少女ザン番外2 シーネラルの過去

3 ジオルクのお仕置き

 久しぶりに食事をしたのに、やけくそで勢いよく食べたら吐きそうになったり、慌てたジオルクに撫でられて気持ち悪さが増したり、彼に見えない所でザルトに蹴られたりと、シーネラルは散々な時間を過ごした。

 食器洗いを命じられたシーネラルは、他二人の団員と供に川へ向かいながら、『どうやって逃げだそうか…。』と考えていた。

 近くの砂場で食器の汚れをこそぎ落とした後、仕上げに川で洗う。シーネラルが洗剤になる草を探していると、サボっていると勘違いした団員に睨まれた。

「シィー、仕事をきちんとするんだ。」

 それが新しい自分の名前だった。盗賊団は、本名で呼び合わない。ただし、ザルトだけは嫌がって本名で呼ばれている。ジオルクに散々お仕置きされたのに、あだ名で呼ばれるのを納得しなかったのだ。何故なのかは本人しか知らないそうだ。

 疲れ果てて喋るのも億劫なシーネラルはそれを無視し、辺りの草に触れた。

「草で遊んでいる場合じゃないだろ。猫は草も好物だったか?でも、腹一杯食べただろ?具合が悪くなるくらい。」

「…あった。」

「はぐらかすなよ。Gに報告してお仕置きしてもらうぞ。」

 シーネラルはそれを無視して、草をすり潰した。「おい、折角綺麗にした皿に何して…。?」

 何回か皿に草をこすりつけていると、泡が出てきた。

「あっ。」

 団員二人が驚いているのを放っておいて、シーネラルは泡まみれになった皿を洗い始めた。感心した二人はシーネラルに草を見せて貰い、一緒に洗い出した。

「なあ、シィー。どうしてちゃんと説明しなかった?」

「…。」

「黙ってちゃ分からないだろ?」

「…。」

「そんなんで、集団生活をしていけると思ってるのか?」

「…。」

 聞こえていないかのように黙々と仕事をしているシーネラルに、団員は大袈裟に溜息をついて見せた。

「あのなあ、ザルトはお前を嫌ってるんだぞ。そんな態度を続けていたら、痣だらけになるからな。Gにだって、お仕置きされるぞ。」

「…。」

「放っておけよ。今まで一人でやってきたから、人慣れしていないだけさ。」

 無言を貫くシーネラルに、怒り出した相手を見るに見かねたもう一人が言った。その言葉に、彼はやっと静かになった。

 

 洗い終わった食器を持って戻ってきた後。後片付けもそこそこに、納得してなかったらしい彼は、ジオルクにシーネラルの態度について説明しにいった。

「G、聞いて下さいよ。シィーですけどね、ちっとも愛想がなくて。」

「野良猫らしいな。」

 ジオルクは笑い出した。「フーって、威嚇していたか?尻尾を膨らませて。」

「笑いごとじゃないです。」

 団員は憮然とした顔をした。ジオルクは彼の肩を軽く叩くと、

「あまり酷いようなら、お仕置きしてやるさ。」

 彼はやっと納得した表情を浮かべた。

 

 夜が来た。不寝番を残し、皆が寝静まった。シーネラルはそっと起き上がると、テントから外を覗いた。不寝番に見つからないように逃げ出さないと…。猫と言っても彼は、肉球のついた足を持っているわけではないので、音もなく歩くのは難しい。

 ジオルクのテントから、喘ぎ声が聞こえてきた。ザルトは不寝番についているので、別のお相手らしい。自分の態度について、早速、ご注進に行ったあの団員かもしれない。仕事が終わった後、全団員を観察した結果、ザルト以外にも数人、相手が居るらしいと踏んでいた。他の団員と何となく雰囲気が違うのだ。シーネラルは吐き気がしたが、気にしないことにした。

 彼は、不寝番の死角になるような場所を見つけ出し、そっとテントを出ると、そこへ向かった。貴族を襲い続けていたので、気付かれないように歩くのには自信があるが、相手は大所帯の盗賊団。数人の護衛を相手にするのとは違う。気配を押し殺そうと緊張しすぎると、かえって気取られそうだ。あまり緊張しないように、慎重に慎重に歩く。

