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蛇汚染
wormtongue’s bad influence
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この男は邪悪な蛇だ・・・とエオメルは思った。
舌の奥に毒液を含んだ牙を隠し持っている。
その危険な毒にマークの地が汚されようとしていることに、かれだけが気づいている。
だが、警告しようにも声が出ない。
真っ先に蛇の罠に捕らえられたのが、自分だからだ。
総身を蛇に巻き取られぎりぎりと締め上げられる、息も出来ぬほどの圧迫感に、かれは日夜苛まれている。
もがけばもがくほど、蛇は、その捕縛の力を強める。
エオメルが声にならない悲鳴をあげて助けを求めても、かれの眼前には煙った闇が広がるばかりだった。
  
王の様子がおかしい。
東マークの地を預かる第三軍団長エオメルは、このところ「誓いの聖地」ハルフィリアン周辺の守護を命じられてエドラスから遠ざかっていた。
その日、久しぶりに宮廷に参内したかれは、伯父王セオデンの生気のなさに驚いた。
しばらく見ない間に急激に老いを深めて20も年をとったかに見えるセオデンは、王座にへたり込むように身を沈めて、甥の挨拶を興味なさげに聞いていた。
「陛下・・・健康を害されておられるのですか。お顔の色も冴えないようだが」
王の身体を案じるエオメルの問いに、セオデンは「なに、わしの身体の具合はすこぶるいいぞ。グリマのおかげでな」と返答した。
その声はひどくしわがれて力が無かった。
「グリマ・・・?」
聞きなれない名前にエオメルが戸惑っていると、柱の陰から黒衣の男があらわれて、王のそばに近寄った。
「おおグリマ、そこにいたのか。今日はこのエオメルが何か言うことがあるらしくてな−−わしのかわりに聞いておいてくれ」
老王は男に向かって手を振ると、王座から立ち上がってふらふら歩き出した。
すぐに近習の者がささえて、その歩行を助ける。
「へ−−陛下?」
まだなんの報告もしていないというのに、そのまま退出しようとするセオデンの姿にエオメルはあっけにとられた。
あとを追って行こうとすると、グリマと呼ばれた男がかれの前に立ちふさがって邪魔をした。
「王のお言葉をお聞きになったでしょう、軍団長殿。ご報告は、わたしが代わりに承ります」
青白い顔の、得体の知れぬその男の顔をエオメルは驚いて注視した。
そういえば姿を見かけた覚えがあるような気がする、とかれは思った。宮廷の侍医の一人ではなかったか。
だが、この者はマークの騎士ではなく、そもそもロヒアリムでもない。
「わたしは王と話したいのだ。騎士ではない貴殿に軍務の報告をしてもしかたないだろう。そこを退いてくれ」
そう言って男の脇をすり抜けようとしたエオメルの腕を、グリマが掴んだ。
離せ、無礼な・・・と言いかけた軍団長の耳元に唇を寄せて、男は「今、ローハンで最も陛下に信頼されているのはこのわたしなのですよ・・・まだご存じないようだが。すぐに貴方にもお分かりになるでしょう」と囁いた。
そしてエオメルが何も言い返す間もなく、素早く身をひるがえして去っていった。
第三軍団長は空の王座の傍らで、眉をひそめて男の不吉な後姿を見つめていた。
気をとりなおしたエオメルは、午後になってセオデンの寝室を訪れた。
東マークの守備について是非とも進言いたしたく−−と申し入れたものの、付き添いの者たちに面会を阻まれ、陛下は「報告はグリマに」と仰っておられますと、また繰り返されたのでかれは憮然とした。
そもそもグリマとは何者なのか、なぜそんなにセオデン王の信頼が篤いのかなど、ほかの騎士たちに尋ねてもみなあまり話したがらず、中にはグリマさまには逆らわぬほうがいいと忠告してくる者もあった。
