
(*10)
 15年ぶりに故郷の高知に帰ってきた明神比奈子(夏川結衣)は、幼馴染の日浦莎代里(栗山千明)が16歳の時に死んでいたことを知る。もう一人の幼馴染の秋沢文也(筒井道隆)と再会した比奈子だったが、二人の周りに莎代里の姿が現れるようになる…。
 若くしてこの世を去りながら未だにかつての恋人・文也のことを思い続ける莎代里の姿には、恐怖よりも切なさを感じる。これが実質的なデビュー作となった栗山千明(1984〜)が不思議な存在感と魅力を発揮している。
 この作品にも、霊が映っているという噂がある。23分19秒のシーン。村祭りで文也と再会した比奈子が、二人で河原に出て莎代里のことを話している。この時、二人の後ろに一人の少女が立ってこっちを見ている姿がぼんやりと映っている

 これは、明らかに演出である。すぐ後に比奈子の「莎代里ちゃんが私たちのこと見てたような気がしたの」という台詞があることからも、間違いない。実際、この後様々な形で莎代里が2人の前に姿を見せる。件の心霊とされる少女は、白いブラウスに黒いスカート、白いソックスといういでたちだが、その後に登場する莎代里の霊も同じ格好である。問題のシーンだけを見ると、霊だと感じるのは無理もないが、最後まで映画を見てから判断することが大切である。

*10 実際には「逆打ち」は3倍の御利益があると言われているため、決して縁起が悪いわけではない。
  
 
  ◆「呪怨」シリーズ  
 



「呪怨」(2003年「呪怨」製作委員会)
奥菜恵
(「恐怖の映画術」165ページ)
 

 
 
 和製ホラー映画の中でも、「リング」シリーズと並ぶ人気シリーズとなったのが「呪怨」シリーズである。
 女の怨念が、次々と死を招くという展開は、おそらく「リング」からの影響であろう。プロデューサーの一瀬隆重(1961〜)、監修の高橋洋(1959〜/「リング」では脚本)とスタッフも共通している。オリジナル・ビデオとして製作された「呪怨」(1999年東映ビデオ)、「呪怨2」(2000年同)に始まり、劇場版「呪怨」(2003年「呪怨」製作委員会)、「呪怨2」(2003年「呪怨2」製作委員会)が公開された後、「THE JUON/呪怨」(2004年米)、「呪怨パンデミック」(2006年米)としてハリウッドリメイクされた。他の関連作品も含めれば、リング・ウィルスなみの広がりを見せている。

 この「呪怨」シリーズもやはり、公開当時からいろいろな奇怪な噂は流れたが、映画そのものにまつわる怪奇現象は意外と少ない。同じ女の霊でも佐伯伽椰子(藤貴子)は、貞子ほど執念深くないようだ(笑)
 
 そんな「呪怨」シリーズで唯一、霊が映りこんだと思われる場面は、劇場版「呪怨2」(2003年「呪怨2」製作委員会)。開始後1時間17分50秒。市川由衣(1986〜)演じる少女・千春が霊となって自分と友人を見下ろしている場面の直後。舞台となる屋敷の玄関の中に閉じ込められた千春の肩の向こうに白い男の顔が浮かんでいるように見える。その男の顔は口をあけて叫んでいるようだ。
 白い顔…ということで、最初は、子供の霊・俊男(尾関優哉)なのかな、と思った。しかし、どうも違うようだ。千春の肩で隠れても、その顔はまったく動かない。何かがたまたま人の顔に見えているだけではないだろうか。
  
 
  ◆Jホラーシアター  
 
 2004年、「リング」シリーズのプロデューサー一瀬隆重が製作し、6人の監督による競作“Jホラーシアター”が始まった。その第1弾となったのが落合正幸(1958〜)監督の「感染」(2004年「感染」製作委員会)と、鶴田法男(1960〜)監督の「予言」(2004年「予言」製作委員会)であった。

 「感染」は、経営不振で消耗品にも事欠く病院に、謎の感染症患者が運ばれてくることから引き起こるパニックを描いている。
 その映画のほぼ冒頭、開始後2分10秒、星野真里(1981〜)演じる新米看護婦・安積まどかが、全身火傷で意識不明の患者に注射をしている場面。注射をすると患者が動いたため、まどかが悲鳴をあげて後ろにのけぞる。その時彼女の後ろに女性が立っているのが一瞬だがはっきりと見える。その前後の場面を見る限り、この場にいたのは彼女一人切りのはずだから、いったいこの女性は誰なのだろうか。
 心霊にしてははっきり見えすぎている気がする。もっとも、心霊がぼんやりと映るというのはあくまでも我々の先入観であり、そもそも間違いなく本物だと認定された心霊映像が存在しないのだから、判断のしようもないのだが…。しかし、件の女性はどうもこの映画に出演している真木よう子(1982〜)に似ている気がする。脚本の変更等によって、本来ここにいたはずの真木の場面がカットされてしまった可能性を考えよう。そうすると、まどかが驚いているのに、その女が表情一つ変えていないのが不自然に も思える。最初、まったくの無表情であるから、ポスターか何かではないかと考えたのだが、それも不自然である。
 残る可能性としては、演出、悪く言えば宣伝ではないのか。そもそもこの問題のシーンが明らかになったのは、映画の公開前。試写会の上映前にも司会者からそのことが発表されたそうなのだ
(*11)。映画の話題作りとしてはこれ以上無いタイミングである。しかも、同時上映の「予言」にまでそんなシーンがあるというのだから、疑惑はますます深まる。
   
 
 



「感染」(2004年「感染」製作委員会)
南果歩と佐藤浩市
(「恐怖の映画術」165ページ)
 

 
   
