エオメルは相手の金髪を指でかきあげると、その顔を両手で挟み、澄んだ緑色の瞳を真正面から見つめた。
そして熱情に駆られるままに、嫌われてもかまうものかと、口づけた。
びっくりしたらしいボロミアが、身体をこわばらせる。が、次の瞬間には大将のほうから強く唇を押し付けてきたので、騎士軍団長は驚いた。

 相手が抵抗を見せず、反応を返してきたことでエオメルは有頂天になり、ボロミアの頭を抱えて激しく唇をむさぼった。
舌を絡めとりきつく吸いあげると、大将は苦しげに「んん・・・」と呻いて顔をのけぞらせようとした。
それを許さずキスしたまま、相手の身体を抱きかかえてぐいぐい押していく。
やがてボロミアの背中が木立のなかの大木につきあたった。
エオメルは相手を木に押し付け、その肩や胸、腰に手を這わせて愛撫しながら、角度を変えて舌を差込み、さらに深く口づける。
ボロミアの腕がエオメルの背中をさまよい、ときどきかれの衣服をぎゅっとにぎった。

 ようやく唇が離れたときは、ふたりとも息が上がっていた。
エオメルが荒い息を吐きながら、「どうします・・・?」とたずねた。
「どう、とは?」
困ったような笑顔を見せて、ボロミアが問い返す。
エオメルは相手の白い顔に頬をこすりつけて、情熱的に告白した。
「あなたが好きですボロミア、ああ、わたしはあなたを愛している・・・わたしはあなたが欲しいのです」
ロヒアリムの率直さに、白の総大将の頬も高潮して赤くなった。
「エオメル殿・・・あなたは可愛い人だ。わたしもあなたを愛しく思う」
ボロミアの言葉に瞳を輝かせた騎士軍団長が、「本当ですか」と言いながらもう一度キスしようと唇を寄せる。

 その肩を、少し押し戻すようにしてボロミアは言った。
「ですが、わたしを愛してくれている人間は、他にもいるのですよ」
それを聞いたエオメルは「落胆」というタイトルの彫像のように突っ立った。そして、がっくり肩を落としたのだった。
「ああ。他に・・・」
恋人がおられるのですね、とかれは口の中でつぶやいた。
それはそうだろう、と純朴なロヒアリムはへこみながらも納得した。
これだけ魅力的な美貌の公子だ、恋愛相手に事欠くことなどないはずだ。
うなだれたエオメルの長い金髪を、中つ国一の大国の跡継ぎは指に絡めてみせた。
そしてかれをそっと引き寄せてその額に口づけた。



 とはいえ、いまだ体内の熱が冷めやらぬエオメルである。
離れがたく大将の身体に腕を回して抱きあう。
ふいにかれは、その手を相手の長衣の下に差し入れた。
長い指で探りあてると、かなり強くボロミアの股間をまさぐる。
「エ、エオメル殿」
自分の腕をつかもうとするボロミアの手を払いのけて、エオメルはかれの耳元で熱くささやいた。
「大将殿が嫌だと思うようなことは決してしません。誰も見ていないし、誰にも言いません・・・だからじっとして、わたしにあなたを感じさせて下さい」
そう言うと、エオメルの指は布地の上から性器をもみ込むように動いた。
「あっ・・・」と声を出し、押しのけるしぐさはしたものの、抵抗しないボロミアである。

 ゴンドーリアンは、若いロヒアリムに触れられるのが嫌ではなかった。
生まれながらに強国の支配者たる地位が約束された者として、国中の崇拝を集めて育った身である。
血筋の高貴さと、生来の天真爛漫さもあいまって、ボロミアは他者から愛情を示されることに慣れていたし、特に家庭内においては、かれを溺愛する父と弟に「いろいろ可愛がられて」きたのである。
好ましく思う相手との接触なら、抵抗を感じない性分なのだ。
ボロミアは、エオメルの肩にすがってその指の動きに身をゆだねた。

