特別企画(2)

  ヤッターマンがいる限り 正義も悪と栄えます〜映画「YATTERMAN」と「タイムボカン」シリーズ その2〜  
 



「ヤッターマン」より
左からアイちゃん、オモッチャマ、ガンちゃん
メカはヤッターワン
(「タイムボカン全集」21ページ)
 

 
 
 2009年春に公開された実写映画「ヤッターマン」(「ヤッターマン」製作委員会)。子供のころから「ヤッターマン」(1977〜79年)を始めとした「タイムボカン」シリーズが大好きだった僕は、さっそく映画館へ観に行った。
 春休み中の映画館は、若者や親子連れが多かった。最初のテレビシリーズ版をリアルタイムで観ている人はほとんどいないのではないかと思われる。もっとも、1974年生まれの僕自身にしても、1977年放送開始の「ヤッターマン」をリアルタイムで観ているかどうかは自信がない。しかしながら、その後の再放送で何度となく繰り返し観てきた。広い世代に愛される作品の証なのかもしれない。
 
 映画自体は、いろいろと突っ込むべきところもあったが、観ていて懐かしさのあまり、ジーンとなることさえあった。ヤッターマンが、ドロンボーが、ヤッターワンが、オダテブタが、実写で動いている。常識的に考えれば、あり得ないことが、実写であっても違和感を感じさせない。映画館を出てから、もう一度テレビ・アニメ版を観直したくなった。
      
 
  ◆テレビシリーズ「ヤッターマン」  
   
 「ヤッターマン」は「タイムボカン」シリーズの第2弾として放送された。1977年1月1日に放送が開始され、好評のため、1979年1月27日まで2年に渡って、計108話が放送された。

 スタッフおよびキャストの多くは、「タイムボカン」に引き続いて参加している。だが、プロデューサーで製作会社タツノコプロの社長であった吉田竜夫(1932〜77)が、シリーズ放送中に45歳の若さで急逝 したため、その後は弟の吉田健二(1935〜)が後を継いだ。

 「タイムボカン」は貴重な宝石ダイナモンドを探す話であったが、「ヤッターマン」ではすべて集めると膨大な金塊のありかがわかるドクロストーンを探す話となっている。
 ドロンジョ(声・小原乃梨子)、トンズラー(声・たてかべ和也)、ボヤッキー(声・八奈見乗児)の三悪“ドロンボー”は、泥棒の神様ドクロベエ(声・滝口順平)の指令で、このドクロストーンを探して巨大メカに乗り込むと、世界各地へ出かけていく。
 一方、おもちゃ屋の息子ガンちゃん(声・太田淑子)とガールフレンドのアイちゃん(声・岡本茉利)は、ガンちゃんの父親が製作途中で放棄してしまった巨大なロボット犬・ヤッターワン(声・池田勝)を完成させる。そして、正義のヒーロー・ヤッターマンに変身して悪と戦うことを決心する。
 ドロンボーの企みを知ったヤッターマンは、ヤッターワンに乗り込み、ドロンボーの後を追う…。
  
 
 



(左から)アイちゃん、ガンちゃん、オモッチャマ
(「タイムボカン全集」23ページ)
 

 
 
 後に「偉大なマンネリ」とも称されただけあって、基本的なパターンは決まっている。
 
 ヤッターマンのマスコットでもあるロボット・オモッチャマ(声・桂玲子)の声でサブタイトルが読み上げられると、大抵の場合ドロンボーのインチキ商売で物語が始まる。
 ドロンボー3人組のドロンジョ、トンズラー、ボヤッキーはメカ製作の資金集めにインチキ商売を行い、人々からお金を巻き上げている。例えば、紙で出来た洋服を売ったり、薬で膨らませた巨大野菜を売ったり…。毎回飛び出す珍妙なアイディアは、十分詐欺師で稼げるのではないかと思わせる。
 ドクロマークのロゴを見たガンちゃんとアイちゃんは、それがドロンボーの仕業であると気づき、侵入して様子を窺う。するとそこに、ドクロベエからの指令が届く。
 ドクロベエの情報でドクロストーンのありかを知ったドロンボーは巨大メカに乗り込むと出発。ガンちゃんとアイちゃんもヤッターマンに変身してヤッターワンを始めとしたメカに乗り込み、その後を追う。

 最初に現場に到着したドロンボーがドクロストーン(らしきもの)を入手するが、そこに遅れてヤッターマンが登場。「ヤッターマンがいる限り、この世に悪は栄えない」というのが決め台詞。
 ドロンボーのトンズラーとボヤッキーは特殊兵器を使ってヤッターマンに立ち向かう。だが、ヤッターマンにやられ、メカに逃げ込む。
 続いてメカ同士の戦いとなる。最初はドロンボー側のメカが優勢で、ヤッターマン側はピンチに陥る。その時、ヤッターマンが投げた“メカの素”を食べたヤッター マン側のメカはパワーを回復。ファンファーレを鳴らすと、口から“ビックリドッキリメカ”なる小型メカ(ゾロメカ)を発進させ、ドロンボーのメカを撃破。
 ヤッターマンは勝利のポーズを決める。

 敗れたドロンボーは3人乗りの自転車で退散する。ドクロストーンを求めて、ドロンボーとヤッターマンはそれこそ世界の果てはおろか宇宙にまで出動するのだが、自転車で日本(?)にまで帰るのであろうか? しかしそこにドクロベエが「ママよりこわいお仕置きだべえ」と言って、ベートーベンの「運命」のファンファーレと共にドロンボーにお仕置き を下す。
 大抵の場合、手に入れたドクロストーンは偽物であり、ドクロベエの情報のほうが間違っている。にも関わらず、「いつもやっていることだから」「楽しみにしている人がいるから」「これをやらないと飯がまずくなる」などの理由で、無慈悲にもお仕置きが下される。稀に本物のドクロストーンを手に入れた時も同様である。そう考えると、お仕置きの理由は、ドクロストーン入手の失敗というよりも、ヤッターマンに敗れたことなのかもしれない。それにしても、情報のあまりの不正確さから、そもそもドクロストーンを世界各地に分散させているのはドクロベエ自身で、ドロンボーにそれを探させて楽しんでいる、自作自演なのではないかという気すらしてくる。その証拠に、最終話でドクロストーンが発見されたのは、ドクロベエの基地の地下だった。
 なお、お仕置きには隕石や椰子の木が落ちてきたり、鯨や象に襲われたり、火で焼かれたりと、様々なパターンが見られる。

 ラストシーンはナレーションと共に凱旋するヤッターマン。

 
 もちろんエピソードによって、微妙に違うこともあったが、こうしたパターンが延々2年間、計108話に渡って繰り広げられたのである。後期エンディングテーマ「ドロンボーのシラーケッ」の歌詞に「♪マンネリなんかは何のその」という歌詞があり、スタッフ側も開き直っているようなフシがある。
 
 
  ◆キャラクター紹介  
 



アイちゃん(左)とガンちゃん
(「タイムボカン全集」25ページ)
 

 
 
 「ヤッターマン」の登場人物を見ていこう。
 まずはヒーロー(正義)側。と言っても、個性的な悪玉側に比べると、主人公であるはずの彼らの印象は薄い。それはこのシリーズ全体の特徴で、そんな彼らのことを音楽の山本正之は「表紙」
(*1)なのだと 語っている。
 ヤッターマンに変身するのはガンちゃんとアイちゃんの2人。「タイムボカン全集」その他の資料によれば、登場人物の各種設定は決まっているようで、それによるとガンちゃんは本名 ・高田ガンで13歳。アイちゃんは本名・上成愛で12歳とある。しかしながら、その体型は10代後半〜20代といった感じである。2人とも義務教育中のはずなのだが、作品には学校に行っている描写は出てこない。ただ、第54話で、アイちゃんが「ヤッターマンはそれほど暇じゃないのよ。宿題もあるし学習塾に行かなきゃなんないし 。」と発言しており、学校の他に塾にも行っているらしい。
 彼らのマスコットがオモッチャマ。サイコロ型のロボットで、喜怒哀楽の感情を持ち合わせている。頭のプロペラで空を飛んだり、手足を引っ込めてサイコロ型になったりもする。メカがヤッターワン、ヤッターペリカン、ヤッターアンコウの3体になった時には、オモッチャマを振って出た目で出動メカを決めていた。
 ガンちゃんはそもそも父親が作りかけのままにしていたヤッターワン、ヤッターペリカンを自力で完成させ、後にはヤッターアンコウ以下のメカを作り上げるなど、子どもとは思えない天才ぶりを発揮している。それにしても、ヤッターマン側のメカ製作の資金はどこから出ているのだろうか。ドロンボーの場合は毎回のように資金稼ぎのインチキ商売が登場するが、ヤッターマン側にはそんな描写は一切ない。ところで、廃墟を改造したというヤッターマンの基地。「タイムボカン」のマージョの屋敷によく似ている。ひょっとしたら「タイムボカン」最終回で出て行ったまま行方不明となったガイコッツ(マージョ一味)の後に、同じ屋敷にヤッターマンがやってきたのではないだろうか。とすると、ガイコッツのノウハウあるいは隠し資金を受け継いだのではないかとの想像も働く。夢が無いからそれ以上の勘ぐりはやめよう…。

*1 「BSアニメ夜話06/タイムボカンシリーズ ヤッターマン」27ページ
  
 
 