 その「予言」は、つのだじろう(1936〜)原作のオカルト漫画「恐怖新聞」(1973〜76年)を原作とし、現代的なテイストを加えた作品。もっとも、「未来を予告した新聞が届く」という設定のみが同じで、内容はまったく映画オリジナルと言ってもいい。娘の死を予告した「恐怖新聞」を目にしていながら、娘を救うことのできなかった男(三上博史)が、そのショックから心に傷を負い、妻とも別れて味わう苦悩を描いている。途中で登場する「恐怖新聞」を研究する学者(山本圭)の名前が、原作漫画の主人公・鬼形礼と同じというお楽しみがある。
 問題のシーンは、映画開始後49分3秒、三上博史演じる主人公の元妻(酒井法子)が車で彼のアパートを訪ねてくるシーン。車が左折してアパートの前に入ってくる時、アパートの屋根の上をオレンジ色の光が点滅しながら浮遊しているのが確認できる。関係者によれば、「街灯や照明効果ではありません
(*12)」とのこと。最初、ヘリコプターかとも思ったが、明らかに動きが変だ。ということはUFO? とすれば、心霊とは別の意味で問題がある。だがよく見ると、件の光はアパートの手前を通って浮かんでいる。
 スローモーションで何度か観直したところ、なんてことは無い。車のウィンカーが反射しているだけだと分かった。光は、ウィンカーが点滅すると同時に点滅し、車が動くにつれて動きを変えている。
 わかってみるとあっけないが、「感染」と併せて考えるに、スタッフの確信犯的行為のような気がしてならない。

*11*12 「コミュニケーションという不思議:ホラー映画『感染』、『予言』に心霊現象が?」(http://ameblo.jp/fushigi/entry-10000015338.html
  
 
 



「予言」(2004年「予言製作委員会)
(「恐怖の映画術」217ページ)
 

 
 
 Jホラーシアターは翌年、清水崇(1972〜)監督による第2弾、「輪廻」(2005年製作委員会)が公開されたが、これにも不可解な現象が見られるというが、こうなるともはや驚きもしない。
  この作品は、35年前の無差別殺人をモデルとして製作されることになった映画のヒロインに選ばれた女優・杉浦渚(優香)が、幻覚と夢に悩まされ、やがて次々と引き起こる怪現象が描かれる。
 問題のシーンは映画のほとんど終わりの方、開始後1時間26分38秒の場面。ネタばれになるので、あまり詳しく説明できないが、優香(1980〜)演じるヒロインが、追われて民家の2階に逃げ込んだ後、並行して挿入される8ミリフィルムの映像が終わるところである。フィルムが終わり画面が白くなる直前、 ヒロインのつま先の向こう側の部屋から、顔らしきものが一瞬覗くのが映る。
 これは、タイミングを誤ってスタッフが顔を出してしまっているようにも思える。
           
 
  ◆和製ホラーの中の心霊たち  
 



「女優霊」(1996年WOWOW/バンダイビジュアル)
石橋けい
(「日本恐怖映画への招待」118ページ)

 

 
 
 その他にも、和製ホラーの中には、不可解な映像が映ってしまっているものが多い。

 その一つ「女優霊」(1996年WOWOW/バンダイビジュアル)は、「リング」の中田秀夫監督(1961〜)の劇場デビュー作であり、和製ホラーの先駆けとなった作品といえる。
 製作中の映画フィルムの中に、別の映画のフィルムが混じっていたことがきっかけとなり、次々と引き起こる怪奇現象が描かれる。
 問題のシーンは映画のラスト1時間12分40秒の場面。劇中劇の主演女優を演じる白島靖代(1970〜)が、鏡をのぞき込み、そして振り返る場面。その時、鏡の向こうに、こっちを向いて立つ女性の姿が映っているのが見える。
 作品そのものの恐さからも、これを本物と見なしたいところではあるのだが、残念ながら本物ではないだろう。監督や出演者の身の回りで、あるいは撮影澄みのフィルムの中に、謎の女性の姿が現れる。ということは、ラストのこの女性も、同様のものだと考えた方がいい。そう考えて観ることで、ヒロインのその後に不吉なものを感じさせる。
    
 
 



「降霊」(1999年関西テレビ放送/ツインズジャパン)
風吹ジュン
 

 
 
 黒沢清(1955〜)が監督したテレビ映画「降霊」(1999年関西テレビ放送/ツインズジャパン)。映画開始後3分49秒。風吹ジュン(1952〜)演じる霊媒の女性が、大学のロビーで一人待っている。その時、彼女の右後ろに黒い人影が立っているのが見える。
 残念ながらこれも確実に演出である。風吹は、草g剛(1974〜)演じる大学院生に向かって「さっきまでここに(霊が)いました。」と言うからである。 しかしながら、この「降霊」における幽霊の描写はなかなかリアルで、とりわけ、開始後21分26秒以降のファミレスに現れる赤い服の女の霊などは、顔が崩れていて、見えそうではっきり 見えない。本物以上に本物の幽霊を思わせる。
   
 
 



「着信アリ」(2004年)
柴咲コウ
 

 
 
 作詞家の秋元康(1956〜)企画・原作の「着信アリ」(2004年)は、携帯電話が死の予告をするというモダン・ホラー。
 自らも死の予告を受けたヒロイン・中村由美(柴咲コウ)が、その呪いを解くために廃病院へとやってくる、開始後1時間16分40秒。ブレーカーを戻した由美が、携帯の着信音を聞いてさらに進もうとした時。壁にかかっていた鏡の中を、人の手がすーっと下に降りていく。
 注意して見ないとわからないほど小さな部分なので、演出ではないように思われる。とすると、スタッフ等の手が映ったのだろうか? ともかく、小さすぎるため判断するのは難しい。
   
 
 



「うずまき」(2000年「うずまき」製作委員会)
 

 
 