一介の侍医に過ぎぬ男が、いつのまにか宮廷内に隠然たる権力の網を張り巡らせていることにエオメルははじめて気付き、不安に思った。
この状況について相談できるのは従兄のセオドレドだけだったが、王子は配下のエオレドとともに西マークの警備にあたっており、エドラスから遠く離れている。
思い惑いながら黄金館の回廊を歩いていたエオメルを、顔見知りの侍女が柱の影から手招いた。
そばに寄ったかれに、侍女はお耳に入れたいことがございますと告げ、あのグリマという男がこともあろうにかれの妹エオウィンにしつこく言い寄っており、身の危険を感じたエオウィンは黄金館を出て今は友人の家に避難しているのだと声をひそめて教えてくれた。
それを聞いたエオメルは憤然となり、すぐにもグリマをぶちのめしてやりたいと逸ったが、侍女はあたりを伺いながら「グリマは、とても恐ろしい男ですわ・・・お気をつけなさいませ」と忠告した。
夜になると、エオメルは使者を立ててグリマに会見を申し込んだ。
侍女の話を聞いた後、とにかくあの男と話さなくてはと思って相手を探したのである。
だが、「軍団長殿は礼儀知らずなので会いたくない、どうしてもと言うなら正式の手続きを踏むように」などとグリマが言っていることを近習に告げられ、呆れ果てた。
あの侍医は何様のつもりなのだ、まるでゴンドール貴族のようではないかとエオメルは憤ったが、仕方なく謂われたように接見の段取りをつけた。
王の寝室の近くにしつらえられた、侍医の私室のドアをエオメルがノックすると、扉が開いて青白い顔の黒衣の男が顔をのぞかせた。
どんな尊大な態度をとるのかと思っていたが、グリマは深く頭を下げて一礼し、「これはエオメルさま・・・本来ならわたしのほうからお伺いすべきところを、わざわざ足をお運びくださるとは恐悦至極に存じます」と慇懃に挨拶した。
エオメルはとまどいながら「いや、夜中に押しかけて申し訳ない。時間を割いていただいてありがたく思う」と一応礼を述べた。
そのまま、部屋の中に招き入れられ、特に身の危険を感じることもなくエオメルは入室した。重い扉がゆっくり閉じられる。
かれは自分が危険な蛇の巣穴に足を踏み入れてしまったことに、まだ気付いていなかった。
グリマの部屋は、薬草の匂いが濃くたちこめていた。暖炉のそばには豪華な応接家具が置いてある。
座るように促され、エオメルは見事な装飾が施された椅子に腰掛けた。
が、ふいにこれはゴンドール執政家からセオドレドにと送られてきた品ではないかと気付いて、唖然とした。
グリマが勝手に持ち出して使っているのか、あるいはセオデンが与えてしまったのか−−どちらにしても腹が立つ。
王子の持ち物を私物化しても咎められないらしいグリマの立場に、エオメルはあらためてうすら寒い思いがするのだった。
「では用件を伺いましょうか」
向かいに座ったグリマが、軍団長の瞳を見つめて言った。
まだ若いエオメルは言葉の駆け引きが得意でない。
かれはストレートに「貴殿はまるで陛下の代弁者のように振舞っているようだが、どういうことなのだ?侍医が国政に口を出すべきではないとわたしは思う」と自分の思いをグリマにぶつけた。
グリマは困惑の表情を浮かべて「陛下の代弁者などと、とんでもない誤解でございます。エオメルさま、わたしはただの侍医です。わたしは心から陛下のご健康を案じているだけなのです。近頃の陛下はかなりお疲れのようですし、何かとわたしを頼りにしてくださいます。わたしもつい、陛下のお役に立てることがあるならと思ってしまうのですが、むろん、国政に口を出すつもりなどありません」と言うのだった。
それを聞いたエオメルが何か言おうとすると、グリマは急に立ち上がった。