 布地の下のものが硬さを増してきたのを感じて、かれはボロミアのズボンをずり下ろして性器を露出させ、直接握った。
ロヒアリムの手は大きくて熱く、ゴンドーリアンは陶然となった。
熱心に擦りあげながら相手の貌を見ると、大将は眼を閉じて眉を寄せ、「は・・・アッ・・・」と甘い吐息をもらしながら快感を訴えている。
−−ミナス・ティリスの白い都には、この表情をいつも見ることが出来る相手がいるのだなと思うと、エオメルの胸のなかに苦いものがこみ上げたが、今はただ、ボロミアを喜ばせたかった。
白の総大将のものがかれの指に扱かれてビクビクと動く。
「うっ、アアッ・・エオメル・・・」
感に堪えかねてかれの名を呼ぶボロミアの掠れ声は、目眩がするくらいセクシーだった。

 たまらなくなったエオメルは、片方の手を自分の下着のなかにつっこみ、相手を愛撫しながら激しく自慰をはじめた。
「ボロミア・・・」
「すごくいい・・・ああ、エオメル・・・」
金髪の戦士二人は、互いに相手の名前を呼び合い、いや増す快感に熱い息を吐きあった。
「・・・悪い子だな、エオメル・・・誰にこんなことを教わったのか・・・?」
ロヒアリムの手の動きに合わせて腰を動かし、与えられる刺激にあえぎながらボロミアが尋ねる。
さしたる意味もなく、うわごとまがいに問いかけただけのようだが、エオメルは一瞬ぎくりとした。
答えようがないので、かれは唇で相手の口をふさぎ、さらに荒々しく性器を擦ってボロミアに濡れた呻き声をあげさせた。

 そしてエオメルが誰に教わったのかといえば−−もちろんセオドレドである。
年上の従兄に手ほどきされて、少年の時分にかれは自らを慰めること、さらに相手と刺激しあうことを覚えたのだ。
大人になってからは絶えてなくなったが、15、6のころにはエオメルはしょっちゅう従兄に愛撫をねだり、二人は密かな手淫の愉しみに耽っていた。
そのことはかれとセオドレドだけの秘密である。
身内の者から妙に可愛がられてきた、という点ではボロミアとエオメルは似たもの同士だった。

 互いに先端をすっかり濡らして、絶頂までもうすぐ、というところに来たとき、「・・・いッ、いきそうです」と呟きかけたエオメルの口を、突然相手の掌が乱暴にふさいだ。
かれはびっくりした。
ボロミアは腰を引き、ロヒアリムの手を退けると、鋭い口調で「何かがやって来る」と告げた。
すぐには頭の切り替えが出来ず、たエオメルは呆然と相手をみた。
ゴンドールの総大将は、すでに戦士の顔に戻ってあたりをうかがっている。
ボロミアはすばやく衣服を整えると、剣の柄に手をやった。
ようやくエオメルも我に返ってズボンを引き上げたたが、すっかり勃起したペニスが下着に擦れる痛みに顔をしかめた。
厳しい顔で耳を澄ませていたボロミアだが、エオメルを見ると笑みを浮かべた。
かれは片目をつぶり、「続きはまたあとでゆっくり、軍団長殿・・・」とささやいた。
それを聞いたエオメルはぶんぶんと金髪頭を上下させてうなづいた。



 二人は音を立てぬよう騎乗すると、川を離れてそろそろと馬を進めた。
東の方角から、がやがやと耳障りな騒ぎ声がする。
木立のあいだを透かしたむこうに、醜いオークの小集団が見えた。
見つからぬよう、木の陰に身を潜めた戦士たちは、飛び出すタイミングを見計らった。
「けだものどもが、こんなところにまで・・・我がマークの地を踏み荒らすとは許しがたい」
潜めた声で、歯噛みしながらエオメルが言う。
「しかし、こんな昼間からオークが歩き回るのははじめて見るぞ。やつらは日の光に耐えられぬはずではなかったのか」
ボロミアの疑問に、エオメルも不審げにオークを眺めた。
「妙にでかいやつらですね。鉄器を持っているようです。生意気に胴衣らしきものも身に着けている」