 「うずまき」(2000年「うずまき」製作委員会)は、小さな町が得体の知れない“うずまき”に襲われる恐怖を描く、伊藤潤二(1963〜)の漫画の映画化。ヒロイン桐絵(初音映莉子)の恋人・秀一(フィーファン)の父(大杉漣)がうずまきに取りつかれて自殺。その事件に興味を持った新聞記者田村(堀内正美)が、2人と共に父が死の瞬間まで撮影し続けていたビデオを確認する…。
 映画開始後51分1秒。ビデオが消えてブラウン管に部屋の中の様子が映った場面。部屋の中には田村、秀一、桐絵の3人だけがいる。その時、彼らの後方右上に男の上半身が浮かんでいる。男の顔は青白く、何とも恨めしそうな表情をしている。
 映像の中に様々な仕掛けを凝らした作品だけに、演出かとも考えられる。しかし、この男については作品の中でまったく言及されていない。
  
 伊藤潤二の代表作は「富江」であろう。こちらも「富江」(1999年大映/アートポート)から「富江アンリミテッド」(2011年東映ビデオ)まで8作の映画が製作されている。ヒロイン川上富江は、男を虜にする美少女。体がバラバラにされると、その破片の一つひとつからそれぞれ富江が再生し、無限に増殖していく。最初の菅野美穂(1977〜)から、宝生舞(1977〜)、酒井美紀(1978〜)、安藤希(1982〜)と多彩な顔ぶれが富江に扮している。その増殖ぶりは、「リング」シリーズの貞子にも劣らないが、今のところ「富江」シリーズに本物の幽霊が出現したという噂は聞いていない。
     
 
 



「富江Replay」(2000年大映/アートポート/スターマックス)
宝生舞
 

 
 
 「うずまき」に主人公の友人役で出演していた佐伯日菜子(1977〜)は、「らせん」(1998年「リング」「らせん」製作委員会)では山村貞子を演じている。他にも「エコエコアザラク〜III/MISA THE DARK ANGEL」(1997年ギャガコミュニケーションズ)、「STACY」(2001年ギャガ・コミュニケーションズ)にも出演し“ホラーの女王”などとも称される。その彼女が主演したのが「蛇女」(2000年円谷映像)である。
 「蛇女」というと、楳図かずお(1936〜)原作のホラー漫画「へび女」が思い浮かぶが、これはまったくの別物。佐伯演じるモデルの文が、バイオテクノロジーによる不老の研究をする大学教授・守宮一樹(石橋保)と交流するうちに、得体の知れない恐怖を味わう。ここでの蛇女と呼べる存在は一樹の妹・匡子(夏生ゆうな)である。
 心霊現象は、開始後34分21秒。一樹と親しくなった文が一樹の家に泊まり悪夢にうなされる。その時、彼女のいる和室の窓から女の顔が覗いている。
 何のことは無い。後々の展開を考えると、これは匡子だろう。つまり明らかな演出である。あまりにもはっきり映りすぎており、これを心霊現象だと思った人は誰もいないのではないか。 
   
 
 



「蛇女」(2000年円谷映像)
佐伯日菜子と石橋保
 


 
 
 20世紀末から21世紀初頭にかけて陰陽師がブームとなった。夢枕獏(1951〜)の小説「陰陽師」はシリーズ化され、2001年にはドラマ化・映画化もされている。同じ頃、やはり陰陽師をテーマとした作品がいくつか製作されているが、その中の一つにオリジナル・ビデオ「陰陽師/妖魔討伐姫」全3部(2002年エスピーオー)がある。
 この作品の舞台は現代。安藤希(1982〜)が陰陽師の名門の流れを汲む少女・龍神摩利に扮し、失踪した父の行方を探しながら、邪悪な陰陽師との戦いを繰り広げる…。
 この作品に心霊が映っているのは第1話。クライマックスの直前の44分59秒。山奥の廃墟で、悪霊に取りつかれた老人が、摩利たちに襲いかかってくる場面。この時背後の窓の外に人が立っているのが確認できる。女性だろうか? スタッフあるいは野次馬が映りこんだと考えるのが無難だが、以前テレビでこの場面が紹介された際には、窓の外は断崖絶壁だとされていた。もっともこうした噂にはたいてい尾ヒレがつくものである。(下記「スリーメン・アンド・ベビー」を参照。)
  
 
 

 このように、ホラー映画の中には心霊現象(と思われるもの)が、かなり多く見られる。それはいったいなぜだろうか。
 「百物語」という遊びを御存じであろうか? これはたくさんの蝋燭に火をつけ、一人が怪談を話すたびにひとつずつ消していくというもの。最後の1本が消えた時、怪現象が起きるそうだ。つまり、怪談話に霊が引き寄せられるというわけだ。ホラー映画もそれと同じで、撮影現場には霊が寄ってくるのかもしれない。
 もっとも、ホラー映画の観客というのはただでさえ疑心暗鬼になっている。何でもないものまで、心霊だとみなしてしまうようである。「女優霊」「死国」「降霊」「リング0〜バースデイ〜」「蛇女」…。これまでに紹介した心霊現象の中にも、実際には演出効果に過ぎなかったりする ものもあるのだが、観客は映っているものを観て恐くなってしまうのだろう。また、その場面だけ見れば、本物の心霊にも思えたりするが、作品全体を通して見ればなんてことはないということがある。
 さらに、ホラー映画を製作する側にも、我々観客を驚かせようという意図があり、時に悪戯をしかけてくる。「サスペリア」や「THE EYE」の心霊がそうであった。ひょっとしたら他の原因不明の心霊の場合も、やらせである可能性がある。ホラー映画に本物の心霊が映っていれば、それこそ大きな宣伝になるからだ。「予言」や「輪廻」の場合は製作者側のミスの可能性もあるが、考えてみれば編集段階で気づかないのもおかしな話である。不可解なシーンが発見されたとしても、敢えて残したということもあり得るのではないか。ホラー映画における心霊現象は、まずは疑ってかかってみたほうがいいようだ。
    
 
  ◆「スリーメン&ベビー」の少年  
 



「スリーメン&ベビー」(1987年米)
トム・セレックとスティーブン・グッテンバーグ
 

 
 