侍医は薬壺が並ぶ棚の方へ向かいながら、「しかしわたしの態度が差し出がましいと感じられたのなら、衷心よりお詫びいたします。そうですね、このエドラスで陛下の相談相手にもっとも相応しいのはエオメルさまに他ならないと思います。貴方さまが陛下のお側についていてくださるのなら、わたしも安心して侍医の職務に専念できるようになりますね」と言い、棚から綺麗な硝子壜を手に取った。
「今後エオメルさまが、ご不快に思われるような出すぎた振る舞いはいたしません。ですからエオメルさま、どうかお怒りを静めてくださいますように」
振り返ったグリマは、エオメルに媚びるような卑屈な上目遣いでそう言った。
その態度に、この男はわたしを恐れているのだろうかとエオメルは思った。
−−気の弱い小物が、たまたま国王に気に入られて、少々いい気になっていたということか。
純朴なエオメルは、相手が下手に出てきたのでそれ以上言い募る気を失くしてしまった。
「別に怒ってなどいないが・・・貴殿がそう言うのなら、もういい。陛下のお体の具合については、わたしも貴殿によろしく頼むと言わなくてはならないな」
エオメルの言葉にグリマは口元をほころばせ、「大変うれしいお言葉です。陛下のご健康を第一に考えるのがわたしの役目だと心得ております」と言いながら、硝子壜を軍団長の前にかざした。
透明な壜の中に、青味がかった液体が入っている。
「お近づきの印に、わたしの秘蔵の品をぜひエオメルさまにお試しいただきたいと思いまして。これはゴンドールの貴重な没薬でございます。酒に混ぜると、心地よく酔うことが出来ます。噂では、執政家の方々もご愛飲しておられるとか・・・」
「執政家の−−?」
ゴンドールのボロミアに好意を持っているエオメルは、つい気を惹かれてグリマのほうに身を乗り出した。
侍医は杯を二つ用意すると酒を注いだ。そして壜の蓋を取って中身を酒杯に数滴たらす。
すると部屋の中には、馥郁たる香りが広がった。
「実に典雅な香りでしょう。エクセリオンの白い塔が偲ばれますね」
そう言ってグリマは酒杯のひとつをエオメルに手渡した。
エオメルは一瞬杯に口をつけるのを躊躇した。
だがグリマが酒杯を傾けるのを見て、つられて自分も飲み干してしまった。
没薬入りの酒はかすかに甘く、舌にピリピリくる刺激があった。
エオメルの様子をじっと見ていたグリマは、相手が杯を空けたのを確認すると目を細めた。
そして硝子壜を撫で擦りながら、「いかがですか、お気に召していただけたでしょうか。それにしても、この没薬は色も美しいと思いませんか。青かと思えば緑にも見える・・・そう、まるでエオウィン姫の瞳の色のように・・・」などと言い出した。
妹の名を出されてエオメルはハッとし、侍女に言われたことを思い出した。
「その、噂に聞いたのだが、貴殿がわたしの妹に思いを寄せているなどと言う者がいるようだ。そのことについても聞きたいと思っていたのだが」
妹思いのエオメルは、険しい顔つきになってグリマに訊ねた。
侍医はため息をつくと、壜をそっとテーブルに置いた。
「ええ。わたしはエオウィン姫をお慕いしております。あの方の美しさに、わたしは魅せられているのです・・・ですがエオメルさま、わたしとて身の程はわきまえているつもりです。ただ、姫君の美しいお姿を目で追ってしまうのを、自分でも止めることが出来ないのですよ。エオメルさま、わたしがただ姫を見つめるだけでも、それは無礼なことだと思われるのですか」
哀れっぽく告白するグリマの様子に、エオメルは返事に困ってしまった。
−−しかし侍女の話では、この男はエオウィンが危険を感じて逃げ出すほど、しつこく迫っていたというではないか。
そのことを問いただそうとしたとき、ふいにグリマがエオメルの髪に手を伸ばしてきた。
「ですが、貴方のこの長い金髪も、妹君に遜色ない美しい色合いですな。こんな髪の持ち主を自分のものにできたらと、つい夢想してしまうのは罪ですか」