「トイレに行くにしては、遠すぎないか?」

 いきなり背後から声がして、シーネラルは飛び上がりそうになった。

「さすがにこういう時は、表情が変わるんだな。」

 何処か楽しそうなザルトの声。「気付かれていないと思うなんて、相当お目出度い奴だ。」

 拳で顔を殴られ、シーネラルは倒れた。立とうとしたが、今日の彼は疲れすぎていた。

「自分の体力と相談してから逃げ出せば、もっと楽しめたのに。」

「サドか。」

 シーネラルの言葉に、ザルトは笑い出した。笑い声を聞きつけた他の不寝番達が、駆けつけてきた。

「また逃げ出そうとしたんすか…。」

「ああ。Gにきつくお仕置きしてもらおう。」

 ザルトは冷たく言うと、団員に命令する。「連れて行け。」

「はっ。」

 

 ジオルクは悲しそうな表情で、シーネラルを見ていた。お楽しみを邪魔されて、最初は不機嫌だったが、シーネラルの顔を見ると、表情が変わった。

「シィー、お前には鎖が必要なようだ。明日買いに行ってこよう。」

 ジオルクは、シーネラルの顔の痣を優しく撫でた。「またこんな痕を…。」

 シーネラルは、フーっと唸ると猫の爪で切りかかった。

「Gに、何てことを。」

 ジオルクにはかすりもしなかったが、怒ったザルトに蹴りつけられた。シーネラルは両手で庇いながらも、ザルトを睨みつけた。「何だ、その目は。」

 ぱあんっ。

「いっ。」

 ザルトはシーネラルを蹴るのを止めて、ジオルクを見た。彼に思いっきりお尻を叩かれたのだ。

「何回蹴れば気が済むんだ?シィーを殺す気か?」

「済みません…。」

 ぱんっ。ザルトの頬が鳴る。「ご免なさい、G。」

「お仕置きが必要なのは、シィーだけじゃないようだな?」

 その言葉に、ザルトがビクッとした。

「ご免なさいっ、俺つい…。」

「許さない。」

 ジオルクはザルトの腕を引いて、あぐらをかいた膝の上に彼を横たえた。「謝る時には、ご免なさいって言えって、ちゃんと躾けたろ?ここに、教え込んだと思っていたけどな。」

 ジオルクはザルトのお尻に力を込めて、平手を振り下ろす。ザルトがうめく。

「はいっ。」

 ザルトは痛みに必死に耐えながら、何とか返事をするが、ジオルクは平手を打ち付けてくる。

「どうして出来ないんだろうな?」

「ご免なさい。」

 ジオルクは一端手を止めると、ザルトのズボンと下着を下ろして、お尻を丸出しにした。ほんのりと染まっている。彼は唖然としているシーネラルを一瞥すると、お仕置きを再開した。ザルトのお尻を叩きながら、彼はシーネラルへ言う。

「鉄拳制裁か何かだとでも思っていたか?」

「当然だろ…。」

「残念だったな。」

 見る見るうちにザルトのお尻の色が濃くなっていく。痛みで泣き喚いているザルトを見ながら、ふと、シーネラルは次は自分の番なのだと思い当たった。血の気が引いていく。『こんなことって…。』

「ご免なさいっ、ご免なさいっ。」

 ザルトは子供みたいに泣いていた。いくら痛いにしても、彼は幼すぎるような気がした。年は明らかに上だが、精神的には幼いらしい。彼のお尻に痣が出来始め、ジオルクは手を止めた。

「ザルト、反省したか?」

「はい、G。今度からはきちんとご免なさいって言います…。」

「いいだろう。ほら、不寝番に戻るんだ。」

「…はい。」

 ザルトは立ち上がると、下着とズボンを履いた後、ジオルクの方をちらっと見た。ジオルクは彼の側へ行くと、彼を優しく抱いた。ザルトがぎゅうっと彼に抱きついた。やっぱり幼い部分もあるらしいとシーネラルは思った。

 次はお前の番だぞと言わんばかりに、ジオルクがこっちを見た。シーネラルはぞっとした。

 

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