 それでは、心霊が映っていることが宣伝とならない、一般映画の場合を検証することにしたい。
 こうした作品で最も有名なものは、「スリーメン&ベビー」(1987年米)だろう。この作品は、3人の独身男(トム・セレック、スティーブ・グッテンバーグ、テッド・ダンソン)のもとに突如赤ん坊がやってきたことから起こる騒動を描いたコメディである。
 問題のシーンは1時間1分45秒の場面。赤ん坊の父親であるジャック(テッド・ダンソン)が、困り果てて自分の母親に助けを求める。2人が赤ん坊のいる部屋へ行き、そこから出て行く時、部屋の窓のカーテンの向こうに少年が立っていてこっちを見ている
(*13)
 この少年の霊(?)、確かビデオがリリースされた直後から噂になり、僕もCNNのニュースで見て驚いた記憶がある。しかし、結論から言えばこれは幽霊では無い。この少年の正体は、俳優であるジャックの等身大パネルである。同じパネルがこの映画の51分40秒および1時間26分44秒の場面にも映っていることからも、それは明らかだ。パネルのジャックはシルクハットをかぶっているが、そのせいで頭が大きく、少年に見えたというわけ。今回、DVDで久しぶりに観直してみたが、DVDのクリアな映像で確認すると、問題の少年がジャックその人であることがはっきりとわかる。
 スタッフが小道具のパネルを置き忘れたというのが有力な説であるが、その一方で、演出説もある。というのも、ジャックと母親を追ったカメラが、最初に件の窓を通った時には、その少年(パネル)は見当たらないが、2度目に通った時にだけ映り込んでいる。この間カメラはワンカットである。しかもその時の母親のセリフが「ほら、(赤ん坊が)私を見ているわ」というものであるから、案外スタッフのジョークだったのかもしれない。
 ところで、この映画のロケに使われた家で、かつて子供が死んだことがあるとの噂がある。したがってこの霊は、その子供のものだというのだ。しかし、実際にこの場面が撮影されたのは映画スタジオであるため、そこで死んだ子供など存在し得ないそうだ
(*14)。 
    
*13 「YOUTUBE: Ghost Boy in Three Men And A Baby?」(http://www.youtube.com/watch?v=vF2f__k0Pnw&feature=player_embedded
*14 と学会「トンデモ超常現象99の真相」314〜315ページ
 
 
  ◆アクション映画の中の心霊  
 
 アクション映画に心霊が紛れ込んだというものも案外多い。
 例えばブルース・ウィリス(1955〜)の出世作となったアクション大作「ダイ・ハード」(1988年米)。
 開始後46分8秒。テロリストに占領された高層ビルから通報を受けたパウエル巡査(レジナルド・ベルジョンソン)が、コンビニエンスストアから出て、問題のビルを見上げる場面。通りに出ていく彼をカメラが追っていくと、ガソリンスタンドの前に車があり、その横に白い服を着た女性が立っている。映っているのはほんの2、3秒だが、その間まったく身動きをしないのが不気味である。マネキンのようにも見える。
 しかしながら、これは単なるエキストラではないだろうか。そもそもこの場所に人がいたとしても決して不自然ではないのだから。
      
 
 
 アクション大作シリーズ第2弾「ハムナプトラ2/黄金のピラミッド」(2001年米)。世界を滅ぼす不死身のアビヌスの軍隊を得るため伝説の戦士スコーピオン・キング(ザ・ロック)を蘇らせる冒険が繰り広げられる。
 問題のシーンは開始後1時間14分50秒。悪の神官イムホテップ(アーノルド・ヴォスルー)一行に息子アレックス(フレディ・ボース)をさらわれたリック・オコーネル(ブレンダン・フレイザー)たちは、飛行船で後を追う。カルナック神殿にやってきたリックたち。イムホテップらの乗っていた機関車を探すがそこには誰もいない。リックの妻エヴリン(レイチェル・ワイズ)が神殿の中を歩き回りアレックスのネクタイを発見するその直前。エヴリンが手前の柱の後ろに姿を消すと、少年と思しき頭と上半身がその柱から姿を見せる。
 確かにそこに誰かがいるようである。少年のように見えるので、アレックスかとも思ったが、アレックスはすでにイムホテップたちとフィラエ神殿へ向かった後である。また、問題の人物は青い服を着ているようだが、この時のアレックスは白いシャツにブラウンのジャケットである。
 もっとも頭と上半身の一部では少年かどうかもはっきりしない。スタッフかキャストが誤って映ってしまった可能性が高いだろう。
 
 
 



「ワイルド・ワイルド・ウェスト」(1999年米)
ケビン・クラインとウィル・スミス
 

 
 
 SF西部劇「ワイルド・ワイルド・ウエスト」(1999年米)。南北戦争終了後のアメリカを舞台に、政府乗っ取りを目論む悪のラブレス博士(ケネス・ブラナー)の陰謀に、白人と黒人の捜査官が挑む。ウィル・スミス(1968〜)とケビン・クライン(1947〜)が2人の捜査官を演じている。
 問題の箇所は終盤1時間25分20秒。グラント大統領(ケビン・クライン/二役)を誘拐して巨大な蜘蛛マシーンで逃走するラブレス博士を、2人が手製の飛行機で追いかける。この時、飛行機の背後にある蒸気機関車の運転席に黒い人影が動くのが確認できる。
 これはおそらく、機関士のコールマン(M・エメット・ウォルシュ)であろう。飛び立つ2人に餞別だといって拳銃やニトログリセリンを渡すが、「空は勘弁だ」といって同行を断る。ただ、コールマンの姿は1時間25分19秒の所では機関車の後ろの客車のすぐ横あたりに立っているのだが、画面が切り替わって機関車全体を映した直後の場面では姿が消えてしまっている。一瞬で運転席まで移動しているので、確かに怪奇現象だと言える。
       