ドロンボー一味
左からトンズラー、ドロンジョ、ボヤッキー
(「タイムボカン全集」19ページ)
 

 
 
 一方のドロンボー一味は、妖艶な女ボスのドロンジョ、天才科学者ボヤッキー、怪力トンズラーと、「タイムボカン」のガイコッツの設定と容姿をほぼそのまま受け継いでいる。
 女ボスのドロンジョは、マスクに、マント、ボンデージ衣装といういでたち。その名前がフランスの女優ミレーヌ・ドモンジョ(1936〜)から取られたのはほぼ間違いないだろう。というのも、ドロンジョ役の小原乃梨子(1935〜)はテレビの映画放送の際はドモンジョの声を吹き替えることも多かったからである。設定によればドロンジョは24歳。「タイムボカン」のマージョが30歳という設定だったのには納得なのだが、ドロンジョがそんなに若いというのは、知った時に正直驚いた。それでいてあのお色気。何とも恐ろしい。ちなみに後の設定によれば、バスト88、ウェスト48、ヒップ88ということになっている
(*3)が、そんな極端な体型はあり得るのだろうか? なお、シリーズ中盤あたりから、ドロンジョが裸になるという描写 (写真下)が増加し、毎回のように登場するようになる。何しろ後期オープニング・テーマからしてそんなシーンがあるぐらい。「タイムボカン2000/怪盗きらめきマン」やリメイク版「ヤッターマン」のおとなしさを考えると、この当時は実に放送コードもおおらかだったのだなあと、思う。
 頭脳担当のボヤッキーは、会津若松
(*4)出身。故郷におハナちゃんという恋人を残して上京してきた。「おハナちゃんと結婚する」なんてセリフが時折登場する一方、ドロンジョに対する思いも見せる。さらに女子高生好き。年齢は設定によると25歳だが、これはドロンジョの24歳以上に驚きである。オヤジギャグやセクハラ等、どう見ても中年男性のムードではないか。終盤の106話で、ドクロストーン探しに嫌気がさしたボヤッキーが「27年の青春を無駄に過ごしてるんだよ」(*5)とぼやくと、ドロンジョが「何言ってんだ、お前は本当は40と…」と突っ込む。どうも、ボヤッキーは歳をサバ呼んでいたらしい。とすると、ドロンジョもやはり? ボヤッキーによる行き遅れ発言もあることだし…。疑惑は広がる。
 怪力担当のトンズラーは30歳で、岩手県出身
(*6)。だが語尾に「〜まんねん」とつけたり、ボヤッキーを「ボヤやん」と呼んだりと、なぜか関西弁らしき言葉を使っている。怪力の持ち主だが、その力が発揮されるのは冒頭のインチキ商売で客を脅す時 ぐらいで、肉弾戦ではヤッターマンにまったく歯が立たない。この怪力キャラは3悪の中ではセリフや見せ場が最も少ない。

*3 「平成タイムボカン/CDシネマ4」より
   ただし、あくまでドロンジョの自己申告である
*4 総監督の笹川ひろしの出身地
*5 設定年齢の25歳と異なっているが、25歳と言うのは放送開始時点の年齢なので、106話の時点ではそれから2年が経過している。
*6 第45話でトンズラーが発言
  
 
 



ドロンジョ(中央)のお色気シーン
左はトンズラー、右はボヤッキー
(「タイムボカン全集」19ページ)
 

 
  ◆「ヤッターマン」のパターン  
 
 CD「三悪馬券塾」に収録されたミニドラマ「オリジナルドラマ/大レース その前夜」(脚本)の中でドロンジョは、「パターンを完成形に持ってったのはあたしたちなんだから」と言っている。確かにその通りで、前作「タイムボカン」には無く、その後のシリーズに受け継がれたパターンが数多く登場している。

 その一つがドクロ型のキノコ雲。三悪側のメカが爆発すると立ち上るキノコ雲には両目と鼻と思しき穴があいている。時にはそこから涙も流す。すでに前作「タイムボカン」でも何度か登場していたのだが、毎回のように登場するようになったのは「ヤッターマン」からである。
   
 
 



ドクロのキノコ雲
(「BSアニメ夜話06/タイムボカンシリーズ ヤッターマン」7ページ)
 

 
 
 次が、ゾロメカ。「ヤッターマン」における“今週のビックリドッキリメカ”である。ヤッターマン側のメカがピンチになると、ヤッターマンが投げるメカの素を食べて、生み出される小型のメカのこと。ゾロゾロと同じような姿で現れることから、ゾロメカと呼ばれる。ゾロメカの種類としてはヤッターワンからはワニメカ、ネズミメカ、カバメカなどの動物メカ、ヤッターペリカンからは鳥類、ヤッターアンコウからは魚類のメカが登場することが多い。当初は、ヤッターマン側のみがゾロメカを登場させていたが、その後ドロンボー側もゾロメカを使うようになる。双方のゾロメカは、なぜか申し合わせていたかのように同じようなテーマで登場する。例えば、ヤッターマン側が赤鬼メカなら、ドロンボー側は青鬼メカ。ノミメカならシラミメカ。枝豆メカなら空豆メカといった具合。これらのゾロメカ同士の戦いに発展するのだが、中には歌合戦や美人コンテストなどで争われる。また、ゾロメカ同士によって「坊ちゃん」(103話)や「忠臣蔵」(104話)などの有名な物語のパロディが演じられたこともあった。最終的に、ドロンボー側のゾロメカが敗れ、ドロンボーのメカが爆発するというのがパターンである。
   
 
 



ゾロメカによる「忠臣蔵」松の廊下(第104話)
(「BSアニメ夜話06/タイムボカンシリーズ ヤッターマン」70ページ)
 

 
 
 オダテブタに代表される「コクピット・メカ」も「ヤッターマン」で盛んになった。コクピットメカの元祖は「タイムボカン」に登場するガイコツの楽団だが、「ヤッターマン」第13話でもドロンジョが「今週のハイライトだよ」と言うと、登場している。ファンファーレの音楽は違っていたが、それを見たドロンジョ は「あら、何だか懐かしいねえ」。
 「ヤッターマン」オリジナルのコクピット・メカとしては「ドッチラケ人形」(声・田中勝)が元祖。おさげ髪にちょび髭、蝶ネクタイに腰蓑という格好で、「チンチロリンのドッチラケ〜」と叫ぶ。第33話で初登場以来、初期にはほぼ毎回のように登場していた。第37話では何とドクロベエの使者として登場し、船で逃げるドロンボーに花火の入った箱を渡 している。後期のオープニング・テーマでも、「♪アチョー」という掛け声のシーンに姿を見せている。

 その他、袈裟をつけて木魚を叩く“なんまんだぶ”や「ビックリー、トックリー、シャックリー」と歌うトリオ・ザ・ビックリなどが登場。「ブタもおだてりゃ木に登る」でおなじみのオダテブタ(声・富山敬)が登場するのは第60話である。その後、「こんちまた上手、うまいなあ」と言うおほめブタ。「かわいそ、かわいそ」と言う嘆きブタも登場し、バリエーション豊かになった。
 第80話からは挿入歌として筒井広志(1935〜99)作曲・歌の「オダテブタ」が登場。山本正之をして「自分の曲だったら良かったのになぁ(笑)。
(*7)」と言わせるほどの名曲(?)であったが、インチキ商売で客を乗せる時や、ドロンボーのメカ製作の際にたびたび流された。歌の最中の「おーい、○○(名前)も見てるぞ」というセリフの部分では、視聴者の写真が登場する。

*7 CD「タイムボカン名曲大全」付録「名曲辞典」6ページ
       
 
 



オダテブタ
(「僕たちの好きなタイムボカン」128ページ)
 

 
 
 その一方で、「オリジナルドラマ/大レース その前夜」でボヤッキーが「『タイムボカンシリーズ』第2弾と銘打ちながら、タイムマシンとはまったく関係ないと言われた汚名」と語っているように、「ヤッターマン」 にはタイムトラベルは登場しない。同様にタイムトラベルが登場しないシリーズ作品は他に「イタダキマン」(1983年)があるだけである
(*8)
 しかしながら、第16話でヤメタイ国の女王ヒメコが登場したり、侍のいる町や、西部劇のガンマンのいる町など、どう考えても現在の時代とは思えない場所がたびたび登場 しているのだが…。
 正確に言うと、第11話でバキューダ島の三角領域から大航海時代や原始時代にタイムスリップしたことがあったし、第38話でもボヤッキーの見た夢の中でとはいうものの戦国時代の日本にタイムトラベルしている。なお、リメイク版の「ヤッターマン」では、タイムトンネルを通ってタイムトラベルするエピソードが何度か登場している。

*8 この他、「平成タイムボカン2000/怪盗きらめきマン」も、タイムトラベルは登場しない。ただし、きらめきマン2号のパフは未来から来たという設定で、“ゴールドアイ”に関する情報が未来から届くということになっている。
   
 
  ◆様々なメカの登場  
 



ヤッターキング
(「タイムボカン全集2/悪の華道」25ページ)
 

 
 