そう言うと、侍医は軍団長の金髪を一房つかみ、素早く口に含んだ。
「何をする!」
エオメルが仰天して相手を振り払おうとすると、グリマはげらげら笑って身を避けた。
「冗談ですよ」となおも笑いながら言う相手を、軍団長は顔をしかめて見やった。
ひたすら卑屈にしていたかと思うと、急に大胆にこちらをからかう様な真似をする。
なんだ、この男は−−やはり油断ならない奴なのか、とエオメルは相手を警戒することにしたが、まだ、この青白い顔の黒衣の男が、歴戦の勇士である自分に危害を及ぼすことができるとは思わなかった。
「で、先程のわたしが陛下の代わりにいろいろと差し出がましいことをする、とのご指摘ですが」
どさりと椅子に腰掛けたグリマは、心持ちふんぞり返った様子でエオメルを見ながら言った。
「かといって、明日から急にエオメルさまが出張るのもどうかと思うのですよ。いえ、貴方さまのご意向を妨げるつもりなどありませんが。なんといっても、エオメルさまは指揮を預かる騎士の方々のなかでも、特にお若いですからな。少し自重なされたほうが良いという話です−−いくら王のご寵愛を受けておられるからといって、エオメルさまを快く思わぬ者も多いようですから。まるで、お世継ぎを差し置いて自分が王子のように振舞っておられる、などと口さがない者に謗られぬよう、気をつけられたほうが宜しいのではないですか」
「なんだと」
グリマの嫌味な当てこすりを呆然として聞いていたエオメルは、顔を怒りに赤くして立ち上がった。
「おお、そのように怖い顔をなさらなくても。王子殿下がお帰りになるまで、あまり目立つ事はなさらぬほうが身のためだと、忠告しているだけですよ」
ほんの数刻前とはまるで違うことを言い出したグリマのふてぶてしい態度に激昂したエオメルが、思わず相手に掴みかかろうとして一歩踏み出したとき、激しいめまいがかれを襲った。
視界がぐらりと揺れ、軍団長の長身がよろめいた。
「う・・・?」
と呻いて、床に膝をついたエオメルのもとにグリマが歩み寄り、かれの腕を取る。
「そうそう、言い忘れておりましたがあの没薬は、初めて服用される場合には副作用がありましてね。わたしの身体は耐性があるが、貴方には少々効きが良過ぎるかもしれません」
そう言いながら黒衣の侍医はかれの身体を抱えると、寝台のほうへ引きずって行った。
「貴様・・・わたしに何を飲ませた」
訳のわからない胸苦しさを覚えながら、ベッドに横たえられたエオメルは唸った。
「何、と言われましても。先程申し上げたとおりのものですよ−−お互いを良く分かり合うために非常に役に立つ代物でね。常用すると次第に効果が薄れてくるのが難ですが」
グリマはエオメルの上着をめくりあげ、白い指をかれの腹から胸へと滑らせた。
「触るな」
男の手が皮膚の上を這い回る感触に悪寒がした。エオメルは自分にのしかかる男を押しのけようとしたが、まるで身体に力が入らない。
エオメルの心臓の上に掌を当てたグリマは「どきどきしてますな」と、彼の耳元に唇を寄せて囁いた。
薬の作用なのか、頭がぼうっとするような高揚感と息苦しさと不安が混在する感覚に「これはなんだ、どういうことなんだ」とエオメルは混乱していた。息が荒くなり、汗が出てきた。
「暑いですか。なら、脱がせて差し上げます」
グリマは抵抗できないでいるエオメルの身体から、上着もズボンも引きはいだ。
風と太陽に鍛えられたロヒアリムの素肌があらわになる。
筋肉に覆われた均整の取れた肢体を、グリマは昂奮に駆られて撫でまわし、舌で舐めた。
「よせ・・・!」
おぞましさにエオメルは叫んだ。
「貴方は知らないのだ。わたしがはるか以前から貴方を見つめていたことを・・・ずっと手に入れたいと思っていたことを」