 
 
 ハリウッドに限らず、中国映画にも心霊は出現する。青年と若い女性の幽霊の恋を描いた伝奇アクション、「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」(1987年香港)。
 開始後1時間6分18秒、主人公のツォイサン(レスリー・チャン)が、シウシン(ジョイ・ウォン)が幽霊であることを知った後、彼女に会って怯えている場面。ツォイサンは思わず金剛教の書かれた書物を開く。シウシンは飛び退くが、その時彼女のすぐ横に人の顔が浮かんでいる。このシーンを紹介したテレビやサイトによれば、「苦痛に歪む女の顔」
(*15)なのだそうだ。
 同じような場面は、ツォイサンがシウシンを妖怪ロウ・ロウ(ラウ・シウミン)から守ろうとする開始後1時間9分22秒にもある。ロウ・ロウに向けて書物を開くと、すぐ横のシウシンも飛び退くが、やはりこの時の彼女の顔の下にも同様の顔が現れる。
 さすがに2回も現れるようでは、明らかに演出である。どう見ても、シウシンの顔が残像として残っているだけである。「映画の内容とは関係のない技術的にも説明のつかない」とあるが、どう考えても映画の内容と関係がある。やはり映画は全部を観て欲しい。

*15 「心霊動画、心霊写真収集館:チャイニーズ・ゴーストの噂、苦痛に歪む女の顔」(http://shinreisyashinkann.blog101.fc2.com/blog-entry-1086.html
  
 
  ◆シリアスドラマの中の心霊  
 
 重厚な作品にも霊は紛れ込んでいる。1973年にアカデミー作品賞を受賞した、フランシス・フォード・コッポラ(1939〜)監督の名作「ゴッドファーザー」(1972年米)。この作品にも心霊が映っているらしい。
 映画の終盤。マーロン・ブランド(1924〜2004)演じる“ゴッドファーザー”ドン・ヴィトー・コルレオーネが亡くなり、その葬儀の場面である。
 映画開始後2時間34分36秒。ドン・コルレオーネの跡を継いだ息子のマイケル(アル・パチーノ)が立ちあがり、画面が彼の黒いスーツに隠れた瞬間。画面の右側に女性の姿が映る。よく見ていると、この女性は葬儀のシーンの間中、かすかではあるが、その場に映り続けており、2時間35分15秒にマイケルが座る際にもやはり彼のスーツに映りこんでいる。
 この女性、僕にはどうもヴィトーの妻でマイケルの母であるカルメラを演じたモーガナ・キング(1930〜)のように思える。実際葬儀の場面では、マイケルの向かって右側に座っている。とすると、この心霊も単なる編集ミスとも、カメラの反射だと思われる。
  
 

 



「ゴッドファーザー」(1972年米)
モーガナ・キング
 

 
   
 バレエにはまってしまった少年の姿を描いた「リトル・ダンサー」(2000年英)。
 開始後15分9秒。主人公の少年が、ポスターの貼ってある壁の前でバレーの先生の娘の少女と別れるシーン。二人は「またね」と挨拶を交わす。少年が道を横切ると、少女の前をパトカーが通りかかる。車が通り過ぎると少女の姿が消えてしまっている。
 確かに不思議である。車に乗り込んだにしては、あまりにも一瞬すぎる。車に連れ去られたというのでは、ストーリーの展開上不自然だし、だいいちパトカーであるというのがおかしい。そもそも主要人物のシーンであるのだから、編集で気がつきそうなものである。
 スローモーションで繰り返して見ているうちに、あることに気がついた。少女は少年と別れた後、車の進行方向に向かって歩きだそうとしているように見える。とすると、車が通り過ぎるより前に、駆け足でその場を出て行ったのではないか。そう考えるのが自然である。
   
 
  ◆日本映画の中の心霊  
 



「家族ゲーム」(1983年にっかつ撮影所/NCP/ATG)
(左から)由紀さおり、伊丹十三、松田優作、宮川一朗太、辻田順一
 

 
 
 日本映画の場合はどうか。
 松田優作(1949〜89)が主演した「家族ゲーム」(1983年にっかつ撮影所/NCP/ATG)にある不可解な場面を見てみよう。
 開始後26分49秒。宮川一朗太(1966〜)演じる中学生・茂之が、松田優作演じる家庭教師・吉本に教わっている場面。「奥の細道」の冒頭のわからない漢字・言葉を抜き出せと言われた茂之が、ノートにひたすら「夕暮れ」という文字を書き、吉本に叩かれる。この時の宮川の額をよく見ると、何かがうごめいているように見える。
 ネット等では、「病気に苦しむ故・松田優作の姿」
(*15)とも、「棺桶に釘を打ちつけている」様子だとも言われている。このうち、松田の姿という噂だが、どう見ても僕にはそうは見えない。それに言わずもがな、松田はこの時点では死んではおらず、この場面のすぐ横にいるではないか。実際に亡くなるのは、6年も後の話。癌が発覚するのは「ブラック・レイン」(1988年米)撮影中のことだというから、この説には無理がある。それでは後者の「棺桶に釘を打ちつけている」とのほうだが、画面をみると確かに上下に細かい動きをしており、何かを打ちつけているようには見える。だからといってそれが棺桶だというのは、少々飛躍しすぎではないか。
 この場面の直前の、26分8秒辺りから、宮川の背後にもう一人の人物画覆いかぶさり、両手で彼の頭を抑えるような姿勢をとっているのがわかる。白いセーター着ていることから、宮川本人が二重写しになって いるように思える。とすれば、編集ミスだろうか? そんなことがありえるのかどうかはよくわからないが、少なくとも心霊現象よりはまだ納得がいく回答である。
 
*15 「心霊DVD・ビデオ/家族ゲーム」(http://shinreitaiken.web.fc2.com/shinreidvd18.html
 
 
 