 「ヤッターマン」は全108話と長く続いたためか、シリーズ中最も多くの正義側のメカが登場した作品でもある。
 最初のメカとして登場するのは御存じヤッターワン。犬をモチーフとしたメカで、第1話によると、もともとはガンちゃんの父親が作りかけのままに放置してあったものを、ガンちゃんが完成させたそうである。赤い色で、ヤッターマンの二人は横につかまっている。出撃の際には鼻の頭にあるベルを鳴らし、右手でサイレンを鳴らす。さらに、しっぽから放水するなど、明らかに消防車をモチーフにしている。総監督の笹川ひろし(1936〜)によると、消防車を見て「アレは、ヤッターワンを真似して作った自動車なんだね
( *9)」と考えた子供がいたそうである。
 ヤッターワンは水の上を走り、世界のどこへでも出かけていくことができる。そして、“メカの素”なる骨の形をしたエネルギー源を食べるとパワーアップ。「今週のビックリドッキリメカ発進!」の掛け声に続いて、犬の楽団が現れ演奏すると、それに続いて口からゾロメカを発進させる。
 
 その後、第14話では、空を飛ぶことのできるヤッターペリカンが、第27話で水中戦を得意とするヤッターアンコウが登場。主に手足を引っ込めてサイコロの形となったオモッチャマを振って出た目の数で出動メカを決めるというパターンが登場する。

 第45話において、ヤッターワンはドロンボー側のメカと相打ちとなって大破。翌週の第46話からはヤッターキング(写真上)に改造されて再登場している。ヤッターキングは巨大な母艦型メカで、胴体部には他のメカを収納することができる。ヤッターブル、ヤッタードジラ、ヤッターパンダ&コパンダの3体が収納され、その時に応じて出動するようになる。また、第91話からは、新たな母艦型メカ・ヤッターゾウが登場。収納メカにも犬型のヤッターよこづなが加わった。最終話となる108話ではヤッターワンを除くこれらの歴代メカが総登場し、見ごたえがあった。
  
*9 笹川ひろし「もおだてりゃ木にのぼる」177ページ
  
 
 



ヤッターパンダとヤッターコパンダ(上)
(「タイムボカン全集」23ページ)
 

 
  ◆音楽の魅力  
 
 「ヤッターマン」の主題歌は前作「タイムボカン」に続いて山本正之(1951〜)が担当している。主題歌「ヤッターマンの歌」は当時50万枚を売り上げ、山本最大のヒット曲となり、この曲を持っていわゆる「山本節」が誕生したとされている。
 「ヤッターマンの歌」の作曲は山本自身。作詞は若林一郎。山本によると若林の詞が先にあり、プロデューサーからは「タイムボカン」の挿入歌「チュクチュクチャン」の雰囲気で作ってほしいと以来された
(*10)そうである。「タイムボカン」の主題歌「タイムボカン」は、どちらかというとのんびりほんわかした感じの曲調だったが、「ヤッターマンの歌」は勇ましく胸のわくわくする曲調。補作詞・山本となっているが、これは例えば「♪ワンとほえりゃ(ワン)」の合の手「(ワン)」のような部分を自分らしさを出すために補った(*11)という話である。途中に出てくる「アチョー」 という掛け声は、「チュクチュクチャン」にも出てくるが、やはり山本が入れたそうだ。「アチョー」とえいばブルース・リー(1940〜73)のいわゆる「怪鳥音」を思い出させる。愛知県安城市生まれの山本は中日ドラゴンズの応援歌「燃えよドラゴンズ!」で作詞・作曲デビューを果たしているが、リーの主演作「燃えよドラゴン」(1973年香港/米)を彷彿させるだけに、案外関係があるのかもしれない(*12)
 ところで、最近になって歌詞を眺めていたところ、子ども時代から歌詞を勘違いしていたことに気づいた。冒頭の「♪ウーワンワンワン ウージンジンジン…」という部分。「ジンジンジン」ではなく「チンチンチン」 だとずっと信じていた。オープニングの字幕でも「チンチンチン」になっていたのだから無理もない。スタッフの方も間違えていたようだ。

 この「ヤッターマンの歌」、シリーズの主題歌中、最も多くカバーされた曲であろう。最初のテレビシリーズでは山本正之と「少年少女合唱団みずうみ」が歌っている。1993年の「タイムボカン王道復古 第2話」では、ヤッターマンが復活したということで、「ヤッターマンの歌’93」としてカバーされた。コーラスはピンクピッギーズに交代。
 2008年に始まったテレビリメイク版では、世良公則(1955〜)と野村義男(1964〜)が結成したユニット“音屋吉右衛門”がアコースティック調にカバー。最初この曲を聴いた時、僕は正直かなりの違和感を覚えた。つまりらしくないのである。それは山本正之も同様だったようで、事前に聞いて「デモテープ、だと、思い込んでいた
(*13)」そうである。
 リメイク版では、その後も歌手と編曲が変えられるが、一貫して「ヤッターマンの歌」が主題歌であった。ET−KING、西尾夕紀(1973〜)、腐男塾、高見沢俊彦(1954〜)と、それぞれに違った趣向のアレンジがなされている。個人的にはリメイク版第22話のみで使用された西尾夕紀による演歌調アレンジ版
(*14)が好みである。

 また、2009年公開の実写版では、山本まさゆき+ピンクピッギーズ。同年のアニメ映画版ではタカミーマン(高見沢俊彦)によってそれぞれカバー、アレンジがなされている。

 ヤッターマンの主要メカがヤッターワンからヤッターキングに交代されたのを機に、第59話からはオープニング・テーマが「ヤッターキング」に変わっている。こちらは山本の作詞・作曲・歌で、コーラスはスクールメイツ・ブラザーズが担当している。
 実写版にはロックバンド“ザ・クロマニヨンズ”が演奏するハードロック調の「ヤッターキング2009」が挿入され、アニメ映画版では山本まさゆきによる「ヤッターキング2009夏!アニメ」としてカバーされた。
 
 エンディング・テーマは初期が「天才ドロンボー」。作詞・作曲は山本で、三悪を演じた小原乃梨子(1935〜)、たてかべ和也(1934〜2015)、八奈見乗児 (1931〜2021)の3人が歌っている。イントロが「タイムボカン」のエンディング「それいけガイコッツ」と同じだが、山本によると「前作の続きということで」「意識的に同じにしました。手を抜いたわけではないので念のため(笑)。
(*15)」とのこと。このイントロのメロディは、その後も 三悪を象徴する物として、オリジナルビデオ「タイムボカン王道復古」のエンディング「−さんあく18年−君を離さない チュッ☆」、「タイムボカンシリーズ2000/怪盗きらめきマン」の挿入歌「懐盗ドロンボー」にも使用されている。
 「天才ドロンボー」はリメイク版の「ヤッターマン」でも歌詞の「ドクロストーン」を「ドクロリング」に替えた「天才ドロンボー’08」としてカバーされた。また、実写映画版でもドロンボーを演じた深田恭子(1982〜/ドロンジョ)、ケンドーコバヤシ(1972〜/トンズラー)、生瀬勝久(1960〜/ボヤッキー)の3人によって歌われている。
 オープニング・テーマが「ヤッターキング」に代わるのと同時にエンディング・テーマも「ドロンボーのシラーケッ」に代わっている。こちらにはドクロベエ役の滝口順平(1931〜2011)が「どおれ、お仕置きだべえ」というセリフで参加している。
 
*10*11 「山本正之×甲本ヒロト対談」(映画「ヤッターマン」プログラム所収)
*12 「BSアニメ夜話06/タイムボカンシリーズ ヤッターマン」58ページにてアニメ評論家の氷川竜介(1958〜)が同様の見解を取っている。
*13 山本正之「ファンのみなさまへ」(http://megalodon.jp/2008-0109-2350-38/www.bellabeaux.co.jp/masa071230.html
*14 「YouTube:ヤッターマンOP〜西尾夕紀ver.〜」(http://www.youtube.com/watch?v=t3rAxFlM6CA
    特に2曲目に収録されている「演歌バージョン」は必聴。
*15 CD「タイムボカン名曲大全」付録「名曲辞典」6ページ

  
 
  ◆リメイク版「ヤッターマン」  
 



リメイク版「ヤッターマン」
上は(左より)ガンちゃん、アイちゃん、メカはヤッターワン
下はボヤッキー、ドロンジョ、トンズラー
(「ヤッターマンキャラクターブック」11ページ)
 

 
 
 2008年1月「ヤッターマン」は約30年ぶりにテレビアニメとして帰ってきた。リメイク版の放送が始まったのである。2009年9月まで全60話 (その他に特別編2話)が放送された。
 総監督・笹川ひろし、メカニックデザイン・大河原邦男(1947〜)、美術監督・中村光毅(1944〜)、キャラクターデザイン・上北ふたご(1960〜)、音楽・神保正明、山本正之というスタッフ陣は、「タイムボカン2000/怪盗きらめきマン」からほぼ受け継がれている。ただ、シリーズ構成の小山高生(1948〜)は参加していない。
 キャストでは、三悪の小原乃梨子、たてかべ和也、八奈見乗児にドクロベエの滝口順平と、悪玉側はオリジナルメンバーがそろった。4人そろって2008年時点で平均年齢75.3歳。一方、正義側はガンちゃん:吉野裕行(1974〜)、アイちゃん:伊藤静(1980〜)、オモッチャマ:たかはし智秋(1977〜)と総入れ替え。いずれもオリジナル「ヤッターマン」をリアルタイムで知らない世代になった。ナレーションも、亡くなった富山敬に代わり、山寺宏一(1961〜)に変更。山寺はヤッターワンなど全てのメカやオダテブタなどの声も担当している。
 
