1 出て行く
ジオルクのベッド。ジオルクがシーネラルの体に触れた。『一体、何回ヤれば気が済むんだ?』シーネラルはそう思いながら、目を閉じた。
「人間界へ行く。」
数回のことが済んだ後、いい加減疲れたので、シーネラルは言った。ジオルクの手が止まる。
「何?」
ベッドから飛び降りた。「シーネラル?」
「もう決めた。」
シーネラルは、バスルームへ向かう。ジオルクが追いかけてきた。腰に手を回されて、ぐいっと引かれたと同時に、頭を壁に押し付けられた。太ももまでの髪を無造作にかきわけられて、お尻を出された。ジオルクは、邪魔になる尻尾ごとシーネラルの体を押さえた。
こういう時に抵抗すると、酷くされるのは、体で覚えているので、シーネラルは動かなかった。
空を切る音がした後、平手がお尻に叩きつけられた。パンッ、パシッ、パシッ、ピシャッ…乾いた音が風呂場に響いた。かなり強いのであっという間に白い肌が赤くなっていく。10回ほど打たれた後、開放された。
「ちゃんと、答えろ。どういうつもりなんだ?」
「俺が決めた事だ。あんたに関係ない。」
ビシッ。腕を掴まれたと思った途端、頬を打たれた。
「鞭で打たれたいのか?」
答えないでいると、反対側の頬を打たれた。「シィー、膝の上に乗せないと、分からないのか?」
それまでジオルクを睨んでいたシーネラルが、諦めて口を開いた。
「もうあんたの側にいても得る物がない。俺にとって、妖魔界はつまらない場所なんだ。」
「解禁したからか?」
妖怪の中に、人間を食べるものがいる。しかし、人間界の科学が発達したことから、人間界では人間を襲えない決まりになっていた。得体の知れないものが、人間を食べると分かれば、人間達は躍起となってその存在を探し当てようとするだろう。今の人間界から、魔法界を隠しておきたい魔界の神に、それは不都合だからだ。
でも。
ある日、神が言った。
「人間が滅びない程度に、妖怪は好きにしていい。」
と。このままでは人間達が地球を滅ぼしてしまう。そうならないように、数を減らせと。
「それもある。でも、俺には人間を生きたまま食う趣味はない。」
「恐怖を感じると旨くなるぞ。」
「それは知ってる。」
シーネラルは言った。「でも、あれは後味が悪い。」
「…そうか。」
ジオルクには理解出来ないようだった。シーネラルはそんな彼をちょっとだけ軽蔑した顔で見た後、理由を言う。
「人間界で見聞を広めたい。」
「妖魔界全てを知り尽くしたつもりか?」
ジオルクが馬鹿にしたように言った。まだ若造の分際でという顔をしている。
「妖怪なんてどうでもいい。それに、ここにいれば、あんたに邪魔される。もう、あんたに振り回されるのは、真っ平だ。」
「でも、お前は俺にとって必要な…。」
ジオルクが言いかけるのをシーネラルは遮った。
「ザルトはまだいい。二者だからな。でも、俺は?ペットでいて、俺が喜んでいるとでも?」
「…分かった。好きにすればいい。」
ジオルクはため息をついた。「でも、たまにでいいから、顔を出してくれ。」
「それは保証する。でかい戦争でもあったら、知らせるさ。」
「有難う。」
ジオルクは、少しだけ寂しげに微笑んだ。「でも、もうでかい戦争はやれないさ。地球がなくなるから。」
「そうかもな。」
シーネラルは息を吐いた。
旅支度をしているシーネラルに、ザルトが声をかけてきた。
「本当に行くのか…?」
「ああ。」
「ジオルク様を置いていくなんて…。」
「いい加減、G至上主義は止めろ。どうせなら、俺がいない間に、自分が一番に返り咲いてやると言え。」
ザルトは顔をしかめた。
「お前、本当に冷たい奴だな。ジオルク様なんて、どうでもいいんだな。」
「当たり前だ。強姦された上に、玩具にされて、誰が喜ぶ?」
「…。」
「俺とお前とでは、Gと知り合った状況が違う。年上の癖に、そんなことも分からないのか?」
「お前が老成してるんだよ。」
「そうかもな。」
喋っている間に、荷造りを終えたシーネラルは、それだけ言うと、荷物の入った袋を肩に持ち上げた。
そうして彼は人間界へ来ることになったのだった…。