3
旅路が中盤を過ぎると、夕食後の楽しみである酒の在庫が尽きてきた。
旅の疲れがたまっていることもあり、ロヒアリムたちは食事を終えたあと早々に寝床に入り、翌日に備えて早寝していた。
だがセオドレドとエオメルの天幕の中だけは、深夜まで従兄弟同士が熱い吐息を交し合っているのだった。
「こんなにあなたの肌が心地いいなんて、知らなかった」
エオメルが従兄の胸に唇を当てながらうっとりと呟いた。
熱心に口づけの痕を残していると、王子はくすぐったがって、相手の髪をひっぱった。
だが従弟は引き剥がされまいとして、かれにぎゅっと抱きつくのだった。
「知ってよかった。ずっと気づかずにいたかもしれない−−いつもそばにいるから、あえて手を伸ばそうとは思わなかったんです」
エオメルの引き締まった筋肉質な腕できつく抱きしめられると、苦しいくらいだった。
セオドレドは苦笑しながら、従弟の頭を撫でた。
「このままじゃきみにキス出来ないよ。だから力を緩めてくれ」
王子がそう言うと、従弟はようやく腕の力を抜いて身体をずり上げ、顔を寄せてきた。
その唇を捕らえてセオドレドの舌が差し入れられると、エオメルも激しく応えるのだった。
和解が成立して以来、エオメルの方が従兄と肌を合わせることにハマってしまっていた。
毎夜一緒に寝床に転がっては、互いの衣服をはだけあい皮膚をまさぐり合って口づけを交わし、手足を絡める。
この三日ほどで、エオメルは王子の全身に触れて色々な秘密を見知った。
そしてそれ以上にかれはセオドレドによって、身体を開かされ、すみずみまで探られていた。
従兄が求めてくるなら、エオメルはその要求を受け入れるつもりでいたのだが、相手は優しい指の愛撫を繰り返すだけなので、少し肩透かしな気分を味わっていたくらいである。
しかし考えてみれば、感情のわだかまりは解けたものの、肝心の誤解についてはまだ解決していなかった。
キスが終わると、エオメルは真剣な眼差しを王子に向けた。
「殿下、まだあなたに話していないことがあります」
セオドレドは目を細めて従弟を見た。
ランタンの頼りない灯りの元で、エオメルの瞳が琥珀色に揺れている。
「あの、例のあなたがわたしとボロミア殿を救ってくださった日のことです。あなたは、わたしが嘘をついたとお怒りになりましたが、わたしに偽りはありません」
セオドレドは黙って聞いている。
「どうしたら信じていただけるのか。わたしは決してあなたを欺いたりしない。今までだって、嘘など言ったことはない」
ひたむきな瞳で訴えるエオメルに、セオドレドは「でもきみがボロミアと何もなかったとは信じられないな」と微妙な声音で言った。
「確かに、わたしはあの方と遠乗りに出かけて、好きだと告げました。それで・・・わたしの方からキスしてしまいました。でもボロミア殿は困っていたようです。あまり真剣に取り合っては下さらなかった。あの方は苦笑して、「わたしを愛してくれる者は他にもいますから」とおっしゃいました。わたしも、それはそうだろうと思いました」
エオメルはその時のことを思い出して、ちょっと寂しそうな口調で続けた。
「でも、わたしはあきらめきれなくて、その、ボロミア殿に・・・」
軍団長は従兄の下腹部に指を伸ばして、セオドレドのペニスをそっと握った。
「−−こういうことを、してしまったんです。あの方は仕方ないなと笑っていたと思います・・・それも、ほんの少しのあいだだけで、途中で止めてしまいました。オークの一団がいることに気づいたので」
王子の瞳を間近に見つめながら、エオメルは言った。
「それだけです。ボロミア殿の方はもう覚えてもいないでしょう」
そしてかれはセオドレドの答えを待った。
王子はちょっと微笑んで、「きみを信じているけどね。なんてしつこい奴だと思われるだろうが・・・じゃあ、きみのここに、歯形がついていたのはどういうことなんだ」と言い、エオメルの内股の奥に指を這わせてきた。
「あれはボロミアがつけたんじゃないのか。かれでないなら、他の男か?そういう相手がいるのに、わたしに隠しているだろう?」