 それは、かれらがはじめて目にしたウルク=ハイと呼ばれるオークの改造種だった。
悪鬼オークを人間と掛け合わせ、より強く、より大きく、より凶暴な生物兵器として造り出されたのがウルク=ハイである。
 創造主はローハン北西の要所、アイゼンガルドの塔オルサンクに居住する魔法使いのサルマンだった。
かつてゴンドールの執政から偉大な術師と認められ、オルサンクの鍵を渡されたサルマンが、いつからか悪に堕していることを、ゴンドールとローハンはまだ気づいていない。

「全部で何匹だ?」
「十・・・五、六匹ですね。食事でもするつもりなのか、半数は座り込んでいるようです」
「我々に見つかったのがやつらの不運だ。・・・エオメル、行くぞ!」
かれらは葉陰を吹き抜ける風のように馬を走らせ、一気に悪鬼どものもとに躍り出た。
仰天したウルク=ハイたちが、反撃の体制を整えられないうちに、ゴンドーリアンとロヒアリムは、馬の蹄で敵を蹴散らし、長剣をふるってけものを狩った。
またたくまに敵の数が半分ほどに減っていく。

 ところが、鉄器を握りなおし、戦闘モードに入った悪鬼が戦士たちの一撃を受け止め、はじき返すようになった。
ボロミアは、(強い・・・!なんだ、こいつらは)と内心驚愕しながら、必死で馬を操っていた。
馬上から剣を振り下ろせるぶん、人数は劣ってもふたりの人間ほうが有利に戦える状況だったが、エオメルほど馬術が巧みでないかれは、ともすると手綱さばきに気をとられて攻撃の手が遅れた。
ボロミアの死角に回り込んだウルク=ハイが、馬の後脚を鉄器でなぎはらうと、かれの馬は悲痛な嘶きをあげて倒れた。
地面に投げ出された大将は、躍りかかって来た悪鬼を足で蹴り上げると、すぐに立ち上がって剣を構えた。
「大丈夫ですかボロミア殿ッ!」
エオメルの叫びに、かれは「平気だ!このほうが戦いやすい」と怒鳴り返して、再び突きかかって来たウルク=ハイから身をかわした。
悪鬼は残り五匹に減っていた。しかし、これがかなり強い。

 エオメルはとっさの判断で、馬から飛び降り、「行け!」と叫んで愛馬の尻を強く打った。
馬はそのまま戦闘の輪を抜け出て、エドラスの方向へ逃げ去った。
空の鞍を乗せた馬が帰り着いたら、ローハンの騎士たちは不審に思って自分たちを探しに来るだろう。
ここにいる分のけものどもは自分たちで片付けられるにしても、これほど強靭で日の光を恐れないオークが、もし他にもたくさんいたらと、エオメルは不安になったのだである。
エオメルが二匹、ボロミアが三匹の敵を相手に戦っていたが、互いに一匹づつ屠った直後、ロヒアリムの剣が嫌な音を立てて砕けた。
「くそっ」
かれはとっさに身をかがめて、死んだ敵の武器を拾おうとしたが、手にする前に残った一匹がうなり声をあげて襲いかかる。

 必死に飛び退ったエオメルの足を、悪鬼の鉄器が横から打ちすえた。
左足に鈍い衝撃が走り、すぐにそれは激痛に変わる。
うめき声を上げてひざを突いたエオメルの頭上に、ウルク=ハイの一撃が振り下ろされる瞬間、飛び出してきたボロミアによって悪鬼は胴を刺し貫ぬかれ、倒れた。
エオメルの窮地を救ったものの、大将は自分が戦っていたウルク=ハイに背を向けることになってしまった。
残り二匹が同時に突きかかって来たとき、二つの鉄器を受け止めかねたかれの長剣は、エオメルのものと同様に砕け散った。

