遊園地
1
とん、とん、とん。長い階段を上がりきった。目的の観覧車の周りには、誰も居なかった。
「あ、やっぱり僕が1番だった。」
少年は、へへっと笑った。汗をぐぃっと拭うと、近くのベンチに腰掛け、ちょっとぬるくなったジュースをごくりと飲んだ。
遊園地に家族で遊びに来ていた。様々な乗り物を楽しみ、さあ、そろそろ帰るかとお父さんが言った。少年は、
「嫌だよ。あの観覧車に乗ろうよ。皆であそこまで、競争しよ!」
そう宣言して、走ってきたのだ。
「変だよなあ…。あの世界一大きい観覧車が、この遊園地の目玉なのに。何で乗らないで帰る、なんて言うんだろ?」
少年は不思議に思いながら、ジュースを飲む。ごくっ、ごくっ…。「あれ、もう無くなっちゃった。」
ぽいっ。空き缶を投げ捨てた。観覧車を見上げる。
「こらっ。」
「あ、お父さん、やっと来たの?遅かったね。皆も。」
家族が皆やって来た。「さ、早く、観覧車に乗ろ。」
「一人で勝手な行動して、何を言ってるのよ。」
姉が家族の気持ちを代表して言った。
「そうだぜ。帰るって決めたのに、兄ちゃん、我が侭だぞ。」
弟も言った。
「だってさ、この観覧車に乗ろうって僕は決めてたのに、帰るなんて、変じゃないか。」
「それはお前の理屈だぞ。」
お父さんが言う。「それに、空き缶は空き缶入れに捨てなきゃ…。」
彼は少年がポイ捨てした空き缶を拾っていた。
「面倒だよ、そんなの。遊園地の人が捨ててくれるって。」
「あんたみたいのが居るから、ごみだらけの町になっちゃうのよ。」
「姉さん、馬鹿じゃない?ここは遊園地だよ。」
弟の言葉に、姉は呆れてしまった。
「あんたこそ、馬鹿よ…。」
「なんでだよ!」
「なんにしても。」
喧嘩になりそうだったので、お父さんが少し大きい声で言う。「お前はお仕置きだぞ。」
「えっ、何で?」
「我が侭を言って、皆を困らせたし、ポイ捨ての罰だ。」
「だって、観覧車はー?」
「ここまで来たから乗るには乗るけど、その前にお仕置きだ。」
そんなあと文句を言いかけたが、いつもみたいに問答無用とばかり、小脇に抱えられた。ズボンもパンツも一気に下ろされてしまう。
「人が居るのに、やだよう!」
「あんまり我が侭言うと、観覧車はなしだぞ。」
少年は何も言えなくなってしまった。そして、お仕置きが始まった。
ぱん、ぱん。平手が音を立てて、少年のお尻に当たる。でも、まだそんなに強くない。だから、余計に恥ずかしかった。楽しそうな笑い声が聞こえた。少年は自分が笑われているような気がした。姉は知らない振りをしているが、弟はニヤニヤしていた。
ぱんっ、ぱんっ。だんだん痛くなってきた…。
「お父さん、ごめんなさい。痛いよー。」
少年はすぐに降参した。悪い事なんてしたつもりはなかったけど、謝らないと許してくれない。「もう我が侭言わないからぁ。」
「反省してる声じゃない。」
お父さんにはお見通しらしい。
「いたっ、あと、えっと…。ごみもちゃんと投げるよー。痛い…。」
「口でだけ謝ったって駄目だぞ。」
お尻はどんどん痛くなってくるし、お父さんは全然許してくれない。少年はいらいらしてきた。
「お父さんの馬鹿!本当は、僕を叩きたいだけなんだ。」
「ちょっと、なんて事を言うのよ。」
姉が慌てて言った。
「…兄ちゃんって、ほんとバカ。」
呆れた弟が呟く。「余計叩かれるだけじゃないか…。」
姉と弟は、お父さんが怒って、厳しいお仕置きになると予想した。
でも。お父さんは、彼を下ろしてしまった。二人は、いや、少年本人も吃驚した。
「本気でそう言ってるのか?」
お父さんの凄く真面目な顔に、たじたじする少年。でも、言いたい事は言わなきゃ、と勇気を出して言う。
「だって…。いっつもなら、謝ったらもうぶたないのに、今日は違うよ。」
「いつもはちゃんと反省してるから、許してるんだぞ。でも、今日は違うじゃないか。お前は素直なのがとりえなのに…。」
「…ごめんなさい。僕、皆で観覧車に乗りたかったんだ…。それなのに怒るんだもん。」
ふぅ。お父さんはため息をついた。少年は慌てて、「ジュースをちゃんと投げなかったのは、悪いって分かったよ。」
「そうか。でもな…。よし。観覧車が気になって反省できないなら、先に乗って来るんだ。」
「え?いいの?やったぁ!!」
少年は飛び跳ねた。でもすぐ止まった。お尻がとても痛かったのだ…。
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