流星電波観測(HRO)で計測をしているデータを眼視観測と同様に「ZHR」として表現することが可能となれば、活用範囲が広がり日々計測している意義も大きくなる。HROを「ZHR」として表現できる手法を試行しているので下記に報告をする。
現在、複数のHROデータを平均化する方法として「流星活動レベル」が確立している。それを「個数」に変換をして輻射点高度の補正をすることで、眼視観測のようにZHRとして扱うことができる。
散在流星は同じ時刻であれば、確率的に本来同じ数値となるはずである。しかし、実際にはHROの受信機の感度や音量の強弱などによって、個々に異なっているのが実状である。各個所の数値を同じにすることは難しく、たとえ同じにする手法が確立されても、日々変化している受信機の感度などを一定に維持していくことは、とても現実的とは言えないであろう。従って計測後の処理として、各個所で得たデータを“強制的”に同じ数値にすることで平均化が可能となる。
Fig−1は、2日間3個所の散在流星の変化である。それぞれの平均値は、「11」「33」「55」となっている。一見独立したグラフに思えるが、それぞれの平均値を「1」に変換すると一つに重なりFig−2のグラフとなる。Fig−3は、それに「31」を掛けることで「6.5等星まで見える空」に換算したこととなる。(詳細は後述)
HROの算出方法は、基本的には眼視観測と同様である。眼視観測での主要な手順は、
[散在流星の除去]⇒[6.5等級補正 (雲量補正と最微光星補正)]⇒[輻射点高度の補正]⇒[平均化]
でZHRを求めている。眼視観測での散在流星の除去は、観測中の肉眼によって選別している。それに相当するHROの手順としては、
[受信感度補正]⇒[6.5等級補正]⇒[散在流星の除去]⇒[輻射点高度の補正]⇒[平均化]
となる。最初に異なる受信感度を同じにして眼視観測の6.5等級相当に補正する手順とすることで、その後の処理を容易としている。
3.具体的な方法
(1) 受信感度補正
流星群の影響が少ない直近の10日間の観測データを平均して、各個所の「受信感度」の値(d1)を求める。観測データをd1で除算することで各個所の平均値が「1」となり、受信感度が同等となる。
(2) 6.5等級補正
1時間毎の観測データを下記の式に当てはめて「6.5等級」相当の値(HR6)を求める。
HR6=HR÷d1×d0 HR;ある時間の計測値 d0;基準値(6.5等級に近似)
Fig−4は、2010年のペルセウス座流星群の活動が始まる直近の12個所のHROデータである。4時付近のピーク時では受信感度の違いにより「10」から「35」までのバラつきがある。
Fig−5は、眼視観測の6.5等級相当に補正したものである。8月の散在流星は「60」程度となっている。
(3) 散在流星の除去
流星群の活動期間中の観測データについても散在流星の算出と同様な方法により6.5等級相当に変換するとFig−6のHR6となる。
HR6を「散在流星の値」(Fig−6のSpor)で除去して眼視観測のCHR相当の値を求める。
(4) 輻射点高度の補正
20度以上の輻射点高度を有効データとして下記の式に当てはめて補正をし、1時間毎の「推定ZHR」を算出する。(Fig−6のZHR_r)
ZHR_r=(HR6−Spor)÷sin(h) (h);輻射点高度
(5) 平均化
各地の観測データについて上記の(1)〜(4)項を適用して、それぞれのZHR_rを算出する。全部のZHR_rを合算・平均することで精度の向上が図れる。
(6) 24時間の観測網
海外のデータについても上記の(1)〜(4)項と同じ手順を実行し、平均化することで、24時間の連続した観測結果が得られる。Fig−7は、Fig−6と同じ期間を太陽黄経で表示し世界集計したものである。参考にIMO発表のZHRも表示してある。
(7) 活動状況の把握
輻射点高度が高い4時間程度のZHR_rを平均して1日毎のZHR_rとすると、ZHRの小さい初期から精度を上げて表現できる。これにより、活動の全体を把握することが可能となる。(Fig−8)
