Part 2 of the Sacred Mother's Ring - the 11 Years' Sprint

六年目(10)




 それから二日後の朝、ニコレットは食事をしながら、切り出してきた。
「わたし、今日から仕事に戻らなきゃ。クリスマスが近いから、売り場がすごく忙しくなって。もうこれ以上、休んでいられないんです。ごめんなさい」
「ああ、もうそんな季節なんだね」
 僕はスープをすくう手を、思わず止めた。
「ごめんね。君にはすっかり仕事を休ませてしまって」
「だってそれは、わたしが好きでしたことですから。あなたがわたしと一緒にいるなんて夢みたいなことが起きているのに、仕事へ行くなんて、もったいなさすぎると思ったんです。でも、もうそうも言っていられなくなってしまったし……。あ、でも、あなたのお昼が心配だわ。一人で大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ、そんなこと。僕のことは気にしないで」
 僕は笑って答えたが、心の中では少々動揺していた。彼女もそろそろ現実に戻って、再び日常の中に飛び立とうとしているのだと。

 その日、午前中はミステリーを読んだりテレビを見たりして過ごし、お昼に牛乳と、彼女が用意しておいてくれたサンドイッチを食べた。午後にはすっかり退屈して、むしょうに外の空気が吸いたくなった。玄関のスペアキーは、ローボードの引き出しに入っている。『もし外出することがあったら、予備の鍵はそこにありますから』と、ニコレットが出勤前にそう言っていたのだ。僕は厚いコートを着て髪を束ねると、帽子を被り、サングラスをかけた。スペアキーで鍵をかけると、外に出てタクシーを捕まえ、市街地まで乗っていく。どこへ行くか、はっきりとした当てはなかった。
 ピカデリー広場の近くでタクシーをおりると、石畳の道をゆっくりと歩いた。この街の独特な風情は、妙に心の琴線に触れるものがある。初めてここにきたのは、デビューした翌年。六年近く前だ。あの時は僕たちもまだ新人で、最初に僕らを起用してくれたビッグネーム○○の(後でとんでもない人たちだったのだと、わかったけれど)二度目のサポートについて行き、初めてイギリスの土を踏んだ。古き海の母。心にほのかな憧れと郷愁を感じさせる国土。この街を最初に訪れた時、僕たちはおのぼりさん丸出しではしゃぎ、すっかり観光客気分で歩いたものだ。
 あの時は初夏だった。今は十二月。五年半以上の歳月を経て、今僕は一人でこの街を歩いている。吹きつける風は冷たく、みぞれまで降っていた。灰色の空の下、クリスマスのイルミネーションが、せめて冬枯れの街を活気づけようとするかのように、鮮やかな光を放っている。しかしその輝きは、今の僕には、どことなく場違いな感じに思えた。
 みぞれなんて、忌々しい天気だ。傘をささなくては濡れてしまう。ニコレットと再会した時に持っていた傘を開きながら、心の中で舌打ちした。いっそ雪になってくれたら、これほど陰気な冷たさを感じさせはしないだろう。ロンドンにはあまり雪が降らないということは知っている。冬には雪が付きもののトロントで育った僕には、十二月のみぞれがいっそう忌々しく感じるのだろうか。
 小さなため息が漏れた。あれから何度ここに来ただろう。ツアーで四回、ミックスダウンに一回、フェスティヴァルに出るので一回、そうだ、あのセッションも、ここだった。もうプレストンさんに対する憎しみはなくなったものの、事件そのものは今も許せない。妨害者たちに対する憤りも消せない。あの卑劣な計画のおかげで、僕は二人目の子供を失った。そして妻も、息子をも、今失いかけている――僕は小さく地面を蹴った。そもそも今回のツアーで泊まったホテルも、あの時と同じだ。部屋は違うが。ホテル自体が悪いわけでは当然ないが、とんでもない災難に会ったのも、頷けるような気さえした。

 天気のせいか、あまり人通りは多くなかった。最近は人から見られずに歩いたことのない僕だが、おかげで今は気づかれずにすんでいる。僕が今ごろ街を歩いているはずがないというファンの認識もあるのだろう。
 ほとんど肩が触れるくらいの近さで、一組のカップルとすれ違った。男性の方は二十代前半、女性のほうは十八、九歳くらいか。二人ともセーターに革のジャンパーというスタイルで、下はジーンズ。お揃いのオレンジのマフラーを首に巻いていた。
 男性のほうが二、三歩歩きすぎたところで、こう言っているのが聞こえた。
「え? 今のジャスティン・ローリングス?」
「嘘!? 今ごろ、ここにいるわけないじゃない。とっくにカナダへ帰ってるでしょ?」
 女性のほうは、驚いたように声を上げている。
「だって、似てたよ」
「えー、本当に? だって、エアリィはまだこっちにいるけど、あとの四人は帰っちゃったでしょ? あれから、もう一ヵ月以上たってるんだもの」
「そういや十日近く前に、あとのメンバーは帰国したって聞いたな。人違いかな」
「じゃないの……?」
 それから先は聞こえなかった。その認識があるからこそ、僕もこうやってのびのび歩ける。でもその会話を聞いた時、妙なわびしさが胸をよぎった。僕はここにいるべき人間ではない。そんな気が強くした。
 みぞれはいつのまにか止んでいたが、霧が出てきた。冷たい風に吹かれながら、僕は不意に淋しさに襲われた。なんだか自分が行くあてのない放浪者のように思えた。そうしてしばらく歩いているうちに、ふと考えがよぎった。ああ、そうだ。さっきの二人が言っていたように、エアリィはまだこっちの病院にいる。どうしているか、会いに行ってみよう。病院はそこから、さほど遠くない。僕は進路を変えた。
 一人で友人のお見舞いにいくのは、数年前ロサンゼルスのロビン以来だ。あの時は守護天使のお導きによって、彼を死から救えた。でも、今度はちょっと状況が違う。慰めや助力を必要としているのは、僕のほうかもしれない。