 
 30年ぶりのリメイクということで、現代的な味付けが加えられた。特に、絵柄がだいぶポップな感じに変わっていたのには、正直戸惑った。しかし、ストーリーや展開は、オリジナルそのまま。特に、ドロンボーおよびドクロベエを演じたベテラン声優たちの声が、当時と何ら変わりがないというのには、思わず涙が出そうになる。
 とは言うものの、前述した通り、主題歌にはかなりの不満が残る。その一方で、オリジナルでは三悪が歌っていたエンディング・テーマが、今回は物語とはまったく関係ない曲となっているのも残念である。今の時代はタイアップ曲ということでしかたがないのかもしれない。
       
 
 



3悪を演じる(左から)八奈見乗児、小原乃梨子、たてかべ和也
(2000年頃)
(「ぶたもおだてりゃ木にのぼる」279ページ)
 

 
   
 正義側の声以外にも、オリジナルと変わった点は多い。まず何よりも探す対象がドクロストーンではなく、ドクロリング(当初5個だったが、後に10個必要ということがわかる)に代わっている。また、第35話からドクロベエの孫のドクボン(声・三瓶由布子)と、ドクボンが乗るブタ型メカのネエトン(声・たかはし智秋)が登場し、ドロンボーと同行するようになる。その上、ドクロリング・ハンターなる、ドクロリングを探す第3の勢力 も第38話から登場して、ストーリーに膨らみが加えられた。
 ドロンボーの衣装(写真下)も微妙に変化しており、ドロンジョの衣装は、おへそを出した露出度の高いものになった。逆に、トンズラーとボヤッキーは出ベソを隠す形に。また、前作では3人共マスクに「ドロンボー」の「D」の文字を入れていたが、今作ではドロンジョが「D」、トンズラーが「T」、ボヤッキーが「B」と、各自のイニシャルを入れている。
 オリジナル版では正義感の強かったヤッターマン1号のガンちゃんは、リメイク版では優柔不断でやる気のない性格に変わっている。また、アイちゃんは「120パー、ステキ」とか、「ガンちゃんメガパー大好き」と、自分の気持ちをすぐ「○○パー(%)」と数値で表すのが口癖になっている。オリジナル版での2人は相思相愛でラブラブだったが、今回鈍感なガンちゃんはアイちゃんの気持ちに気がつかず、アイちゃんの片思いといった趣き。
  オリジナル版では、プジィプト(エジプト)やイマラヤ(ヒマラヤ)、アフリシャ(アフリカ)といった実在の地名をもじった場所に出かけていたが、リメイク版では大阪やニューヨークといった実在の場所が舞台となっている。何よりも、時折だがタイムトンネルをくぐりぬけてタイムトラベルをする展開が見られるのだ。「オリジナルドラマ/大レース その前夜」(CD「悪玉馬券塾」所収/1992年)でボヤッキーが言っていた「汚名」を30年ぶりにようやく返上することができたのではないか。また、放送コードの問題だろうが、ドロンジョのバストが露わになるなどのお色気シーンが姿を消した。ボヤッキーいわく「今のテレビ じゃここまでが限界なのよ」(第13話)とのこと。
 オダテブタは、決めセリフの口調が少し早口になったが、第1話から登場。ドッチラケやナゲキブタ、オホメブタといった他のコクピットメカも登場する。また、オロカブ(「ヤットデタマン」)、オシイ星人(「ゼンダマン」)、オハヤシ星人(「オタスケマン」)といった「ゼンダマン」以降のコクピットメカや、「寒い、懐も寒けりゃ、お前らも寒い…」と言うコートを着た“ドンビキドクロ”、「さよ、おなら」と言っておならをする、“サヨブタ”といったオリジナルのコクピットメカも登場している。
 さらに、久しぶりのシリーズということからだろうか、歴代のタツノコアニメのキャラクターがあちらこちらにゲスト出演しているのも楽しい。例えば第1話では、ハクション大魔王とアクビちゃんの石像が登場したり、街の電光掲示板にグズラが映っていたり。ラストでもヤッターワンの対向車線をマッハ号(「マッハGOGOGO」)がすれ違って行く。 それ以後も、科学忍者隊ガッチャマンや新造人間キャシャーン、風船少女テンプルちゃんなど、最初のうちは毎回のように誰かしらが顔を出していた。あまりにも多くて、いちいち全部をあげるわけにはいかないが、ぜひご自分の目で探していただきたい。個人的に意外だったのは、第3話の舞台となったハリウッドの映画スタジオで、「とんでも戦士ムテキング」で宿敵だったムテキングとクロダコブラザースのタコミが談笑している姿が見られたこと。タコミはかつてムテキングに恋焦がれていたが、敵同士ということで、その思いがかなうことはなかった。しかし、永い時を経て2人はこうして笑いあえるようにまでなったのかと思うと、感慨深い。
 「タイムボカン」シリーズからの出演も、第5話のラストでオタスケサンデー号(「タイムパトール隊オタスケマン」)が空を飛んでいたのを皮切りに、第10話で鹿児島の商店街でゼンダマンの鉄ちゃんとさくらちゃんが抱き合っていたりとやはり多い。第26話「歴代三悪オールスター勢揃いだコロン!」は、タイトルを観て期待するとがっかりさせられる。草野球大会の優勝トロフィーになったドクロリングを手に入れるために、ドロンボーが、マージョ(「タイムボカン」)、ドンジューロー(「ゼンダマン」)、アターシャ(「オタスケマン」)、スカドン(「ヤットデタマン」)、コスイネン(「逆転イッパツマン」)、ダサイネン(「イタダキマン」)に助っ人を頼むというもの。彼らのほとんどは見せ場も無ければ、セリフもほとんど無 い。風呂の中でドロンジョとマージョ、アターシャが喧嘩をするのが見所ぐらいか。

 その他、第7話で叶姉妹(叶恭子・叶美香)を模したキャラクターが登場し、本人たちが声を当てていたのを皮切りに、実在の有名人がゲストキャラクターとして登場すること もあった。みのもんた(1944〜)、“せかいのナベアツ”(渡辺鐘/1969〜)、さかなクン(1975〜)、エド・はるみなど、話題の人物を登場させるあたりが、常にタイムリーな話題を取り入れる「タイムボカン」シリーズらしい。なお、劇場版アニメ「劇場版ヤッターマン/新ヤッターメカ大集合!オモチャの国で大決戦だコロン!」にはお笑いコンビ・オードリー(春日俊彰・若林正恭)も登場している。
   
 
 



ドロンボー一味
(左から)トンズラー、ドロンジョ、ボヤッキー
(「ヤッターマンキャラクターブック」12ページ)
 

 
    
 第1話でのドロンボー一味は、不思議なことに突如現れたドクロベエに何も言わずに従う。それよりも不思議なことは、同じく第1話で、ガンちゃんとアイちゃんが何の脈絡も無く 突然ヤッターマンに変身することである。理屈も何も無く、いきなり観ている我々をマンネリの世界に引き込もうとしているのだ。
 そもそも、リメイク版とオリジナル版との時間関係は、どうなっているのだろうか。ドロンボーたちが過去を懐かしむ場面がしばしば登場することから、一応は後日談になっているように思われる。例えば、第4話でヤッターマンの決め台詞を聞いたドロンジョは「30年前と同じセリフかい。ダッサー。」と言う。しかし、その一方で、第1話でヤッターマンを見て、ドロンジョは「なんだこいつらは?」と言っており、彼らのことを知らないようなのである。ヤッターマンたちも、ドロンボーやドクロベエのことを知らず、しかも中学生という年齢を考えると、オリジナル版のヤッターマンとは別人ということになる。オリジナル版のヤッターマンとの関係も不明である。もっとも、詳しい詮索は野暮と言うものだが。
      
 
 



左はドクボンとネエトン
右のメカはヤッターモグラ
(「ヤッターマン2010年カレンダー」より)
 

 
 
 リメイク版第1話から登場したヤッターワンは外見が微妙に異なっているが、基本的にはオリジナル版と同じ。メカの素を食べるとファンファーレを鳴らして、口からビックリドッキリメカ(ゾロメカ)を出撃させる。
 14話からヤッターペリカン、25話からヤッターアンコウが登場。
 その他、オリジナルのメカも数多く登場している。第35話からは、ジンベエザメをモチーフとした飛行母艦型のヤッタージンベエが登場。さらに、第39話からヤッターモグラ、第50話からヤッタードラゴンが登場している。
 なお、第27話にのみ、ヤッターヨコヅナも登場しているが、これはガンちゃんの先祖が江戸時代に作ったカラクリ仕掛けという設定だった。
   
 
  ◆実写版「ヤッターマン」  
 



(左より)桜井翔と福田沙紀
(映画「ヤッターマン」プログラムより)
 

 
 