4.基準値d0
散在流星は、年間を通して一定とはなっていない。そのため、ZHR_rを算出するのに重要な基準値d0も変動している。1.項の「31」は、8月中旬における経験値である。当初、基準値が不明だったため、眼視観測の集計結果(内山茂男氏の提供資料)のZHRと近似させる方法で経験的に求めていた。
その後、複数の時期の基準値が得られ、その結果Fig−9の近似グラフを得た。(注1)
(1) 設備誤差の排除
HROの計測は機械的に実施しているにもかかわらず、時として異常に突出している場合がある。それが、3.(1)項「受信感度」の基礎データ内(10日間)に存在すると、値(d1)が増加し結果的に見かけ上ZHR_rが減少してしまうため、突出している値を除去している。
(2) 散在流星補正
3.(1)項「受信感度」の10日間は散在流星のみが理想的である。「ペルセウス座流星群」のように8月上旬では「みずがめ座流星群」や既に本体の流星群の活動が始まっていることがある。そのため、「受信感度」の基礎データ内(10日間)に流星群の値が混入することとなる。そのような場合は、3.(4)項「輻射点高度の補正」の時点で、その混入分を加算することで実際の値に近づけている。(注2)
(3) 輻射点高度の補正
南中時の輻射点高度が70度以上となる流星群では、輻射点の高度が低くなると過修正となるため、軽減して精度の向上を図る。(注3)
今まで各個所で観測をした単独のデータでは誤差が大きくなりっていたが、各データを合算して平均化することで、眼視観測に似た波形を得ることができた。眼視観測のZHRと重ね合わせることで、天候や月の影響で眼視観測が難しい時にも、ZHRを推測できるようになった。また、眼視観測が不可能な昼間流星群の全体像も明らかにできるようになった。
今後、細部の問題点に対して改良を重ねることで精度の向上を図り、小流星群の観測も可能としたい。検討しなければならない内容を下記に列挙する。
(1) 眼視観測値との違い
流星群の集計結果では、眼視観測の数値より明らかに多くなっている場合があり、一見異なったグラフとなるときがある。天頂効果による減少以外ではHROの方が多くなっている傾向がある。「ふたご座流星群」では、極大時間が毎年9時間程度早まっている。これは、内山茂男氏の研究発表による「ポインティング・ロバートソン効果」の影響と思われる。HROでは、肉眼が認知するより暗い流星を多く検出していると思われるが、詳細は不明である。
(2) 天頂効果の対応
輻射点高度が70度以上となると天頂効果が現れやすくなる。当初は機械的な補正を試みていた。しかし、「ふたご座流星群」のように南中時の輻射点高度が90度近くとなる流星群では、天頂効果が顕著となり全体の1〜2割まで低下するため、補正が難しくなっている。“補正率”などの手法を確立して、HROデータを有効に活用したい。
(3)海外のデータ
国内で使用している基準値d0を海外にも適用するとZHR_rが小さくなって、平均化するのが難しい場合がある。特に北米地域の集計で多いが原因は不明である。
(注1) Fig−9の集計結果のグラフは、延べ810ヶ月のHROデータを対象として、最も流星群の影響が少ない15〜19時台を5日間毎に合算・平均して1年間の総合的な流星の変化を求めている。6月の昼間流星群や12月の「ふたご座流星群」が混入しているが、年間の散在流星の全貌が把握できる。
(注2) 例えば、「ペルセウス座流星群」での加算は、14個程度と多くなっている。「しぶんぎ座流星群」での加算は、「0」である。
(注3) 最大輻射点高度が70度以上の流星群では、過去の集計データから下記の近似式を導いて過修正を補正している。3.(4)項「輻射点高度の補正」の式で補正係数nを輻射点高度(h)の指数として使うことでZHR_r求めている。
n=2.369−0.0209×(h) n;補正係数 (h);輻射点高度