セオドレドの指が少し力をこめて皮膚をつねったので、エオメルは「痛」と小さく声を出した。
「違います・・・そんな、ボロミア殿とそんなことはしていませんし、隠している相手もいません。あの日、わたしたちはオークの一団に気づいて戦いました。見たことのない、大きなオークに囲まれて我々は次第に劣勢になってしまったんです。それで、気づいたらボロミア殿が捕らえられていて、あの・・・」
エオメルは苦しげに眉を寄せた。そして言いにくそうに続けた。
「わたしはあの方を助けようと思いました。なのに、その後のことは、よくわからないのです」
「よくわからない、とは?」
セオドレドが追求する。
「何者かに、いきなり布をかぶせられて、何も見えなくなりました。そして腕も縛められました」
確かに王子が助けに行ったとき、従弟はその通りの姿で茂みの中に倒れていた。
「しかも、きみはほぼ全裸に近い姿だったな。あれはどういうことなんだ」
従兄の言葉に、エオメルはカッと顔を赤くした。
「・・・その場にはオークの他に、人間がいたんです。まだ若い男だった、と思います。わたしの服を裂いたのはその男です。顔は見ていません。近くからボロミア殿の悲鳴が聞こえていましたが、わたしにはどうすることも出来ませんでした。殿下が来て下さった時は、どんなにほっとしたことか・・・!」
エオメルはセオドレドの腕にすがりついて、しぼりだすように言った。
その従弟の金髪を撫でながら、王子が尋ねた。
「確かにあの歯形は人間のものだった。数人いたのか?」
「いえ、一人だと思います」
「そうか。人の中にも、オークと通じている種族はいるようだが−−褐色人だろうか?・・・奴らはおぞましいことに、オークと交わって半鬼人の子供を生み出しているという報告がある」
「子を・・・?」
その王子の言葉にボロミアが犯されていた光景が重なり、エオメルはぞっとして身を震わせた。
「例の歯形をつけたのは、その男なんだな?ではきみは」
セオドレドが優しく尋ねる。
「その男に乱暴されたのか?」
エオメルは従兄の肩に顔をふせて黙っていた。
すると王子の指がかれの秘所に滑り込み、指先を当ててぐっと押された。
「あっ」とエオメルが呻く。
「ここを犯されたのか?可哀相に」
セオドレドの呟きに、軍団長は首を横に振って相手を見つめた。
「いいえ。あれはただの暴力でした。卑劣な暴力を振るわれた、それだけのことです」
そして吐息がかかるほど唇を寄せてかれは告げた。
「だから、わたしが身体を許したのはあなただけです。あなたがお怒りになっていた、あの夜が初めてでした」
「・・・」
エオメルの恥じらいながらの告白に、セオドレドは胸が熱くなった。
王子はさらに従弟への愛しさが募るのを感じたが、「初めてのわりにはよがりすぎじゃなかったか」などと、余計なことを言うのだった。
エオメルが頬をふくらませて王子を睨む。
「相手があなただったからだ!殿下でなければ、されるがままに許したりしない!」
わかったわかった、と従弟を抱きしめると背中を撫でさすって、セオドレドは相手をなだめた。
「ま、きみが何人もの男たちと遊んでいるというのは、妙な話だと思っていたが」
「それは殿下の勝手な思い込みです。わたしが普段、そんなことをしている様子がありますか?いつもわたしを見ているあなたが、一番良くご存知のはずだ」
従兄と瞳を合わせると、エオメルは頬を染めて言った。
「それに、他の男と何かするくらいなら、最初にあなたと寝てますよ」
「−−まあそうだろうな」
苦笑しながらセオドレドは頷いた。そしてようやく納得したのだった。
やがて王子は身体を起こした。
従弟の身体を見下ろしながら、その膝をつかんで左右に押し分ける。
「あ・・・セオドレド・・・」
足を大きく広げられたエオメルは、羞恥に耳まで赤くなった。
しかし従順に身を任せて従兄の視線と指が、自らの奥の場所を探るのを許したのだった。