 丸腰になってしまったボロミアは、武器を求めてあたりを見回した。
だが次々に攻撃を繰り出してくる敵をよけるのが精一杯である。
すると、足を引きずったエオメルが、決死の形相で一匹の悪鬼の背中に飛びかかり、羽交い絞めにしてその動きを封じようとした。
しかし、ウルク=ハイの腕力は桁違いに強かった。
けものはかれの金髪をつかんで自分から引き剥がした。
そして力任せに投げ飛ばした。
エオメルはすぐそばの大木に激突し、頭を強打してそのまま気を失った。

「エオメル!」
ボロミアはウルク=ハイの腕力に唖然としながら、叫んだ。
これまでまがりなりにも優位に戦えたのは、よく練成されたゴンドール製の剣のおかげだったということにかれは気づいた。
素手で戦ったなら、人間には勝機などなかったに違いない。
歴戦の勇士は、かすかにだが、恐怖を感じた。

 けものは相手の怯えに敏感である。
恐れ気もなく立ち向かってくる相手はためらいなく殺してしまうが、相手がおののくさまを見ると、もっといたぶってやりたくなるのがかれらの性分だった。
目の前の人間は勇猛だが、いまはかなり疲れてその整った顔に不安の色が漂っている。
二匹のウルク=ハイが唸り声をあげてゴンドーリアンに迫る。
金髪の人間は、後ずさりしながら鋭く左右に目を配っていた。
なんとか武器を手に取りたいと思っているらしい。
そうはさせじと、一匹が再び鉄器を振り上げる。
(殺すな!)ともう一匹のウルク=ハイが仲間を制した。
ボロミアにはその声は不明瞭な唸り声にしか聞こえなかったが。

(どうしてだよ?)
(もったいねえだろ、すぐに殺っちまったら。よく見てみろ−−えらく色が白いだろ?こいつは、モルドールの隣の白い塔の国の人間だぞ。前にあの国の人間を捕まえて食ったことがあるからわかるんだ。こいつの身体はどこもかしこも生っ白いに違いねえ−−それにこいつらの肌はいい匂いがするんだぜ。おまけにいい声で泣きやがる)
それを聞いてもう一匹のけものは仲間の意図を理解した。
悪鬼どもが下卑た視線を交わしながら、不穏な相談をしてるとは露知らず、ボロミアは相手との間合いを計っていた。
そして左側に放り出された鉄器が目に入った。
すばやく飛んで、それを拾い上げようとしたとき、敵が二匹同時に襲ってきた。
一匹にウエストを、もう一匹に足を狙われて、大将はなすすべもなく地べたに転がされた。

 ウルク=ハイは仰向けに人間を押さえ込むとその身体に乗りかかり、すぐに衣服を引き剥がしにかかった。
敵が自分を殺そうとしないので、ボロミアは意外に思った。
だが、びりびりと引き裂かれる布の音に、まさか、このまま生きながら食われるでは・・・と思い至った。かれは死に物狂いで暴れだした。
「けだものどもめが!離せッ」
喚いて逃れようとする獲物を、一匹のウルク=ハイが金髪をつかんで頭を引き起こし、散々に殴りつけた。
重量級のパンチをいくつも食らって、ボロミアの意識が遠くなる。

(わ・・・わたしはここで死ぬのか・・・?ああ・・・エオメルはどうしたろう。・・・ファラミア・・・)
抵抗する気力を失ってぐったりした人間の着衣を、長靴まで剥ぎ取ったウルク=ハイはその白い肌に見惚れた。
ボロミアが人間のなかでも特に高貴な美貌の主だということは、かれらにもわかるのかも知れない。
二匹のウルク=ハイは、ゴンドーリアンの肌を嘗め回してその肌を睡液で濡らした。ボロミアの汗の味は、甘美なものだった。