 横溝正史(1902〜81)の推理小説を映画化した「八つ墓村」(1977年松竹)。
 萩原健一(1950〜2019)演じる空港職員の寺田辰弥が、空港の事務室で新聞の尋ね人欄に自分の名を見つけて、椅子に座る5分6秒の場面。
 背後の窓に人の手が現れ、下から上に横切る。このシーンは実際に羽田空港でロケされているようだが、窓の手は空中に現れたように見える。よく見ると、その手は人差し指で何かを指しているようだ。とすると、映画のスタッフが何かを指示しているのだろうか。窓の外では無く、部屋の中のカメラの背後にいるスタッフの影が写りこんでいるようにも見える。ただ、これ以外の影が一切写っていないことを考えると、不可解ではある。「祟りじゃ〜」の台詞が流行語になったように、「祟り」をテーマとした作品ではあるが、祟りの現場とは何の関係もない場面だ。
 
 
 
 東宝の怪獣シリーズ「モスラ」(1961年東宝)。平成に入っても「モスラ」シリーズ(1996〜98年東宝映画)が製作されるなど、モスラはゴジラと並ぶ怪獣として人気を保っている。
 その「モスラ」の中に謎の足が映っている。30分48秒、インファント島調査から帰って来た福田(フランキー堺)と中条(小泉博)が中条の家で話し合っている場面。ソファーに座る福田の後ろにある階段を黒いズボンをはいた謎の足が急ぎ足で駆け下りてくる。
 これは、結論から言えば中条の足であろう。というのも、その場面の直前、中条は「福田さん、あの島は大変の島ですよ」と言って立ちあがり、その場面の直後「福田さんこれです」と言ってインファント島で写した碑文を差し出す。福田が碑文を2階に取りに上がったのだろう。あまりにカットの切り替えが早いため、一瞬心霊現象と思わせただけである。


 まったく心理現象とは無縁そうなコメディ映画にも心霊は現れる。明石家さんま(1955〜)と大竹しのぶ(1957〜)夫婦(当時)が競演した「いこかもどろか」 (1988年TBS/東宝)。
 大金を盗んで刑事に追われる男・田口翔平(明石家)と女・向井小夜子(大竹)。車イスに乗った翔平と、それを押す小夜子だったが、車イスが暴走を始める…。開始後1時間44分48秒、車イスが石段を降りていく場面である。石段を降り切り、カメラが2人を正面からアップで捕えた直後、女性と思しき低い声で「うふふ」という声が入っている。
 僕は映画製作の現場に居合わせたことはないのだが、現在映画というのは巨大なビジネスとなっている。1つの作品に何百人もの人が関わってくる。当然ながら、撮影現場にも大勢の人間がいて、混乱していると思われる。撮影中のカメラや録音中のマイクに、予期せぬ人の姿や声が入り込んだとしても、おかしくはない。映画の中の心霊も、大半はそういったものではないか。
   
 
  ◆見つからなかった心霊たち  
 
 今回のエッセイを書くに当たって、僕はいろいろな文献やサイトで情報を収集した。もちろん、それらを鵜呑みにするのではなく、すべての作品を自分で鑑賞して検証を加えたのだが、中にはどうしても心霊を発見することができなかった作品があった。

 例えば森田芳光(1950〜)監督のモダン・ホラー「黒い家」(1999年「黒い家」製作委員会)。大竹しのぶ(1957〜)のサイコぶりの恐ろしさが、「危険な情事」(1987年米)のグレン・クローズ(1947〜)を思い起こさせる。
 この映画の「ラスト近くに主人公が、自分の職場のビル内で大竹しのぶの気配から逃げ回るシーンがある。エレベーターのボタンを連打する前、トイレのドアらしい所に主人公がいる時に、そのガラス部分に顔らしきものが現れる。
(*16)」 とのことである。
 映画の中でエレベーターのボタンを連打する場面があるのは開始後1時間41分頃。しかし、その直前に主人公(内野聖陽)がトイレの前にいる場面は無い。また、オフィスの窓ガラスや壁にかかった額縁の中にも顔らしきものは見えなかった。

 また、田中麗奈(1980〜)が主演した「はつ恋」(2000年「はつ恋」製作委員会)は、偶然母親の投函されなかったラブレターを見つけた17歳の少女(田中麗奈)が、母親のかつての恋人(真田広之)を探し出し、母親に会わせようとする物語である。久石譲(1950〜)作曲の物悲しいメロディも耳に残る切ない作品だが、これにも心霊現象があるという話である。
 とあるサイトによると、桜の満開のシーンに「あまりにもはっきりと人の生首がまぎれこんでいるのだ」
(*17)そうだ。しかも、「鮮明にでてきたその生首は、どこか笑っているようで恐怖を倍増させる」ともある。これはかなり期待できる。
 僕はこの映画を劇場公開時に観ているが、もちろんその時は気づかなかった。そこでビデオを改めて観直した。桜の満開のシーンは、映画開始後1時間42分のところから。結論から言うと、生首らしきものは発見できなかった。何度も繰り返して、かなり丁寧に観たつもりだったのだが…。確かに、顔らしきものは見える、しかしあくまで桜の花がそう見えるだけ。 正直、シミ ュラクラの域を脱していない。
 そういえば、「魔界転生」(1981年角川春樹事務所/東映)のラストシーンの炎の中に人の顔が映っていると話題になったことがある。炎の中で沢田研二(1948〜)演じる天草四郎が自分の顔を抱えて笑う場面であるが、雑誌に掲載された写真では確かに人の顔が見える。だが、映画でははっきりと顔を確認できなかった。たまたま炎の形が人に見えていたというだけのようだ。

 その他にも、「新生・トイレの花子さん」(1998年東映/ポニーキャニオン/アルカディア・ピクチャーズ)、「マトリックス」(1999年米)、「シックスセンス」 (1999年米)、「8mm」(1999年米)などに心霊が映っているとの情報があったが、結局僕にはそれらしいものを発見できなかった。あるいはDVD化の際に修正されてしまったのだろうか。それとも僕に霊感が無いから? 詳しい情報をご存じの方はご教示頂きたい。