グリマは引締まった肌に頬を擦り付けながらうっとりと呟いた。
「き・・・貴様はエオウィンに付きまとっているんじゃないのか」
「わたしはエオルの子に魅せられた男なのですよ。あなたも、エオウィン姫もセオドレドさまも、みなそれぞれに魅力的だ・・・」
嫌悪に揺れるエオメルの瞳を間近に覗き込み、グリマは「こんな機会をずっと待っていたんだ。存分に愉しませてもらうからな。貴方にも、おかしくなるくらい善くしてあげますよ」と上擦った声で告げた。
色の薄い目が欲望にぎらついている。
覆いかぶさる黒衣の男を、まるで死神のようだ−−とエオメルは思った。
全身を這い回る舌と唇の感触。それは時々止まっては皮膚を吸い上げ、跡を残した。
それによって引き起こされる、悪寒だけではない感覚にエオメルは戸惑い、耐えていた。
片方の乳首を舌先で嬲られ、もう一方は指で揉まれて、かれは強烈な刺激に「ああッ・・・」と喘いだ。
「乙女のような声だな」とグリマに嘲笑され、誇り高い軍団長は羞恥に身を震わせる。
勃ちかけた性器を根元から先端へ指で扱かれ、ぎゅっと握られるとエオメルの身体がびくんと跳ね上がった。
「やめろ」
エオメルの抗議に、グリマは薄笑いを浮かべて言った。
「こんなに硬くなっているのにか?貴方の体の熱を鎮めてあげようとしてるんだ−−感謝してもらいたいものだな」
勃起したエオメルのものにグリマの濡れた舌が絡んだ。歯で刺激しながら舐め上げられて、エオメルは堪らず「んあぁぁ・・・っ」と身体を仰け反らせ、快感の声を上げてもがいた。
やがてグリマはエオメルの身体をひっくり返すと、四つんばいに這わせた。
尻を突き上げるような格好にされて、エオメルはあまりの恥ずかしさに目の前が真っ赤に染まる気がした。
張り詰めた白い肉を掻き分けられ、薄く色づいた後腔が晒される。
グリマは湿った舌で閉じた穴を舐め回し、舌先を尖らせてぐいと侵入を試みた。
「ひあッ」と声を上げるエオメルに、グリマは「いい鳴き声だ・・・もっと濡らしてやろうか?」と言いながら寝台を降りて、例の没薬を持ってきた。
ふたたび尻の肉を左右に拡げると、指で肛門をこじ開けて僅かにのぞいた肉壁の中に液体を流し入れる。
その量は先刻酒杯に入れた分よりはるかに多かった。
液体が溢れ出る前に、グリマは人差し指を突っ込んで内部へと押し流し、塗りたくった。
指で犯された異物感にエオメルは身体を強張らせたが、直ぐに直腸から吸収された薬物がかれの体内を駆け巡る。
「あ、くはあっ・・・熱い・・・!」
ハァハァと荒い息を吐き、かれは敷布を握り締めてのたうった。
そのまま内部をかき回していたグリマは、にやにや笑いながら挿入を二本に増やした。
そして乱暴に抜き差ししながら、エオメルの身体が刺激にびくびくうねるのを見て愉しんだ。
さらにグリマにペニスを揉みしごかれて、軍団長は金髪を振り乱して快感に悶えた。
「はぁッ、くッ、んうッ」
声を洩らすまいと拳を口に入れて耐えようとしたエオメルだが、執拗に二ヶ所を攻められ、やがて甲高い喘ぎをあげながらグリマに握られて絶頂に達してしまった。
「あぁぁーー・・・ッ」
体を震わせて射精したかれは、こんな男に触れられて自分が・・・と屈辱で頭が真っ白になった。
往った余韻でがくがくと痙攣するエオメルの尻を撫でながら、グリマは「貴方はここを遣う悦びをご存知なのかな−−わたしが最初の相手なら光栄なのだが」と相変わらず指で肛門を刺激しながら、欲望に濡れた声で問いかけた。
エオメルは何も答えない。
が、かれにはまだアナルセックスの経験はなかった。
達したショックも癒えぬまま、さらに未知の行為を強要されるのかとエオメルは絶望に呻いた。
「だいぶ潤って柔らかくほぐれてきたようだ・・・そろそろ、欲しくなってきたんじゃないのか。どうだ、鼻を鳴らしておねだりしないのか?]