 周りの大混雑は、一時期ほどではないが相変わらずだ。救急車の出入りや一般の患者さんたちの妨げにならないように、という節度だけは保っているらしいのが救いだが、あまり人が多いのは入りにくい。よっぽど帰ろうかと思ったが、ぐずぐずしてたら、もっと目立つ。僕は決心して帽子をぐっと目深にかぶり、足早に玄関を通り抜けた。おそらくロビンとジョージ、ミック、それにロブやマネージメント事務所のスタッフは、僕がこっちに残っていることを知っているだろうが、エアリィが知っているかどうかは、わからなかった。よけいなことは耳に入れていないかもしれないから。
 ナースステーションで面会票を書き、病棟入り口にいる警備員さんの前を通って、ドアをノックすると、エアリィの専属セキュリティである、ネイザン・ジャクソンが中から開けてくれた。一瞬、彼のごつい巨体を見た時、僕はくるっと踵を返して戻りたい誘惑に駆られた。そうだ、あの時のロビンと今のエアリィの状況が、同じわけはない。彼が一人で病室にいるわけはないのだ、と今さらながらに気づいたが、もう遅い。
「ジャスティンさん!! どこへ行っていらしたんですか?」
 ジャクソンは目を見開き、驚きを押し殺したような声を出していた。
「あ、いや……」僕は一瞬言葉に詰まった。
「ネイト……誰か来たの?」
 エアリィが部屋の中から、小さな声でそうきいている。
「あ、ジャスティンさんが来たんだ」
 ジャクソンは振り返ってそう告げ、そして僕に小さな声でささやいた。
「彼にはあなたが行方不明だったことは、知らせてないんですよ」
「ああ、そうか……」
 僕は頷き、中へ入った。エアリィはパジャマの上から生成り色のカーディガンをはおり、半分起こしてあるベッドにもたれて、届けられた手紙を呼んでいる最中だったらしいが、僕を見ると、まるで幽霊でも見ているかのように目を丸くした。
「えー、ジャスティン! って、本物? それとも、生き別れの、双子の兄弟?」
「あのなあ……」
 いきなりのあいさつに、僕は思わず笑ってしまった。
「僕に双子の兄弟はいないよ。まったく、ごあいさつだな」
「だっておまえ、とっくにトロント、帰ったと思ってたから。明日帰るって言って、みんなでここに来てから……十日、たってるし。またこっちに、来たの?」
 彼は読んでいた手紙の束(すべて開封済みで、便箋だけが束ねられて、クリップで留めてあるものだが、厚みが一インチくらいあった。他にもサイドテーブルに同じような束が積み上げられている)を下に置くと、僕の方へ向き直り、そう問いかけてくる。
「具合はどうだ?」
 僕はそれには答えずに聞いた。
「うん、だいぶいいよ。この部屋の、中くらいなら、歩けるようにも、なったし」
「そうか。良かったよ。そうだな。こうして見ていても、かなり具合は良さそうだって、僕にもわかるよ。話し方も、だいぶ普通に戻ったようだし。もう酸素テントもないんだな。マスクはあるけど」
「ああ、時々酸素補給しないと、まだ苦しいんだ。動いたあととか。でも、もうそんなに胸は、痛くないし、大丈夫だよ」
「じゃあ、俺はちょっと外へ出てくるから、何か買うものがあったら、言ってくれ。あ、ジャスティンさん、こっちの椅子をどうぞ」
 ジャクソンがベッドサイドにある椅子を、僕の方へ押しやった。
「あ、ミックスか、アップルジュースが、あったら、お願い」
「わかった」とジャクソンは僕に目礼して、部屋を出ていく。
 僕も席を外してくれたセキュリティに「ありがとう」と感謝し、椅子に座った。
「ジャスティンは、なんか飲む? 冷蔵庫に、入ってるだろうから、適当に出して、飲んで」
「ああ、じゃあ、遠慮なく……」
 僕は部屋に備え付けの冷蔵庫を開けた。少し喉が渇いていたのだ。中にはミネラルウォーターとスポーツドリンクが数本。無糖のお茶。コーラとジンジャーエールがある。エアリィは炭酸飲料をあまり飲まないから、これは来客か付き添い用だろう。そして広口のボトルに入った、薄金色の水がある。その中には五、六個ほどの丸い金褐色の何かが入っていた。
「これ、なんだ? 何が漬け込んであるんだ?」
「これはね、僕の、栄養ドリンク。少し飲んでみる?」
 僕はついきれいな色につられ、冷蔵庫の上に重ねておいてある小さな紙コップをひとつとって、少しだけ中身を注いだ。が、一口飲んだとたん、思わず噴き出した。びりっとした、電流のような激しい衝撃が走ったのだ。
「なんだ、これ!」僕はむせながら叫んだ。
「まるで電撃水だな」
「やっぱ、他の人が飲むと、そうなるんだなぁ」
 エアリィは少し笑いを含んだ声を出し、ほんの少し肩をすくめた。
「これ、ミネラルウォーターに、光の木の実を、入れた奴なんだ。エステルとアラン継兄さんが、一週間くらい前に摘んで、持ってきてくれたんだよ。もう実は、かなり落ちちゃってた、らしいけど」
「ああ、あれか。そういえば、マインズデールのシスターが言っていたっけな。おまえは光の木の実が好きだが、他の人は誰も食べようとしない。しびれるからって。思い出したよ。わかってるなら、人にすすめるな。僕で人体実験する気か?」
 僕は苦笑し、コーラのボトルを取り出して、再び椅子に座った。
「ところで、今はジャクソンが付き添っているんだな。アデレードさんは? 買い物か洗濯にでも行っているのかい?」
「ああ、アデル? 知らなかったっけ? 五日前に、帰ったよ。もう一応、自分のことはなんとか、できるようになったからさ。そろそろ帰ってやんないと、ロージィだって、ママが恋しいだろうし、いつまでもステュアートの家で、面倒を見てもらうわけにも、いかないから。ミル小母さんも、疲れちゃうだろうしね。それから、ずっとネイトがここにいて……ちょっと待ってて……」
 彼は酸素マスクをとって当てた。
「ごめん。まだちょっと、長いこと、一息に話するのは、少しきついから……」
「いや。僕の方こそ……おまえも無理して話さなくていいぞ」
「大丈夫。話すことも、リハビリだから。気にしないで。で、それでロブがアデルを、トロントへ送ってって、ロブは向こうで、溜まってる仕事片付けて、一昨日、戻ってきたんだ。アデレードも来週、またこっちへ、来るって。ロージィと一緒に…………ロブも送り迎えで、行ったり来たり、忙しいな。けど、僕もクリスマスには、帰れそうもないしさ。だから、こっちでお祝いしよってことに、なったんだ。この部屋、広いし。病院でクリスマスを迎えるのは、二回目だよ」
「もう一回は?」
「六歳の時にね。十四年前……誘拐犯から逃げる時、決死の大脱出で」
「ああ、あの時か。あの本に書いてあったもんな。八階から飛び降りたって。よく生きてたな。一階の張り出し屋根の上に落ちたとはいえ」
「昔から悪運は、強かったからね。頭から落ちないようには、したし、それに子供だと、体が柔らかいから」
「でも考えてみれば、おまえも本当にいろいろな目にあうな」
「今になっても、神様に、試されてるって、とこかな」
 エアリィはほんのかすかに、肩をすくめてみせた。
「なんか、すべてのことが、神様のテストだって、いう気がするんだ。いいことも……悪いこともさ。逆境は、神様が与えた試練だって、それは良く言われるけど……幸福もね。有頂天になって、それで悪影響が、出ちゃったら、バツって」
 そして一息入れてから、また言葉を継ぐ。
「バンドが大成功、したってことも、直接的には知らない、大勢の人に……好かれたり、憎まれたりすることも……時々、不思議な気もするけど、やっぱりそれも、テストなんだって、思えるんだ」
「神様のテスト、か。やっぱりおまえ、僕なんかより、よっぽど信心深いよ。義兄さんに聞かせてやりたいな。おまえを誤解している聖職者たちにもな」
「彼らに言わせると、やっぱ、僕なんかは、異端なんじゃない? だって彼ら……その信じる神が、イエス・キリストじゃなくちゃ、ならない、わけだし、聖書の教義や福音を信じなきゃ……いけないわけじゃない。そういう人たちに、『おまえの信じる神は、なんだ?』って聞かれたら……僕は、『少なくとも、イエス・キリストじゃないし、ヤハヴェでもない。いや、たぶん、その後ろに立つ……より大きなものだ』としか、答えようがないからさ」
「それはなあ。たしかに、まずいかもな」
 僕も苦笑した。
「それにしても、すごい手紙の量だな。いくら驚異的な速読ができると言っても、これだけ読むのには結構かかるだろう。おまえ、いちいち読んでるのか?」
「うん。ロブやモートンが、毎日ここに、持ち込んでくる分だけは。なんかぱっと見……あれ、これもう読んだっけ? って思うような、デジャヴな内容、多いけど。でもみんな、すごく真剣なのは……伝わってくるから。来週パソコン、もって来てもらって、公式も、チェックするつもりなんだ。なんかあの『祈りの本』……あれを下げて、更新しようって、思って。あれ自体は……凄い件数になってて、全部読もうとは、思わないけど」
「ああ、『Prayer Book』な。凄いことになっていたんだよな」
 僕は苦笑した。
「みんなの祈りが届いたんだと思うよ。おまえがあの時、死なないですんだのは」
「うん。それ……感じてた。みんなの、声も聞こえて、くるんだけど、他にも……真っ白の世界に、たくさんシャボン玉が飛んでくる、イメージだった。昏睡してた時。その中から、『がんばって』『負けないで』……『戻ってきて』『生きて』って……小さな声が、たくさん聞こえたんだ」
「そうなのか……」僕は不思議な気分になりながら、頷く。
「たまには『死ね』とか、『地獄へ落ちろ』とかも……来るけどね。イメージ的には、黒い針。それが、シャボン玉を壊すんだけど、シャボン玉のほうが、圧倒的に、数が多いから、針にくっついて、取り込む感じ。なんか……管理者さんの話だと、たまに、そういう書き込みも、混ざってきたらしいね。見つけ次第……削除して、アカウント停止、してたって、言ってたけど」
「ひどいな。祈りに呪いを混ぜるなんて」
「仕方ないよ。まだ地球は……闇が、多いから。手紙だって、こんなのも来るんだ。こっちは……ホント、あまり読みたくないけど」
 エアリィは脇においてあった便箋の束を差し出した。あまり分厚くはないが、中に書かれているのは辛らつな言葉。罵倒と言ってもいい。
【しぶとすぎるだろう、もう一回死ね、男女め!】
【再起不能おめでとう。余生をのんびり過ごしてくれよ】
【もう戻ってくるな! ○×■……】
 いや、これ以上は、言葉にはとても書けない。人間として、よくもこんなことを平然と書けるものだと、憤慨するしかない。
「こういう手紙って、普通はマネージメント側で握りつぶすものだろ? なんでおまえのところに届けるんだ?」
「本当は、手紙は開封しないで、選別もしないで、そのまま渡してくれって……最初は、頼んだんだ。良いことだけしか、知らないって言うのも……片手落ちな気がして。でも、それはダメだって、言うから……封筒に剃刀とか、粉とか、変なものも、入ってることが、あるらしくて……じゃ、とりあえず、悪いものも、渡して、中身だけでもって」
「それにしても、わざわざアンチに触ることはないだろう。傷つくだけだぞ」
「うん。でも、万人に好かれるってのは、まずありえないわけだから……多少敵を作ってしまうのは、仕方ないかな、とは思うんだよ。それに、アンチには触らない方が、精神衛生的には、いいけど……無視してばっかじゃ、いけないのかもって、思うんだ…………僕のことを自分以上に、心配してくれる人もいるし、殺したいほど……憎んでる人もいる。これだけは、ちゃんと認識しておこうと、思ったんだ。でも、なぜだろう、僕はその人たちのことを、何も知らないのに………………向こうだって、僕のことを直接的には、知らないはずなのにって、ちょっと不思議な気が、するけどね」
「うん。たしかにそれはそうだな。今だって、おまえのことを心配して、あれだけの人たちが病院に来ているんだ。あれから一ヶ月以上たっているのにな」
「ああ。心配してくれるのは、ありがたいと思うよ。自分の人生まで……僕なんかにゆだねないでって、言いたくなるような手紙も、けっこう来るけど。でも……やっぱり感謝してるよ。ジャスティンも、知ってると、思うけど……『ア・リトルグレイス基金』のこと」
「えっ?」
 十日近くマネージメントとは完全に没交渉になっている僕は、そう言われてもわからない。