 こうした中、実写版「ヤッターマン」が製作され、2009年3月に公開されることになった。
 僕は正直言うと、「ヤッターマン」の映画化が不安でならなかった。近年、「デビルマン」(2004年東映/テレビ朝日/他)、「キューティーハニー」 (2004年トワーニ)、「NIN×NIN忍者ハットリくんTHE MOVIE」(2004年東宝/フジテレビ/他)など、往年のテレビアニメの実写映画化が相次いでいる。「ドラゴンボール」(2009年米)がハリウッドで映画化されて話題になったが、それ以前にも 「シティハンター」(1993年香港)や「北斗の拳」(1995年米/日)も海外で映画化されている。しかしながら、これらの作品の中で正直成功作と呼べるものは少なかった。例えば、「デビルマン」に至っては史上最大の失敗作と言う烙印まで押されているし、「8マン/すべての寂しい夜のために」(1992年リム出版)や「鉄人28号」(2005年クロスメディア/メディアウェイブ)も失敗作と言われることが多い。そうでなくても大抵の場合は賛否両論に終わっている。
 タツノコプロの映画化作品としては、「新造人間キャシャーン」(1973〜74年フジテレビ)の映画化である「CASSHERN」(2004年パートナーズ)がある。ミュージック・クリップを製作していた紀里谷和明(1968〜)の監督デビュー作で、当時(2002〜07)紀里谷と結婚していた宇多田ヒカル(1983〜)が主題歌を担当したことでも話題を呼んだが、映画そのものはやはり賛否両論。個人的にはそれなりに面白かったと思うし、映像美も評価していい。しかし、アニメ版からは設定の一部と、登場人物の名前を借りたぐらいで、ほぼオリジナル作品となっていること に不満を感じた。
 そのような背景から、僕が実写版「ヤッターマン」の映画化を危惧していたとしてもしかたがないと、誰もがわかってくれるだろう。
             
 
 



ヤッターワンの前に立つ桜井翔
(映画「ヤッターマン」プログラムより)
 

 
 
 「ヤッターマン」の監督は三池崇史(1960〜)。「子供の頃に見た『ヤッターマン』の感じを限りなく再現したい(*16)」と後に語っているが、彼は1960年生まれなので、オリジナル版「ヤッターマン」放送当時は、17〜19歳。熱中した世代よりは少し上では無いかと思う。もちろん、高校生がアニメを見てはいけないということはないが…。
 「ヤッターマン」の2人には、アイドルグループ「嵐」の櫻井翔(1982〜)と、福田沙紀(1990〜)という若手アイドル2人が扮している。しかしながら、所詮主役2人は「表紙の人」。話題はドロンボー役、とりわけドロンジョに誰が扮するかということだった。
 ドロンジョは設定では24歳。しかしながら、ムンムンと香り立つ色気。そして単なる悪女ではない、どこか憎めない小悪魔的なキャラクターである。決して一筋縄ではいかない。実際に演じられる女優がいるのだろうか。僕が真っ先に思い浮かべたのは、夏木マリ(1952〜)であった。しかし、さすがに2008年時点で56歳の夏木のドロンジョには無理がある。ドロンジョが実際にそのまま歳を取ったという設定の現代の物語だったら有りだろうが…。若手で探すとなると杉本彩(1968〜)が良いだろうか。あるいは彼女なら、オリジナル版でお約束のポロリが見られるかも…。
 噂では、アンジェリーナ・ジョリー(1975〜)に出演依頼するも断られたとの話。どうも、三池監督が「ドロンジョ役はアンジェリーナ・ジョリーが俺のイメージだ
(*17)」と語ったの に尾鰭ががついたのが真相らしい。その他ネット上では、小池栄子(1980〜)、佐藤江梨子(1981〜)なども噂にあがっていた(*18)
 そんな中、発表されたドロンジョの配役は深田恭子(1982〜)であった。深田恭子は確かに美人だし、身長163センチでスタイルもよいが、どうもドロンジョ役としてはピンとこない。「Dolls」(2002年オフィス北野、他)や「下妻物語」(2004年東宝、TBS、他)など、これまでどちらかというと可愛らしい役を演じることが多かったからである。しかしながら、映画の公開に先立って公開されたドロンジョの衣装を身に付けた“フカキョン(深田の愛称)”は、なかなかセクシーで決まっていた。
 また、トンズラーにはお笑いタレント、ケンドーコバヤシ(1972〜)が扮している。コバヤシは172センチ80キロの巨漢だが、さらに肉じゅばんを着て存在感を増している。コバヤシはプロレスラーとしての一面も持つので、元プロレスラーという設定のトンズラーにはふさわしいのだろう。
 ドロンボーの中で、僕が最も意外に感じた配役はボヤッキー役の生瀬勝久(1960〜)だった。他の配役が若者に人気のアイドル俳優中心であっただけに、特にそう感じる。しかし、よく考えると、これほど的を得た配役は無いのではないか。しかも生瀬はこう語っている。「役者を始めてからやりたいと思っていた役が3つあります。(ゲゲゲの鬼太郎の)ねずみ男、(西遊記の)沙悟浄、そしてボヤッキー。オファーがきたときは泣いて喜びました
(*19)」。映画の舞台あいさつでの発言なので、多分にリップサービスが含まれているように思えるが、生瀬は雰囲気も声色もボヤッキーのイメージそのままで演じてくれた。
 この他、声の出演として、ドクロベエの滝口順平、オモッチャマのたかはし智秋、ナレーション・ヤッターワン・オダテブタの山寺宏一と、アニメ版のキャストがそのまま登場。なお、山寺宏一は遊園地係員役でゲスト出演もしている。
   
*16 映画「ヤッターマン」プログラム
*17 小原篤「マニアゲ丼:妄想全開『ヤッターマン』実写版」(http://www.asahi.com/culture/animagedon/TKY200711050250.html
*18 「エンタメアワー:深田恭子 ドロンジョ役に抜擢!?」(http://www.mask28.com/archives/cat/post_66/
*19 「ORICONSTYLE:生瀬勝久生涯の夢『ヤッターマン』ボヤッキー役、ついに叶う」(http://www.oricon.co.jp/news/confidence/63578/full/
 
 
 



ドロンボー一味
(左より)ケンドーコバヤシ、深田恭子、生瀬勝久
 

 
 
 実写映画「ヤッターマン」は、言ってみればテレビアニメのエピソード3本を一本につなげたような感じである。ドロンボーが探す対象はドクロストーンであり、地名も実在の物をもじった名称になっているなどオリジナル版アニメの設定を踏襲している。

 物語はまず、渋谷ハチ公前ならぬ渋山ハッチ公前広場で幕を開ける。ハッチ公像はみつばちハッチ(「みなしごハッチ」1970〜71年毎日放送)の姿をしている。町を破壊しているのは、ドロンボーのメカ“ダイドコロン”。このダイドコロン、オリジナル版「ヤッターマン」の第1話に登場した記念すべきドロンボー・メカ第1号なのである。ダイドコロンは、ドロンボーを象徴するメカとして、その後「タイムボカン王道復古」にも登場。リメイク版「ヤッターマン」の最初のオープニング映像でも、ヤッターワンによって投げ飛ばされていた。
 そこに、「ヤッターマンがいる限り、この世に悪は栄えない。」お馴染みの決め台詞と共にヤッターマンが登場。桜井翔と福田沙紀のアイドル2人扮するヤッターマンは、帽子にマスク、つなぎ服というアニメそのままのコスチューム。ただ、残念なことに首にたなびくマフラーが無い。映画版キャラクターデザインの寺田克也(1963〜)によると、「実写で常にひらひらさせるのが難しいので取ってしまいました
(*20)」とのこと だ。
 続いてオモッチャマとヤッターワンも登場している。アニメ版とは違って真っ赤に塗られたヤッターワンのデザインには少々不満が残るものの、CGでリアルに表現されている。
 
 「出てこいドロンボー。」ヤッターマン1号の声に促され、ボヤッキー(生瀬勝久)、トンズラー(ケンドーコバヤシ)、ドロンジョ(深田恭子)がダイドコロンの中から登場。フカキョン(深田恭子)演じるドロンジョは、仮面にボンデージ衣装がなかなか決まっている。なんでもこの衣装、キャスティングが決まってから描き直された
(*21)のだという。ルックスを見る限り、フカキョンのドロンジョは成功だろう。しかし、その直後の「ボヤッキー、トンズラー、やっておしまい」というお馴染みのセリフ。あまりに可愛い声なので、拍子抜けしてしまった。
 ボヤッキーとトンズラーは、入れ歯で特徴ある歯を表現。鼻は、マスクのデザインとなり、出ベソもベルトのバックルになっている。

 巨大スプーンと巨大フォークの特殊兵器を用いて向かってくるボヤッキーとトンズラーに、ヤッターマン1号はケン玉の武器ケンダマジック、2号は電流を流すシビレステッキで立ち向かう。CGを駆使し、宙を舞うヤッターマンたち。まさに往年のアニメそのものである。やがて、メカ戦となり、ダイドコロンはヤッターワンを追いつめる。ガンちゃんの投げるメカの素も、ダイドコロンはフライパンと包丁で調理してしまう。結局、ドロンボーのドジでヤッターマンが勝つというのは、アニメ同様のパターンである。三輪自転車で逃げるドロンボーはドクロベエ(声・滝口順平)からお仕置きを食らう。
 
*20*21 映画「ヤッターマン」プログラム
      
   
 
 



(左より)ケンドーコバヤシ、深田恭子、生瀬勝久
(映画「ヤッターマン」プログラムより)
 

 
 
 ドクロストーンの一片を持つ少女・海江田翔子(岡本杏理)は、ヤッターマンに行方不明の父親の捜索を頼む。彼女の父・海江田博士(阿部サダヲ)は、ドクロストーン捜索に出かけたまま行方不明になっていた。
 第2のエピソードでは、ドロンボーはドクロベエからの指令でオジプトへと出かけていく。

