闇の遅坂家

 わたしはHだと思う表現があります。18禁ではないと思います。

1 大学生の武夫

 ぱしっ、ぱしっ。

「ああっ。…うっ。」

「どうしたのー?武夫。まさか、もう我慢できないって言うんじゃないでしょうねぇ。」

 ぱしっ、ぱしっ。ザンは、痛みに耐えきれずうめく息子のお尻を打ち続ける。

「も・もう駄目…。」

「駄目、もっと我慢しな。言っとくけど、これはお仕置きなんだからね。あと、…そうだねえ、30発ぐらいは我慢しないと、道具を使うよ。」

「あっ、あっ。くうっ。…これ以上我慢したら、お母さんのスカートが汚れちゃうよ…。」

「仕方ない奴。…いいよ、行きな。」

 ザンがそう言って、押さえつけていた武夫の体を離すと、武夫は母の膝から飛び起きて、トイレに駆け込んだ。

 しばらくしてトイレから出てきた息子に、ザンは言った。

「一杯出た?」

「うん。」

「じゃ、続きするから、寝な。」

 ザンは自分の太ももを叩く。

「え、でも…。道具はいいの?」

 武夫が恐る恐るザンに訊くと、ザンは興味深そうに言う。

「へー、道具もOKな体になったんだ。」

「ち・違うよ。手じゃないと駄目。」

「じゃ、手でいいじゃん。」

「30回我慢できなかったよ。」

「いいよ、今日は許してあげる。この頃あんたは、あっこちゃんとのデートや勉強で忙しかったからね。でも、今度は許さないよ。」

「はい。…お母さんって、優しいね。」

「そうだよ、あたしはルトーちゃんとは違うの。大体、今、手でお仕置きしてあげてるのがもう既にわたしの優しさを現している証拠じゃないのさ。普通は彼女にしてもらう方が…。」

「駄目!そんなことを言わないで。明輝子ちゃんに嫌われちゃうよ…。」

「あんた、もっとあの子を信用しなよ。あの子なら、嫌がらないで言う通りにしてくれるって。あんただってわたしより、あの子の方がいいでしょ?」

「僕はお母さんの方がいい。」

「マーザコーン。」

 ザンが馬鹿にしたように笑うと、武夫はうつむいた。

「だって…。僕は、明輝子ちゃんにお仕置きしたことあるもん…。」

「へーっ。あんたが?」

 ザンが吃驚した。息子がそんなことの出来るような性格とは思っていなかったのだ。

「明輝子ちゃんがいいって言ったんだよ。」

「それじゃお仕置きじゃないよ。」

「明輝子ちゃんがお願いしたの。」

「あの子も、そのケがあるんだ…。」

「ないよっ。明輝子ちゃんは普通なのっ。僕に合わせてくれてるんだよ。」

「そういう所、ルトーちゃんにそっくり。あの人は、お母上が大事だからね。」

「おばあちゃまは、優しいから…。」

「ま、いいや。続きを始めるからね。」

 ザンが言うと、武夫は母の膝に寝る。ザンは肘のない椅子に座っているので、武夫は床に手と足がついた。

「後、何回?」

「468回。」

「ええっ!?違うよね、46、8回の間違いだよね。」

「5、6回を56回と書く人のようにかい?口で言ってんだよ、あたしは。」

「…。」

 黙り込んだ武夫の背中を手で押しながら、ザンは真面目な顔に戻る。

「いくつ叩くかは、あんたが知る必要はない。言ったでしょ、これはお仕置きだって。どうせ久しぶりなんだから、後何回かは…。」

 母の言葉に武夫は恥ずかしそうに身をよじる。またザンの小さな平手が武夫のお尻に振り下ろされる音が響き始める。ぱしっ、ぱしっ、ぴしっ、ぱしっ…。

 

 武夫は今20歳。大学に通っている。大学に通い始めてから出来た彼女の名前は、咲坂明輝子と言い、武夫の全てを理解し、受け入れてくれている。それでも自分に自信の持てない武夫は、いつかは明輝子が自分を嫌いになって去っていくのだと怯え、必要以上に彼女に気を使っていた。