「知らない? あれ? ロブが言ってたから、おまえも知ってるかと、思った」
「なんなんだ、それって?」
「僕が個人的に、援助してた、子供たちの施設が……ほら、あまり秘密にする、必要はないって、春くらいに公にしてから、一般の寄付が、集まり出してたんだけど、それが十一月から…………ものすごい勢いで、増え始めたらしいんだ。トータル、えらい金額になりそうなんで、基金として、法人化しておこうって、マネージメントサイドから、申し入れがあってさ……一週間くらい前に、発足したんだ。その急に、募金が増えた理由ってのが、僕のために、その意思を継ぎたいって………………そう言うらしいんだ。なぜそこまでって、ちょっと戸惑うことも、確かなんだけど。でも、それだけ寄付が集まれば、子供たちの、ためにはなるから、少なくとも、僕がしてきたことは、無駄じゃなかったって…………わかってくれようとする人が、多くいれば、草の根レベルでの意識も、少しずつ変わっていくかもって……そう思えてきたんだ」
「おまえは今に世界を変えるかもしれないって、昔ローレンスさんが言っていたよ」
 僕は頷いた。「だからこそ、反作用も強烈なんだろうけどな。ニコレットも言っていたよ。おまえは神様だって。自分の人生を変え、指針を与えてくれる教祖さまだともね」
 うっかりその名前が出てしまった。あっと思ったが、もう遅い。エアリィはちょっと怪訝そうな顔になり、やっぱり問い返してきた。
「誰、ニコレットさんって?」
 思わず顔が赤らむのを落ちつけようと、僕はコーラを一息に飲み干した。
「これから説明するよ、エアリィ。実はおまえの意見も聞いてみたかったんだが、なかなか言い出すきっかけがなかったんだ。ちょっと勇気もいるしね。もっともおまえに恋愛だの、人間関係のもつれは、わかるかなあ、という危惧はあるが」
「うーん、まあ、僕も、そういうのは、あまり得意じゃ、ないけど……そういう類の、話?」
「ああ。まあ、そうなんだ。おまえは最初に、僕がトロントからまた来たのかって聞いたよな。でも、違うんだ。僕はあのままずっとロンドンにいたんだ。僕はちょっとファンの子の一人と、その……いろいろあって。彼女の名前がニコレット・リースっていうんだ」
 僕はすべてを話した。妻との不仲、現在の家庭状況、以前会ったことのあるニコレットと再会して、彼女に逃避してしまったことを。
「へえ。じゃあ今、ジャスティンは……そのニコレットさんっていう、ファンの子の、ところにいるんだ」
 エアリィは驚いたような表情で微かに首を振り、そして聞いてきた。
「で、いつ、トロントに帰るの? それとも、もう帰らない?」
「帰るよ!」僕は思わず即答した。
「いつ?」
「それがわかれば、苦労しないよ」
「なんでさ」
 本当に不思議そうにそう問いかけられて、僕は苦笑せずにはいられなかった。やっぱり恋愛にほとんど無関心なエアリィに、もつれた恋愛問題など相談してもわからないのだろうな、と。しかしここまで来て『もういい』というのも中途半端だ。
「おまえさ、僕の状況を本当に理解しているか? ステラとは去年の事件以来ギクシャクして、冷戦状態にあるけれど、僕はできれば彼女と仲直りして、もう一度やり直したいんだ。でもつい正面から向き合うのが怖くて、ファンの子に逃げてしまった」
「うん。それはまあ、わかったよ、なんとなく。でも……正面から、向き合わなきゃ、ちゃんと解決しないと、思うけど。奥さんとの仲は」
「それはわかってるよ」僕は苦笑をかみ殺し、頷いた。
「僕が意気地なしだったんだ。それは認める。だから間に合ううちに、帰りたいんだ」
「じゃ、早く、帰ればいいのに」
「だ、か、ら、ニコレットのことも放っておけないだろ」
「うん。まあ……そうだね。でもその子は、ジャスティンに、奥さんいること……知ってるんだよね? ファンなら」
「ああ。知ってはいるよ」
「じゃ、それは、彼女の責任でも……あるんじゃない?」
「おまえにかかると、本当に身も蓋もないな」
 僕は苦笑を抑え切れなかった。
「でも彼女の責任以上に、僕に非があると思うんだ。僕は自分の現実逃避に、彼女を利用してしまった。僕は彼女に対しても、責任があるんだ」
「それなら、無理して別れなくても……いいと思うけど。その子に、奥さんと話し合ってくるって、言って、一回帰れば。その子も……奥さんの存在、知ってるんだし」
「で、また戻ってくるって? いや、それはないだろ? 本当に二股もいいところだ。それでステラと仲直りなんて、どんな顔をして出来るっていうんだよ。それにニコレットを愛人にしておくなんて、そんな非人道的なことは出来ないよ」
「それって、非人道的? なんで?」
「おまえなぁ……やっぱりおまえに恋愛問題なんて、相談するんじゃなかったよ。本当に恋愛オンチなんだからな。アデレードさんが気の毒だ」
「恋愛オンチって、ひどいな……って、笑わせないで、痛いから」
「ごめん」僕も思わず笑った。
「でもなあ、真面目に言うなら、不誠実だと思うんだ。結婚していながら、他の女性と関係するのは。それにその相手にも、責任を取れない。女性をどっちつかずの状態に放っておくのは良くないと思うんだ。おまえのお母さんだって、リードさんとは事実婚だったから、いろいろ苦労したわけだろ? アデレードさんだってさ」
「まあね。でも……アデルも?」
「ああ、彼女、かわいそうだったんだぞ。おまえは知らないだろうが、おまえが死にそうになって、彼女は必死にトロントから駆けつけてきたのに、病院側じゃ最初、彼女が正式な妻じゃないってことで、なかなか付き添いはおろか面会も許可しなかったんだよ。それで、さんざん泣いてたんだ」
「ええ、本当?」
 彼は意外そうな顔で、一瞬考えているような表情を見せたが、再び小さく首を振った。
「けど、まあ、それは、後で考えるよ。今は……ジャスティンの話、だから」
「まあ、そうだな」
「んー、なら、そのニコレットさんとは……別れたらいいと、思うけどなあ」
「ずいぶん簡単に言うな。でも、そうもいかないんだよ」
「どうして? 彼女に、子供が出来た、とか?」
「ち、違うよ!」僕は大慌てで否定した。
「ああ、まあ、九日じゃ……わからないか」
「そうだろうが、そんなことには、なっていないよ。これからだって、ないと思う」
「ホントに、大丈夫? お祖父さんなんて、結構何人も、隠し子がいたらしいけど……母さん以外に三人とか、そんな話があるんだ。誰かは、知らないけど。おまえも……本当に大丈夫って……絶対言える?」
「大丈夫だよ!」
 僕は少し赤くなりながらも、強く請け負った。そう、それはありえない。ちゃんと避妊したはずだし、彼女は三日前から生理中なのだから。とはいえ、それを口に出すのは憚られる。僕は頭を振った。
「アリステアさんはどうか知らないけれど、僕はそんなことにはならないさ。ちゃんと気をつけてきたよ」
「そう。だったら、べつに問題、ないと思うけど」
「そう簡単に言わないでくれよ。僕のやったことは、簡単にバイバイですませられることじゃないんだよ。それにステラにだって、謝ってすむ問題でもないし」
「うーん、でも結構、ありそうな気がする。『僕が、悪かったよ!』…………『いいえ、わたしが、悪かったのよ!』なんて、感動のシーンで、抱き合って……ハッピーエンドって、ジャスティンたちなら、すごくやりそう」
「そう簡単にいけば、僕も苦労しないよ!」
 僕は思わず吹き出しながらも、頭を振って抗議した。
「それにニコレットのことにしても、考えなきゃならないんだ。どうしたらいいか」
「……その子に対して、何をそう、迷ってるのか、僕には……わかりづらいんだけど」
「おまえ、もう一回説明しなきゃだめか?」
「いや、状況は、わかってるけど。だから……わからないんだし。ジャスティンは、その子のことは、本心では……どう思ってるわけ?」
「ニコレットのことは好きだよ。たしかに。でも、永久的なパートナーにはなれないと思う。彼女は僕に幻想を見過ぎるし、僕もなんだか我が家にいるほどには落ち着けないんだ。でも彼女と別れて家に帰ると言うことは、彼女を傷つけてしまうから、それでためらっているんだ。僕はとんでもなく人でなしなことをしてしまった。一人の純真な女の子を弄んだ。そしてぽいっと捨てるなんて、とてもできないよ」
「それは……捨て方次第だと、思うな」
 エアリィは少し間を置いて、そう言った。
「アデルの元彼氏みたいに……もうおまえには、用はない、なんて……ひどい捨て方しなきゃ、大丈夫じゃない?」
「そんな捨て方したのか? アデレードさんの、元の彼氏」
「らしいよ。僕は、直接は知らないけど。テレビ俳優で、アデルはそいつと、二年付き合って……最初の子供を、泣く泣く堕ろして。彼女、子供できやすい体質、みたいで……それからずっと、付き合ってる間は、用心してピル飲んでた、言ってたけど。そいつのために……お偉いさんやスポンサーと、関係させられて……それでも、その人のためなら、って……尽くしたのに、最後はポイ捨てだって。テレビ局の重役の……娘と結婚して。男、見る目ないなぁ、って言ったら、すごく怒ったけどね、彼女」
「なんというか……しかし、ひどい話だな」
 僕は思わず首を振った。アデレードがなぜ下世話なファンたちに『誰とでも寝る女』と言われ、あば○れと呼ばれていたのか、今までわからなかったが、今は少し納得できた。きっと彼女のその行為が、変形した形で、どこからか漏れたのだろう。インターネットの海の中で。彼女は愛する人のために精一杯尽くしたのだろうが、少しベクトルが違う。というか、そんなことを女性に強要する男は、たしかにクズだ。そこまでして愛する価値などない。男を見る目がなかった、というのは、間違ってはいないのだろう。同時にそんな話を、あっけらかんと僕に言ってしまうエアリィにも、きっと性的タブーとかそういう意識がないのだろうな、と思う。まあ、こういう奴なのはわかってはいたが。
「でも、ジャスティンなら、そんな別れ方、しないと思うし」
 エアリィはそう言葉を続け、僕は即座に首を振った。
「あたりまえさ!」と。
「なら、いいんじゃないの……あ、ちょっと、待って」
 少し話が長すぎたのだろうか。途中でも時々マスクを当てて一息ついていたが、今回は少し長めに沈黙し、肩で息をしている。やっぱり、まだまだ回復には、ほど遠いのだろう。あれだけの傷を負って、まだ一ヶ月ちょっとしかたっていないのだから。この時期に彼に相談を持ちかけるなんて、いくら切羽詰っていたとはいえ、配慮が足りなかったなと悔やんだが、もう遅い。
 エアリィはマスクを戻すと、再び小さく頭を振り、言葉を続けた。
「ごめん……でも、やっぱり僕には、わからないかも。なんで、傷つけるのを、そこまで怖がるのか。ってかどの道、結局誰かを、傷つけないと、解決……しないんじゃない? どっちに、ころんでも。それに、治らない傷なんて、たぶんないし、傷をできるだけ小さく、っていうのは可能だし。どっちもキープが、できないなら……どっちか切るしか、ないわけだし。友達に戻るってのも、なしなら」
「そうなんだろうな……」
 僕はしばらく考え込み、頷いた。
「このままではいけない。それは確かなんだ。僕が動かなければ、何も解決しない。ステラとはちゃんと話し合わないと、根本的な解決は出来ない。たとえ彼女に拒絶されても。そうだ。もし彼女に拒絶されて、最悪の結果になったとしても、僕はニコレットと結婚はできない。そういう感情ではないし。それなら、いつまでもニコレットのところにいることは、僕のためにも彼女のためにも、良くないんだ。本当に彼女のためを思うなら、僕は彼女の元から立ち去らなければ。これ以上傷を大きくしないうちに。ニコレットには誠意を尽くして、わかってもらうしかない。僕の帰るところは、ステラのもとしかないんだ。彼女とも話し合って、誤解を解いて感情のもつれをほぐして……」
「良かったね、結論が出て」
「ああ、ありがとう。まあ、おまえは本当に恋愛オンチなんだなって痛感はしたが、単純な真実を教えてくれたよ。僕に足りないものは、勇気なんだって」
「いや、そんなこと、言った覚え、ないけど?」
「間接的にな。このままずるずる行くのは最悪だ。ニコレットと別れる勇気、ステラと話し合う勇気。それが必要なんだって、わかったから」
 僕は大きく息をついた。やっと、心の迷路から抜ける指標を見つけたような気がした。