*16 「心霊DVD・ビデオ:黒い家」(http://shinreitaiken.web.fc2.com/shinreidvd8.html
*17 「どんとこい心霊現象:はつ恋」(
http://nanndemoya.club.officelive.com/hatukoi.aspx
  
 
 
  ◆「バックドラフト」とかぐや姫解散コンサートの声  
   
 火災に果敢に挑む消防士を描いた「バックドラフト」(1991年米)。この作品の場合、不可解な現象は、映画本編ではなく、サウンドトラックのCDに現れている。曲の中に日本語で「助けて」という声が聞こえるのだそうである。
 件の声は6曲目に収録されたハンス・ジマー(1957〜)作曲の「Burn It All」。その1分18秒のところに、確かに「助けて」という声が、微かではあるが聞こえる。
 僕は輸入盤のCDで確認したのだが、間違いなく日本語である。なぜ、アメリカ映画のサントラに日本語が? 例え演出だとしてもきわめて不可解な現象だといえる。

 スプラッター・ホラーの元祖ともいえる「エクソシスト」(1973年米)。25年周年を記念して公開された「エクソシスト/特別編」(2000年米)の中に興味深いシーンを発見した。開始後1時間29分26秒のカラス神父が音響室で、悪魔に憑かれた少女リーガン(リンダ・ブレア)の声を確認している場面。このシーンは特別編のために追加されたシーンだが、ウィリアム・フリードキン監督(1935〜)のオーディオ・コメンタリーによるとジョージタウン大学の語学研究室で撮影されたとのこと。その部屋の入口の上に赤い文字で「TASUKETE!」と書かれた紙が貼ってあるのがはっきりと確認できる。同じ張り紙は1時間35分24秒のところでも見られる。
 おそらくスタッフの悪戯なのだろうが、スタッフに日本人が混じっていたのだろうか。しかし、作曲家の坂本龍一(1952〜)、衣装デザインのワダエミ(1937〜)や石岡瑛子(1938〜2012)、特殊メイクのスクリーミング・マッド・ジョージ(1956〜)などハリウッドで活躍する日本人は思いのほか多い。ハリウッドにおいて日本語は我々の想像以上にメジャーな言語なのかもしれない。
        
 
 
 
 音楽のCDやレコードに不可解な声が混じっているというのは、他にもいろいろある。
 例えば、1975年4月12日に東京の神田共立講堂で開催されたかぐや姫解散コンサート。かぐや姫は1970年代に南こうせつ(1949〜)、伊勢正三(1951〜)、山田パンダ(1945〜)の3人で活躍したフォークグループであるが、その解散コンサートの模様を収めたテープの中に不可解な声が混じっているという。
 このコンサートの音源は市販されていないため、僕は部分的にしか聞いたことはないが、ネットにアップされたもので容易に確認することができる。伊勢正三が「今日は盛り上げていきましょう」と語った直後、拍手に混じって「私にも聞かせて」という女性のかすれたような声がはっきりと聞こえている
(*18)
 この声は一体誰のものか。コンサート会場の前で交通事故で死んだ少女がいたとも、病気でコンサートに行けずに亡くなった少女がいたとも、様々な噂がその後出てきた。しかしながら、小池壮彦の調査によれば、少なくとも交通事故で死んだ少女の存在は確認されなかったそうだ
(*19)
 
 すでに僕自身は映画の中の心霊現象に関して、「少なくとも最後まで映画を見てから判断することが大切である」と述べた。このコンサートに関しても本来そうしなければならないのであるが、市販されていないため確認のしようがない。オリジナルのテープを聞いた小池によれば、至近距離での笑い声をマイクが拾っている箇所がテープの中にみられるということで、件の声もそんなマイクの拾った観客の声なのではないだろうか。コンサート当日はかなりの混雑で、入口付近にまで観客でごった返していたから、「私にも聞かせて」と言った人がいても不思議ではないとのことである
(*20)

 この音声に関しては、もう一つの謎がある。それは、件の声の含まれたテープを逆回転で再生することで出現する。同じ女性と思しき声で「私を捨てないで」
(*21)とも「私もそこに行きたかった」(*22)とも聞こえる。逆回転しても声が聞こえるというのは、とてもありえそうにないことに思える。これが演出ではないとすれば、まぎれもなく心霊現象なのではないか…。だが、必ずしもそうとは言えないようだ。
 音声を逆回転させて、そこに現れる別の音声を、「リバース・スピーチ」というのだそうである
(*23)。「リバース・スピーチ」の代表的なものとしては、レッド・ツェッペリンの「天国への階段(Stairway to Heaven)」がある。ある部分を逆回転させると「俺は悪魔に仕える」という声が聞こえるらしく、1982年4月にカリフォルニア州議会で糾弾されたという。また、殺人事件で起訴され無罪となった元フットボール選手で俳優のO・J・シンプソン(1947〜)の釈放後のインタビューを逆回転させると、犯行を認める発言になるそうである。研究者によると、リバース・スピーチには、発言者の意図しない本音が含まれているという。
 偶然なのか心霊現象なのかわからないが、逆回転させた音声から別の音声が聞こえるということは、かなり高い確率であり得ることのようだ。 

*18 「かぐや姫 霊の声(正回転)」(http://psyco.jp/heliboy/kyo2/koe/koe01.html
*19 小池壮彦「怪奇事件はなぜ起こるのか」27〜28ページ
*20  同書 29〜30ページ
*21 「かぐや姫 霊の声(逆回転)」(http://psyco.jp/heliboy/kyo2/koe/koe02.html
*22 小池壮彦「怪奇事件はなぜ起こるのか」24ページ
*23 ケイ・ミズモリ「超不都合な科学的真実」211〜235ページ
    以下「リバース・スピーチ」については同書を参照