セオドレドの指がゆっくり後腔の中に差し入れられ、内壁を押し分けて侵入していく。
「確かにかなり狭くて、慣れているようには思えないな」
含み笑いしながら王子は埋めた指を動かした。エオメルが、ああ、と身をよじる。
「じゃ、あの夜のきみがあんなに感じていたのは、わたしたちの身体の相性がいいってことか」
二本に増やして掻きこすり始めると、従弟のものが勃ちあがって揺れた。
セオドレドはもう片方の手でそれを愛撫しながら、エオメルの熱い蕾の中を大胆に抉りまわした。
「あっ、ああっ」
王子の指技に陶酔の声を上げるエオメルだったが、挿入される指が三本に増やされると、さすがに苦痛を感じはじめた。
無理にひろげられた入り口が軋み、皮膚が破れそうな痛みに顔が歪む。
だがかれはそのまま抵抗せずに身をゆだねていた。
セオドレドはその様子を満足げに見下ろしながら尋ねた。
「ここできみをわたしのものにしてもいいのか」
瞳を閉じて従弟が答える。
「−−はい。殿下の意のままに」
王子は微笑むと、そっと指を引き抜いた。
「でも、わたしが求めなければ、きみは自分からわたしを誘おうとは思わないだろうな」
エオメルは目を見開いて否定した。
「いいえ、そんな・・・わたしもあなたを求めています」
「やめておく」
「セオドレド・・・」
従弟が心底がっかりした声を出すと、セオドレドは意地悪っぽく笑って言った。
「人生は長いんだ。性急に事を進める必要はない。それに、きみはすっかりボロミアのことを忘れているようだが、ゴンドールについて実物を見たら、今度はわたしのことなどどうでもよくなるんじゃないか」
「そんなことありません」
エオメルは唇をとがらせて王子を見た。
「−−やっぱりあなたは底意地の悪い人だ。わたしをその気にさせておいて、そんなことを・・・わたしを弄って面白がってる・・・!」
かれは足元から掛布を引き上げると、それにくるまってセオドレドに背を向けてしまった。
「なんだ、今きみを抱かないのはわたしの思いやりだぞ?」
王子が笑いながら肩を撫でても、エオメルは振り向かなかった。
「それに、こっちはまだ途中だろう」
セオドレドは従弟の背中に抱きついて腕を回すと、下方に手を伸ばして勃ちあがったままの性器を握ろうとした。
「いいです」
と意固地な声でエオメルは断り、従兄の指を押しのけた。
「また強情っぱりか?」
さほど気にした風でもなくセオドレドは言い、そのまま相手を後ろから抱きしめていた。
しばらくすると、エオメルは身体に回された従兄の腕にそっと触れて告げた。
「・・・わたしは、ミナス・ティリスには入らないことに決めています。城門の外で、殿下がお帰りになるまで待ってますから」
意外な言葉にセオドレドは驚いた。
「何を言っているんだ?白い塔の都を見たくないのか?ボロミアに会いたいだろう?」
エオメルはため息をついた。そして囁き声で言った。
「ボロミア殿は、特別な、美しい夢のような方でした。でももう、夢は見ないほうがいいのかもしれない。醒めた後に辛い思いをするのは嫌です」
「エオメル」
セオドレドが困惑して従弟の名前を呼ぶ。
「それに、わたしがあなたを愛しているのも本当です。またボロミア殿に会うのは、殿下に悪い気がします」
「わたしは平気だよ。だからきみをこの一行に加えたんだし。遠慮はいらない−−ほら、こっちを向きたまえ」
強引に振り向かせると、王子は従弟の頬を両手で挟んでその額に口づけた。
エオメルの瞳が少し潤んでいる。
「わたしに悪いからなんて、可愛いことを言うね?気にしなくていいんだよ。それに、一生忘れられないような良い夢を見ればいいじゃないか」
「殿下・・・本当にそうお思いですか・・・」
「勿論だ」
セオドレドが再び手を伸ばすと、今度は従弟も逆らわなかった。
まだ固さを保ったままのエオメルのものを握りこみ、緩急をつけた愛撫を施すと、軍団長は熱い吐息をもらして王子にすがってきた。
「ん・・・あぁ、セオドレド・・・」
感じるままに、かれは王子の耳に舌を這わせ、息を吹き込んだ。