 当初ザンは、タルートリーと幸せな結婚生活を歩んでいた。しかし、ザンの前にタルートリーが付き合っていたアトルを気に入っていた武志は、魔法使いの彼女に、不気味だとか頭がおかしいとか嫌味を言い続け、このままでは言い返すだけで我慢できなくなると思った彼女は、タルートリーの両親と別居すると決めた。だが、小さい頃から武志に支配されていたタルートリーは、ザンと一緒に家を出て行く勇気が湧かず、ザン一人が家を出た。彼女はその時、6歳だった武夫を連れていくつもりだった。しかし、タルートリーに連れて行かないでくれと拝み倒され、仕方なく一人で家を出た。

 武志は息子を監視し、孫の武夫を自由に可愛がるのを許さず、些細な失敗すら認めずに厳しく叩くようにと強要した。その結果、武夫は虐待まがいの躾を受け、自分に自身が持てない子供になった。その武夫の振る舞いが苛めを呼び、彼はさらに苦しむが、助けを求めても、苛められる方が悪いという苛められた経験のない人間が言う言葉を返されただけだった。

 7年後、中学一年生の武夫は、進学できる高校が無い程の惨憺たる成績を抱えていた。タルートリーは望まずも父親に強要された方法で武夫に勉強を教えていたが、そのせいで武夫は机に向かうことすら出来なくなった。だから、武夫は勉強が出来ず、このままでは、武夫が武志の会社の社長になるなど夢のまた夢になりそうだった。他のどの家庭教師も武夫に上手く教えられなかったので、武志には死ぬほど屈辱的だっだが、彼はザンに頭を下げて武夫の家庭教師を頼んだ。ザンの天才ぶりが発揮され、武夫はどんな難しい高校でも、トップクラスでやっていける程の学力を身につけた。

 しかし。武夫は永い虐待まがいの躾と苛めへの恐怖のせいで、心と体のバランスがおかしくなっていた。体は高校生で、難しい言葉なども理解出来るのに、心は幼児のようだった。叱っても叩いてもそれはどうなるものでもなかった。武志は武夫を諦めた。武志の直接の血筋を引く者はもういなかったが、武志の兄弟なら孫がいた。それで武夫はいらない子供になり、タルートリーは手に負えない息子をザンの元に置くと決めた。武夫は、高校2年生になっていた。

 

 ザンの言葉通り、武夫は何回かトイレに向かった。平手によるお尻叩きが行われていて、それが辛くなり過ぎるまではどうしてもその必要があった。

 

 タルートリーは、武夫への体罰を平手と竹刀によるお尻叩きと平手と木の鞭で手の甲を数回打つだけにとどめていた。武夫が高校生になってから、頬への平手打ちも少し行ったが、基本的に嫌いなので、手の甲を打つより少なく弱くだけにしていた。それが引き金だったのかは分からない。しかし、中学3年の最初の頃から、武夫はタルートリーの膝の上で平手で叩かれている時に、性的に興奮するようになってしまっていた。タルートリーがそれに気付いた時は、竹刀で厳しく打ちすえた。父親だから、いやらしい写真か何かでそうなったのなら何とも言わなかっただろうけれど、お尻を叩かれてそうなるなんてと思ったのだった。

 タルートリーは武夫が変態だと怒っていたが、ザンは、受け入れた。そうなってしまったのだから、怒ったってどうしようもないと割り切って。いや、むしろ面白がって、武夫は誰に打たれてもそうなるのか、道具ならどうなのかと調べた。結果、武夫は、何か悪い事をして、そのお仕置きとして膝の上で平手で叩かれるとそうなると分かった。武夫は酷く愛情に飢えていて、膝の上に乗せられて暖かさを感じていないと安心できず、平手でないと恐怖しか覚えないのであった。

 

 武夫の真っ赤になったお尻を見て、ザンが手を止めた。

「さあて、もういいでしょ。もうしないね?それとも、もっと叩かれないと分からない?」

「もういいです…。もうしないよ、お母さん。ごめんなさい。」

「そう、それじゃ許してあげる。」

 ザンは微笑むと、武夫に膝から降りて下着とズボンを穿くのを許した。武夫は、パンツを上げ、ズボンのベルトを締めると、ソファに座った。かなり叩かれたので痛くてお尻を動かした。そうやってもじもじやっていると、待ちきれなくなったザンが、勢いよく彼の膝に座った。