 ドアをノックする音がした。入ってきたのはロブだ。ここに来た以上、スタッフと鉢合わせする危険性があることは、わかっているべきだったが(実際、のっけからジャクソンと鉢合わせしたし)、さすがに突然ロブの姿を見た時、僕は少々あわてた。悪戯をして逃げ回っていた子供が親に見つかった時のような、ばつの悪さだ。でも今さら逃げたり隠れるわけにもいかないし、僕ももう帰ることを決心したあとだ。お説教は仕方がない。
「やあ、ロブ……久しぶり。心配かけてごめん」
 僕は苦笑しながら彼に挨拶をしたが、その時のロブの顔といったらなかった。口をあんぐりと開け、まるで幽霊でも見るように、しばらく黙って僕を眺めている。頭の天辺から爪先までたっぷり一分ほど見つめたあと、やっとつまったような声で口を開いた。
「ジャスティン! 本当におまえなのか!?」
「あ……ああ。本当に迷惑をかけてごめん、ロブ」
 彼もやっと言語能力を回復したようだ。そのとたん、叱責が飛んできた。
「ごめんですむか! まったく、おまえという奴は! 連絡先も言わずに消えるなんて。しかも携帯の電源をずっと切ったまま行方をくらまして、もう十日近くになるんだ。こっちはどれだけ気を揉んだか。今の状況は、普通じゃないんだぞ! おまえにまで災難が及んだらと、毎日気が気じゃなかったよ」
「本当にごめん。僕はどうかしてたんだ」
「だがまあ、無事でなによりだ。さっきドアのところにいたジャクソンが『今、興味深い見舞い客が来てますよ』と言っていたから、誰かと思っていたが、まさかおまえだったとはな。これほど、ほっとしたことはないぞ。みんな心配していたんだ。一週間前から例の探偵がおまえを探そうとしていたが、かなり手こずっていたところだった。なにしろ手がかりが、ホッブスが言っていた『雨の中で絵を描いている女の子のところへ行くと言っていました。オレンジのレインコートをすっぽり着ていたので、顔はあまりよく覚えていません。名前は、言っていたんですが聞き損ないました。もしかしたらケイトだったかもしれません。アパートで、一部屋空いているから来ないかと言っていました。覚えているのは、それだけです』しかなかったからな」
 公園でニコレットと出会った時、ホッブスは僕らから少し離れたところにいたから、細かい会話までは、おそらく聞いていなかったのだろう。特に最初の部分は。僕が彼女をホテルの部屋に誘ったあたりから注意して聞いていた感じだから、その前に呼びかけた彼女の名前は、彼にはほとんど聞きとれなかったわけか。それで、間違えた名前を告げた――もともと情報がろくにない上にそれでは、凄腕探偵といえど、なかなか探せなくて当然だ。おまけに僕は彼女のところにいる間、今日ここに来るまで、外出もしなかったのだから。
 ロブは安堵の表情で僕を見、そして付け加えた。
「ホッブスは、ずいぶんしょげていたぞ。まさか、おまえが嘘を言うとは思わなかったと。信じてしまった自分が甘かった。おまえに逃げられたのは自分の責任だから、やめるなんて言っていたくらいだ」
「え? それは知らなかった。悪いことをしたな。向こうへ帰ったら、彼には謝るよ。やめるなんて、思い止まってくれと頼まなければ」
 マイク・ホッブスには本当に悪いことをしたと、その時初めて、心からそう思えた。邪魔にして、だまして逃げてしまって。彼はきっと傷ついただろう。セキュリティたちは僕らを守るために、いつも身体を張ってくれているというのに。
「そうだな、休み中に一回会って、話してやってくれ。彼も責任感が強いし、それにおまえに信頼してもらえなかったことを、悲しんでいるんだ」
 ロブはぽんと僕の肩を叩いた。
「ロビンもミックもジョージも、たびたびおまえが見つかったかって、連絡してきていたし、本当に気掛かりな九日間だったよ」
「でも、ロブ。どうしてジャスティンが、そんな長いこと、行方不明だって……僕には、教えてくれなかったのさ。もし途中でジャスティンに、帰られてたら、僕は知らないから……普通に帰しちゃう、とこだったよ」
 エアリィが苦笑いに近い表情で、抗議している。
「おまえには、よけいな心配をかけさせたくなかったんだよ。回復に専念してもらわないと、困るからな。それに大丈夫だ。ジャクソンがずっと、ドアの外にいたようだから。僕が来て、今買い物に行ったぞ」
 ロブは笑みを浮かべて、宥めるように答えていた。
「ああ、じゃ、買い物行くって、言ったのって、違うんだ。そうか……うん。まあ、それは、ありがたいんだけど……僕だけ蚊帳の外って、なんかやだな」
「すまん、すまん。しかし本当に、ここでジャスティンに会えたのは、なによりだったな。良かったよ」
「みんながそんなに僕のことを気にかけてくれていたのに、本当にごめん。謝るよ。もう絶対、こんなことはしないから」
 僕はそれだけしか言葉がなかった。
「当然だ。二度もやられたら、こっちの神経がもたないぞ!」
 ロブは即座に声を上げた。
「そうそう、おまえの奥さんからも、何度か問い合わせがあったぞ。おまえのことをずいぶん心配しているらしい。『まだ、帰ってきてないんですか? 行き先はわかりませんか?』と。さすがにこっちも、女の子と一緒らしいとは言えなくて、何もわからないとしか、答えられなかったよ」
「ステラが……?」
 妻が――僕を心配して問い合わせてくれた? ロードが終わっても家に帰ってこなかった彼女が。ステラは心を和らげて、僕との和解に応じようとしてくれているのだろうか? 彼女は今も僕を愛してくれているのだろうか? 
「あ、そういえば、アデルも、言ってたっけ。ステラさんが、うちに来て……いろいろ、話したって」
 エアリィがそこで、思い出したように言葉を挟んだ。
「えっ? おまえのうちにステラが?」
「うん。そう言ってた……彼女に、すごくお世話になった。帰ったら、お礼、言わなきゃって。それで、ステラさん……家に帰るって、言ってたらしいよ」
「ええ! そういうことは、もっと早く言ってくれよ!!」
「だって僕は……事情、知らないから。家に帰るって、それ、普通だよねって、思って。アデルもあまり、細かい話は、しなかったし……ああ、そっか……さっきジャスティンが言ってた話……ああ、納得した。そういうこと、だったんだ」
「遅いぞ、納得するのが。おまえ頭の回転は速いんだろうが!」
 僕は苦笑した。
 でもステラは本当に、家へ帰っているのだろうか。どういう状況で、どういう文脈での発言だったのか、それだけでは良くわからない。家とは、実家のことかもしれないし。
 すべての疑問の答えは、まもなく出るだろう。明日、トロントへ帰った時に。その前に、苦しい仕事が残っている。ニコレットに僕が明日帰ることを伝えなければならない。気の進まない仕事だが、どうしてもやらなければ。その方が絶対に彼女のためだ。彼女の最善を願って、苦しい一歩を踏み出そう。