セオドレドもお返しに、従弟の耳たぶを噛んで応える。
その夜も、従兄弟同士は月が傾く時刻まで飽きることなく絡み合い、かきいだき合って時を過すのだった。
アノーリエンを横断すると旅は終盤に近づいた。
ローハンの親善使節はすでにゴンドール領地に入っている。
ミナス・ティリス到着が間近に迫っていた。
白い都が近づいてくると、エオメルはさすがに胸のときめきが押さえきれないようすで、そわそわしはじめた。
自分でも田舎者だと自覚している第三軍団長は、ゴンドールはおろか、他国の都に出向くのも初めての経験である。
しかも向かう先は、中つ国一の大国の首都だ。
噂に聞く白い石造りの豪奢な城砦や、エクセリオンの塔、大理石の宮殿、ボロミアを初めとする名門執政家の人々など、それらがもうすぐこの目で見られるのかと思うと、高揚する心を抑えることができなかった。
・・・そんな従弟の楽しそうな様子を見ると、またも何やら腹の内がもぞもぞとしてくるセオドレドである。
いつものように天幕の中でくつろいでいると、セオドレドがいきなり言った。
「やっぱりきみはミナス・ティリスに入らないほうがいいかもな」
「えっ」
エオメルは一瞬絶句して従兄を見た。
「な、なぜですか」
セオドレドがあさっての方を向いたまま言う。
「最初に行かなくていいと言ったのはきみだし」
「だって、それは」
「やっぱりきみをボロミアに会わせるのは、何だか嫌な気がしてきた」
「殿下」
「きみがボロミアを見るなり、ポーッとのぼせ上がるのを見たら、わたしのハートは傷ついてしまう」
「殿下」
「それにどうせ振られるとわかっていて、会うのはきみだって嫌だろう」
「殿下」
エオメルはセオドレドの前に回りこみ、瞳に怒りを込めて相手を見すえた。
王子は視線を宙にさまよわせている。
「今更なんです、あなたがわたしを連れてきたんですよ!それに、気にしなくていいと言ったことを忘れたんですか!」
「そうだったかなー」
眼を合わせず、語尾を延ばして答える従兄を、エオメルは大きな瞳でねめつけた。
「わたしは当然一緒にミナス・ティリスに行きます。それを許可したのはあなただ」
「気が変わったんだ」
「あなたの気まぐれにはついていけません」
「ミナス・ティリスには連れて行かない。きみはここから帰れ」
「セオドレドッ!」
あまりに勝手な言い様に、エオメルは激昂して叫んだ。
もともと、短気な方なのである。
従弟が本気で怒りだしたのでセオドレドも動揺した。が、少し意地になって王子は「命令だ」と言った。
「そんな命令は無効です」
「無効とは何だ。勝手に決めるな」
「勝手なのは殿下ですッ」
ふいに、エオメルは涙目になって相手に訴えた。
「何故、わたしを振り回すのですか・・・!わたしはあなたの玩具じゃない。そんなことを言われたら、裏切られたような気分です」
声が悔しそうに震えている。
無論セオドレドの方は本気ではなかった。ただの意地悪心である。
従弟の涙ながらの抗議を受けて、かれは鼻白んだ。
「大げさだな。ちょっと言ってみただけだろう」
「ちょっとって・・・じゃあ、撤回なさるんですか」
「そうだよ」
「わたしが一緒にミナス・ティリスに行ってもいいんですね」
「そう言ってるじゃないか」
エオメルは呆れて、セオドレドを白い眼で見た。
「ふざけるにも、程があります。一国の世継ぎの言動とは思えません」
「うるさいな」
「うるさくありません」
「しつこいよ、巻き毛ちゃん」
「殿下、あなたがそのようなことではわが国の将来が心配です」
「ハイハイ、お髭ちゃん」
「殿下!」
都合の悪くなったセオドレドは、従弟の腕をつかむとその身体を引き倒して一緒に横たわった。
いつものように愛撫を施して、うやむやにしてしまおうと思ったのである。
だが、今夜の展開は今までと違っていた。
怒りの収まらないエオメルは、従兄の腕をねじ上げると、自分がその上に馬乗りになったのだった。