「あっ、まだ痛い…。」

「すぐ治るわけないじゃん。それともお母さんの抱っこは要らないの?」

「いる。ぎゅっとして。」

 ザンが武夫を抱きしめると、彼が彼女の胸に顔をうずめた。武夫は185cmの長身なので、145cmのザンは、武夫を膝に座らせられない。だから、彼女が息子の膝に座って、彼を抱きしめてやるのだった。

 武夫の性癖を認めたザンは、暇な時は毎日のように適当な理由をつけて、彼の性欲処理を手伝った。本当は毎日は多すぎるのかも知れなかったけれど、男性の性欲についてはよく分からなかったし、武夫が拒まないのでそうしていた。ただ、大学生になっても心は幼いままの武夫は、本当に厳しく叱らなければならない悪事をすることもあった。そういう時は、平手打ちも容赦なく厳しくし、ベルトを束ねたり、しゃもじを使って、徹底的にお尻を打ち据えた。あまりやりすぎると、武夫は恐慌状態に陥り、これはただのお仕置きだと落ち着かせるのに大変な労力を要するので、やり方は難しかったが、ザンは上手くやれた。本当は体罰無しで躾るのが一番なのだが、ザンとしては、長い間武夫のお尻はタルートリーや武志、学校の先生が好きなだけ打っていた所だったので、今度は自分だけの物として躾に使いたい場所だった。

「今日は、あっこちゃんとデートしないの?」

「明輝子ちゃんは、今日は勉強をしてるの。」

「ふーん。」

「今日は、僕、お母さんと、魔法の勉強をしたいな。」

「あんた、まだ叩かれたいの?溜まり過ぎって奴?よっぽど欲求不満だったんだ。…若いねえ。」

「ち・違うよっ。お尻叩きはもういいの。魔法も好きなんだよ、僕。」

「そーお?ま、どっちみち、上手く出来なかったら、びしびし叩くからね。」

「はい。」

 答えた武夫の顔は、まだお尻を叩かれたいと言っていた。

 

 数日後。

「おはよう、武夫君。」

「おはよう、明輝子ちゃん。」

 武夫は、精一杯の笑顔を見せる。誰も自分を愛してくれないのだと思いこんでいた武夫の心を壊してくれた明輝子。彼女は今日も綺麗だ。

「お尻、辛いの?」

 武夫はその言葉にびくっとする。普通にしていたつもりなのに。

「うん…。昨日、どうしても欲しい物があって、ポケットに入れちゃったらお店の人にばれて、お母さんに一杯叩かれた。」

「武夫君たら、お金持ちのお坊ちゃんだったのに、物を盗むなんて…。」

「僕、お金を持ってたことがなかったから…。…お母さん、あんまりお金持ちじゃないから、欲しいって言えなくて。」

「そんな風に、変に遠慮なんてしたら、余計に怒らせちゃうんじゃないの?」

「うん。一杯怒ってた。誰がうちにお金がないなんて言ったのって言われた。」

「そうでしょうね。駄目って言われた訳でもないもの。」

 武夫はうつむく。明輝子の口調に責めるような所はないが、もう酷く嫌われたような気がしていた。明輝子は優しく武夫の腕を取って教室に向かった。

 なぜ、武夫のようなみっともない男と付き合うのかと友達には笑われる。身につけている物は、最高級のブランドものだったが、少しも似合っていないし、性格は一緒にいるのが耐えられないくらい暗い。普通だったら、お金の為でも武夫と付き合う気にはなれない。しかし、明輝子は武夫に魅力を感じていた。正直に言うと、武夫がお尻を叩かれているのを知ったから、彼女は彼に近づいたのだった。大学生にもなった息子を叩く親なら、人前でも平気で、その場面を繰り広げるかも知れない。でも、付き合ってみると、そんな考えを持った自分を恥じた。武夫の過去の話は、明輝子にとっては残酷だった。