(そういや、あっちでひっくり返ってるやつのほうはどうするよ?まだ死んでねえみたいだし、引っ張ってきてこいつと並べて犯るか?向こうのやつのほうが、こいつより若いぞ)
ボロミアの胸にむしゃぶりつきながら、ウルク=ハイは倒れたままのエオメルを横目で見て、仲間に尋ねた。
(ばか、ありゃあ「馬飼い」だ。サルマン様の塔の上から、いくらでも見る、藁頭の馬飼い野郎だ。あんなもん、アイゼンガルドのそばでいつでも捕まえられる。こっちのとは肉の味が違うのよ。ほっとけ。もし起きだしてきやがったら、すぐにぶち殺すまでよ)
そのようなやりとりが交わされ、とりあえずエオメルはけものの餌食となることから免れた。
が、それがかれにとって幸いとなったかどうかはわからない。

 ざらざらした舌の感触にボロミアはわれを取り戻した。
そして、身体のそこかしこに悪鬼の舌が這うおぞましい状況に鳥肌を立てた。
すぐにも鋭い牙をつきたてられて肉を食いちぎられるのかと、絶望とともに覚悟する。
足元に回ったウルク=ハイが、かれのペニスを掴んで咥えようとしたとき、性器を食われる・・・!と恐怖のあまりボロミアは足を上げて敵を蹴ろうとした。
悪鬼はその膝をとらえて、ぐいと押し上げ、ボロミアのすべてが完全に開かれる格好にした。
両足を抱えられて押し開かれた人間の扇情的な光景に、二匹は凶暴な欲情をそそられ、唸り声をあげるのだった。

恥ずかしい姿勢にされたボロミアは、混乱して再びもがき始めたが、頑丈な筋肉に覆われた敵にとってはその抵抗は微々たる物だった。
けものがかれのあらわになった後腔を、べろりと舐めあげたとき、はじめてボロミアは敵が自分をただ食らおうとしているのではないことに気づいた。
かれの顔面のそばに腰を据えた敵の股間に目をやると、その赤黒くごつごつとした異形の器官が勃起しかけている。
それを見たボロミアは震え上がった。
悪鬼どもは、殺す前に獲物を陵辱するつもりなのだ。

(どう・・・すればいい、逃れるすべは・・・)
そんな屈辱には耐えられない。
混乱しながら思い巡らせているうちにも、もう一匹が股間に顔を埋めてボロミアのものをしゃぶりだした。
同時に後腔に太い指を突き入れて、なかをぐりぐりかきまわされる。
「や、やめろッ!」
悪鬼の指が偶然かれの前立腺部分を刺激した。
「うアッ」と叫んでボロミアの体が跳ね上がる。
口の中の人間の性器が硬くなったのを感じて、敵はさらにその同じ場所を乱暴に掻きこすった。

 ボロミアが生理的な反応を抑えられず、ビクン、と身体を震わせて応える。
獲物の敏感な反応にウルク=ハイは興奮し、甲高い歓声を上げた。
もはや我慢できぬといきり立たせた性器を、鷲掴みにした尻の肉のあいだに押し入れようとする。
「ヒッ−−−−いやだあッ」
(あっ、てめえ勝手に)
ボロミアの叫び声に、かれの腕を押さえていたほうのウルク=ハイが、挿入の体制をとった仲間の肩をどん!とついて押しのけようとする。
(邪魔すんじゃねえ)
(うるせえ、俺に先に犯らせろッ)
順番を争ってギャアギャア言い争うケモノの唸りを聞きながら、ボロミアは必死で手足をばたつかせ、逃れようと力を振り絞って暴れた。
二匹のウルク=ハイがあわてて人間の手足を抱え、動きを封じる。