「黙れ、ゲス野郎が」
グリマの淫猥な言葉にエオメルは唸り声で答えた。
「貴様を殺してやる」
かれの搾り出すような呟きを、侍医は「マークの軍団長殿は、尻を上げた姿でも勇ましいことですな」と嘲った。
這った姿のままのエオメルを眺めながら、グリマは衣服をすべて脱ぎ捨てた。
そしてエオメルの金髪をつかんで顔を上げさせ、自らのそそり勃った物をかれの眼前で見せつける。
「これで貴方を貫く前に、是非その舌の感触も味わいたいのだが・・・」
眼を剥いた軍団長の表情を見て、グリマは笑った。
「食いちぎられたら困るので、今回はやめておきますよ」
そう言っておもむろにエオメルの背後に回ると、ぐいと尻を抱える。
寝台がギシリと音を立てた。
エオメルは恥辱の瞬間を、敷布を握り締めて覚悟した。
硬いものが押し当てられると、エオメルは肉を固く閉じて阻止しようとした。
だが筋肉の抵抗は強引に押し破られ、一気に奥までねじ込まれた。
「あうッ」
激痛にエオメルは悲鳴を上げた。
陵辱は容赦なく行われ、エオメルの後腔を蹂躙した。
ぐいぐいと貫かれながら、かれは「ひいッ・・・うあッ・・・やっ、やめろ!」と悲鳴をあげ、これはどういうことだ、なぜおれはこんな奴にこんなことをされなくてはいけないんだ、もう嫌だ−−とのたうちまわった。
ずり上がって逃げようとする身体を腕でがっちり固定し、獲物を性器で串刺しにしたグリマは、激しく腰を打ちつけながら、エオメルのきつい締め付けを堪能した。
肉がぶつかる淫らな音が、室内に響き渡る。
「やっ、やめてくれッ、嫌だ、許してくれ・・・もう終わらせてくれッ!」
エオメルはプライドを捨てて許しを求めたが、グリマはその懇願を、「まだだ」と一蹴した。
「ああッ・・・ひッ・・・んあ、ああ・・・ッ」
絶え間なく声をあげるエオメルは、強姦の容赦なさに、少しでも苦痛から逃れるため自ら膝を大きく広げ、楽に受け入れようと無意識のうちに力を抜いていた。
阻もうとする抵抗が減じたので抜き差しが容易になったグリマは、途中まで引き抜き、次に根元まで埋め込む動きを何度も繰り返した。
薬物を塗布されて敏感になった内壁が、貫かれ、こすられて刺激される快感は壮絶なものだった。
気が遠くなるほど突き上げられ、しまいにエオメルは狂乱してよがりはじめた。
「いっ、いいっ・・・んあぁッ、はあッ、うぁぁあーーーッ、いくぅーーーッ!」
エオメルが絶叫しながら尻を振るのに合わせて、グリマも快楽のおめき声をあげながら腰を揺すり上げた。
悦楽の大波に攫われ溺れるマークの軍団長を、更なる官能の闇の向こうへ連れ去ろうと、国王の侍医は相手をきつく抱きしめながら、いつまでも苛みつづけた。
  
朝だな−−とかれは思った。
エオメルは、重苦しい眠りの底から浮き上がりつつあった。
かれは目を覚ますのが嫌だった。
目を覚ませば、そこが自分を犯した男の部屋であり、陵辱者の青白い顔が自分をじっと見下ろしているのに違いない・・・とかれはまだ半分夢の中に漂いながら考えていた。
しばらくたって、ほかに人の気配がないことに気付いたエオメルは、いやいやながら目を開けた。
厚いカーテンの隙間から、朝の光が差し込んでいる。
部屋の中は静まり返って、グリマの姿はどこにもなかった。
エオメルはゆっくり身体を起こした。くしゃくしゃになった金髪が、かれの顔に乱れかかる。
頭が重く全身がだるい。
かれはのろのろと寝台を降りて、床に散らばっていた服を拾い上げた。
エオメルが身支度を整えたとき、扉が開いて黒い不吉な姿の部屋の主が戻ってきた。
「お目覚めですか、軍団長殿。おや、あまりお顔の色が良くないようだ。薬湯でも差し上げましょうか?」
笑みを浮かべながら語りかけるグリマを、眉間に深いしわを刻んだエオメルは無言で睨んだ。
「そんなしかめっ面をなさったら、可愛いお顔が台無しですよ」
ふざけた口調で自分を愚弄する侍医に向かって、エオメルは「貴様を殺す」としぼりだすようにして言った。