 
 
  ◆心霊AV  
 
 最後に、心霊現象とはもっとも無縁そうなジャンルとしてAV(アダルトビデオ)を取り上げることにしたい。AVの中に心霊現象が見られる例も存在する。
 2001年頃「AV心霊写真」として話題になったAVがある。掲示板「2ちゃんねる」の「アダルト」板で、裏ビデオについて話が盛り上がっている最中、一人がビデオの中に不思議な顔が映っていることを発見する。他の人たちも次々にそのことに気づき、騒然となる。その作品は「横浜援交」というシリーズで、男性が援助交際の女子高生との濡れ場を撮影したもので、大変な人気シリーズであったそうである。問題の作品は「横浜援交11」 であった。
 問題の顔は、女子高生が撮影者にフェラチオをしているシーンに出現している。2人のやり取りの奥、部屋の隅の布団の中から真っ白な女性が顔だけ出してこっちを見ているのがはっきりと確認できる
(*24)。この顔の正体についてはネットやマスコミでいろいろと議論された(*25)が、女優の田中麗奈に似ていることからネット上では“霊奈ちゃん”として人気者になった。一説には出番待ちの女の子がそこにいたとも言われ、その女の子の出演するビデオも存在するらしい。だが、件の映像を見るかぎり、顔が異常に白く、女の子がそこにいたとしたら不自然極まりない。かと言って、本物の心霊にしてははっきり映りすぎているようにも思える。
 残念ながらこの「横浜援交」はいわゆる裏ビデオで、正々堂々と取引されるような作品ではなく、簡単に観る事ができない。僕も問題のシーンのみをネット上で観ただけで全編を観ていないため、判断するのが難しい。

*24 「オカルト心霊動画ブログ:某巨大掲示板で話題のAVに映る謎の顔」(http://occultblog.blog59.fc2.com/blog-entry-3.html
*25 「AV心霊写真?」(http://www.hide10.com/archives/6145)に詳しい。問題のシーンの写真も見ることができる。
 
 
 



「幼い性器パイパン中出し」(2007年LOTUS)
長谷川さやか
 

 
 
 だが、AVだからといってヤラセがないとは言えない。最後に長谷川さやか主演の「幼い性器パイパン中出し」(2007年LOTUS)の場合を見てみよう。
 開始後43分41秒「CHAPTER6 制服中出し」。制服姿のさやかが男優と絡んでいる場面。ベッドの背後の壁の間から、男が顔を覗かせている。さらに本番の最中の1時間7分22秒。二人の背後の窓の淵に白い服を着た女が膝をかかえて座っているのがはっきりと見える。
 この作品もリリース後に、“本物の霊”が映っているとして話題となり、メーカーに返品が相次いだという。また、撮影に使われたのは「呪怨」のモデルにもなった元病院のスタジオなのだという噂もある
(*15)
 しかし、この作品の真相はその後明らかになった
(*16)。AV女優の宮咲志帆(1986〜)が、ブログで幽霊に扮したのは自分だと告白したのだそうである。監督のDAIもやはりブログで自身の悪戯であったと真相を暴露している。確かに、この作品はおどろおどろしい音楽や演出が随所に凝らされている。何でも、DAI監督はダリオ・アルジェントやマリオ・バーヴァ(1914〜80)の影響を受けているそうで、この幽霊も「サスペリア」からの影響なのだそうだ。ついでに言うなら、撮影されたのも元病院などではなく、ラブホテルだそうである。
 ともかく、どんなジャンルでもこうした悪戯心を持った人は存在するわけだ。

*15 「FLASH」2009年2月10日号 70ページ
*16 「「FLASH」がスクープ?「AVに女幽霊」 実は単なるホラー作品だった」(http://www.j-cast.com/s/2009/01/30034564.html?p=all)、「閲覧注意!AVに偶然映ってしまった霊の画像・・・本物?!Part2《体育座りの女霊》」(http://matome.naver.jp/odai/2136626973714822701
 
 
  ◆本物の心霊は存在するのか?  
 
 以上、様々な映画における心霊現象を検証してきた。残念ながら確実に心霊現象と言える作品には出会えなかった。いったい本物の心霊が映った映像は存在するのだろうか。
 ところで、このエッセイの中で僕があまりにも心霊に否定的なことばかり言うので、ひょっとしたら僕のことをオカルト否定論者であるとお思いになった人もいるかもしれない。だがそれは誤解である。僕はむしろ超常現象のビリーバーなのである。心霊現象を信じるからこそ、本物に出会いたいと思っている。そのためには間違いやインチキはできるだけ排除しなければならない。ブランド好きな人は本物のブランドが好きなのであって、パチモンが好きという人はおるまい。
 いつか本物の心霊に出会えることを信じて今後も、映画の中の心霊現象の調査を続けていきたいと考えている。みなさんもこれこそは本物ではないかという情報をお持ちであれば、ぜひともご教示頂きたい。
   
 
 

(2014年9月9日)

 

(参考資料)
と学会「トンデモ超常現象99の真相」2000年5月 宝島文庫
小池壮彦「怪奇探偵の調査ファイル/呪いの心霊ビデオ」2002年7月 扶桑社
「呪いのビデオ」追跡取材班「ほんとにあった!呪いのビデオ」2003年3月 二見WAi-WAi文庫
矢澤利弘「ダリオ・アルジェント/恐怖の幾何学」2007年3月 ABC出版
ケイ・ミズモリ「超不都合な科学的真実/もうからない重要な発言はすべて潰される」2007年11月 5次元文庫
小池壮彦「怪奇事件はなぜ起こるのか/『生き人形』から『天皇晴れ』まで」2008年8月 洋泉社
「怪談・都市伝説・未解決事件・恐怖/怖い噂 VOL.1」2009年5月
「恐い動画」2010年8月 ミリオン出版
 

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