(まだ暴れやがる。さっさとぶちこんで大人しくさせようぜ−−おい、俺に先に犯らせてくれたら、肉はお前が好きなところを食っていい、ってのはどうよ、え?)
(う・・・うう−−それでいい)
腕を掴んているほうの悪鬼が、仲間の提案に渋々同意する。
とにかく、争うよりも、はやく好きなだけ美貌の獲物を犯しまくりたい、とけものは思った。
よし、と先ほど一旦体勢をとったウルク=ハイが、再びボロミアのひざを抱えて大きく広げ、かれの尻に腰を押し付けた。
「うわッ、やめろーっ!」
硬いものが後腔に押し当てられた瞬間、ボロミアは総毛だって悲鳴をあげた。
ウルク=ハイの巨大なペニスが、かれの肉を押し分けてゆっくり進入してきた。
引き裂かれるような痛みと、けものに犯される恐怖と屈辱に、かれは絶叫して助けを呼んだ。
「ウアアーーーーーーッ!嫌だッ!エオメル!エオメルッ、助けてくれえ!エオメルーーーーーーッ!」



 不安な、胸苦しい夢を見ていたような気がした。
だがその内容は混沌の向こうに消えてなにも思い出せない。
遠くで誰かがかれの名前を呼んでいた。
若いロヒアリムは、痛みとともに意識を取り戻しつつあった。
頭、そして左足が堪らなく痛い。
誰かが叫んでいるようだが、ノイズ交じりのように音が割れて、よく聞き取れない。
誰か・・・誰かが、かれのよく知る誰かが咽喉も裂けよとばかりに絶叫している・・・。
「−−ボロミア・・・!」
それはかれが恋する相手の声だった。

 エオメルは完全に覚醒し、跳ね起きた。
そしてかれが見たものは、素裸にされけものにのしかかられて犯されている、ミナス・ティリスの総大将の白い身体だった。
一瞬眼前の状況が把握できず、呆然とする。
ボロミアの宙に浮いた足がぐらぐらと揺れている。
その開かれた太腿のあいだに悪鬼が腰を入れて、激しく揺さぶっていた。
赤黒いペニスがゴンドーリアンの中に突き入れられ、裂けた部分から血が流れている。
それらの光景を認識し理解した瞬間に、エオメルは頭が破裂するような憤怒に巻き込まれた。

「離れろーッ!このけだものどもが、殺してやる!」
かれは足の痛みも忘れて飛び出し、手近なところに落ちていた鉄器を拾って振り上げた。
ボロミアと繋がっていないほうのウルク=ハイが、自分の鉄器をブーメランのように飛ばして、エオメルの得物に当てた。
「アッ」
命中した衝撃で、エオメルの手から鉄器が吹き飛ぶ。
悪鬼どもは耳障りな歓声をあげてかれを嘲笑した。
かれは一歩下がると、再び武器を探そうとした。
しかし、急に左足の痛みが増して、がくりと膝をついてしまう。
木に打ちつけた頭もズキズキと痛んで、眩暈がした。
ウルク=ハイたちは、俺らは馬飼いなんぞ相手にしないのよ−−とばかりに、エオメルには構わずボロミアを陵辱し続けている。

 ゴンドーリアンは、エオメルが起きたことにも気づかぬらしく、けものの突きに揺すられて、もはや勇猛な戦士とも思えぬ甲高い悲鳴を上げつづけている。
「ボ・・・ボロミア殿・・・」
なんとかお助けせねば、と膝をついたままエオメルは武器を求めてあたりを見回した。
その瞳から涙があふれて、視界が霞む。
それでもなんとか再び鉄器を手にすると、敵のもとに歩を進めようとした。
たとえ自らの命と引き換えてでも、ボロミアを救わなくてはならない。
二匹のウルク=ハイは面倒くさそうにロヒアリムの姿を見やったが、ふいに、悪鬼どもの眼にあざけりの色が浮かびあがった。

 エオメルがその意味に気づかぬまま、武器をかまえて気合とともに飛び出そうとした瞬間−−かれの目の前のあらゆるものが、真っ黒に塗りつぶされた。



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