  ヤッターマン出動の場面で、山本正之が歌う「ヤッターマンの歌2009」が流れるのだが、個人的には、第2話の冒頭で「YATTERMAN」のタイトルが登場した時に流して欲しかった。というのも、ドロンボーが「天才ドロンボー」を歌いながらメカを作る場面が先に出てきてしまっているからだ。「天才ドロンボー」は本来、エンディングテーマだっただけに、違和感がある。
      
 
 



勝利のポーズ
(左より)桜井翔、岡本杏理、福田沙紀
(「映画『ヤッターマン』オフィシャル・ヴィジュアル・ブック」8ページ)
 

 
 
 第2話のドロンボー・メカ“バージンローダー”は、巨大なバストから繰り出す「オッパイマシンガン」「オッパイミサイル」で攻撃する。やがて、ヤッターワンからビックリドッキリメカ としてアリメカが出撃。もだえ苦しむバージンローダーを見て、欲情したヤッターワンは、バージンローダーにキスをし抱き合いながら、爆発に巻き込まれ大破してしまうのだった…。

 第3話では、ヤッターワンのコアメカを利用して製作されたヤッターキングが出動する。ヤッターキングは、やはりアニメ版とは違い銀一色に塗られている。ヤッターキング出動の際に「ヤッターキング2009」が流れる。編曲と演奏はザ・クロマニヨンズ。ハードロック調のアレンジに驚くが、そもそもボーカルの甲本ヒロト(1963〜)が山本正之と親交があることからの起用となった。10代で東京に上京したての甲本が、「逆転イッパツマン」(1982〜83年)収録中のスタジオに山本を訪ねたこと
(*22)がきっかけで、甲本と山本の親交が始まったそうだが、その縁で、甲本は「タイムボカン王道復古」第1話(1992年)にオハヤシ星人の声で参加している。また、「タイムボカン2000/怪盗きらめきマン」のエンディング・テーマ「フララン・ランデブー」もピンクピッギーズと共に歌っている。そして映画版での「ヤッターキング2009」起用となった。
 ヤッターキングは、巨体にもかかわらず、一気に成層圏まで飛び出すほどのパワーを持ち合わせ、ドロンボーが待ち受ける南ハルプスへ向かう。
 やがて、最後のドクロストーンをめぐってヤッターキングとドロンボーメカ“イカタゴサク”の最終決戦が展開する。

*22 「タイムボカン全集」77ページ
  
 
 



バージンローダー
(映画「ヤッターマン」プログラムより)
 

 
 
 オリジナルアニメ版のドクロストーンは、ドクロベエの正体そのものであったが、映画版ではすべてが集まると時間の流れが狂うということになっていた。そして、ドクロストーンが光ると、いろいろな物が消えてしまう。富士山や飛行船、火曜日、パチンコの“パ”の字など。オモッチャマまでもが消えてしまう。

 実写映画「ヤッターマン」には、アニメでもお馴染みの様々なアイテムが登場してくる。「やっておしまい」「ポチっとな」「スカポンタン」「説明しよう」などのセリフや、ドクロ型のキノコ雲(写真下)など。コクピットメカとしても、オダテブタが登場し、「ブタもおだてりゃ、木に登る」と決め台詞を述べる。ラストシーンでは、「かわいそ、かわいそ」となぜかナゲキブタのセリフをしゃべっいた。
 ドロンボーがメカを作りながら「天才ドロンボー」を歌い、CGでヤッターマンの変身シーンがリアルに再現され、「勝利のポーズ」を決める。
 ヤッターワンにつかまって出撃するヤッターマン。飛んできた新聞紙がヤッターマン2号の顔にぶつかったり、海を渡る際に波をかぶってしまうのは、実写ならではのアイディアといえるだろう。
 また、女子高生好きのボヤッキーの夢のシーンも強烈。何と、女子高生の山に埋もれるというのが実写で登場するのである。

 その他のお楽しみとしては、第3話のインチキ寿司屋の客の中ドロンジョ役の声優・小原乃梨子と、トンズラー役の声優・たてかべ和也が登場しているのだ。もちろん、顔は知らなくても大丈夫。声を聞けばすぐにわかる。この2人と並んでいるのは…、なんと総監督の笹川ひろしである。
    
 
 



CGで再現されたドクロキノコ雲
(「映画『ヤッターマン』オフィシャル・ヴィジュアル・ブック」48ページ)
 

 
 
 ヤッターキングとイカタゴサクの最終決戦は、トビウオメカとハマチメカのゾロメカ同士の対戦となる。ハマチメカはブリメカに出世し、トビウオメカを圧倒するが、あまりに出世しすぎてドロンボーの命令を聞かなくなってしまう。
 ドロンボーを倒したヤッターマンの前に、ドクロベエが姿を見せる。ドクロベエは海江田博士の体を乗っ取っていた。
 ドクロベエの野望に自分たちが利用されていたことを知ったドロンボーは、ヤッターマンと協力してドクロベエに立ち向かう。
   
 
 



オダテブタ
(映画「ヤッターマン」プログラムより)
 

 
 
 映画のラストでは予告編が流れる。もちろん実際には続編は製作されておらず、「また来週」劇場に行っても同じ映画が上映されているだけなのだが、最後の最後まで原作のパターンを踏襲する演出が心憎い。ちなみにこうした偽予告編が流れる映画というのにはメル・ブルックス(1926〜)監督・製作・脚本・出演のコメディ映画「珍説世界史PART1」(1984年米)がある。
 その予告編では、敗れ去ったドクロベエの弟が登場する。ドロンボーの完全復活。ヤッターペリカン、さらには謎の白コスチュームのドロンジョが登場。嘘とわかってはいても、楽しみになってくる。
 しかし、映画「ヤッターマン」は31.4億円の興行収入を挙げ、2009年度の日本映画興行収入の順位でも9位に入る
(*23)ほどの大ヒットとなっている。続編 が製作される可能性は高い。何でも、「深田恭子演じるドロンジョの生い立ちに迫った外伝」となるとのようだ(*24)

*23 「一般社団法人日本映画製作者連盟」ホームページ(http://www.eiren.org/toukei/index.html
*24 「リアルライブ:深キョンの限界露出 きっかけはライバル・黒木メイサ」(http://npn.co.jp/article/detail/50654572/

   
 
  ◆劇場版アニメ「ヤッターマン」  
 



劇場版アニメ「ヤッターマン」(2009年タツノコプロ)
(「劇場版ヤッターマン/新ヤッターメカ大集合」プログラム)
 

 
 
 2009年、新アニメシリーズの放送も2年目に入った。当初は月曜日の19時台に放送されていたのが、2009年4月からは日曜日7時からの放送に変わっている。そんな中、実写版映画に続き、夏休み映画として劇場アニメ版「劇場版 ヤッターマン/新ヤッターメカ大集合!オモチャの国で大決戦だコロン!」(2009年タツノコプロ)が2009年8月に公開された。

 アニメ版の劇場公開としては、すでにオリジナルアニメを放送していた時期に「ヤッターマン」(1977年タツノコプロ)が、「東映チャンピオンまつり」の一環として公開されている。しかしこれは、第5話「イルカ王国の宝だコロン」をそのまま上映しただけのものであった。
 劇場用オリジナル作品としては、「ゼンダマン/ピラミッドの箱の謎だよ!」(1980年タツノコプロ)と、「タイムパトロール隊オタスケマン/アターシャの結婚披露宴!?」(1981年タツノコプロ)が「東映まんがまつり」で上映されている。
 しかし、これら3作品はいずれも30分未満の短編作品であったため、長編アニメ映画としては 「劇場版ヤッターマン/新ヤッターメカ大集合」がシリーズ初の快挙ということになる。
      
 
 



「劇場版ヤッターマン/新ヤッターメカ大集合」(2009年タツノコプロ)
メカは(左上から反時計回りに)ヤッタージンベエ、ヤッターゼロ、ヤッターモグラ
ヤッターワン、ヤッターアンコウ、ヤッターペリカン
背後のシルエットはヤッターキング
 

 
 
 劇場アニメ版はリメイク版アニメの1エピソードとして展開する。
 冒頭はドロンボーのインチキ遊園地。そこに現れたのがヤッターマン。まだドクロリング探しに出かけていないというのに、ビックリドッキリメカも出現してのいきなりのクライマックである。あれ、いつもより早いのはなぜ? 今回の真の敵はドロンボーではないのだ。
 
 ヤッターマンはヤッターワンと共に、トイトイ王国に招待される。そこで、ブリキン王(声・緒方賢一)とプラモン王子(声・沢城みゆき)に出会う。同じ頃、ドロンボーのボヤッキーもまた、大臣パ・ズール(声・森川智之)によって トイトイ王国に招かれていた。
 ヤッターワンの前に真っ黒な“ヤッターゼロ”が出現する。強力な武器を装備したヤッターゼロはヤッターワンを大破させる。そのヤッターゼロは、ガンちゃんの父・高田徳兵衛(声・菅生隆之)が作りかけたものだったが、パ・ズールの世界征服の企みを知って製作を中止。ボヤッキーによって完成された 。
 やがて、パ・ズールがその本性を露わにして、クーデターを起こし、ブリキン王とアイちゃんを捕える。ヤッタードラゴンに助けられたガンちゃんは、ヤッターワンを修理すると、ヤッターメカを引き連れて、救出に向かう。同じく捕えられた高田徳兵衛も、ヤッターコング&ヤッターココングに、パ・ズールの野望を阻止させようとする…。 
    