 結果を言えば、明輝子は望んでいたお尻叩きを経験した。武夫に叩かれたのは、ほんの遊びだった。武夫にしてみれば、手酷く叩いたつもりかも知れないが、これっぽっちも痛くなかった。しかし、彼の母ザンのは、とっても痛かった。ザンは、明輝子の心を知っていて、これ以上武夫を傷つけるような人間の存在に腹を立てた。怒ったザンに明輝子はこっぴどく剥き出しのお尻を叩かれたのだった。

 今は、いやザンに会わされた時点で、武夫のお仕置きシーンに期待していた気持ちは既になくなりかけていたのだったが、もう純粋に好きで武夫と付き合っている。武夫と話していると小さな子供のような部分と、普通の男性の部分があると分かったが、明輝子はどちらの武夫も好きだった。

 

 明輝子は教室へは行かずに、人の少ないところへ武夫を連れて行った。どうしてこんな所へ来たのか不思議がっている彼へ、彼女は言った。

「ねえ、武夫君、そんないけないことをして、わたしに嫌われたい?」

「やだよっ。お願い、許して。」

 予期していた恐ろしいことを聞かされた武夫は、泣きそうになった。それを見た彼女は、慌てて言った。

「わたしの言うことを聞いたら許してあげる。」

「何でも聞く…。だから、嫌いにならないで。」

 明輝子は武夫の耳に口を近づけ、囁く。

「お母さんに、お仕置きされた武夫君のお尻を見せて。」

「今?」

「今ここでそんなことをしたら、武夫君、猥褻物陳列かなんかで、警察に捕まるわよ。」

「え、何?」

「人前で見せちゃいけない所を見せると、警察に捕まるって言ってるの。」

「明輝子ちゃんにならいいの?」

「好き合っている人同士、二人きりならいいのよ。そうじゃないと、赤ちゃんが作れないじゃない。」

「…。じゃあ、明子ちゃんうちか、僕んちで。」

「後で、人気のない所に行きましょう。家は駄目。見つかったら困るもの。」

「うん。」

 武夫はうなずく。明輝子の言った言葉の意味は深く考えていない。それさえすれば、明輝子はまた自分を好きになってくれるのだから。

 

 お昼休み。誰も居ない場所で、明輝子は武夫のお尻を見ていた。

「まあ…。歩くのさえ大変そうだったから、予想はしていたけど…。…。…武夫君、お母さんがあなたを嫌いになっちゃったなんて心配していないわよね?」

 見る為に出させた割には、そのお尻の酷さにすぐに目を背けてしまった明輝子は、心配になって武夫に訊いた。

「大丈夫だよ…。…明輝子ちゃん…僕…、…恥ずかしいから、……ズボン…。…。」

「もういいわ。」

「有難う…。」

「泣かないで。怒っていないから。」

 明輝子は武夫を抱きしめる。頼りない顔をして、背の高さもひょろ長いように見えてしまう武夫だが、実はザンに鍛えられているその体は、意外に逞しい。本人は嫌だったそうだけど、ザンが、体を鍛えないと抱っこしてやらないと言って、無理矢理やらせたそうだ。

「明輝子ちゃん…、また僕を好きになってくれる?」

「え?…ああ、そうだったわね。…もちろん前よりもっともっと武夫君が好きになったわ。」

 お尻が見たいが為に、適当なことを言った明輝子は、焦りながら答えた。その様子に武夫は騙されたと気付いた。でも、本当に嫌われるよりはましだったので、何も言わずに目を閉じて、明輝子の胸に顔を押し付けた。明輝子がぎゅうっと抱きしめてくれたので、武夫はそれだけで胸が一杯になった。

 

 武夫とザンが住んでいるアパートへ、明輝子は遊びに来ていた。

「へー。あんたはたったそれだけの理由で、わたしの可愛い武夫ちゃんを苦しめてくれたって訳だ。」

 武夫はタルートリーの所に半強制的に遊びに行かされ、部屋には仁王立ちと腕組をした恐ろしいザンと、やっぱりするんじゃなかったと青ざめている明輝子の二人だけがいた。

「どうしても見たくて。」

「だったら見せてって何の文句もつけずに言やあいいでしょうが!人の息子に偉そうに説教たれる前に、自分が遠慮なく何でも言いなさいよ。あの武夫なら、あんたがおしっこを飲んでって言ったって、いいよと言うでしょうからね。」