 ニコレットは夕方遅くになって帰ってきた。それを待って、僕は提案した。
「今日は外で食事をしようよ。君は疲れているだろうし、僕もいい気分転換になるから」
「え?」彼女は驚いたようだった。
「外に出ても、いいんですか?」
「大丈夫だよ。今日も外出してきたしね。『Eureka』をロンドンでミックスダウンしていた時に、よく食事に行っていたレストランがあるんだ。良い雰囲気の店だし、イギリスにしては食べ物もおいしい、なんて言ったら、イギリス人の君には失礼だね。でも本当に良い店なんだ。そこへ行こう」
「ええ……」
 僕たちはその店へタクシーで行き、ディナーをとって、夜遅くに帰ってきた。
「本当に、いいお店でしたね。お料理もおいしかったし、とても楽しかったです」
 ニコレットは目を輝かせていた。
「あなたと一緒に外でお食事をするなんて、なんだか夢でもみているみたいでした」
「僕はせめてお礼がしたかったんだ、ニコレット……」
 僕はためらったあと、思い切って言葉をついだ。
「いろいろ今までありがとう。僕は明日帰るよ」
「え?」
 彼女はぽかんとしたように、目を見張った。僕の言葉の意味がわからなかったように、驚きの表情でじっと見つめている。その眼差しは、百の言葉で責められているよりつらかった。僕は思わず床に膝を付き、彼女の手を握りしめた。
「ごめんね。君には本当にすまなかった。君に対してひどいことをしたね。僕に償えることなら、どんなことでもするよ。本当にごめん」
「謝らないでください、ジャスティンさん。立って……」
 彼女は呟くように言った。その瞳から涙があふれて、頬を濡らしている。
「わかってました。いつかこの日が来ることは。ただ、あんまり突然だったから、ちょっとびっくりしたの」
 ニコレットは涙を拭い、顔をあげた。
「わたし、あなたに感謝しているんですよ。おかげでとても楽しい夢が見られました。そうよね。夢は、いつか醒める時が来るのよね。今がその時なのね。わたしも実は、思い始めていたの。こんなことは、いつまでもは続かないって。あなたはいつか、自分の世界へ戻っていってしまう。そうしたらわたしも……現実に戻るのだろうって」
「そう。君は君の生活に戻って、いつか、本物のすてきな恋人を見つけてほしい。僕みたいな奴じゃなく、君を幸せにしてくれる、本物の男をね」
「ええ。明日からわたしも、現実に戻るのね。そうね。その方がわたしにはふさわしい。あの晩あなたと話していて、気がついたの。わたしは有頂天になって、夢と現実を一緒にしてしまっていたのかもって。あなたは夢の人だった。とうてい、一緒にはなれない……わたし、はっきりそう思ったんです。AirLaceというバンドのファンは、これからも死ぬまでずっと続けるつもりですが、あなたとのことは、夢で終わらせた方がいい。この夢がいつまで続くかわからないけれど、と。でも覚悟はしていたけれど、こんなに急だとは思わなかったから、心の準備がまだ足りなかったのね。ごめんなさい、泣いたりして……」
「そんなことはないよ。悪いのは僕の方さ。君に泣かれるのは、つらいよ。許しておくれ」
 僕はニコレットの手を強く握った。その手は小刻みに震えている。秘められたその悲しみに、僕は胸をかきむしられた。
「君には迷惑をかけたね。この償いはきっとするよ。どうしたらいい?」
「ありがとう。でもわたし、あなたに償いなんて、してもらいたくありません」
 ニコレットは首を振った。優しくもきっぱりとした口調だった。
「わたしは何も失っていないわ。それに今なら、夢も失わずにすむんですもの。本当に楽しい夢が見られたから。だから、あなたにそんなことしていただく理由はないのよ。でも、そう……二人の生活の記念に、どうしてもあなたがわたしに何かくれたいっておっしゃるなら、一つだけください」
「いいよ。何でもあげる。何がほしいの?」
「来年、キャンセルになった最終公演の、振替をするんですよね。そのチケットを二枚ください」
 彼女は涙の中から気丈に微笑もうと努めているような表情で、僕を見上げた。
「ここにチケットだけ送ってください。住所は後で書いておきますから。それまで、引越しはしないでおきます。バックステージパスはいりません。わたしは昔どおりの一ファンに戻って、ステージの上のあなたがたを見ています。個人的には、もう会いにはいきません。その時までに、本当の恋人を、さもなければ友達を連れていきますから」
「わかった。絶対に送るよ」
 僕はニコレットの手を両手で握った。
「本当にありがとう、今まで」
「わたしこそ……」
 彼女はささやくような声を出した。
「わたしのような女の子に夢を見させてくれて、本当にありがとうございました。あなたのことは一生忘れません……」
 彼女の眼から、再び涙があふれだした。二つの透明な細い流れが頬を伝い、ぽたぽたと落ちていく。その静かな涙は、鋭い錐のように僕の心に食い入った。