 
 



大破したヤッターワンを運ぶヤッタードラゴン
(「劇場版ヤッターマン/新ヤッターメカ大集合」プログラム13ページ)
 

 
 
 サブタイトルに「新ヤッターメカ大集合」とあるように、ヤッターマン側のメカが次々と登場する。まるでおもちゃ箱のような賑やかさ。ヤッターワン、ヤッターペリカン、ヤッターアンコウ、ヤッタージンベエ、ヤッターモグラ、ヤッタードラゴン…。 そして劇場アニメ版オリジナルのヤッターコング&ヤッターココングが加わる。
 そして、ヤッターマン側の最終メカとして、ヤッターキングが登場。ヤッターキングはオリジナル・アニメ版では破壊されたヤッターワンを改良することで登場しているが、劇場アニメ版では、ヤッターワンが良心を取り戻したヤッターゼロと合体することで登場する。
 オリジナル版のヤッターキングは4足走行であったが、ここでは2足立ちして敵に立ち向かう。
 ヤッターキングの登場のシーンで挿入歌として「ヤッターキング/2009夏!アニメ」が流れる。歌っているのは山本まさゆき&ピンクピッギーズ。実写映画版の「ヤッターキング2009」がザ・クロマニヨンズのハードロック・バージョンで、少々物足りなかっただけに、久しぶりの山本節にはこみ上げてくるものがある。キャラクターの変更に合わせて歌詞の「♪ブル、ドジラ、パンダ、コパンダ」の部分が「♪モグラ、ドラゴン、コング、ココング」に変えられていた。

 ヤッターキングの活躍もあり、パ・ズールの野望は阻止される。
 「勝利のポーズ」では、8体のヤッターメカが見得を切るが、これらのメカの声を山寺宏一が見事に一人で演じ分けている。山寺はもちろんナレーションも担当しているが、その他オダテブタなどコクピットメカも一人で演じており、クレジットされた役名は何と全部で16
(*25)。ある意味、山寺の一人舞台の感もある。

*25 ちなみにその役名はヤッターワン、ヤッターペリカン、ヤッターアンコウ、ヤッターモグラ、ヤッタードラゴン、ヤッタージンベエ、ヤッターゼロ、ヤッターキング、ヤッターコング、ヤッターココング、おだてブタ、でブタ、佐代ブタ、ドッチラケ、なげきブタ、ナレーション
          
 
 



ヤッターキング
(「劇場版ヤッターマン/新ヤッターメカ大集合」プログラム16ページ)
 

 
 
 地球を滅ぼすことも辞さないパ・ズールの野望に対し、ドロンボーがヤッターマンに協力して立ち向かうという展開になったため、ドロンボーの影が少々薄くなっているのは残念なところ。だが、ドロンボーは、パ・ズールに対して、「いくら悪党だからって、私たちは人の命を奪うほど落ちぶれちゃいないよ」と彼らなりの悪の美学を見せる。
 その他、ヤッターワン誕生の秘密が述べられ、ブリキン王とプラモン王子、ガンちゃんと父・徳兵衛という2組の親子の絆が描かれている点も、単なるテレビアニメの延長でなく、劇場版ならではの深みがあると言えるだろう。  
      
 
 



ヤッターコング
左肩にヤッターココングもいる。
(「ヤッターマン2010年カレンダー」より
 

 
 
 ラストはテレビ版同様ドロンボーに対するお仕置きだが、この時ベートーベンの「運命」のファンファーレが流れる。ドロンジョは「この懐かしい音楽は?」。これは、オリジナル版アニメのパターンで、リメイク版には無かったパターンなのだが、最後の最後にオールドファンへのサービスが盛り込まれていた。
 
 
 



ヤッターワンを製作する
若き日の徳兵衛(左)とガンちゃん
(「劇場版ヤッターマン/新ヤッターメカ大集合」プログラム3ページ)
 

 
  ◆リメイク版アニメ大団円  
 



(「ヤッターマン2010年カレンダー」より)
 

 
 
 2009年9月、リメイク版テレビアニメが最終回を迎えた。最後の3回は、連続したエピソードとなっていた。
 最後のドクロリングをめぐって、ヤッターマンとドロンボー、そしてドクロリングハンターによる三つ巴の最終決戦が展開。ドクロリングハンターは、ルネッサンスの大科学者レ・オナラブー・ダベンキ(声・八奈見乗児)の霊を召還。このレ・オナラブー・ダベンキ、顔も声もボヤッキーに酷似 している。そのダベンキが製作したダベンキメカは、圧倒的なパワーで、ヤッターメカを全滅に追い込む。
 この最終回は、劇場アニメ版とリンクしており、ガンちゃんは、ヤッターゼロのメモリーを使うと、ヤッターワンをヤッターキングに変形させ、ダベンキメカに立ち向かう。

 それにしても、リメイク版のヤッターキングは、2足走行するばかりか、頭には角がついており、まるで兜をかぶっているようである。そして、ビームライフルならぬウォーター・ライフルや、ホースからビームを繰り出すウォーター・サーベルを駆使する。その姿は、どうしても 「機動戦士ガンダム」を思い起こさせる。
 確かに、「タイムボカン」シリーズのメカニックデザインは、「機動戦士ガンダム」(1979〜80年日本サンライズ)と同じ大河原邦男なのだが、ここでは意図的に似せているように思われる。例えば、ダベンキメカが四方八方から攻撃してくる様子は、「ガンダム」におけるオールレンジ攻撃を彷彿させる。
 落雷によってメカを失ったドロンボーだったが、ボヤッキーが友人の「大河原ちゃん」に電話してメカを要請。その際に送られてきたデザインを見て ボヤッキーは「こんな白くて角の生えているロボット放送できないわよ」と叫ぶ。そうして登場したメカ・ドロンキングには足が無く、それを問いただしたトンズラーに、ボヤッキーは「あんなのただの飾りなのよ」と答える。これも「ガンダム」で最後の敵となったジオングのパロディである。そう考えてみると、ヤッターマン基地からヤッタージンベエが出動する際に、地面がスライドして、滑走路が登場する辺りも、「ガンダム」の 秘密基地ジャブローを彷彿させる し、ヤッターペリカンがヤッターワンを載せて飛行するのもガンダムとGファイターを思い出させるではないか。 
 
 
 



(後ろ左から)ヤッタードラゴン、ヤッタージンベエ
(手前は)ヤッターアンコウ
(「ヤッターマン2010年カレンダー」より)
 

 
    
 ヤッターキングはダベンキメカ、ドロンキングを撃破。他のヤッターメカも救出される。謎の存在だったドクハン(ドクロリングハンター)ボスの正体が明らかになり、ドクロリングの真の意味も解明され、ドクロベエが復活。また、ドロンボーは実はドクロベエによって過去の記憶を盗まれていたことがわかり、リメイク版はオリジナル版の後日談であったこと が判明する。
 
 ドクロベエはドクボンと共に宇宙へ帰って行き、ついにドロンボーも解散となるのだった…。
  
 
 



右側のメカはヤッターキング
(「ヤッターマン2010年カレンダー」より)
 

 
 
 ラストではオリジナル版リメイク版併せての様々な記録が紹介されている。それによると、ドロンボーメカとヤッターマンの対戦成績は0勝168敗1引き分け。1引き分けは、オリジナル版第45話でヤッターワンと相打ちになった時のものである。その他、ボヤッキーがドロンジョに殴られた回数、474回。トンズラーがドロンジョに殴られた回数、116回。ドロンジョがこけた回数、215回。ボヤッキーがこけた回数、199回。トンズラーがこけた回数、192回とある。ドロンジョの乳首が見えた回数、36回というものもあるが、これはオリジナル版のみの回数。先にも述べたように、リメイク版では放送コードの関係で、お色気描写が控えめになっていた。 
 いったんは別々の道を歩んで行ったドロンボーの3人だったが、結局再び結成される。そして、ドクロリングは実は50個必要だったことも明らかになる。さらに、「この予告はウソです」のテロップのもと、次回予告が流れるという念の入れよう。次回タイトルは「エヘッ 水着だらけのビーチバレー対決!何!?ドクロリングの次はドクロパンツ7枚!?だコロン」というもので、“ドクロパンツ”なるものの存在が示される。それにしても最後の最後までサービス精神と遊び心が発揮されたシリーズであった、
     
 
  ◆ドロンボーのその後  
 
 オリジナル版アニメのラストでドロンボーは解散し、ドロンジョ、トンズラー、ボヤッキーの3人は、三差路のそれぞれの道に別れて去っていった…。もっともその3本の道は再び一本道に合流することになるのだが。
 リメイク版アニメで再びドロンボーが復活するまでの間に、彼らが何をしていたのかをみていきたいと思う。それらは、その後の作品の中で断片的に語られている。それぞれの内容には矛盾も見られるのだが、まとめて紹介することにしたい。なお、年代に関しては、作品中での言及がないことが多いため、それぞれの作品が放映された年ということにする
(*26)。また彼らの年齢も、設定によるものに従い、1977年時点でドロンジョ24歳、トンズラー30歳、ボヤッキー25歳ということにしたい。
          
 
 



そば屋で働くボヤッキー
「タイムボカン王道復古第1話」より
(「タイムボカン全集2/悪の華道」62ページ)
 

 
   
