手帳の「来日要件」撤廃で自公・民主が合意 在外被爆者問題
(「長崎新聞ホームページ」5月29日付から全文抜粋)
【東京支社】広島、長崎で被爆し、現在は海外に居住する在外被爆者をめぐる問題で、自民、公明、民主の3党は28日、被爆者健康手帳の取得申請を海外からできるようにする被爆者援護法改正案を共同提出することで合意した。医療費助成の拡充を検討する条項も盛り込まれた。30日に衆院厚生労働委員会に提出する予定で、今国会での成立を目指す。
厚労省によると、同法改正が実現すれば、1995年の施行以来初めて。
改正案では、「手帳交付を受けようとする者で、国内に居住及び現在地を有しない者」と在外被爆者に関する条項を設け、海外での手帳申請を可能とする。厚生労働省は来日した上での申請を条件としているが、撤廃されることになる。法改正後は、申請者が居住する国の在外公館を通じて被爆当時に住んでいた広島、長崎の知事、市長のいずれかに書類を提出。担当者が現地に出向いて面談などをする手続きが取られる見通し。
また、年間14万5千円までを基本とする在外被爆者の医療費助成について、改正案では「国内に居住する被爆者の状況や医療実態などを踏まえて検討し、必要な措置を講じる」とし、国内被爆者との兼ね合いを考慮して医療費助成の在り方を見直すことが盛り込まれている。
在外被爆者支援をめぐっては、与党、民主党がそれぞれ、先の臨時国会で法改正案を提出し、与党案は衆院で継続審議となっている。与党は手帳の海外申請を可能とする案にとどめていたが、民主党は医療支援を盛り込むことも必要としており、調整が進められた。
在外被爆者の支援を検討している自民、公明両党の被爆者援護対策プロジェクトチームメンバーの冨岡勉衆院議員(比例九州)は「在外被爆者、手帳申請者は高齢化している。理不尽な点は早期に改めるとの考えで与党、民主党が一致し、ともに納得できる案になった」と話している。
◎ズーム 在外被爆者
被爆後、帰国した外国人や海外に移住した日本人。厚生労働省によると、このうち、被爆者健康手帳を持つのは昨年3月末現在、30カ国以上に約4280人。韓国が約2890人と最多で、米国約970人、ブラジル約160人。
在外被爆者問題をめぐる動き
1974年7月 旧厚生省局長が「国外に出た被爆者には健康管理手当などを支給しない」旨、自治体に通達
95年7月 原爆2法を一本化した被爆者援護法施行
2001年6月 韓国人、郭貴勲さんの裁判で、大阪地裁が在外被爆者にも手当の受給資格があるとの初の司法判断
8月 在外被爆者に関する厚生労働省の検討会が設置
02年12月 郭さん裁判で大阪高裁が国の控訴棄却。国が上告断念
03年3月 国が通達を廃止。在外被爆者への手当支給開始
05年9月 韓国人、崔季Kさんの裁判で福岡高裁が海外からの手当、葬祭料の申請を認める。長崎市が上告断念
11月 海外の日本公館で手当、葬祭料の申請が可能になる
07年2月 地方自治法の時効を理由に健康管理手当の未払い分を支給しないのは違法と在ブラジル被爆者が訴えた裁判で、最高裁が「時効主張は許されない」と原告勝訴判決
4月 国が時効に関係なく未払い手当を支給するよう自治体に通達
12月 来日せずに被爆者健康手帳の申請手続きができるようにする被爆者援護法改正案を自公、民主がそれぞれ議員立法で提出
08年2月 崔さんが健康管理手当の未払い分を長崎市に求めた裁判で、最高裁が原告勝訴判決
5月28日 被爆者援護法改正案をめぐり、自公、民主が合意
「残る課題早期解決を」関係者思い複雑
(「長崎新聞ホームページ」5月29日付から全文抜粋)
「評価したい」「遅すぎる」−。被爆者援護法改正案をめぐり28日、自公、民主が合意に達したが、在外被爆者の高齢化が進む中、関係者の思いは複雑だ。国のこれまでの消極姿勢に厳しい目を向け、「時間との闘い」と残された課題の早期解決を求めた。
長年、国の援護の外側に放置されてきた在外被爆者は、国などを相手取った裁判で勝訴を積み重ね、一つ一つ権利を勝ち取ってきた。被爆者健康手帳の取得は、手当などを受給する大前提。高齢や病気などで渡日できない被爆者も多く、申請のための「来日要件」は残された大きな壁だった。
平野伸人・在外被爆者支援連絡会共同代表(61)は「政治が自ら動いた初めてのケース」と評価。一方で、「海外申請が可能になっても寝たきりの人は在外公館まで行けない。高齢化に伴う現実問題に対し、(担当者を派遣することになる)行政はきめ細かな対応をしてほしい」と注文した。
在外被爆者訴訟をめぐっては、長引く裁判で判決前の原告死亡が相次ぐ。手帳申請の「来日要件」撤廃を訴えた裁判も、長崎地裁など全国で四件が係争中だが、遺族が引き継ぐケースも。「来日要件」の壁は取り払われても、医療給付や介護手当支給など未解決の問題はなお横たわる。森田隆・在ブラジル原爆被爆者協会長(84)は「遅すぎる。国内の被爆者と同等の援護を早く実現してほしい。そのために運動を続ける」と話した。
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