 その夜、ニコレットの家で眠った最後の晩、僕は鮮やかな夢を見た。
 僕は洋服をつけたまま、海を泳いでいた。空は漆黒、そして真っ白。交互に、ゆっくり変わっていく。水は体温と同じような温さで、さらさらしている。やがて下へひっぱる力に捕らえられて、水の中に潜っていった。
 水の中なのに、まったく苦しさは感じなかった。あたりは一面、透明な青い世界だ。なんと形容したらいいだろう。濃いマリンブルー。青の中の蒼。ガラスのような透明感。どこまで行っても底がなく、水面も、もう見えない。
 僕は下へ行くのをやめて、歩き出した。ふわりとした浮遊感。見渡すかぎり透明な、青い世界。その先に、かすかな光が見えた。銀色の光の中に無心に遊んでいる、多くの幼子たちの姿が見える。彼らはみんな裸で、天使のように無邪気で楽しげで、それでいて少し寂しげな感じをも受けた。この光景は――『生まれなかった子供たちの国』だ。
 去年の秋、エアリィがこの世界で、アデレードと二人、彼女の最初の子供(彼女が以前付き合っていた恋人との子供だ)に会ってきた夢を見たらしい。不思議なことに、アデレードの方もまったく同じ夢を見て、泣きながら目を覚ましたのだと言う。それにインスピレーションを得てエアリィが作った曲が『The Abyss in Blue』だ。これは彼がオフに仕上げてきた三曲のうちの一つだが、レコーディングの時、この同じイメージが想起されてきた。切なく悲しく、天使のように無垢な世界を。そして、思わず涙したものだ。この曲の主題は、『命』。ひとつの命の重み、命を担うことの意味、生きていることの大切さ――それを考えさせられる。
 その世界が今、僕の回りにある。僕はそこを訪れている。そう気がついた時、少し畏怖に近い怖さを感じた。でももしこれが、かの子供たちの国ならば、この世界の中に会いたい子が一人いる――。
 その思いに答えるかのように、子供たちの一人が、僕の方を振り向いた。僕と同じような色合いの、金褐色の巻き毛の赤ん坊。その目の形は僕に似て、でも色は青い。ステラの目のように。その子は小さな手で、僕を呼ぶようなしぐさをしている。赤ん坊の方へゆっくり近付いていくと、その子もこっちへ向かってきた。いや、歩いているのではない。ふわふわと浮遊している。目鼻立ちのはっきりした、かわいい男の子だ。
 赤ん坊は僕の膝に小さな手をかけ、僕を見上げて、嬉しそうににっこりと笑った。声にならない無邪気な響きが、頭の中に聞こえてくる。
(パパ――)
 思わず、あっと打たれた。この子は僕たちの幻の子供だ。無事に生まれていたら、今ごろ五ヵ月か六ヵ月くらいの――そう、ちょうどこのくらいの――この世界で会いたかった、幻のわが子だ。胸がつまった。思わず涙が流れ、赤ん坊をぎゅっと抱き締めた。
「おまえ、こんなところにいたのか!」
 僕は夢中で叫んでいた。
「ごめんな。ごめんな! ちゃんと産んでやれなくて! 淋しくないか、ここは?」
(ううん。さみしくないよ。お友達がたくさんいるし。それにね、ぼくはまた生まれてくるよ。またパパの息子になって)
 子供の声にならない声が響いてきた。
(ねえパパ、ママのところへ帰ってあげて。とっても悲しんでるみたい)
「わかった。わかったよ……」
 僕は泣きながら頷いた。
 赤ん坊はにっこりと笑うと、僕の腕から漂うように離れていった。
 風景がゆっくりと霞んでいく。蒼い世界はだんだんと色が薄れていき、ついには真っ白になった。

