食物繊維と乳ガンのリスクについて
最新疫学研究情報No.2
従来の研究では、食物繊維の摂取と乳ガンのリスクの関係が明らかではありませんでしたが、「イギリス女性を対象としたコホート研究(UKWCS)」によって、「閉経前の女性の食物繊維(特に穀類から)の摂取が、乳ガンのリスクを減少させる」ことが確認されました。
リーズ大学疫学・生物統計学センターの研究チームは、イギリスに住む35,000人以上(35~69歳)の女性を対象に、食習慣と健康との関係について7年間追跡調査しました。被験者を「閉経後の女性(約18,000人)」と「閉経前の女性(約16,000人)」に分けて、“217品目の食物摂取頻度調査票”のデータをもとに研究が進められました。(被験者のうち、350人の閉経後の女性と257人の閉経前の女性が乳ガンを発症しています)
その結果、閉経前の女性では、食物繊維を毎日30g摂取する人は、20g摂取する人に比べて乳ガンのリスクが半分に減少することが明らかになりました。(*対象者の食物繊維摂取量は平均26g/日と多く、最も多かったのが魚を摂取している人々で、29g/日でした)特に「穀類の食物繊維」の摂取が乳ガンのリスクを確実に減少させ、「果物の食物繊維」の摂取が乳ガンのリスクをわずかながら減少させることが示されました。また「葉酸を含む食事」は、食物繊維による乳ガンのリスクをさらに低下させることも確認されました。一方、閉経後の女性については、食物繊維と乳ガンリスクとの関連性は見られませんでした。
乳ガンを発症した閉経前の女性は、発症しなかった人々と比べ「タンパク質」(*被験者のうち7割が肉食でしたので、主に動物性タンパク質であると思われます)の摂取割合が高く、「炭水化物・砂糖・食物繊維・ビタミンCの摂取量」が少ないことが明らかになりました。
この研究を指揮したリーズ大学ジャネット・ケイド教授(Janet E.Cade)は、「(BMI値の高い閉経後の女性は乳ガンのリスクが上がることから)肥満は食物繊維の効果を減少させることになるかもしれない」と述べています。
※食物摂取頻度調査票(Food Frequency Questionnaire)は、特定の食品(または栄養素)と疾病の関係を明らかにするために、疫学調査でよく用いられている質問票です。研究テーマにもとづきリストアップされたさまざまな食品の摂取頻度や摂取量(目安量)を被験者に記入してもらい、その結果から、食事と疾病との関連を調査します。
※BMI(ボディ・マス・インデックス)は、体重と身長から算出した肥満度を表す指数です。体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で求められます。標準は22で、25以上は「過体重」に分類されています。
※このコホート研究では、他に「肉の摂取と乳ガンリスクとの関係」も調査しています。(British Journal of Cancer Vol.96. 2007年4月号にて発表)それによると閉経後の女性で、肉(牛肉・豚肉・羊肉などの赤肉)を毎日2オンス(約60g)以上摂取する人は、まったく摂取しない人に比べ、乳ガンのリスクが56%も高くなることが明らかになりました。(*特にベーコンやソーセージなどの加工肉を摂取する人は、乳ガンのリスクがさらに高くなることが確認されています)
出典
- 『International Journal of Epidemiology 2007年2月号』