 1979年に解散したドロンボーの3人が再会したのは、12年後
(*27)の1991年のことで、それはCDアルバム「タイムボカン名曲大全」に納められたミニドラマの中で紹介されている。小雪舞う有楽町の街角で3人は運命の再会を果たす。ドロンジョ(38歳)は西麻布のスナックの雇われママ、トンズラー(44歳)はウサギ売りのテキヤ、ボヤッキー(39歳)は 「ヘルニアのボヤ」の名前で錦糸町で売れっ子ホストをやっていた。3人はドラマのラストで三悪を結成し、再びアニメ界に殴りこみをかけることを決意する。

 その決意が2年後の「タイムボカン王道復古」(1992〜93年)として結実する。ここでのドロンジョ(41歳)は結婚していて、7つをかしらに年子の子供が5人いることになっている。ボヤッキー(42歳)もやはり初恋の人「会津若松のおハナちゃん」(声・滝沢久美子)と結婚し、国分寺でそば屋“会津屋”を営んでいる。トンズラー (47歳)だけは独身で、マネージャー業についている。

 ラジオドラマ「平成タイムボカン」(1996〜97年)によれば、ボヤッキー(45歳)は3年前に夜逃げしてしまい、会津屋も更地になっている。ちなみにおハナちゃんとの間には中学生の娘・ハッピー(声・川上とも子)がいる。一方、ドロンジョ(44歳)は代官山で「ぶちっくドロンボー」という名前のスナックを経営。トンズラー(50歳)はプロレス団体WHHの社長という肩書である。また、元プロレス世界チャンピオンであったらしい。さらに、18歳の娘がいるとのセリフも登場するが、3年前の「王道復古」の時には独身だったはずである。しかも、年齢を逆算すると、誕生したのはオリジナル版「ヤッターマン」の放送当時と考えられる。つまり、トンズラーがドクロストーンを探していたちょうどその時期にあたる。おそらく、トンズラーは娘がいることを知らず、後になって知らされたのだろう。
 ドロンボーの3人が3年前に共同で買った宝くじが1億3000万の大当たり。ボヤッキーはそれを元手にラスベガスのカジノで大儲けした結果、6850億円の資産を手にする。もう悪いことにも飽きた3人は正義の使者“世直しドロンボー”としての活動を開始する。そうして、ボヤッキーが3年がかりで製作したスーパーマシン4704、通称世直し号に乗り込み、コギャルや住専、セクハラ親父らに対して鉄槌を下す。だが、ボヤッキーが選挙に出馬し、当選したのを契機に、解散することになる。

 議員に当選したボヤッキーだったが、わずか3日で辞職。ドロンボーは再び悪に目覚め 、タイムマシン“超(スーパー)タイムガイコッツ2”に乗り込み、お宝を求めて過去へのタイムトリップを開始する。
 この時、ボヤッキーが発明した、肉体も精神も20歳若返らせる器械「ヨミガエール」によって、ドロンボーは若さを取り戻している。なるほど、リメイク版アニメで ドロンボーたちが昔と変わらない容姿だったのは、このマシンを使ったからだったのだ。
 ドロンボーは、トッキュウマンモス(「逆転イッパツマン」)に乗り込む骨董屋の娘カムと、そのボーイフレンド・バックと共にお宝をめぐっての争奪戦を繰り広げる。カムとバックはそれぞれカエッテキタマンとオカエリマンに変身する。
 「平成タイムボカン」のラストでは、ドロンジョは「タイムボカン」マニアの大富豪と共同でスポンサーとなり、シリーズ第8弾「カエッテキタマン」を製作することになるが、実際には「怪盗きらめきマン」(2000年)として実現する。
 
 その「怪盗きらめきマン」では、ドロンボーはオーグオン・シティのジュテーム署すぐ近くにある喫茶店「ドロンボー」のマスターをしている。資産家であったはずの彼らが、どのような経緯で喫茶店を経営するに至ったのかは不明だが、リメイク版「ヤッターマン」でも彼らは貧乏であったことを考えると、何らかの事業にでも失敗したのかもしれない。
 なお、リメイク版「ヤッターマン」では、トンズラーは副業として売れない演歌歌手のマネージャーをしている。また、ボヤッキーはそば屋で働いているが、その店の名は「会津屋」。「王道復古」に出て来た店と同じなのだろうか?

*26 ちなみに「タイムパトロール隊オタスケマン」(1980〜81年)は20世紀も終わりの頃、「逆転イッパツマン」(1982〜83年)は1999年と、近未来の設定になっている。
*27 CDの中では「8年後」となっているが、これは「イタダキマン」(1983年)放送終了後から数えてのこと。

       
 
 



新婚でアツアツの愛ちゃん(左)とガンちゃん
「タイムボカン王道復古第2話」より
(「タイムボカン全集2/悪の華道」62ページ)
 

 
 
 一方、ヤッターマンの2人はその後結婚したようである。「王道復古」第2話の時点で二人は新婚で、はたから見て恥ずかしくなるほどのアツアツぶり。しかも、ドロンボーの復活をオモッチャマが注進しても、一向に気にしないバカップルぶり。オリジナル「ヤッターマン」放送開始時点で2人は13歳と12歳であったはずだから、「王道復古」の時には28歳と27歳ということになる。それにしても、結婚までずいぶん時間がかかったような気がするが、僕の友人にも大学時代から付き合い出して、15年後に結婚したというのがいるので、まったくあり得ない話ではないだろう。逆に 、15年後にもこのようにアツアツであるということは、逆に2人の恋は順調では無かったのかもしれないな、との想像が働く。二人はどうやら子宝にも恵まれたようである。オリジナル版101話は、50年後(ということは、2029年?)のヤッターマンとドロンボーを描いているが、二人の子供や孫がぞろぞろと登場する。
 
 オリジナル版「ヤッターマン」の登場人物のその後を追ってきた。様々な矛盾を何とか合理化しようと試みてきたが、どうしても辻褄の合わないことがある。それは、オリジナル版のガンちゃん ・愛ちゃんの2人と、リメイク版のガンちゃん・愛ちゃんとの関係である。リメイク版の2人が中学生であるということを考えると、同一人物ではあり得ない。かと言って、リメイク版の2人が、オリジナル版の2人の子供ということも無いだろう。リメイク版のガンちゃんの父親は高田徳兵衛ということがわかっている。まさか、歌舞伎のように徳兵衛の名前を受け継いでいるわけではあるまいし、謎としか言いようがない。偶然同じ名前の2人が偶然同じメカを発明したと考えるほかはないのかもしれない。
    
 
  ◆「タイムボカン」よどこへ行く  
 
 リメイク版「ヤッターマン」の放送も終わり、再びテレビのブラウン管から「タイムボカン」シリーズは消えた。次の…通算10作目となるはずの新シリーズの情報は、残念ながら、今のところ入ってきていない(2010年6月現在)。果たして、今後のシリーズ継続はあるのだろうか。
 三悪を演じた声優陣が、いずれも70代後半となり、年齢的にも厳しいものがある。しかし、彼らの声を抜きにした「タイムボカン」シリーズは確かに考えにくい。だが、だからこそ、21世紀の今、新しいシリーズの方向を模索していくのも一つの手ではないだろうか。

 それ以上に可能性が高いのは、実写映画によるシリーズの継続。やはり「ヤッターマン」の続編に期待が集まる。だが、シリーズの他の作品の実写版を観てみたいと考えているのは、僕だけではあるまい。
 「ヤッターマン」を除く「タイムボカン」シリーズは全部で7作品あるが、僕個人としては、シリーズ第6弾「逆転イッパツマン」の実写映画化を期待している。その理由は、ちょうど僕が小学校の頃に観ていて、一番好きな作品であるからなのだが、もちろんそれだけではない。何よりも、ストーリーがシリアス路線。特に、三悪“クリーン悪トリオ”は、会社組織の人間としてライバル社である正義側を妨害するという設定になっており、サラリーマンのペーソスが前面に押し出されている。大人の鑑賞にも十分堪えうるものになるだろう。自由に空を飛びまわるイッパツマンのキャラクターは「スーパーマン」に通じるし、逆転王・三冠王という巨大ロボットは、「戦隊」シリーズを彷彿させる。映画化にはうってつけではないだろうか。
 果たして「タイムボカン」シリーズはどこへ行くのか。どれだけやられても不死身の三悪が象徴するように、このまま消えるということはあり得ないだろう。その行く末をこれからも見守っていきたい。
     
 
 


(2010年6月10日)

 
 

 
(参考資料)
「タイムボカン全集」1997年9月 ソフトバンク
「タイムボカン全集2悪の華道」1998年6月 ソフトバンク
笹川ひろし「ぶたもおだてりゃ木にのぼる」2000年9月 ワニブックス
「僕たちの好きなタイムボカンシリーズ」2003年5月 宝島社
「タイムボカンシリーズ超キャラ&超メカコレクション」2006年5月 竹書房
「BSアニメ夜話06/タイムボカンシリーズ ヤッターマン」2007年12月 キネマ旬報社
「ヤッターマンキャラクターブック」2008年3月 小学館
「映画『ヤッターマン』オフィシャル・ヴィジュアル・ブック」2009年3月 角川メディアハウス 「ヤッターマンさいしんじてん」2009年6月 小学館
「20世紀タイムボカン読本」

映画「ヤッターマン」プログラム
「劇場版ヤッターマン/新ヤッターメカ大集合」プログラム

「三悪ドットコム」(http://www.3aku.com/index.htm

 

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