 雪の降り積もる夜の景色の中に、僕の家が見えた。壁を突き抜け、部屋の中の光景が展開する。ここは子供部屋だろうか。薄緑色のチェック地に『くまのプーさん』の模様がついたカーテン、白いキャビネットの上に置かれたクマと犬のぬいぐるみ。たくさんのミニカー。そう、やっぱりクリスの部屋だ。
 子供用寝台の傍らに、ステラがいた。子供用の小さな椅子ではなく、付き添って何かする時のために用意した、大人用のアームチェアに座っている。ステラの頬は青ざめ、眼の下には薄いクマができて、やつれて見えた。いつもはきれいに手入れしているブロンドの髪が珍しく乱れ、無造作に黒いゴムでひとつに束ねてある。丈の長いグレーのワンピースにも少ししわができ、白地に青い小花を散らし、細いレースをあしらったお気に入りのエプロンも、胸にしみがついたままになっている。
 ステラは編み物をしていた。浅黄色の毛糸で、クリスのセーターを編んでやっているようだ。編み針がかちかちとなる音と、外で舞っているらしい風の音が、かすかに聞こえる。彼女は手を休めた。何か考え込んでいるように、編みかけの小さなセーターを見つめている。その上に涙がひとしずく、ぽたりと落ちた。
 カーテンと同柄のカバーをかけた子供用寝台に、クリスが寝ていた。その小さな額に、熱さまし用の湿布が張ってある。ナイトテーブルの上には、薬のビンが置いてあった。息子は目を閉じて、眠っているように見える。
「風、泣いてるね、ママ」
 クリスはふと目をあけ、小さな声で言った。
「本当ね……」
 ステラは涙を飲み込み、頷いている。
「なにが、かなしいのかなぁ」
 クリスはしばらく風の声に耳を傾けているようだったが、再び小さな声で問いかけた。
「ねえ、ママ……」
「なあに、坊や?」
「パパ、もう帰ってこないの?」
「わからないわ……」
 ステラは首を振り、窓を見つめながら返事をしている。
「なぜ、パパとママ、ケンカしたの?」
「……ママがバカだったの」
 彼女はしばらく黙って窓を眺めていたが、やがてぽつりと答えた。
「でも、ごめんなさいって、謝れなかったの。それどころか、パパが謝ってくれたのに、それじゃ足りないって、思ってしまったの。それでパパをいじめすぎちゃったのよ」
「パパ、怒っちゃったの?」
「ええ、たぶんね……」
 ステラはため息と一緒に答えた。涙が瞳に溢れ、頬を濡らしていく。クリスはむくっとベッドの上に起きあがり、小さな腕で母親にかじりついた。
「ママ、泣かないで。ぼく、ずっとママといるよ」
「ありがとう、クリス」
 ステラは子供を抱き締め、その小さな背中を何度もいとおしむように撫でながら、涙にむせんでいた。
「ごめんね、泣いたりして。もう大丈夫よ。ああ、坊や……あなたがいてくれるんですもの。ママは淋しくないわ」
 胸の奥から咽喉の方へ、熱い固まりが突き上げてくるのを感じた。妻も息子も、まるで目の前にいるかのようだ。二人の姿は、改めて激しい後悔と自責の念を、僕に起こさせた。
「ステラ、ステラ!」
 僕は夢中で呼びかけていた。
「僕が悪かったよ! 僕は帰るよ、君とクリスのもとに! 僕はどうかしてたんだ。君を理解しようとせずに、自分のくだらない意地やプライドに、こだわりすぎていた。もとに戻れるなら、僕は百回だって頭を下げる。何だってするよ。許してくれ、ステラ、クリス! 本当にごめんよ!」
 ステラはふと頭を上げ、怪訝そうにまわりを見回した。まるで僕の声が聞こえたかのように耳を澄ませている。青白い頬に、ほのかな紅がのぼっていく。
「どうしたの、ママ?」
 クリスが母を見上げ、不思議そうにきいた。
「いいえ……なんだか、パパがすぐそばいるような、そんな気がしたの。声が聞こえたような……」
 彼女はふっと淋しそうな笑みをもらした。
「気のせいね、きっと。ママがパパのことばかり考えていたから、そんな気がしたのかもしれないわ」
「パパ、帰ってくるかな?」
 小さな息子は無邪気ににっこりした。
「ええ、そうだといいわね……」
 ステラは小さく頷き、そっとクリスの乱れた髪に手をやった。
「そうしたら、ママ、あやまれる?」
「ええ。もちろんよ」
 ステラは再び頷き、息子の額に手を当てた。
「少しお熱、下がったみたいね。良かったわ。もう一服お薬を飲んで、お眠りなさい」
「うん」
 クリスは母がついでくれたピンク色の液体を飲むと、もう一度横になった。
 ステラは子供を見守り、時おりそっと頭を撫でてやっている。クリスが完全に眠ってしまうと、彼女は再び編み物にかえった。天井から下がった灯りが金色の光を二人の上に注ぎ、部屋の隅ではスティームヒーターが、白い湯気を上げている。風はいつしか止んで、今は音もなく雪が降り積もっていく。部屋の中に聞こえるのは幼子の安らかな寝息と、大きな柱時計がこちこちと時を刻む音、そしてステラの手の下でかちかちと音をたてる、編み針の音だけだ。
 やがて風景はゆっくりと霞んでいき、我が家の幻も、眠りと一緒に消えていった。