かれの身体からは、立ち昇る殺気が目に見えるようだった。
そしてその手に、この部屋の引き出しの中から見つけたらしい細身のナイフが握られているのにグリマは気付いた。
「まあ、待ちなさい軍団長殿・・・この黄金館の中を血で汚すおつもりか」
さすがに顔色を変えて後ずさるグリマに対して、エオメルは「命乞いなどきかぬ」と冷たく言った。
ずい、とエオメルの長身がグリマに迫ろうとした時、部屋の扉が激しくノックされた。
「グリマさま!グリマさまはおられますか!」
ドアに飛びついた侍医が、急いで開くと近習がかれにむかって叫んだ。
「ああグリマさま、陛下が苦しんでおられます。すぐに陛下の寝室にいらしてください!」
「なに、陛下が・・・」
それを聞いたエオメルが不安な声をあげた。
グリマはもったいぶった態度で「すぐに行く」と言うと、扉を閉めた。
そしてかれは薬品棚から小さな薬壺を取り出して、エオメルに見えるようにテーブルの上に置いた。
その悠長な動作にエオメルは苛立ち、「何をしている、はやく王の部屋へ行け!」と怒鳴った。
するとグリマは壺の重さを量る仕草をしながら、「なに、陛下の発作はいつものことですよ。この薬を差し上げればすぐに鎮まります。しかし、この壺の中身も残り僅かになりました・・・この薬の分量は特別なものでしてね。わたししか調合できるものはおりません。しかしわたしがエオメルさまの手にかけられて死んだとしたら、もう陛下のお苦しみを取り除くことが出来る者はいなくなる訳でして」などと言いながら、エオメルの顔を挑むように見つめるのだった。
「貴様、国王陛下のお命を盾にするつもりか」
瞳に怒りを燃え上がらせたエオメルに、グリマは「いやいや、わたしはただ事実を申し上げたまでですよ」と嘲笑を含んだ声で言った。
二人はしばらく無言で目を合わせていたが、先に視線をそらせたのはエオメルのほうだった。
「今すぐ王の元へ行け」
その言葉に、グリマはにっと笑うと、薬壺を抱えて出て行った。
エオメルはひとつ息を吐いて手にしたナイフに目をやり−−やがて床に投げ捨てた。
そして重い足取りで侍医の後を追った。
軍団長が伯父王の寝室に入っていくと、ちょうどグリマがセオデンの頭を抱えて薬を飲ませているところだった。
咳き込みながら飲み下したセオデンの顔色が、みるみるうちに良くなる。
「いかがですか、王よ」
グリマの問いかけにセオデンは顔をほころばせた。
「良くなったぞ。いい気分じゃ。グリマ、そなたは本当に優れた医師じゃのう。・・・おお、エオメルではないか。よう来てくれたの」
甥の姿を見つけたセオデンは、嬉しそうに呼びかけた。
「陛下・・・」
エオメルはセオデンの枕元に跪くと、そっと老王の手をとった。
そしてその皺深い、年老いた顔を見つめた。
幼いころに父母を失ったかれを引き取り、わが子同然に育ててくれた伯父である。
エオメルにとってそこにいるのは、忠誠を誓うべき主君ではなく愛する父親に他ならなかった。
「陛下、お苦しくはございませんか」
エオメルが瞳を潤ませながら尋ねると、「大事無い。グリマのおかげでな。エオメル、グリマは頼りになる奴じゃぞ。お前も仲良くせねばならんぞ」無邪気な口調でセオデンは言った。
エオメルは老王と瞳をあわせ−−やがて頭を垂れてつぶやいた。
「わかりました陛下。グリマ殿・・・陛下をよろしく頼みます」
「もちろんですとも、エオメルさま」
軍団長に答える黒衣の侍医の口調には、エオメルだけに聞き取れる勝ち誇った響きがあった。
「わたしはこれで」
エオメルはグリマの姿を見ないようにしながら立ち上がり、セオデンに敬礼して王の寝室を辞去した。
扉を開けたかれの前には、暗い廊下がどこまでも続いていた。
20040918up
セオドレドさまも混ぜたくなったので続いてしまいます。
⇒さらに蛇汚染2をヨム ⇒隔離室にモドル
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