「わたし、そこまで変態じゃありません。」

「例えも分からんかっ、このボケは!」

「そんなに怒らないで下さいー。」

「いいや、怒るねっ。武夫がどんなに傷ついた人生を歩んできたかって知っていれば、さらに苦しめる訳が…。」

「そんなことを言ってるけれど、おばさまだって、虐待された武夫君へ体罰を与えるのが逆効果だと知っていながら、自分の楽しみの為に武夫君のお尻を叩いているじゃありませんか。わたしのことばかりを責められないでしょう。」

 痛いところを突かれたザンが黙りこんだ。明輝子はほっとした。

「…。…あんたはそんなに酷くお仕置きされたいんだね?…いいでしょう。お望み通りに武夫専用しゃもじでしばらく座れないようにしてあげるわよっ。」

「そんなつもりはっ。」

 黙って素直に叱られていれば良かったと明輝子は思った。

「問答無用っ。」

 ザンはそう言うと、期待と不安の交じり合った表情の彼女の腕を引っ張り、膝の上に乗せると、明輝子好みに、スカートの上からのお尻叩きを開始した。ばんっ、ばんっ、ばんっ、ばんっ。20回ほど打つと、スカートを捲り上げ、パンツの上から叩き始める。明輝子の好きなお尻叩きは、スカートの上から始まり、パンツの上に続き、裸のお尻で終えるタイプだ。いきなり裸だと、つまらないそうだ。

 パンツの上は、40回ほど叩く。ぱしっ、ぱしっ、ぱしっ、ぱしっ。20回あたりから叩く力を強くする。

「んっ、うっ。」

 今はまだ声を漏らす程度だ。ザンは、パンツを下ろしにかかる。パンツは、太ももの真中当たりにする。お尻はしっかり出ているが、あまり下ろしていない所が明輝子の好みらしい。お尻は既に桃色に染まっている。

 裸のお尻になってから、スピードが速くなる。びしっびしっ、びしっびしっ。左右交互に叩きながら、時々は、同じ所を続ける。通算して80回ほどから、さらに強い力で叩き始める。びしいっ、ばしいっ。

「武夫の性癖を知ってから、インターネットで色々調べたの。そしたらさ、ビデオで、女の人が学生らしい女の子のお尻を300回以上も叩いているビデオを見つけたの。」

「あっ、あっ…それで…。くうっ。」

「武夫だと、平手ならかなりの数までいけるんだけど、どうしても途中で止めなきゃいけないんだよねえ。服を汚されたくないし。」

 ばしいっ、ばしいっ、びしいっ。お尻の色がどんどん赤色になっていく。

「ああっ…いたっ。ううっ。」

「だからあんたのお尻をおんなじくらい叩いてみたいんだ。」

 叩き方がとても速くなる。びしいっびしいっばしいっばしいっびしいっ。

「あんっ、嫌ですうっ。そんなに、ああっ。我慢できませんっ。」

「別に濡れていないみたいだけど?」

 ザンは、意地悪く言う。今度は、速く叩いたり、ゆっくり叩いたりする。しかし、力は緩めない。それどころかさらに強くしていく。お尻の赤みが同じになるように、全体をまんべんなく叩く。

「そう…じゃなくて…。あっ、痛い、痛いですぅっ。」

 明輝子が激しく暴れ始める。

「あんたはもうわたしの膝の上にいて、嫌だろうが泣き叫ぼうが、わたしが止めるまでは、叩かれているんだよ。いいよ、我慢しなくても。好きなだけ叫べばいい。武夫ちゃんは、久しぶりにルトーちゃんに可愛がられているから。」

