ストレスと脳卒中の関係
最新疫学研究情報No.29
英国のケンブリッジ大学の研究チームによって、「ストレスにうまく適応することで、脳卒中のリスクを低減させることができる」との発表がなされました。
研究チームは、41~80歳の脳卒中を起こしたことのない男女20629人を対象に、ストレスへの適応能力と脳卒中の因果関係を追跡調査しました。被験者のSOC(※1)の回答と、成人期における詳細な生活体験の記録にもとづき分析が進められました。(*調査の期間中、452人の被験者が脳卒中を発症しています)
7年間の追跡調査の結果、SOCが高い人達は、低い人達に比べて、脳卒中のリスクが24%低下したことが明らかになりました(*性別による違いは確認されませんでした)。また、社会的逆境の発生・衝撃の程度と脳卒中の発生率との間には関連性はなく、不幸な出来事に対し、より早く適応できるかどうかが脳卒中発症の割合を低下させることが確認されました。この研究では、ストレスを上手に管理する人達は、健康的な生活(*運動が多く飲酒や喫煙の割合が少ない)を送る傾向があることも報告されています。
※1SOCは、“Sense of Coherence”(首尾一貫感覚)の略で、イスラエルの健康社会学者であるA・アントノフスキー博士によって提唱された健康保持能力(ストレス処理能力)の概念です。彼はユダヤ人強制収容所の生還者の健康状態を調査した結果、生還者のうち健康を取り戻した3割の人達は、共通して“首尾一貫感覚”を持っているという結論に至りました。
“首尾一貫感覚”とは、人生で生じるさまざまな出来事をある程度予測し、どんなに辛いことも自分にとって意味のあることと捉え、すべては自分の力で何とか切り抜けられるだろうと確信する感覚です。つまり、いかなる困難な状況においても積極的で前向きな心の姿勢を持ち続けることです。
ストレス処理能力の測定は、自分をとりまく生活環境についてのいくつかの質問に対し、どう感じているかを7段階で評価します。その合計点が高いほどストレスに対処する能力が高い(首尾一貫感覚が備わっている)と判定されます。
出典
- 『Stroke Vol.38 2007年』