1-5落ち武者伝説と温泉
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本家や元祖というのは菓子や団子に使うラベルだろう。元をただせば土くれにすぎない人間が昔の血筋や家柄を持ち出すのも変である。どこのうまの骨ともわからぬ者の末裔は家柄の話をされるのは煙たい。ところがいまだに平家の血筋を売り物にする温泉がある。そのひとつが栃木県の湯西川温泉だ。
今はやめたが妻の実家は毎年親族旅行を行なっていた。スピード狂の義兄とやけにウマがあって山道をあれこれ走り抜けたものである。後ろに走っている車を忘れるから子どもに簡易無線機を持たせて連絡したこともある。湯西川に至る狭い山道をどんどん先に進む義兄を追うと、同乗者はいつになく車酔いする始末だった。ふだんは抑制しているが、メリハリが欠かせない山道走行が大好きなわたしはけっこう乱暴な運転になるからだ。
ともあれ本家か元祖かは忘れたが十二単(じゅうにひとえ)を着た厚化粧のおかみ(女亭主)に丁寧なあいさつを受け、川を挟んだ宴席で親族一同おおいに盛り上がった。山菜料理に舌づつみし温泉もそれなりのもので不満はなかった。それにしても嬉しかったのは、いっこうに立たないで頭を痛めていた娘がここで立ち上がったことだった。のんびりしていて世話をやかせるのは相変わらずだが可愛い。
日本の各地に落ち武者伝説があり、それが平家と結びつくのは「貴種」崇拝なのだろう。落ち武者狩りとか敗者への虐待がぼかされているのも不思議である。それを知っているから、さらしものになったり辱めを避けて一族郎等が自死したのも忘れてはなるまい。それはともあれ生き延びた子孫が先祖を売り物にするのも何か変である。これもありふれた商品を特化する苦肉の策なのかもしれない。煎餅やラーメンが本家や元祖で競うのと似ている。
【追記】
この記事は1984年7月のドライブをもとに作成しました。日光・塩原・湯西川。那須をまわったドライブですが、残っている写真には親族が写っているのでイラストにしています。特定の施設を批難・中傷するつもりはありませんのでご注意ください。
なお、湯西川温泉につきましては記憶誤りを正すために湯西川・川俣・奥鬼怒温泉観光協会のホームページにリンクさせていただきました。