「…。」

 明輝子は必死で耐えている。

「ルトーちゃんに、武夫が万引きしたって話したから、武夫はうんと叩かれている筈だよ。」

「酷い…。」

「酷くないよ。武夫が言ったんだもん、お父さんに叩かれたいって。お父さんの膝で泣きたいって。ルトーちゃんは真面目だから、万引きなんて滅茶苦茶に怒る。きっと武夫は膝の上で叩かれるだけで後悔するね。わたしにあれだけ叩かれた後なんだ。でも、竹刀が済んで部屋に放りこまれた後に、たっぷり自分を慰めるだろうね。」

「あなたは…。」

「わたしとしては、ルトーちゃんに本当の意味で愛されている武夫を見たいよ。抱きしめられてキスされればあの子は満足する筈だから。でも、遅坂武志が死なない限りはそれは望めない。ルトーちゃんは完全に操られているから。だから、武夫が別の意味でも幸せになれるのなら、止めはしないよ。あんたが馬鹿なことさえしなきゃ、今日は行かせなかったけどね、可哀想なお尻の為に。でも、仕方ないさ、あんたはわたしに叩かれているし、武夫は、ルトーちゃんの平手が欲しかったんだ。」

 ザンは明輝子のお尻を叩き続ける。

 

「ごめんなさあいっ、もう絶対しませんっ。」

 タルートリーの膝の上で武夫は泣き叫んでいた。ザンの言葉通りに武夫は、数回打たれただけで後悔していた。忘れるほどお尻が回復していた訳でもないのだけど、父に厳しく叱られたかったのだ。武夫にとってタルートリーに叱られ、お尻を叩かれるのは、呼吸をするのと同じぐらいに当たり前だった。毎日どころか一日に何回もお尻を叩かれていたから。だから、ザンに叩かれるだけでは、当たり前の習慣がなくなったような寂しさを覚えていたのだった。

「しなくて当たり前であろうがっ!お前がそんな常識すら持っていなかったとは!後で父上の所へも行かせるからな!」

「はいっ。」

 武夫は答える。こんなに辛いお尻がこれからいくつ叩かれるかも分からないのに、恐ろしいお祖父ちゃまにまでぶたれるなんて。武夫は本当に後悔していた。

 

 明輝子は、テーブルに手をつかされ、武夫のしゃもじで、お尻を打たれていた。何回叩かれたのかは分からない。本当にザンの言う通りに、300回も叩かれたのかも。ただ、逃れられない激しい痛みに、泣き叫ぶだけだった。

 

 武夫は元の自分の部屋で、うずくまって泣いていた。ザンが言ったように自分を慰める余裕はなかった。ただ遅坂には打たれなかった。武志に打たれるなら、竹刀とびんたの嵐だと覚悟していたのだが、武志は武夫を存在しない者のように無視したのだ。武志にとって武夫は死んだも同然だったのだ。使えない武夫は、叩く価値などないのである。

 

 数日後。明輝子と武夫は何事もないように過ごしていた。でも、どちらもまだお尻が痛かった。しかし、表面上は何事もなかった。ザンに叩かれたからと言って明輝子は武夫との付き合いを止める気はない。あのお仕置きはきつすぎたが、明輝子にとっては、武夫との付き合いも普通のザンのお仕置きも、離れがたい魅力だったから。

「武夫君、今日は海の方に連れていってね。」

「うん、僕ね、お父さんにカーナビつけてもらったんだよ。だから、何処でも行けるからね。」

「へー、何処についているのかしら。この時計?」

「違うよー。車だよー。明輝子ちゃんの意地悪。」

「だって武夫君は、僕にって言ったじゃない。…でも、良かったわね。」

「うんっ。前ね、外に遊びに行った時、お父さんが頭を撫でてくれたよ。」

「お父さんと会う時は、いつも外にするといいわ。そうすれば、いつも優しいお父さんに会えるから。」

「そうかも知れない。お母さんも言ってた。」

「なら、そうすればいいのに。」

「でもね、いつかお家でも優しくしてくれるような気がするから。」

「早くそうなればいいわね。」

「うん…。きっとすぐだよっ。」

 武夫は笑顔で答える。心は幼いままの方が苦しみも少ないのだろうか…。それは分からない。今はまだ。

 

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