 僕は目覚め、ベッドの上に起き上がった。スティームヒーターの音が、しゅーしゅーと聞こえている。窓の外はまだ薄暗いが、部屋の時計は、もう九時を回っていた。僕は起き上がり、服を着た。そして暖房装置を止め、ドアを開けてリビングルームに出た。
 どんよりとした、寒い、陰気な十二月の朝だった。居間には誰もいない。ニコレットは、すでに出勤してしまったようだ。いつも食事に使っているテーブルの上に、朝食がラップをかけて用意してあった。スクランブルエッグとソーセージ、スープ、パンと紅茶。その脇に、彼女の筆跡で書かれた手紙が、小さなシルバーの文鎮で止められて置いてある。僕は手にとって読んだ。

【親愛なるジャスティンさんへ
 もう仕事へ行く時間だから、出かけます。朝食は用意しておきましたから、レンジで温めて、めしあがってください。よく眠っていらっしゃったから、起こさないでおきました。面と向かって改めて別れを言われたら、また泣いてしまいそうなので、これで良かったのかも知れません。どうかお気をつけて、帰られますように。そして、どうか奥さまと仲良く暮らしてください。明け方、わたしはふと目が覚めて、あなたのお部屋を覗いた時、あなたは眠りながら奥さまのお名前を呼び、さかんに謝っていらっしゃいました。わたしはそれを聞いて、なぜか悲しい中にも、ほっとしたのです。やっぱりあなたは、わたしの思ったとおりの人だったと。
 これからも、すてきな音楽を聴かせてください。そしていつまでも、わたしの心の支えであり続けてください。あなたと暮らした十日間を、わたしは一生忘れません。まるで宝石のような思い出でした。ありがとうございました。さようなら。いつまでもお元気で、お幸せでいてください。
            愛をこめて、ニコレット・リースより】

 手紙の最後に、このアパートの住所が書いてあった。僕はその手紙を小さく折りたたみ、そっと財布のポケットにしまった。ステラに見つかるとまずいものではあるけれど、もう二度とこんな真似をして人を傷つけないように、心の護符にするつもりだった。彼女が用意してくれた朝食をレンジで温め、食べた。この家で食べる、最後の朝食だ。食べ終わると簡単に後片付けをし、自分の荷物をまとめた。部屋を出る前に、僕は手紙を書いた。

【親愛なるニコレットへ
 本当にこの十日間、お世話になりました。君に感謝するとともに、すまない気持ちでいっぱいです。君を悲しませてしまったことを、どんなに後悔しても、もう遅いのですね。お詫びの言葉もありません。どうか元気で、いつまでも無邪気なかわいい君でいてください。君は十分魅力的だから、きっと僕なんかよりずっとすてきな男性が、君に夢中になるでしょう。僕は現実ではなかったのだと、忘れてください。きっと幸せになってください。君の幸せを、僕はいつも願っています。ありがとう、そして、ごめんなさい。君のことは忘れません。
        あなたの友達 ジャスティン・ローリングスより
PS・振替公演のチケットは、忘れずに送ります。ぜひ本物のBFと来てください】

 僕は手紙を同じ文鎮で止めて、机の上に置いた。彼女は嫌がるだろうとは思ったが、昨日病院の帰りに銀行から下ろしてきた五千ポンドを封筒に入れ、手紙の下に入れておいた。手切れ金とか、そういうものではなく、十日間の生活費と、チケットが届くまでここを引っ越さないなら、その分余分な家賃がかかるだろうから、いくらかの足しにしてくれという、簡単なメモを添えて。それからニコレットが僕のために付けておいてくれたリビングの暖房装置を止め、彼女が帰ってきた時に再び部屋が暖まっているよう、タイマーをかけ直した。そして窓の鍵を確認してからカーテンを閉め、部屋を出た。ドアを閉めてスペアキーで鍵をかけ、封筒に入れて、注意深くポストに戻す。外廊下をゆっくりと歩きながら、ロブの携帯に連絡をし、階段を下りて、アパートの外へ出ていった。
 彼女はどんな思いで、この部屋に帰ってくるのだろう。ひとりぼっちの部屋で、失われた思い出のために、涙に暮れるのだろうか――。
(ごめんよ、ニコレット。君の人生に、僕は生身の人間として割り込んではいけなかったんだ。本当に、ごめん……)
 僕はしばらく灰色の建物を見つめたあと、背を向けて歩き出した。すぐにマネージメントが手配した車が来て、傍らに止まった。どうやら今朝からアパート近くの路上に止めて、僕を待っていたようだ。僕は車に乗り込み、途中からロブも合流して、お昼過ぎの飛行機で、ヒースロー空港から飛び立った。久しぶりの我が家へと。




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