「普段、わたしが大人しく従っているからといって、甘く見ないで頂きたい!その気になれば、あなたを組み伏せることなど簡単なんだ」
つかんだ腕に力を込めると、セオドレドが苦痛の声を上げた。
「痛いッ、エオメル、放さないか」
「わたしがあなたより13も若くて、力があるんだってことをわからせてやる」
「あっ」
エオメルはセオドレドの下衣を引き下ろした。
そしてその尻の谷間を強引に探って、指を押し込もうとした。
王子は嫌がり身体を左右に揺すって逃れようとするが、かなわない。
「よ、よせ、エオメル。あぁッ」
従弟の指が肉を掻き分けて入ってくる。その感触の生々しさに、セオドレドが思わず喘ぐ。
やるのとやられるのとでは大違いである。
前立腺を探り当てられ、刺激されると王子は仰け反った。
「うぁッ」
「今夜はわたしがあなたにお仕置きして差し上げます」
入れた指をぐりぐり動かすと、セオドレドがアッアッと声を上げてのたうった。
従兄のよがる様子に、エオメルの方も興奮してきた。
かれは遠慮をかなぐり捨ててセオドレドを嬲る指を二本に増やした。
そして身体をずり下げ、相手の性器を口に含んだ。
「エ、エオメル」
前後を刺激された王子は、切羽詰った声を上げて従弟を引き離そうとした。
だが、指と舌の刺激を受けると、思わずその頭を両手で抱えて腰を押しつけてしまう。
「こういうことも、みんなあなたが教えてくれたんですよ。どうですか」
「ああ・・・っ、いい・・・はぁッ」
口で舐めしゃぶられながら刺激された王子が、今までに聞いたことのない声音を洩らしている。
エオメルはいっそう興奮し、自身のものも固くなってきた。
「殿下、わたしの方もお願いします」
一旦、指を引き抜くと軍団長はかすれた声で王子に言い、体勢を入れ替えて、互いのものを口に咥える格好になった。
引き続き従兄の秘所を指で刺激しはじめると、セオドレドの指もかれのなかに入ってきた。
互いに夢中で舐めしゃぶり、指でえぐりながら、腰を動かす。
「ああっ・・・エオメル・・・」
「セオドレド・・・ッ」
と、同行の部下たちが見たら、頭が割れそうに痛むであろう、淫靡な痴態を繰り広げる従兄弟同士であった。
そんなことばかりしていたせいか、いざミナス・ティリスの城門が目の前に近づいてきたときには、ロヒアリムたちはすっかりぐったりしていた。
「エオメル・・・ほら着いたぞ」
「はあ、そうですね・・・」
寝不足な従兄弟たちは、それぞれかすんだ眼を擦りながら、白い壁の連なりを見上げた。
壮麗な都は、光に映えて美しく輝いている。
先触れの伝令を出していたので、ゴンドールの衛兵たちはうやうやしく礼をして友邦の使節を迎え入れた。
そのまま宮殿に向かって馬を進めていくと、何処からか角笛が吹き鳴らされる音が響いてきた。
「殿下、あれは」
「ボロミアが吹いているんだろう。わたしが来たときはいつもそうだ」
「ボロミア殿が・・・」
あの、幻のように帰ってしまった執政家の公子が、すぐそこに、と思うとエオメルの胸は高鳴った。
そして、坂を上りきってエクセリオンの白い塔がそびえる広場にたどり着いたとき、白い姿が駆け寄ってきたのである。
「エオメル殿ー!」
「あっ、ボロミア殿・・・!」
若いロヒアリムが慌てて馬から下りると、ゴンドールの総大将は「よくいらしてくださった!」と嬉しそうに叫んでかれに抱きついた。
軍団長の顔は、破裂しそうなほど真っ赤に染まった。
何か挨拶を返さねば、と思ったがもはや言葉は意味を失っていた。
ボロミアのむせるような香気に包まれ、エオメルは何ひとつまともに考えられなくなってしまったのだった。
20050925up
ゴンドールへの旅が思ったより長くなってしまいました。
前編・セオエオいちゃつき旅
後編・ミナス・ティリスにて執政家馬国入り乱れドラマ
の二部構成になります。従兄弟同士のラブは揺らぎませんが、いろいろ絡めて楽しみたいと思いますv
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