”料理”というものが一度”空腹を癒す生活の糧”としてのジャンルから抜け出し、”芸術作品”としての輝きを持つ時、その”究極”を求め遡り辿り着く先は”甘味”にあたります。 ”ワイン”という西洋文化に欠かせない文化的飲料においても同じ事。その”究極”なるものを突き詰めるならば、幾何学的な甘さが我々を魅惑してくれる甘口ワインに辿り着き、そしてその中で最も偉大なものと言えば、かのフランスは”ソーテルヌ”などに代表される”貴腐ワイン”になるのではないでしょうか。 この”貴腐ワイン”というもの、収穫を遅らせることにより受ける晩秋の湿気が生み出す”カビ(Muffa Nobile-Botryitis Cinerea)の働きにより、発酵時に発生する特殊な効果が”糖度”を高めるワイン製法のことで、イタリアではほぼ限定的にウンブリア州、そしてマルケ州にて見られます(ヴェネト州の”アチニノービリ”に注目)。 もともとイタリアにおいては伝統的に見られていた生産方法のワインではないので、品種的にはやはり本場ソーテルヌ地区の例に従い”ソーヴィニョン・ブラン”種などを主体にその生産が軌道に乗り出しましたが、見事なまでに急速な発展を見せているこの数年の”イタリア・ワイン界の技術的革新”と共に、様々な伝統的品種による試みもかなりの成果を見せ始めています。 ワインの特徴としては、気品の高い”鋭角な甘さ”がしっかりとした酸味や独特のほろ苦さにより見事に演出されるテイストが心地良く、香りは印象薄ながらに、後味の非常に長い持続性とその強烈なパフォーマンスが他に類を見ぬほどにエレガントに表れていること。生産面においては、気候的条件や技術的生産行程の難しさなどによる”ヴィンテージの格差”が非常にはっきりと表れやすく、量生産の困難さからも”入手し辛い”ワインであるとも言えるでしょう。 さて、そんな至高のデザート・ワインの愉しみ方ですが、”乾燥菓子”などを基本とする定番や、カラメル、蜂蜜、マーマレード、ナッツや乾燥フルーツ類などの癖のある素材に彩られたクリーム・ベースのデザートなどと幅広く応用が利くと言えるでしょうが、あえてその独特の味わいを生かすには、「デザート」だけに限定する必要はなく、重要な肉料理に引き継ぐ食事のファイナルとしてのもう一つの選択肢「フォルマッジョ」との相性も抜群ですし、蜂蜜、マーマレード、モスタルダ(野菜、果物のピクルス)などに演出された”フォアグラ”などの重要素材による料理に合わせてあげると面白いでしょう。 下記に、マルケ州以南の最も代表的な貴腐ワインを5本、そして、”貴腐ワイン予備群”とも呼べてしまうようなタイプのワイン”Vendemmia Tardiva(ヴェンデンミア・タルディーヴァ)を3本紹介してあります。赤字で記載されている評価は個人的なテイスティング結果です。前回とは違い、各有名ガイド・ブックの評価は、試飲されたヴィンテージの記載がチグハグなので記載を避けてあります。今回はご紹介出来ませんでしたが、中部以南を代表するデザート・ワインとして、マルケ州は「ヴィッラ・マティルデ」の”Elelusi(エレウジ)”、カンパーニア州は「カッジャーノ・アントニオ」の”Mel(メル)”、プーリア州は「リヴェ―ラ」の”Moscato di Trani Pian di Tufara(モスカート・ディ・トラーニ・ピアン・ディ・トゥファラ)”なども注目されているワインなので参考にして下さい。 次回は”トスカーナの伝統「ヴィン・サント」”をご紹介いたします。 -VINO MUFFATO(貴腐ワイン)-